ひとりの朝
朝。
目が覚めた俺を迎えた見慣れない景色。
嗅ぎ慣れないにおい。
ここが昨日からの俺の住まいだと思い出すまでに、少し時間がかかってしまった。
身体が寒さを感じる。
一番寒い時期は越えたが、朝晩はまだまだ冷える。
俺が今まで使っていた寝具に比べると、質が落ちているのも寒さを感じる一因かもしれない。
隣のベッドを見るともぬけの殻のようだ。
年齢の近い女性と同じ部屋で一晩過ごすという、今までに経験したことの無かった状況で緊張して、全然眠れた気がしていないが、そこに居るはずの妻――言い慣れてないせいで、そう考えるだけで気恥かしい――が居なくなっていたことに気付いていないので、それなりに睡眠は取れていたのかもしれない。
上半身を起こし、腕を伸ばす。
「ふぁーあ」
なんでここで暮らすことになったのかを改めて思い返す。
なんでも、この村は「カプチュー」という女神の加護で護られてきたらしい。
しかし、その加護の力が弱まってきているようで、村が危険にさらされる事態が何度か起きたとのこと。
そこで、加護の力を強めて欲しいと女神に願ったところ、託宣が下った。
『――異世界人の男性と村長の娘が結婚すること。さすれば女神の加護は再び輝きを取り戻す』
という内容だったらしい。
この世界に生まれこの世界で育った俺が異世界人と認定され、結婚する運びとなったわけだ。
俺は当然、異世界なんて行ったことも見たこともない。――聞いたことはあるけど。
異世界について教えてくれたのは、両親だ。
そう。俺の両親こそが異世界人で、俺は異世界人同士の夫婦の下に生まれただけの人間でしかない。
つまり本来であれば、異世界人として選ばれるのは父さんだったはずなのだ。
両親がそれを受け入れるかは別として。
ただ、それはできない話だった。
何故ならば父さん――というか両親揃って、この世界には存在しないから。
七年程前にさらに別の世界から召喚されて転移していったそうだ。
俺は置いてけぼり。
両親が異世界にお呼ばれされてから、俺は黒竜のカテ爺と呼んでいるカテガトージたち、両親が親交を深めてきたこの世界のものたちに育てられてきた。
そんなカテ爺から突然出てきたのが、この結婚の話だった。
土下座――母さんに何度かさせられて覚えたとのこと――の体勢で、頭を床にこすりつけながら言うカテ爺の話を聞いて、俺は結婚することを決めたのだった。
さて、両親が異世界に連れて行かれて以降の俺の保護者たちは、料理など全然できない上に、母さんの「胃袋を掴めば勝ち」という教育方針があったため、食事の用意はお手の物となっていたし、朝食を作ろうかな。
肝心の妻、ラツハが居ないことは気になるが、昨日の今日で愛想を尽かして出ていったということではないだろう。
本来ならば探しに行かなければならないんだろうが、あまりにこの周辺のことを知らなすぎて、どこをどう探したらいいかもわからないし、俺が迷子になってしまったら本末転倒だ。
それに彼女は、朝の鍛錬を欠かしたくないと言っていたし、どこかで何らかの鍛錬をしているんだと思われる。
ということで、朝食を用意して帰りを待つことにする。
カテ爺から授かった愛用のバッグから、食材と調味料を取り出し調理に取りかかった。




