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89.夕陽とヤツらと代理決闘

 街はずれの荒野。沈みゆく夕陽が大地をオレンジに染め上げる。草の塊みたいなモノが、風に吹かれてコロコロと転がっていく。西部劇で見たやつだ。たしかタンブルウィードって名前だった。


「新アニキ、来てくれたかぁ」


 そこに現れたアニキ達四人は俺が連れてきた深沙央さん、シーカ、メグさん、アラクネを目にすると驚いていた。

 シーカは護衛が必要だと言って、メグさんはケガ人が出るはずだと言って、ついてきてくれたのだ。


「まさか四人も愛人がいるなんてなぁ。さすが町長だぁ」

「愛人じゃないって。彼女と仲間たちだよ。それにしてもジュニアと若頭は?」

「もうすぐ来るはずだぁ。あ、噂をすればぁ」


 向こうから黒塗りの馬車がやってきた。子分にエスコートされて馬車から出てきたのは、顔に入れ墨をした男だった。


「あれがジュニアだぁ。若頭は、噂をすれば来おったわぁ」


 見れば大きな旗を風になびかせながら、一台の馬車がやってきた。馬車の上には大砲がくっついている。 御者に扉を開けてもらって出てきたのは、顔に切り傷のある中年の男だった。あれが若頭か。


 俺はアニキに聞いた。


「たしか代理決闘だったんよな。誰が戦うんだ?」

「それが二人とも奇妙なヤツを雇ったんだぁ。ジュニアのほうは勇者とかいう冒険者の若造。若頭のほうは異世界で大魔王をしていたとかいう竜人のような化け物。聞いた話だと二人とも最強を名乗っているそうだぁ」

「二人とも強そうじゃあ。組の将来どころか、この世界の行く末さえも左右するかも知れんのじゃあ」


 んん? その二人、どこかで聞いたことがあるような気がする。

 ジュニアと若頭は距離を取って睨みあう。


「ついに決着をつけるときが来たようだな、若頭。組長の座は俺がいただきだ!」

「何を言うか。汚れ仕事すら知らないガキがバカを言うもんじゃねえぜ。組長の座は大人に任せな」

「後継者はオレだ。オッサンは引退でもしてろ」

「俺たちには語りあいは無用だぜ。さぁ、決闘でケリをつけようじゃないか」

「そう来るかよ。いいぜ。やってやる。先生! お願いします!」


 ジュニアがそう言うと、馬車の中から黒いローブをまとった男が出てきた。


「旦那! ガキを教育してやってくれ!」


 若頭が名を呼ぶと、何処からともなく、マントで身を隠した者が高速で出現した。

 先生と旦那、互いにローブとマントを脱いで歩み出た。


 先生は叫ぶ。


「オレの名前はナヴァゴ・アソシエイト! ジュニアを組長に押し上げて、後ろ盾を作って冒険者界に返り咲くっ! そして勇者となってこの世界に名をとどろかせる男だ!」


 旦那は雄叫びを上げた。


「俺様こそが魔法世界エルモアの真の大魔王にて支配者、ガーゴイルだ! 若頭を組長にし、共に世界に支配して、ゆくゆくはこの世界の大魔王として君臨する者だ!」


 ナヴァゴ。かつて自称勇者を名乗っていた男だ。深沙央さんを罠にはめて吸血魔ごと殺そうとしたり、助けようとした俺をボコしたりして、最後には深沙央さんから粛清を喰らっていた。


 ガーゴイルは別の異世界で深沙央さんに倒された大幹部だ。元魔王のアラクネが深沙央さんと同化していたのも、コイツがアラクネを裏切って魂を消滅させかけたからだった。たしか吸血魔に召喚されてたんだっけ。


 よりによって、この二人と再会するなんてな。

 メグさんは落胆したような、怒ったような口調でナヴァゴに語りかけた。


「まさか悪の組織の仕事までするなんて。姉さんは恥ずかしいわ」

「え? この声はメグ。すると、まさか、あの女がいるってことなのか!」


 ナヴァゴの視線が深沙央さんを捕える。深沙央さんは笑顔で手を振った。


「マジかよぉォ!」


 恐怖からか、膝を崩して座り込んでしまったナヴァゴ。


「お~い。ガーゴイルくん!」

「え? この声はアラクネ! 何故いるんだ」


 ガーゴイルは素っ頓狂な声を上げる。


「また会えたなガーゴイルくん。この世界で二度も再会するなんて、きっと神様がオマエに復讐しろって言っているに違いないな」

「アラクネがいるってことは、まさか」


 ガーゴイルの視線は深沙央さんを捕える。深沙央さんは笑顔で手を振った。

 ショックからか、そのままうしろに倒れるガーゴイル。

 アニキ達は俺に駆け寄ってきた。


「愛人たち、声をかけただけで代理人を負かしちまいやがったぁ。新アニキは何者なんですかぁ?」


 異世界転移中のただの高校生です。

 ジュニアと旦那はそれぞれの代理人に声をかける。


「勇者先生。そんなバケモノ、さっさと殺っちまってオレを組長にしてくれ。吸血魔の魔王を瞬殺したって話みたいによ」

「大魔王の旦那。どうしたんだ。この前聞かせてくれた異世界の武勇伝みたく決着をつけてくれ。生意気な女上司を一撃でブっ殺した話のように」


 ジュニアと若頭は二人を奮起させようとするけど、その話、絶対嘘だろ。


「オイ、コラ、ガーゴイル。逃げようっても、そうはさせねえぞ。今回は康史の感知能力があるんだ!」


 アラクネは手をポキポキと鳴らした。


「ナヴァゴ。代理決闘と言っても一度は受けた仕事よ。最後まで、やり抜いて!」


 メグさんは毅然とした態度で弟・ナヴァゴに言った。

 深沙央さんは手を広げて歌うように語る。


「さぁ二人とも、戦うのよ。組長の座をかけた大事な決闘。負けたら大変な結末が待っているでしょうね。勝った方は私と再戦しましょう。なんせ片や勇者、片や大魔王ですもの。戦いなんて、すぐに終わるわ」


 ナヴァゴとガーゴイルがビクリとするのがわかる。

 両者は互いの雇い主に顔を向け、真剣な視線を受け、もう後戻りはできないと悟ったように立ち上がるのだった。


 勇者ナヴァゴは震えながら剣を構え、大魔王ガーゴイルは泣きながら拳を構える。

 ああ、ここは地獄だ。勝っても負けても地獄なんだ。

 そのときだ。


「ジュニアと若頭。二人をまとめて葬るには丁度いい機会です」


 地面から現れたのは鮫の吸血魔、シャークマンだった。

 気がつけば、周囲を鮫の吸血魔たちに取り囲まれていた。


「妙な少年もいるので、今回は暗黒鮫の若い衆を連れてきました。これで邪魔はさせません。次期組長のお二人、死んでいただきますよ」


 配下の吸血魔・若い衆が襲ってくる。俺は魔剣を構えた。白く変色してしまった魔剣。どこまで出来る?

 若い衆の一体に喰らわせる。ダメージは与えられたものの、やはりサメ肌なのか、一撃で倒すことは出来ない。

 シーカやメグさん、アニキ達も苦戦していた。


「だったら何度も叩きのめせばいいだけだ!」


 アラクネは魔鉄槌で若い衆に何度も殴りかかる。そしてついに一体を倒した。


「よっしゃあ! 全員まとめてかかってきな。アタシが相手してやんよ!」


 ここはアラクネに任せるとして、シャークマンを見やるとジュニアと若頭に近づいていった。


「勇者先生! 頼んます」

「大魔王の旦那! 出番ですぜ!」


 ナヴァゴとガーゴイルはシャークマンに向かった。


「相手が暴力女でないのなら楽勝だぜ! 勇者の剣の錆にしてやる」

「敵が凶暴女でないのなら勝てる! 大魔王の爪の餌食にしてやるぜ」


 二人は同時にシャークマンに跳びかかった。早まるな。その吸血魔には斬撃が効かない!


「そんな攻撃、恐れるに足らずですよ!」


 二人は同時に返り討ちに遭った。言わんこっちゃない。


「畜生め! コレでも喰らいやがれ!」


 ジュニアは懐から短刀を出すと突っ込んだ。ダメだ、完全に見抜かれている。シャークマンは腕のヒレで迎え討った。

 鮮血が飛び散った。ジュニアの盾になったのは若頭だった。


「まったく……これだからガキは頭に血が上っていけねえぜ」


 腹を大きく斬り裂かれた若頭は倒れた。


「若頭! どうしてオレを守ったんだ」

「そりゃ……幼い時から可愛がっていたからな。オレも甘いもんだ。組の将来がかかっているっていうのに、情を優先しちまうなんて……新しい組長は、ジュニア、オマエだ」

「思い出したよ。オレはずっとアンタに憧れていた。なのに、オレは。オレは今日から漢になる。組長は若頭だ。だから死ぬな! グハァ!」


 ジュニアの背中をシャークマンのヒレが斬り裂いた。


「どちらが組長でも構いませんよ。DBDは今日で壊滅しますから。さて二人まとめてトドメを刺して差し上げます」


 シャークマンが倒れた二人を冷徹なまでに見下ろす。そして鋭利なヒレを振り下ろそうとした。


「二人とも、仲直りしたみたいね」


 背後からヒレを鷲掴みにしたのは鎧―聖式魔鎧装―をまとった深沙央さんだった。


「いつの間に背後に!」

「ずいぶん硬いヒレをしているわね。次は私と戦ってもらうわ!」


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