第3話:王子初出陣!パワハラ課長の「手書き台帳」を秒で浄化せよ!
横浜の片隅に社を構える『アルファ不動産』。
そこは、一太郎がかつて視察したどの貧困村よりも活気がなく、
淀んだ空気が漂っていた。
「……松代殿。ここは、魔王に呪いでもかけられているのか?
民(社員)の顔が、ゾンビのように青白いのだが」
「アハハ、一太郎。それを世間では『長時間労働』と
『パワハラ』って呼ぶのよ」
松代さんに送り出され、一太郎は一歩、事務所に足を踏み入れた。
デスクには積み上げられた書類の山。
絶え間なく鳴り響く電話。
そして何より、奥のデスクから響く怒号が、静寂を切り裂いていた。
「根性が足りねえんだよ!
営業は足で稼げ、事務は気合で打て!
パソコンなんて道具に使われてるんじゃねえぞ!」
声の主は、パンパンに張ったスーツのボタンが弾けそうな男
――権藤課長だった。
彼は松代さんの紹介で現れた一太郎を一瞥すると、鼻で笑った。
「お前が松代さんのところの居候か。
若くてヒョロっとしてやがるな。
いいか、うちはアナログを大事にする『伝統ある』不動産屋だ。
ITなんて軟弱なもんに頼る奴は、この俺が許さねえ」
一太郎は静かに一礼した。
「……羽柴一太郎と申します。
権藤殿、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げる」
「……殿? 変な言葉遣いしてんじゃねえよ」
権藤はニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべ、
机の上にある、高さ三十センチはあろうかという
茶封筒の束を一太郎に突きつけた。
「初仕事だ。この十年間分の『入居者管理台帳』、
全部手書きの紙だが、これを今日中にエクセルに入力してリスト化しろ。
あ、マクロとかいう小細工は禁止だ。
一文字ずつ、根性込めてタイピングしろよ。いいな?」
周囲の社員たちが、痛ましいものを見る目で一太郎を見た。
隣の席に座る、くたびれたカーディガンを羽織った
初老の男――佐藤さんが、小声で囁く。
「……羽柴くん、無理だよ。
あれ、普通にやったら一週間はかかる。
権藤課長はね、君を初日で辞めさせたいんだよ」
だが、一太郎は動じなかった。
むしろ、その瞳には王族特有の「冷徹な知性」が宿っていた。
「……佐藤殿、ご心配なく。
この程度の記述、前の世界で『禁忌図書館の目録』を
作成した時に比べれば、呼吸をするのも同じです」
一太郎はデスクに座り、パソコンを起動した。
権藤は「せいぜい徹夜して泣きを見ろ」と言い捨て、
飲み会へと消えていった。
事務所に残ったのは、ため息をつく数人の社員と、一太郎。
一太郎は、松代さんに買ってもらった
新品のキーボードに指を添えた。
(……ふむ。権藤殿は『マクロ』を禁じたが、
松代殿から教わった『Power Query』の
使用までは制限していなかったな。
これは魔法ではない、ただの情報の整理だ)
一太郎の指が、光速の詠唱を始める。
スマホのカメラで紙の束を次々と「スキャン」し、
画像データを文字として抽出。
それをエクセルの「魔法陣」へと流し込んでいく。
佐藤さんが呆然と見守る中、画面上では数千行のデータが、
生き物のように整列し、重複を排除し、
最新のステータスへと自動更新されていく。
――カチッ。
一太郎が最後のリターンキーを叩いたのは、
権藤が去ってからわずか二時間後のことだった。
「終わりました。佐藤殿、少し喉が渇きましたな。
松代殿が持たせてくれた麦茶を分かち合いませんか?」
佐藤さんは、メガネをずり落としながら叫んだ。
「……終わった!?
羽柴くん、君……それ、人間業じゃないよ。
君、もしかして、どこかの『勇者』か何かなのかい?」
一太郎は窓の外の夜景を見つめ、不敵に微笑んだ。
「いいえ、私はただの『事務員』です。
……ただし、民の苦しみを見過ごせぬ、
少しばかり潔癖な事務員ですがね」
翌朝、出社した権藤課長を待っていたのは、
机の上に置かれた「完璧すぎる報告書」と、
一太郎の涼しい顔だった。
アルファ不動産の「浄化」は、まだ始まったばかりである。
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