第94話 最初の部屋
ジョージは四方八方全てが真っ白な部屋にいた。
自分が死んだあと、最初に飛ばされた部屋だ。一面白い色で壁には窓もなく、天井には灯りもない。それでも部屋の中は明るい。
迷い人の格好のまま白い床の上に立っていると正面の壁の向こうから女神が現れて立っている彼と向かい合うように立った。二人の距離は5メートル程。一番最初に会った時と同じ服装をして床から少し浮いている。
「ジョージ、ゲートを見つけましたね。見事です」
「自分一人の力じゃない。何度もあんたに助けられたよ」
「ジョージは最初の時に洞窟の奥の隠し部屋を見つけました。それ以来目をかけていたのは事実です」
真っ白い部屋の中で二人の声だけが聞こえている。
「ゲートを見つけたら、あんたに色々と聞こうと思ってたんだよ」
彼の目の前に立っている女神は微笑んでいるだけだ。彼は構わずに質問を始める。
「俺たちが飛ばされたあの世界、あれも神が作った架空の世界だな」
「どうしてそう思ったのですか?」
微笑んだまま女神が言った。
「いくつか理由がある。まず街と街の間が離れすぎている。しかもその途中には魔獣が徘徊している。住民は戦闘能力がない。じゃあどうやって物流をしているのか。神が裏から手を回しているとしか思えない。また、住民同士で連絡を取り合う方法があるかと思えば街に伝承が残っていたりする。あんたの絵が住民の各家庭にある。全てが不自然、違和感だらけだったんだよ」
そこで一旦言葉を切ったジョージ。
「他にもおかしなことが沢山あった。いくら魔獣を倒しても数が減らないとか。とんでもない能力がある装備が店に売られているとか。ただそれら全てを含めてあの世界が神が作った架空の世界だというのなら納得できる。何でも出来るからな。あの世界にいる住民、地元民達も俺たちと同じ地球の人間だろう。何らかの事情で命を落とした人間から一部は迷い人に、そしてまた別の人たちは住民として復活させている」
話終えるとジョージは正面に浮いている女神を睨みつけた。彼女は最初から全く表情を変えていない。
「ジョージの推測通り、あの世界は実在する世界ではありません。空間の歪みに作った架空の世界。そして貴方の言う通りあの世界に住んでいる地元民も元は貴方と同じ地球と呼ばれている星で暮らしていた人たちです」
「目的は何なんだ?あの世界を作った目的、そして毎年2,000人の20代の男女をこの部屋に呼んでいる目的。あんたは知っているだろう?あの世界でも人間が人間を殺している。地球でやってたことと変わらない。俺も殺したよ。でないと殺されるからな。そんな世界をどうして作ったんだ?」
「魂の浄化です」
女神はジョージを見つめたまま短く言った。
「魂の浄化?」
「人間とは他の動物、生き物にはない知恵、能力を持っています。神が人間を作った目的は知恵と能力を使って皆が平和に暮らしていく世界でした。ただ実際はどうでしょう?ジョージがいた地球と呼ばれる世界、そしてこの世界、どちらの世界でも同じ人間同士でいがみ合い、時に殺し合う。これは神が望んだ世界ではありません。神は私1人ではありません。天界には多くの神がおり、皆今の状況を憂いでいます。何もせずに手をこまねいているだけでは解決になりません。神々が相談した結果、少しずつ、ゆっくりと世界を変えることにしました。それが毎年集められた2,000名です。彼らはあの世界から天に召されると再び地上に降り立ちます。ただ彼らの魂は綺麗に浄化され、平和を好み、争いを憎む心を持って降り立っています。そうして少しずつ人間の意識を変えようとしているのです。憎しみを知った魂ほど、次の人生では平和を望むようになります」
「気の遠くなる話だな」
「その通り、でもやればいつか必ずそういう世界が来ると神々は考えているのです。実際に少しずつですが効果が現れてきています」
「俺にはそうは思えないけどな」
「私たちは人間で言うところの数年でのものの見方をしていません。数百年単位でどう変わったかを見ています」
女神がそう言った直後、白い部屋の4つの壁、天井、床に映像が現れた。どこかの街で人間が暮らしている様子だが全て場所が違う。ジョージが見ていると壁に1つだけだった映像が2つになり、4つになりとどんどん細かくなって最後には部屋中に数えきれない程の映像で埋められた。
顔を巡らせながらそれらを見ていたジョージ。見ていると突然映像が消え、元の白い部屋になった。
「なるほど。俺が飛ばされたこの世界以外に、無数ともいえる同じ様な世界があって、そこで神の言うところの魂の浄化が行われているということか」
「その通りです」
「一つ疑問だが、俺は自分がいた世界が不自然なことが多すぎると感じたが、他の連中は感じていないのか?不思議だったのは誰もがあの世界を当たり前の世界として受け入れていたことだ」
ジョージはそう言ったあとで一言付け加えた。
「洗脳してたのか?」
「洗脳ではありませんが、違和感を感じない様にすることはできます」
「じゃあ何故俺は違和感を感じたんだ?」
「ジョージは最初の空間の歪みで武器と装備を選びませんでした」
女神によればあの時点で武器、防具を選んで装備すると、その世界の摂理はそういうものだと認識を補正されるのだそうだ。
「違和感を感じることなく生活していてもゲート探しに困ることはありませんよね」
神が作った世界。何でもありだ。
「なるほど。あと1つだけ教えてくれ。2つ目の街であんたの木彫りの像を俺に渡したのもあんたの意思が入っていたのか?」
ジョージが聞くとそれには首を振った。
「あれは私の意思ではありません。住んでいた住民の意思です。誰かに渡すのか、それともずっとあの店の奥で眠り続けるのか。そこに神の意思はありませんでした」
あの場所に女神像を置いたのは神の意思だが神が関与したのはそこまでだと言っている。自分の作った世界だ、好きにできるのだろうと思っているジョージだがそれを証明することはできないし、女神が言っていることが正しいのかそうでないのかは文字通り神のみぞ知るということだ。
「俺たち人間は生きてる間も、死んでからも神の手のひらの上で踊らされているってことがよく分かったよ」
嫌味にも女神は微笑んでいるだけだ。
ジョージが黙って女神を見ている、いや睨んでいると女神が言った。
「他にはありませんか?いや、あってももう私が答えることはないでしょう。それでジョージ、貴方は見事にゲートを見つけ、それを潜ることができました。最初に約束した通り貴方の次の人生は長寿となり、同時に成功者となることを保証しましょう」
神の手のひらで踊らされているのだからそれくらいは簡単なことなのだろう。悔しいがジョージにできることはない。
「それとも何か他に希望はありますか?」
「次の人生では俺がこの世界にいたことは当然覚えていないんだよな?」
ジョージが言うと頷く女神。
「なら何もない。2度と思い出したくないのでね」
そう言ってから「そうだ」、とジョージが一言付け加えた。
「人間として復活させてくれ。長寿、成功者だけなら、それが人間とは限らないだろうし」
「流石ですね。あなたは最初から全くブレていない」
「捻くれ者なんでね」
今まで微笑んでいた女神が声こそ出さないが笑った表情になった。今の言葉がなかったら人間以外の生物として地球で復活していたのかもしれない。
「わかりました。ではジョージを天に召しましょう。次の人間としての人生を楽しんでください」
女神が手をジョージに向けると、彼の姿がその場から消えた。
白い部屋に一人だけになった女神。
「さて、再び洞窟の隠し部屋を見つける人間が出てくるまで気長に待つことにしましょう。魂の浄化も粛々と進めなければ」
そう呟いた女神が白い壁の向こうに消えていった。
真っ白い部屋には誰もいなくなった。
【完】
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また連載中、多数のコメントをいただきました。
この場を借りてお礼申し上げます
花屋敷




