32.彼女 かつての敵と再会する
「これで形勢逆転できる。そして強者を率いて王都を攻略し、プラウンは武将へと成り上がるのだ!」
プラウンは三つの霊石を砕いた。
「さあ、姿を見せよ。異界の勇者!」
周囲の空気が重くなる。誰かに睨まれているような不気味さに襲われた。
「あ、あれ!」
シーカが気付いた。指さす先を見てみれば、少し離れたところに三人の怪物が立っていた。
「我は帝政アゾマンギトフの王神、マミイラなり!」
「軍事国家ギアル、フローレス王国方面攻撃軍大隊長マンドレイク参上!」
「俺様こそが魔法世界エルモアの真の大魔王にて支配者、ガーゴイルだ!」
ヤバいヤツが来た。プラウンめ、とんでもないヤツらを召喚しやがって。
全身に包帯と黄金の鎧を纏ったマミイラはあたりを見回した。
「不思議だ。勇者の手で聖者の棺に封印されたはず」
植物人間のマンドレイクは自分の身体を確認した。
「勇者に瀕死の重傷を負わされた私は、殺される寸前で自死を選び、崖から飛び降りたはずだ。一体ここは」
ドラゴン人間のガーゴイルは剣を抜いた。
「爆死したと思ったんだけどな。まぁいい。今までのことは夢だった。あんな凶暴女が現実にいてたまるかよ。なにが勇者だ。今日から支配者生活を再開させてやるぜ」
そんな彼らにプラウンは頬を緩めた。
「これはこれは。そうそうたる顔ぶれであることがオーラから分かる。これならプラウンが武将の地位に修まるのに申し分ない」
プラウンは三人の前で恭しく振る舞った。
「志半ばで朽ち果てようとしているアナタ方を、このプラウンが召喚術で呼び寄せたのです。さぁ、この世界で存分に力を振るって下さい。このプラウンに力を貸して下さいませ」
マミイラは空を見上げた。
「すると、ここは異世界。私は封印から解き放たれたのか」
マンドレイクは腕の植物を伸ばし、機関銃のような武器を作りあげた。
「プラウンと言ったか。礼をせねばな。しばし貴君の下に就こう。なんなりと命令せよ」
ガーゴイルは雄叫びをあげてプラウンに向き直った。
「いいぜ。この俺様がいれば世界征服なんて、あっという間だ。まぁ最後に支配者になるのは俺様だけどよ。んで、誰からぶっ殺せばいいんだ」
プラウンは勝利を確信した笑みを浮かべ、俺たちのほうを向いた。
「まずは、あの生意気な鎧の女を始末してください」
まずいぞ深沙央さん。だけど深沙央さんは微動だにしない。それどころか鎧を解除してしまった。一体どうして。
「あの顔は!」「ゲゲェっ」「マジかっ」
三人の怪物の様子がおかしい。素顔の深沙央さんを見てから、震えはじめた。
「久しぶりね。三人とも」
「おいおい、なつかしい顔がいるじゃねえか。なぁ、ガーゴイル」
「うわぁ、アラクネまで。どうして生きてんだぁ!」
ガーゴイルは激しい足の震えで座り込んでしまった。
「深沙央さん?」
「紹介するわね。金色の人がマミイラ。小学三年生の時に行った異世界のラスボス。植物のマンドレイクは小学六年生の時の大幹部。ガーゴイルは魔法世界でアラクネを裏切って支配者になろうとしたバカ。全員、私や仲間に倒された人たちよ」
つまりプラウンは、かつて深沙央さんに倒された歴代の敵を召喚したってことなのか。
プラウンは一歩も動けないでいる三人に詰め寄った。
「どうしたのですか。実力を存分に振るっていただきたい。さぁマミイラ様」
「深沙央……異界の巫女、巫蔵深沙央なのか。再殺再封の深沙央なのか」
「大きくなったでしょ。マミイラは棺の中で、よく眠れたのかしら」
深沙央さんに睨まれたマミイラは、全てを諦めたような、大きな溜息をついてしまった。
プラウンはマンドレイクの肩をたたく。
「呆けてないで戦っていただきたい。あなたは異界の将校だったのでしょう」
「破壊の乙女よ。また私の弾丸を全弾はね返したあげく、私の武器を破壊して、私の部隊を全滅させ、異界の格闘技やらで追いつめてくるのか。いっそのこと、ひと思いに殺してくれればいいものを」
「この世界で暴れたら、もっとひどい事するかもね」
深沙央さんに凄まれたマンドレイクは絶望しきった表情を浮かべた。敵とはいえ見てはいけないものを見てしまった気がした。
プラウンはガーゴイルの肩をつかんで揺さぶった。
「さっきまでの威勢はどこへ行ったのですか。あなたは大魔王だ。すごいんですよ」
「え、あ、うん。大魔王、そんなときもあったな」
「ガーゴイル様?」
「ねぇ、ガーゴイル」
深沙央さんが笑顔で語りかける。逆に怖い。
「アナタに放ったトドメの技、妙に手ごたえがないと思ったら、爆死する途中でこっちの世界に召喚されていたのね。トドメ、やり直していい?」
「ううっ」
「お~い、ガーゴイルく~ん」
アラクネだ。アラクネは魔王だったけど部下に裏切られて死にかけた。裏切った部下こそガーゴイルだったんだ。
「無視すんなよガーゴイルくん。今の深沙央は強いぞ。14歳のミラクル☆ミサオンから2年。当時とは比べ物にならないくらい強くなってる。もちろんアタシだって強くなった」
アラクネは魔鉄槌から放電して威嚇した。
「あのときの恨み、アタシは忘れてないぞ」
そのとき、プラウンが拳で地面を叩いた。衝撃波が走る。
「いい加減、戦っていただきたい。過去のことなんて、どうでもいい。このプラウンの手足となって人間を葬るのだ。今すぐ!」
三人はゆっくりとこちらに向き直った。意を決したのか、明らかに雰囲気が違う。ラスボスクラスが一度に三人だ。かつて深沙央さんに倒されたとはいえ、そのときは多くの仲間がいたから倒せたんだと思う。
今、ここにいるのは深沙央さん(強い)、アラクネ(強い)、シーカ(そこそこ強い)、俺(弱い)。どこまで戦えるか。
マンドレイクの気配が変わる。来るのか……
次の瞬間、マンドレイクは倒れた。
プラウンは駆け寄る。
「これは……心不全だ」
マンドレイクは心不全で死んだ。過度のストレスでもあったのだろうか。
次にマミイラが構えた。俺も身構える。どんな攻撃が来るんだ。次に取った行動は……
土下座だった。
「もう悪いことはしません。許して下さい」
プラウンは驚愕しながら土下座を見つめていた。
「ちっ……最後に残ったのは俺様かよ!」
ガーゴイルは動いた。なんて速さだ。まるで鎧を纏った深沙央さんの倍速攻撃に匹敵する速度だ。ガーゴイルは誰もかわせないようなスピードに乗って……
逃げ出していた。残されたプラウン。戸惑っています。
「さて、あと片づけしなくちゃね」
深沙央さんはプラウンに迫った。
三十秒後、プラウン霧散。
「なんなんだよ、オマエら」
いつのまにか短髪ちゃんたちがいた。彼女たちは唖然としながら深沙央さんを見ていた。
吸血魔から監視台を奪還した俺たちはシーカに案内されて、王国が用意してくれた屋敷に行ってみた。
駐在所より一回り大きい。庭も広くて貴族の家って感じだ。
「やっぱり俺たち、ここに住んだほうがいいのかな」
「爵位をもらっちゃったしね。それに、王都を拠点にしたほうが吸血魔関連の情報は得やすいと思うわ」
そうか。みんなとの共同生活、楽しかったんだけどな。これからは深沙央さんと二人きりの生活が始まるのか。へへへ。
俺は門を開けて、広い庭を渡って、玄関の扉を開けた。
「お帰りなさいませ。ご主人様っ」
目の前には二人のメイドさんがいた。よく見ればエリット。もう一人はメグさんだ。
「二人とも、どうして? その格好は?」
「私たちは勇者様の傍にいるって決めましたから。奥に丁度いいメイド服があったので、これからはメイドとしてお仕えします」
エリットは嬉しそうに一回転した。それにしても、私たちって、まさか。
「今ごろみんなは引っ越し準備をしていますよ。駐在所の女子全員、こちらにやってきます。引き続きよろしくお願いします」
メグさんは深々と頭を下げた。
「メグ、随分早く着いたな」
「アラクネさんの魔法薬のおかげです。お馬さん、とっても元気に走ってくれました」
「村の駐在員は私の後任が就きます。私はお二人の世話役に任命されました。今後ともよろしくお願いします」
シーカも頭を下げた。
「こちらこそよろしく」
深沙央さんと俺も頭を下げる。
「ところでエリット。俺が知らなかった屋敷の件、どうして知ってるんだ」
「シーカさんから事前に聞いていたんですよ」
「屋敷の扉には鍵がかかっているもんじゃないのか」
「スワロッテさんから鍵の開け方を教わったんです」
なんだそりゃ。賑やかな日々はまだまだ続きそうだ。




