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この世は観測されるまで存在しない  〜世界で唯一魔法が使える俺が、日本の闇を書き換えた結果〜  作者: soletes


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観測者

※この物語はフィクションです。

あなたが観測するまでは。


夜。



 編集部。



 蛍光灯の白い光が、机の上の資料を照らしている。



 紙。


 写真。


 モニター。



 すべてが並んでいる。



 班目唯は、その前に座っていた。




「……おかしい」




 小さくつぶやく。




 画面には、記事の更新履歴。




 杉並四丁目事件。




 何度も書き換えられている。




 だが。




「……残ってない」




 履歴が、あるはずなのに。




 途中が抜けている。




 “変わった痕跡”だけが残っている。




「……どうやって」




 指で画面をなぞる。




 消されたわけじゃない。




 最初から、そこに無かったような状態。




「……」




 理解が追いつかない。






「班目」




 背後から声。




 斉藤和樹。




 コーヒーを片手に、無表情で近づいてくる。




「まだやってるのか」




「……はい」




 班目は振り向かずに答える。




「これ、変なんです」




 画面を指差す。




「更新はされてるのに」




「履歴が繋がってないんです」




 斉藤が画面を見る。




 数秒。




「……あるな」




 短く言う。




 班目が少し驚く。




「分かりますか」




「分かる」




 一拍。




「普通じゃない」




 即答。




「……ですよね」




 班目は小さく息を吐く。




「でも」




 一瞬迷う。




「消されたわけじゃないんです」




「……?」




「最初から、そうだったみたいな」




 斉藤は、少しだけ目を細める。




「……書き換えか」




 ぽつりと言う。




「え?」




「記録が“変わった”んじゃない」




 一拍。




「“そうだったことになった”」




 班目の思考が止まる。




「……そんなこと」




 言葉が続かない。




 だが。




 否定できない。






 大学。



 夜。




 人気のない廊下。




 宮島悟は、一人で歩いていた。




 足音が、静かに響く。




 ふと、立ち止まる。




 何もない。




 だが。




 “見られている感覚”




「……」




 振り返る。




 誰もいない。




 当たり前だ。




 それでも。




 確実に。




 “観測されている”




 そんな感覚がある。




「……」




 ポケットに手を入れる。




 触れる。




 翁。




 その瞬間。




 空気が、少しだけ変わる。




 圧が消える。




「……」




 悟は前を向く。




 理解している。




 自分が、見られている理由を。




「……来るな」




 小さくつぶやく。




 誰に向けた言葉かは、分からない。






 編集部。




「……一つだけ」




 班目が言う。




「分かることがあります」




 斉藤が視線を向ける。




「何だ」




 班目は、少しだけ間を置く。




「これ」




 画面を見る。




「人がやってるなら」




「必ず痕跡が残るはずなんです」




 一拍。




「でも残ってない」




 静かに言う。




「じゃあ」




 そこで止まる。




 言葉にするのをためらう。




「……何だと思う」




 斉藤が促す。




 班目は、ゆっくりと息を吸う。




「……観測できてないだけです」




 言い切る。




 斉藤は、何も言わない。




 ただ。




 少しだけ。




 笑った。




「いい線いってる」




 一言。




「じゃあ次は」




 コーヒーを机に置く。




「それを“観測する”」






 夜。




 悟の部屋。




 静寂。




 机の上。




 翁。




 そこにある。




 悟は、それを見ている。




「……観測か」




 小さくつぶやく。




 自分がやっていること。




 そして。




 自分がされていること。




 同じ言葉で説明できる。




「……面白いな」




 初めて。




 ほんの少しだけ。




 笑う。




 だが。




 その目は、笑っていない。


——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。

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