歪み
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
夜。
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編集部。
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画面の光だけが、静かに揺れている。
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班目唯は、無言で記事を見ていた。
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交通事故減少。
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社会安定。
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どれも正しい。
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だが。
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「……整いすぎてる」
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小さくつぶやく。
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違和感。
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人間の世界にあるはずの“ブレ”がない。
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「……」
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ノートを開く。
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そこに書かれている名前。
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「宮島悟」
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指が止まる。
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「……誰だっけ」
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口に出す。
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分からない。
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だが。
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何度も書かれている。
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ページをめくる。
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同じ名前。
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繰り返し。
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「……」
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ペンを握る。
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そして書く。
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「この名前を追え」
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一拍。
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「忘れる可能性あり」
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その瞬間。
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わずかに、空気が歪む。
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■
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別の場所。
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バー。
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神崎蓮が、スマホを見ていた。
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「……綺麗すぎるな」
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ニュース。
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事故減少。
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データ。
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全部。
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「ここまで揃うか?」
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グラスを置く。
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目が細くなる。
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「……いるな」
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確信。
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誰かが。
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“触ってる”
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「……いい」
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立ち上がる。
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「探してやるよ」
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低くつぶやく。
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■
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夜。
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高台。
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宮島悟は、街を見下ろしていた。
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光。
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人の流れ。
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すべてが繋がって見える。
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「……」
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だが。
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その中に。
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“ズレ”
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違和感。
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班目。
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そして。
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神崎。
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それぞれ違う形で。
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こちらに近づいている。
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「……」
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ポケットに手を入れる。
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翁。
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触れる。
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その瞬間。
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班目の“観測”が見える。
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ノート。
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記録。
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消しても。
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また繋がる。
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「……例外か」
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一言。
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初めての認識。
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完全ではない存在。
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「……」
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視線を変える。
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神崎。
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こちらは違う。
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直感で近づいている。
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危険。
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「……」
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静かに考える。
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どこまで許すか。
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どこから消すか。
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「……まだいい」
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一言。
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判断。
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即時排除はしない。
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理由は一つ。
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“観測の流れを見るため”
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■
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夜。
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編集部。
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班目は、ノートを閉じる。
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「……分からない」
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正直に言う。
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「でも」
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一拍。
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「ここにいる」
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胸に手を当てる。
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「……消えてるのに」
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静かに。
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「分かる」
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その言葉が、落ちる。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




