証明
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
夜。
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現場は、もう何も残っていなかった。
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規制線も外され、道路は普段通りに戻っている。
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車が通り、人が歩く。
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事故の痕跡は、どこにもない。
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宮島悟は、その場所に立っていた。
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「……ここか」
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小さくつぶやく。
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ニュースで見た位置。
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時間。
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状況。
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すべて頭に入っている。
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「……」
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目を閉じる。
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思い出す。
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トラックの時と同じ。
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ズレた感覚。
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“変えられる”という確信。
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ゆっくりと息を吐く。
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ポケットに手を入れる。
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触れる。
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翁。
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冷たい。
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「……見せろ」
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小さく言う。
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その瞬間。
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世界が、静かに歪む。
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■
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音が消える。
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光が鈍くなる。
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時間が、ほどける。
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同じ場所。
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だが。
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“違う時間”が重なる。
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道路。
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自転車。
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パトカー。
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そして。
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警察官。
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その男が、そこにいる。
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視界は、ぼやけている。
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だが。
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動きは見える。
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「……」
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悟は、その光景を見ている。
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中学生が、自転車で走ってくる。
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普通の速度。
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飛び出しではない。
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その瞬間。
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警察官の手。
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スマホ。
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視線が、画面に落ちている。
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「……」
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次の瞬間。
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視線が上がる。
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遅い。
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ブレーキ。
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間に合わない。
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衝突。
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音が消えたまま、映像だけが流れる。
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「……そうか」
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小さくつぶやく。
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単純だ。
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ながら運転。
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それだけの話。
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■
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場面が、切り替わる。
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事故の後。
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警察官が立っている。
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周囲に人が集まる。
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その中で。
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男は、言う。
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「急に飛び出してきた」
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迷いがない。
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断言。
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その言葉が、周囲に広がる。
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誰も否定しない。
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その瞬間。
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“それが事実になる”
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「……」
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悟は、静かに目を開く。
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■
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現実に戻る。
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夜の道路。
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何も変わっていない。
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だが。
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すべて分かった。
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「……証拠はある」
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小さく言う。
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実際に起きたこと。
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真実。
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だが。
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「……使われてないだけだ」
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視線を落とす。
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翁。
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そこにある。
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「……なら」
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一歩。
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踏み出す。
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「……使う」
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それだけ。
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■
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翌日。
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ニュース。
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『——ドライブレコーダーの映像には、被害者の飛び出しが確認されており——』
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画面に流れる映像。
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だが。
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悟は、それを見る。
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「……違う」
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一言。
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映像は、正しく“作られている”。
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角度。
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タイミング。
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すべてが整っている。
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だからこそ。
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疑われない。
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「……綺麗すぎる」
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ぽつりとつぶやく。
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違和感は、そこにある。
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だが。
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証明はできない。
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「……」
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目を閉じる。
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そして。
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決める。
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「……壊す」
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静かに。
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その言葉だけが、残る。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




