↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男子校から女子校に赴任した空気の読めない俺、個性的すぎる女子高生たちの担任になりました  作者: 明石竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/33

第三十二話 お前はどうしたいんだ

 放課後、人気のなくなった面談室に、俺とリリアの二人だけが向かい合って座っていた。窓の外からは、蝉の鳴き声が絶え間なく聞こえてくる。

「今日、お前に聞きたいことがある」

 俺は単刀直入に切り出した。リリアは緊張した面持ちで、小さく頷いた。

「学校側は、お前の活動について、いろいろ検討してる。だが、一番大事なのは、お前自身がどうしたいかだ」

「私が、どうしたいか」

「そうだ。周りがどう言おうと、まずお前の気持ちを聞かせてくれ」

 リリアはしばらく黙り込んでいた。窓の外の光が、彼女の横顔を白く照らしている。

「先生、正直に言っていいですか」

「言えよ」

「私、怖いです」

 その声は、これまで俺が聞いたことのないほど、弱々しいものだった。

「毎日、通知を見るたびに、また何か言われてるんじゃないかって、心臓がバクバクします。知らない人から、顔も知らない人から、あんな言葉を投げつけられて。正直、もう二度と投稿したくないって、何度も思いました」

「それが、お前の本音か」

「はい……でも」

 リリアは一度言葉を切って、拳を強く握りしめた。

「それでも、発信することを、辞めたくないんです」

 その言葉には、震えながらも確かな芯があった。

「なんでだ」

「私、動画作るの、本当に好きなんです。メイクとか、ファッションとか、自分が好きなものを、誰かに伝えられるのが嬉しくて、それがずっと私の居場所でした。今回のことで、その居場所を、怖いって理由だけで手放したら、私、もう二度と戻れない気がするんです」

 リリアは涙を堪えながら、続けた。

「怖いのと、辞めたくないのと、両方本当なんです。矛盾してるかもしれないですけど」

「矛盾してねえよ」

 俺は冷静に言った。

「怖くても続けたいって思うのは、それだけ大事なもんだからだろ」

「先生……」

「お前が今言ったこと、そのまま学校に伝える。怖いけど、辞めたくない。その両方を、ちゃんとな」

 リリアは驚いたように顔を上げた。

「本当に、伝えてくれるんですか」

「約束する」

 リリアの目から、堪えていた涙がこぼれ落ちた。

「先生、ありがとうございます」

「礼を言うのはまだ早い。学校側がどう判断するかは、これからだ」

「それでも、私の気持ちを、ちゃんと聞いてくれる人がいるってだけで、救われます」

 窓の外では、夏の日差しが、変わらず強く照りつけていた。リリアは涙を拭いながら、少しだけ晴れやかな表情を見せた。

「先生、私、これからどうなるかわからないですけど、今の気持ちだけは、ちゃんと持ち続けようと思います」

「それでいい」

 俺はそう答えながら、この生徒が抱えてきた恐怖と覚悟の重さを、改めて噛み締めていた。

 面談室を出た後、俺はすぐに九条先生のもとへ向かった。リリアの言葉を、一言一句正確に伝えるために。

 廊下を歩きながら、俺は考えていた。学校のイメージを守ることと、生徒一人の本音を尊重すること。その両方を満たす答えは、簡単には見つからないかもしれない。それでも、リリア自身がはっきりと口にした意思だけは、誰にも歪められることなく、正しく伝えなければならないと思った。

 九条先生の姿を職員室に見つけて、俺は声をかけた。

「九条先生、天城と話してきました」

「どうでしたか」

「怖い、でも辞めたくない。それが、あいつの本音でした」

 九条先生は、しばらく黙って俺の言葉を受け止めていた。

「その両方の気持ち、理事長にも、正確に伝えます」

「お願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。