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31.俺と彼女の召喚方法

 とっても疲れた。大勢の前で男爵の証のメダルをもらって、パーティが始まって、色んな人に挨拶された。

「やっと終わった」


 着替えも済んで、廊下のソファに座りこむ。


「康史君、ガチガチだったわね」

「あんなに貴族が来てるとは思わなかったよ」

「私たちが自分たちにとって有益か無益なのか知りたいのよ。有益なら誰よりも先に親密になりたくて必死なの。私は貴族よりも軍属と仲良くなりたいけどね。吸血魔の王を倒す近道にいるのは貴族よりも軍人だし」


 そうだな。さっさと悪い吸血魔を倒して、元の世界に帰ろうね。


「では深沙央様、康史様。行きましょう」


 シーカに連れられて、城の出口に向かう。

 今日から神山康史男爵か。でも男爵って具体的に何をするんだ。貴族って何が出来るんだ。教えて深沙央さん。


「そうね。いくつかの異世界で勲章や爵位をもらった事はあるけど、どの世界でも言えることは、何も変わらないということね」

「変わらないの?」

「身に余る栄誉をあげたのだから、この国に留まりなさいってことよ。国としても英雄が外国に行ってしまうことは避けたいもの。多少の贅沢は貴族特権で味あわせてやるから黙ってなさいっていう意味よ」


なんだかスッキリしない話だな。


「でも、これでやっと帰れるんだな」

「いいえ、まだご案内するところがあるんです」


 おおっ、次は王都の観光スポットかな。やっと深沙央さんとデートらしいことができる。


「添乗員のシーカさん、俺と深沙央さんが建物の影に隠れても探さないでくれよな。30分くらいしたら戻ってくるから」

「誰が添乗員ですか。案内するのは国から頂いた、お二人のお屋敷です」

「いきなり同居か!」


 深沙央さんは困った顔で俺を見た。


「屋敷を与えて、私たちをどこへも行かせないつもりなのかしらね」


 そこへ向こうから男が慌てて走ってきた。あれは村の巡回兵だ。


「あれ? どうして城にいるんだ」

「あれは巡回兵さんのお兄さんです。巡回兵さんのお兄さん、どうしたんですか」


 シーカは巡回兵そっくりの巡回兵のお兄さんを呼びとめた。


「シーカか。大変なんだ。早く軍隊か騎士団に伝えないと。とにかく大変だ」

「何がそんなに大変なんですか」

「王都のすぐ外にある監視台が吸血魔に襲われたんだ!」


 王都の外周は大きな壁で覆われている。周囲は草原になっていて、小高い丘の上に監視台はあるという。俺たちはアラクネと合流して監視台へ馬車を走らせていた。

 しばらく走ると兵隊の行進が見えた。


「おーい、止まれ!」


 先頭にいる隊長格の兵士が俺たちの馬車を止めた。


「あ、お前はさっきの魔力放出男!」

「あ、俺の恥ずかしいところを見ていた子!」


 彼女は庭園で俺のことを見ていた軍属少女の一人だった。短髪でスラッとしている。女子にモテそうな女子だ。


「康史君、恥ずかしいことをしていたの?」

「空耳さ。何か用なのか?」


 俺は短髪ちゃんに聞いた。


「この先に監視施設があってな。吸血魔に占拠されてんだ。これから私たちが奪還するから、この辺りは戦場になる。危ないから引きかえしたほうがいいぜ」

「ガルナ、私たちだって出撃命令は出てないよ。ダメじゃないかな? 勝手に戦うなんて」

「だって俺たち、暇だぜ」


 三つ編み兵士ちゃんに問われた短髪ちゃんはサラリと答えた。


「とにかく、この先に吸血魔がいる以上、行かせるわけにはいかないな」

「その吸血魔を倒すために行くのよ」


 深沙央さんの言葉に兵士たちは目を丸くした。


「さぁシーカ、急いで。兵隊さんたちが先についてしまったら、無駄な犠牲が出るわ」

「承知しました」

「え、ちょっと待てよ」


 御者のシーカが馬車を出す。短髪ちゃんは意味が分からないとばかりに声を上げていた。



 レンガ造りの二階建ての建物。人の気配はしないけど、つい先ほどまで、ここが戦場だった痕跡は残っている。


「ここの吸血魔、出てきなさい!」


 深沙央さんが怒鳴ると、中からエビ人間の吸血魔が出てきた。


「軍隊が来たかと思えば女が三人。いい傾向である。兵士のまずい血には飽きていたところだ」


 俺はカウントされてないんだね。深沙央さんは前に出た。


「吸血魔はお前だけ?」

「そのとおり。十を超える兵士を一人で制圧する英傑こそ、このプラウン。ここを拠点にして王都の防衛力を削ぎ落して見せようぞ」

「たった一人で王都を落とそうっていうの?」

「このプラウンには秘策がありき。さぁ少女よ、死にたくなければプラウンに血を捧げるのだ」


 深沙央さんは溜息をついた。


「私はお前を倒しに来たのよ」

「そうか。では戦う前に名乗っておこう。我が名はプラウン。吸血魔軍の武将候補の一人なり」

「私は巫蔵深沙央。特技はセミテュラー! 速攻の鎧よ、顕現せよ! 必殺技は三百倍速×連続パンチ=全骨砂状粉砕拳!」


 自己紹介とともに深沙央さんは鎧の戦士に変身すると、必殺技を放った。


「グヘアオベヤッハァアアアン!」


 プラウンは一瞬で何発も殴られて、絶叫しながら建物の外壁を貫いて吹っ飛んでいった。


「おおお。なんという激痛だ! プラウンはいま苦境に立たされている! 辛さの極みとは、まさにこの事か!」

「へぇ。意外とタフなのね」


 起きあがるプラウンに深沙央さんは構えた。


「こうなったら秘策を頼るしかあるまい。王都に攻め込む際に使うところだったが……」


 プラウンはキレイな石を三つ出した。


「あの石は霊石。まさか」


 シーカが怪訝な顔をする。


「まさか、異世界から勇者を召喚する気なんですか?」

「シーカ?」

「霊石は異世界召喚の根幹です。私も霊石を使って康史様と深沙央様を召喚しました」

「へぇ。あの石があれば召喚できるのか」


 アラクネは興味深そうに聞きいった。シーカは首を振った。


「霊石だけでは無理なんです。ほかに用意するのは不死鳥の羽根、竜神湖で採取したドラゴンのうろこ、亡き者が愛用していたもの、これは兄の形見の剣を使いました。さらに鍛えられし者の体毛。これは私のものを使いました。それにヒヒイロカネカブトムシの抜け殻、長年使われた砂時計の砂、乙女の血、これは私の血を使いました。これらを清水で霊石と一緒に九時間煮詰めて、そのあと霊石を日の出から日没まで天日干しするんです。こうして変色した霊石を魔法陣の上で砕くと、異世界より勇者が現れるんです」


 俺たちって、そんなふうに召喚されていたのか。シーカはどこの毛を使ったんだ。

 プラウンは頷いた。


「御明答。このプラウンも同様の方法で霊石を煮込み、天日干しをした。あとは砕いて異界から強者を呼び出し、プラウンはこの危機を乗り越えるのだ!」

「勇者召喚のおまじないは、昔この国で一部の子供のあいだで流行したもの。もっとも子供が全ての資材を用意することはできないので、あくまで召喚ごっこでしたが……とにかく、どうして吸血魔が勇者召喚を知っているんですか!」

「マンティス様から教えを授かったのだ。有り難きことかな」

「召喚は危険が伴います。失敗すれば異界の悪魔が召喚されるんですよ!」


 プラウンは建物の裏手に走った。追った俺たちが見た物は魔法陣の中心に立つプラウンだった。


「これで形勢逆転できる。そして強者を率いて王都を攻略し、プラウンは武将へと成り上がるのだ」


 プラウンは三つの霊石を砕いた。


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