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90.ウェディングフォーム! 入籍!

「ずいぶん硬いヒレをしているわね。だったら、この技で決める! 850倍速×全力跳躍=鋼鉄魔拳弾道弾こうてつ・まけん・だんどうだん!」


 深沙央さんは衝撃波が起きるくらいの大ジャンプをすると、天高く跳び上がり、見上げれば一番星と間違えるほどの輝く点になったかと思うと、音を立てながら急降下してきた。勢いに乗って拳をシャークマンに振り下ろす。


「なんて力でしょうね。ですが、完全に防御にまわれば!」


 足元がひび割れるほどの衝撃。周囲の人間はよろめいてしまう。だけどシャークマンは耐えきったのだ。


「なんて硬さなの! アイツの体はいったいナニ合金でできているのよ!」


 サメ肌なんだそうです。シャークマンは地面に潜った。

 地面から突き出た背びれが、深沙央さんの様子をうかがうように回遊している。


 俺は深沙央さんのもとへ駆けつけた。


「康史君、厄介な敵が現れたものね」

「ああ、俺の魔剣も効かないしな」


 どうすれば。考えろ。無意識に魔剣を強く握ってしまう。すると。

 魔剣の表面がボロボロと崩れた。中から出てきたのは透明な刀身の剣だった。


「これは、また魔剣が進化したのか?」


 当初、魔剣は大きすぎて、重すぎて俺の手には余るものだった。だけど俺の魔力を受けて、扱いやすい大きさと重さに進化してくれたんだ。

今日また、進化が起きたというのか。

 深沙央さんが新形態の魔剣を見て驚く。


「透明な刀身。まさか康史君てば、魔剣を聖剣にしちゃったの?」

「え? 聖剣がなんだって?」

「聖剣よ。聖式魔鎧装が呼応してる。間違いないわ。魔剣を聖剣にかえるなんて、さすが康史君よ」


 何の話だか。混乱する俺をよそに深沙央さんはブツブツ言いだした。


「うん。いけるかもしれないわ。康史君、聖剣を貸して!」

「何をするの?」

「ちょっとアイツを倒してくる。愛の力で!」


 深沙央さんが俺の手の聖剣を手に取った。すると聖式魔鎧装が光り輝いたのだ。

 白銀に輝く聖式魔鎧装。異世界製の鎧。腕や胸にあしらわれた紫の宝石、全身に走る紫のラインが美しい。この鎧が黄金に輝きだしたのだ。


 金と赤。皇帝色に変化していき、腰には金の生地の大きなスカート。まるで輝くウェディングドレスだ。背中のマントは花嫁のウェールみたい。


『マリン! スカイ! ソード! 略してマンカイ! ソードダンサー!』


 鎧から、知らんオッサンの声が木霊する。誰なの?


「この声? 鎧を作った大賢者の声よ。このフォームになると音声が流れる仕組みなの」


 そうですか。

 深沙央さんは生まれ変わった鎧をまとい、聖剣を構えた。


「天と海を貫く満開の愛の剣! 聖剣ソードダンサー・ウェディングフォーム! 入籍!」


「……深沙央さん、説明して!」


「これね、聖式魔鎧装の真の姿よ。聖剣と鎧は二つで一つだったんだけど、ワケあって聖剣は手放したの。康史君の聖剣で真の姿、いいえ、それ以上の姿に進化したわ!」


 へぇ。役に立てて嬉しいよ。

 鎧から放たれる光は、地中からシャークマンを弾きだした。


「何なんですか、この光は。私のサメ肌が……くすみや染みのないモチ肌へ変化していく!」


 そりゃ良かったな。気づけば深沙央さんとシャークマンを結ぶ直線状に、赤い絨毯が敷かれていた。


「私のヴァージンロードに立ちはだかる恋敵は、何人たりとも容赦はしないわ」

「え? この絨毯は勝手に敷かれて来たんですけど?」


 シャークマンは抗議している。その点だけは同調できる。


「この聖剣には康史君の魔力が宿っている。これで攻撃すれば!」


 深沙央さんは絨毯の上を走り出した。どこからともなく拍手喝采が聞こえてくる。あ、鎧の肩のあたりがスピーカーみたいになっている。あそこから聞こえてくるんだな。


「2000倍速×康史君の聖剣×私の全力一刀両断=二人の初めての共同作業!」


 俺はうしろで見ているだけですが。


「入刀ぅぅぅ!」

「グッシャクアァァァァ!!」


 聖剣は、まるでケーキのような柔らかいモノを斬るように、いとも簡単にシャークマンを切断。その体は粉砕され、ライスシャワーの米粒のように散らばり、霧散していった。

 倒し終わると、チャペルから聞こえてきそうな鐘の音が、鎧から響いてくる。情報量の多い鎧だな。


 辺りを見回せば、暗黒鮫の若い衆はアラクネによって全滅していた。深沙央さんは鎧を解除する。


 俺は波津壌気で若頭とジュニアを回復させた。


「恩にきるぜ。アンタ、新しい町長なんだってな。認めてやるぜ」

「この町を一緒に良くしていこうな。新町長」

「ああ、よろしく」


 こうして俺はDBDのツートップに認められたのだった。

 ところで、アニキ達はアラクネをジッと見つめていた。


「どうかしたのか?」

「あの姉御、あんなにいた暗黒鮫を一人で叩き潰しちまったぁ」


 そうか。まぁ、異世界魔王だもんな。

 アニキ達はフラフラと、まるで神に遭遇した信仰者のようにアラクネに話しかけた。


「あ、姉御。アンタは俺たちの頭だぁ。新しい組長になってくれぇ」


 え? 何それ。ジュニアと若頭も頷いている。それで良いのかよ!


「アタシが悪の組織の組長だって。悪い気がしないな。アハハハハ!」


 神山深沙央町に来て、町長としての初日の出来事。

魔剣が聖剣になって、彼女がパワーアップして、地元ヤクザと仲良くなって、知り合いが地元ヤクザの組長になりましたとさ。もう王都に帰りたい。



――★★★――


 吸血魔の国。王城の執務室。


「一体どこへ行ってしまったというのですか!」


 参謀マンティスは慌てていた。吸血魔の王が数日前から行方不明なのだ。直属の執事が捜索に出たが、未だに戻って来ない。

 王が城を飛び出すなど思いもよらなかった。もしこのまま王がいなくなったら


「偉大なる御方との約束が果たせなくなってしまう」


 そうなれば、ますます『あの計画』を成功させなければ。

 そのとき扉がノックされた。


「どなたですか」


 マンティスは平静を取り戻す。やって来たのは彼の部下だった。


「王が見つかったのですか」

「いいえ。先日、異世界から召喚した娘についてお伝えしたいことがありまして」

「あの娘のことですか」


 マンティスは以前、シーカ・ネイムズに自分の意識を植え付け、彼女の記憶を覗き見た。そのとき異世界から勇者を召喚する方法を知り得たのだ。吸血魔の魔術師たちを使って、マンティスも異世界から強者を召喚しようとした。


 異世界の者には異世界の者をぶつける。面白い結果が待っているはずだった。しかし、誰ひとりとして召喚に成功しなかった。

 期待を寄せていた召喚士のプラウンも消息を絶ってしまっている。


 そこで吸血魔の国で絶大な魔力を持つ者に召喚させてみた。その者は先代の参謀。平和主義者だった彼女はマンティスの策謀にかかり、参謀職を追われ、今や城の中で幽閉の身になっている。

 そんな先代参謀に召喚の儀式をやらせてみたところ、見事に異世界の娘を召喚できたのだった。


「あれには驚きましたね。しかも聖剣使いとかいう娘を召喚するとは」


 その娘には召喚初日から教育を施している。この世界の文化、文字、地理。さらに吸血魔は周囲の国から迫害を受けていて、国民は恐怖に晒されているのだと、嘘の情報も教え込ませていた。娘の強さは申し分ない。吸血魔の騎士を簡単にあしらって見せたのだ。


 こんなに強い娘を勇者たちにぶつけたら、どんなことになるのか。マンティスは楽しみで仕方がなかった。


「それで、その娘がどうかしたんですか」

「はい。逃げ出してしまいました」


 マンティスは愕然とする。


「どうしてですか。あの娘は学習の時間以外は鉄格子の中に閉じ込めていたのですよね」

「はい。この世界では鉄格子に住むことが最先端のオシャレだと言ったら、何の疑いも無く、くつろぎ始めるようなアホな娘でした」

「それが、なぜ!」

「勇者の名を教えたのです」

「神山康史」

「いえ。その名を聞いても、あの娘はいつものアホ面でした。しかし巫蔵深沙央という名を出したとたん、鉄格子を破壊して、今すぐ会いに行くと言って飛び出していったのです」


 マンティスは深いため息をついた。心臓が口から出て行ってしまうのではないか、そんな思いがよぎるほどの、深いため息。


「マンティス様?」

「失礼。あの娘、巫蔵深沙央の所在を知っているのでしょうか」

「知らないでしょうね。偶然か王国の方角に走っていきましたが。あと対勇者戦を想定して魔装束を貸与していましたが、娘はそれを装備して出ていきました」


 魔装束は魔王13秘宝のひとつだ。それとともに行方不明。

再び、深いため息。まるで体中の全酸素が出ていってしまったかのように、体は重く、頭は酸欠気味になっていく。


「そういえば、あの娘は学習の休み時間、王の話相手になっていましたね。もしや王が身をくらましたのは」


 王、それに異世界から呼び寄せた聖剣使い。その二人が行方不明。まさか、これも勇者がこの世界にやってきた影響なのだろうか。遊びのつもりで接してきた勇者。もしや自分を追いつめる存在になり得るのか。


「バカな」


 マンティスは拳を握りしめた。


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