表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/164

63.あの子から受け継いだ力

 死んだかと思った。爆発を喰らって生きているほど俺は頑丈じゃないし、都合だって良くない。

 それでも……


「生きてる?」


 爆発の煙が晴れて、自分の姿を確認出来る。


「これは?」


 俺は鎧を着ていた。 どうしてだ? しかも黒くて、どこかで見たことがあるような。


「康史、それは何なの? まるでカブトムシ」


 カブトムシ。そういえばクエナの獣人態もカブトムシだったな。メスだったけど。

 俺は重体のクエナから傷だけを吸収しようとした。だけど変化は起こらなかった。

 でも俺の体にはナニカが吸収されたような気がしていた。


 もしかして吸血魔のクエナから獣人態の力を吸収していたのか?


「きえぇぇぇぇ!」


 トカゲ人間が鋭いウロコで斬りかかろうとしてきた。

 とっさに手甲で受け止める。トカゲ人間は跳ね返されていった。


「でやぁぁぁ!」


 熊人間が背後から俺を殴りとばした。地面を転がる。それなりに痛かったけど、立ち上がれる。


「何なんだ! キサマは」

「俺にも良く分からない。悪いな」


 これなら戦えそうだ。俺は困惑しているシルクモルスたちにゆっくりと近づいた。


「さぁ、続きをやろうか!」


 そのとき、頭の中に女の声が響いた。


「シルクモルスよ。いずこや。これより蟻地獄を発動させる。我がもとへ戻ってこい!」


 なんなんだ?


「これはアリマジョール様の御指示か。ええいっ魔剣使いよ、命拾いしたな。皆のもの、撤退だ!」


 シルクモルスは吸血魔を率いて戻っていく。


「ツバーシャ、さっき変な声が聞こえなかったか?」

「なんのこと?」


 戦いを続ける王国軍に目を向ければ、混乱は起きていない。みんなには聴こえなかったのか。


「俺が聴こえたのは、クエナの力を吸収したからなのか?」

「なんのことよ」


 吸血魔の様子からして蟻地獄ってものが危険なことは確かだ。


「ツバーシャ。みんなに伝えたいことがある。戦場に瞬間移動できるか?」

「やってみるわ。お母さんから離れるワケじゃないものね」


 俺はツバーシャの手をつないだ。


「行くわよ!」


 戦場の最前線へ飛んだ。瞬間移動は成功だ。王国軍はネズミ兵と戦っている最中だった。

 ネズミ兵は赤い鎧をまとっている。そのどれもが騎士が苦戦を強いられるほどの強敵だ。


「そういや魔法で強化されているって言ってたな」


 戦いの中で青い鎧の騎士がネズミ兵を斬り伏せていた。


「大隊長!」

「神山康史君。なんだね、その鎧は。それにツバーシャ。どうして帰らなかった!」

「それどころではないんですってば。蟻地獄って知ってますか?」


 仮面をつけていても、大隊長がギクリとするのがわかった。まわりの騎士たちも血相を変える。


「それはアリマジョールが得意とする広域魔法だ。まさか、今回もあるというのか」


 前方から兵士たちの悲鳴が上がった。

 目を凝らせば、遠くの兵士が地面に引きずり込まれているように見えた。

 なにが起っているんだ。


「始まったか。蟻地獄が」

「なんですか、それ」

「言葉どおりだ。足元がすり鉢状に陥没して、アリジゴクの化け物に食われるのだ。ほかの戦場で兵たちが飲み込まれていくのを見た。あのときは、どうすることもできずに撤退した。地形を変え、化け物を召喚するほどの魔法だ」

「早く助けに行かないと」

「気をつけろ。数時間後に仲間とともに助けに行ったときには、蟻地獄は塞がり、兵の死体しか残っていなかった。アリマジョールが大魔術師と恐れられる由縁だ」


 兵士たちがこちらへと逃げてくる。それでも蟻地獄の拡大が早いのか、次々と地面に呑み込まれていく。


「こんな事があろうと兵たちに縄を持たせていたのだが、これでは……一旦退くぞ」


 蟻地獄はすぐそこまで迫ってきた。

 無事な兵たちは飲み込まれた兵士に縄を投げるが、救出よりも早く蟻地獄は拡大を続ける。


「きゃあっ」


 ついにツバーシャが飲み込まれた。助けようとした俺までも引きずり込まれる。

 なんとか這いあがろうとするけど、砂に足を取られて上がれない。


「ロープで何とかなるものじゃないぞ、これ」


 多くの兵士たちが砂に沈んでいく。アリマジョールが吸血魔たちを撤退させた理由がコレか。


「出たぞ! 化け物だ!」


 兵士の誰かの言うとおり、すり鉢状の蟻地獄の底には巨大なアリジゴクの怪物が居座っていた。

 顎のハサミを開閉させながら、人間が滑り落ちてくるのを待っている。


「光よ、邪悪なるものに裁きの矢を。フラッシュアロー!」


 ツバーシャが魔法矢を放つが効果がない。


「皆、諦めるな!」


 大隊長が矢を放っても、まるですり抜けるように歯が立たない。


「助けてくれ! 食われちまう」


 少しずつ落ちていく兵士たちは悲鳴を上げた。


「どうしよう康史。混乱して集中できない。瞬間移動できないよ」


 ツバーシャは抱きついてきた。二人分の重みで、ますます砂に沈み込む。どうすればいいんだ。


「あんな大きな牙に噛み砕かれたら、ひとたまりもないぞ!」


 打開策を考えようとしても兵士たちの絶望の声にかき消される。

 ん? アリジゴクに大きな牙なんてあったっけ?


「体表の粘液には毒があるはずだ。あれじゃあ鎧も溶かされちまう!」


 この世界のアリジゴクには、そんな特徴があるのか?


「いやぁぁぁ。あんな気色悪い触手に絡まれたくない。康史、なんとかしてぇ。あとで何でもするからぁ」


 ツバーシャから無理な注文が入った。いや、いくらなんでも触手はないだろ!

 兵士たちの悲鳴に耳を澄ませば、みんな別々のことを言っていた。

 アリジゴクは一体だけなのに、口にしている特徴が違うんだ。


「これって……」


 かつて経験したことがある。女学院に潜入していたとき、マリッパの幻覚魔法が同じだった。

 幻覚魔法で作った生徒は、騎士クラスの生徒には魔法クラスの者に、魔法クラスの生徒には騎士クラスの者に見えていたのだった。


 すると、アリジゴクは幻覚なのか。もしや蟻地獄そのものが幻覚魔法なのか。

 試しに石を投げてみた。アリジゴクの体に跳ね返ることなく吸い込まれる。


「やっぱり幻覚魔法だ。みんな、安心しろ!」


 だけどパニック状態の兵士たちは耳の貸してくれない。

 幻覚魔法を無効化するにはどうすればいいんだ。

 こうなったらイチかバチか。魔法には魔法だ。魔力は魔力で吹き飛ばす。


「波津壌気・治癒効果抜き・最大放出!」


 魔力を力いっぱい放出する。

 気がつけば、俺は地面の上でもがいていた。飛び起きる。

 蟻地獄なんてない。さっきの荒野だ。思ったとおり、幻覚魔法だったんだ。


 それでもみんなは混乱中だった。


「これは!」


 大隊長や騎士たちは気付くのが早い。俺は説明した。


「今のは幻覚魔法だったんです。でも俺の魔力で吹き飛ばしました!」

「幻覚! そんな!」

「幻覚だからこそ、今は何もないんです。だけど兵士の人たちは我に返ってくれなくて」


 大隊長は騎士に指示して兵士たちを平手打ちした。それでも兵士の数が多すぎる。

 ツバーシャも錯乱中だ。


「こうなったらやむを得ん。神山康史君、手を貸してくれ」

「何をすれば?」


 大隊長は俺の手首をつかんだ。


「緊急時だ。母が許す」


 大隊長は俺の手をツバーシャの胸元に引き寄せ、くっつけた。


「え? あ……きゃあああああああああああああああ!」


 戦場をつんざく乙女の悲鳴。この声でパニック状態の兵士が一斉に我に戻った。

 ツバーシャも我に返り、いや、怒りで我を忘れてる!


「康史!」

「俺のせいじゃない!」

「娘は昔からおマセさんだったのだ」


 俺の世界じゃ完全にセクハラだぞ。


「よしっ。皆の者、戦闘再開だ。いくぞ!」


 これを境に王国軍が攻勢に出た。ネズミ兵たちを見れば、魔法で強化された様子はなく、ただのネズミ兵に戻っていた。

騎士たちがあっという間に斬り伏せていく。


「先ほどアリマジョールの魔法をキミの魔力で吹き飛ばしたと言ったな。ネズミ兵にかけられた強化魔法も吹き飛んだようだ。神山康史君、このままアリマジョールを討ち取る。一緒に来てくれ」


「はいっ」

「私も行くわ」


 大隊長を先頭に俺とツバーシャは、騎士や魔法士たちとともに敵陣奥まで突入した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ