第1話 異世界転生
新しい小説です。こちらもよろしくお願いします。
ここはどこだ?
気がついたら見たこともない場所にいた。まだ頭がぼーっとしている。
しばらくして頭の中がクリアになってきてようやく周囲の様子が目に入ってきた。
そこは真っ白な空間だった。床も天井も壁も白い。大きな空間の中に座り込んでいる。頭がスッキリとしてくるとその大きな空間に自分以外に結構な数の男女が座り込んでいるのが目に入ってきた。見ると自分と同じアジア系の男女以外に白人や黒人もいる。
『皆さんお目覚めですか?』
突然脳内に女性の声がした。誰かが何かを言っているが聞き取れない。
『一斉に話されても困りますね。まずは私の話を聞いてください』
しばらくすると声が止んだのだろう。脳内にさっきの女性の声が聞こえてきた。
『私は神の代理です。皆さんは少し前、それぞれが住んでいた国で不慮の事故で亡くなりました』
そこでまたひとしきり声が飛ぶ。それを無視して声が聞こえてくる。
『本来であれば、命が尽きた人は天に召され、新たな生命を授かって再び新しい地で新しい生活を送ります。ただあなたたちは選ばれました』
選ばれた? 誰に?何のために?
『ここは空間の歪みと呼ばれる場所。今ここには2,000人の20代の男女がいます。あなた達は神に選ばれた人たちです。まだこれからという時に不運にも命が尽きてしまった。そんな人たちの中から神が無作為に皆様を選びました』
まだ自分の理解が追いついていかない。
『ここにいる皆様の中で希望する方には今から神が試練を与えます。それをクリアすれば今まで生きてきた人生をもう一度最初からやり直すことができます。しかも今度は20代で命を落とすことはありません。長寿を全うすることを神が保証します。さらにその人生で成功者となる能力を授けましょう』
そこで一旦言葉が切れた。あちこちから声が聞こえてくるが、それは日本語じゃなくて様々な言語だ。
それにしても選ばれた?どういう基準で?そして試練?何のことだ。同じ人生をやりなおせる?能力付き?理解が追いついていかない。何よりも神の代理とは何だ?
『もちろん、拒否することもできます。その場合は他の大勢の人と同じ様に天に召され、そこで次の何かに転生して生きていくことになります』
『はい、能力は具体的に何かという説明ですね。それは残念ながら今ここでその内容についてお話しすることは出来ません。試練をクリアすればその答えを得ることができるでしょう』
男は今やすっきりした頭で脳内に聞こえてくる話の内容を理解しようとしていた。確かに自分はバイクでツーリングをしていた時、カーブの向こう側からセンターラインを超えて曲がってきたトラックと衝突したところまで覚えている。つまり自分はあの事故で死んで今ここにいるということになるのか。
そこで気がついて自分の服装を見るとその時に着ていたライダースーツではなく、茶色のズボンに薄い茶色の長袖のワークシャツ。ズボンと同色のベストの格好になっていた。周囲を見ると皆同じ格好をしている。男性ばかりじゃなく女性も皆同じ格好だ。そして周囲にいる人達は皆、この神の代理とかいう女性が言っている様に皆若い。20代と言っているが、確かに年代的には皆それくらいだろう。
『まず、試練を受けたくないという人は立ち上がってください』
その声が聞こえるとあちらこちらで立ち上がる男女がいる。ただ数は多くなさそうだ。
『他にいませんか?では今立っていらっしゃる635名の方はこのまま天に召されます』
そう言うと立っていた男女の姿があっという間に消えた。3分の1程が減ったことになる。
『この場に残った1,365名の方は試練を受けてもらいます』
そこで少し間が空いた。
『試練とは今から転送される世界のどこかにある【ゲート】を探すことです。ゲートを見つけ、そのゲートを潜ると試練が達成されたことになります。ゲートは世界に1つしかありません。もちろんその世界では時間の流れがありますので年を取ります、そしてその世界には人間と対峙している魔獣も多数存在しています。それらを倒しながらゲートを探してください』
残った人が何か叫んでいる。
『もちろん、皆さんを徒手空拳でその世界に転送させるつもりはありません』
女神の代理がそう言うとそこにいる全員の前にウインドウが現れた。
『その中から1つ、お好きな武器をお選びください。選ばないという選択肢もあります』
ウインドウに現れたのは3つの武器だ。短剣、片手剣そして片手斧。
男は片手剣を選ぼうと指を伸ばしたがウインドウにタッチをする寸前でその動きを止めた。なぜ選ばないという選択肢があるなどと言ったのか。黙っていればいい話じゃないか。選んでから後で捨てることもできるのになぜそれを言ったのか。
考えているとウインドウが消えた。
『それでは皆さまをこれから試練を行う世界に転生します』
その声が聞こえると立っている周囲の景色がどんどん変化していく。白い世界が茶色くなっていったかと思うとそれはごつごつとした岩がある壁になった。立っている足元も土の地面になり、天井は壁と同じくごつごつとしている。
空間だった場所が大きな洞窟の中になった。一方だけ開いていて、そこから外の光が差し込んでいる。神の代理という女の声はもう聞こえない。洞窟の中にいた1,300名以上の男女が洞窟から出ていく。中には走り出している者もいる。
彼は立ち上がると出口には向かわずに横の壁を見ながら皆とは逆に洞窟の奥に進んでいく。まずはここがどこなのか、洞窟の中に何か変わったことがないのか。外に出るのはそれからだと、壁を叩いたりしながら壁に沿って歩いていると奥の壁に突き当たった。洞窟の奥の壁を歩いていると明らかに周囲とは異なる真っ赤な石が突き出ているのが目に入ってきた。背後を振り返るともう誰も洞窟にはいない。自分1人だ。
男がその赤い石を握ると岩の一部が勝手に横にスライドした。完全に開いた扉の奥を見ればそこも洞窟になっている。ただそこは洞窟と言ってもさっきの部屋よりはずっと狭い。さっきの洞窟が学校のグランドくらいの広さだとすればこの洞窟は学校の教室くらいの広さだ。男がその部屋に入ると開けた壁の扉が勝手にスライドして閉まる。
と同時にその洞窟の奥の壁が光り、壁をすり抜けて白いローブを着た女性が現れた。
『よくここに気がつきましたね』
さっきまで脳内で聞こえていた声と同じだ。女性の年齢は30代くらいか。その金髪の髪は腰までの長さがあり、真っ白なローブを着ている。左手にはローブと同じ白い杖を持っていた。彼女は土の地面から数十センチ浮いている。
『あなたの名前は?』
「樫村譲治」
『ジョージはなぜ皆と一緒に洞窟の外に出て行かなかったのです?』
目の前の女性は微笑んでいる様に見える。
「死んだと思ったら飛ばされた。すると顔が見えない神の代理という声が脳内に聞こえてきた。神の代理でも何でも同じだが、いきなり会った人の言葉を信用するほど俺はお人好しじゃないんだ。美味い話には裏があると思って疑ってしまうたちなのさ」
ジョージが言うと神の代理は黙って数秒の間彼を見つめてくる。顔は微笑んだままだ。
『ジョージは今までここに呼ばれた他の若者とは違いますね。今まで数多くの若者がこの空間の歪みに呼ばれ、そして試練となると皆その洞窟の先から我先にと出て行きました。誰1人としてこの奥の部屋に来た者はいませんでした』
ジョージは神の代理の言葉を聞いて驚いた表情になった。俺たちが初めての人間じゃないんだ。過去から何人もがこの世界に来ている。
「つまり俺が最初に来た捻くれ者というわけだ」
『そうなりますね。しかも貴方は武器を選んでいない』
「なぜ選ばないという選択肢があるとあんたが言ったのか。それも気になった。言わなくてもいいことを言った。つまり何かあると思って選ばなかったのさ」
『その通り。選ばないという選択肢がありました。よくそこに気がつきましたね。そしてこの部屋に初めてやってきた人間。ジョージには特別に褒美を差し上げましょう』
神の代理がそう言うと杖で地面を叩いた。するとそれまで洞窟だった壁にいきなり武器や防具、アイテムが現れた。
『この部屋は武器を選ばず、そして自分でこの部屋の入り口を見つけた者だけが入ってこられる場所。さあ、お好きなのを選びなさい。武器を手にすればその性能が頭の中に入ってきます。ただし、持てるのはそれぞれ1つだけです。武器は1つ、防具は1つ、そしてアイテムも1つ』
なるほどと頷いたジョージは片手剣を手に持ったすると頭の中にその剣の情報が流れ込んできた。
片手剣 攻撃力+50
別の片手剣を持つと
片手剣 攻撃力+40、体力+20
短剣や斧も持つとその武器の情報が流れてきた。全ての武器を手に持ったジョージは1本の片手剣に決めた。
片手剣 攻撃力+40、素早さ+30、時々2倍のダメージ
「さっきのウインドウに現れた片手剣はどんな性能だったんだ?」
『片手剣に限らず、どの武器も攻撃力+10です』
「なるほど。となるとこっちの方がずっと優秀だな」
同じ調子で防具も選んだ。防具はシャツとズボンがセットになっている。今来ている防具と全く同じデザインだ。ただ性能が違う。
「今着ている俺の防具には性能はついているのか?」
その問いに首を左右に振る女神の代理。つまり他の大勢は攻撃+10だけついた武器を手に持って洞窟から出ていったということになる。
ジョージは悩んだ末に防具とアイテムを決めた。
防具 素早さ+40 敵に見つかりにくい。
アイテム 素早さの腕輪 素早さ+40
体力や防御力よりも素早さ重視にした。あの洞窟の中で自分の知り合いはいない。ゲートと言われているものを探す旅は1人でやるつもりだ。
女神の代理、いや目の前にいるのは女神だ。彼女がこれから行く世界には魔獣がいると言っていた。そうなると見つかりにくい上に、避けられたり、逃げられたりした方がよいだろう。という判断だ。
「これでいい」
『わかりました』
その場で新しい防具に着替えて腕輪をはめて剣を持った。
「これで試練、つまりこれから行く世界のどこかにある【ゲート】を探せばいいんだな?」
『その通りです』
どうせゲートの形を聞いても答えてくれないだろう。
「一つ教えてくれるか?今まで【ゲート】が見つかったことはあるのか?」
その問いに女神の代理は左右に首を振った。
「見つからなかったらどうなる?」
『その世界で年を取っていくだけです』
「それで死んだらどうなるんだ?」
その問いには微笑んでいるだけだ。
今までこの世界に飛ばされた人たちの誰も見つけていない。つまり世界が桁違いに広いのか、それとも何か他の理由があるのか。その訳はその世界に行けば見えてくるだろう。最後はその世界で死ぬのだということを覚悟しておけばいい。
ジョージは礼を言うと、神の代理に背を向け、閉じた扉をスライドさせた、その先はさっきまでいた洞窟だ。
『ジョージ、期待していますよ。貴方ならゲートを見つけることができるかもしれない』
背中でその声を聞いたジョージは振り返らず、片手を上げると広い洞窟を出口に向かって歩きだした。彼が部屋を出ていくとさっきと同じ様に岩のドアがスライドして閉まる。
『初めてこの部屋に来た人間。果たして彼はゲートを見つける最初の人になるかしら』
そう呟くと、神の代理がその部屋から消えた。
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