69話 極楽天福良29
金属柱が林立する草原。
福良と諒太は柱の陰に隠れて、スマートフォンを操作していた。突然、雪花月からチャットで呼びだされたからだ。
福良、諒太、月は同じパーティであり、パーティチャットでの意思疎通が可能となっている。
「なるほど。ぼんやりとわかった気はしますが、今はこちらものっぴきならない状況でして、解決後に連絡いたしますね」
『は? こっちもやばいんだが?』
「敵がきたんです。ではまた」
福良はそう書き込んでチャットを終了した。
「いいのか? 助ける義理がないのはいいとして、もうちょっと情報を引き出すとか」
諒太が訊いた。
「情報は必要ですが、ここでのんびりチャットしている場合でもないかと。一旦、森に戻りましょうか」
月が困っているのは本当なのだろうが、まずは自分たちの安全確保が先だろうと福良は考えた。どこも危険ではあるが、それでもここよりは先ほどまでいた森のほうがまだましな気がしたのだ。
「とりあえず柱の間を迅速に移動しながら退避ってとこか。攻撃の方向は大体わかるからそっちを注意すればなんとか……いや、どうなってんだ?」
福良は諒太の視線を追った。
金属柱が立ち並ぶ草原が広がっていた。ここはそのような場所なのだからそれ自体はおかしくないのだが、問題はそれがどこまでも続いていることだ。少し前までそこにあったはずの森がなくなっていて、ちょっと前とは光景が一変してしまっている。
「森に戻るどころではなくなりましたね」
「そうだけど! え? どうなってんだよ」
「閉鎖型の領域に変わったということでしょうか? ……アジトは使えますか?」
「ああ……できたな」
側にある柱の根元にアジトの出入り口が出現した。アジトはどこか別の場所にあるためこの状況では使えないかと危惧したが問題はなかったようだ。
「安易に入ってしまうのも危険かもしれませんが……ここでぼんやりしているよりましでしょう」
念の為に周囲を確認する。動く物はなく、スマートホンのマップで確認しても何もないようだ。
二人はアジトに避難することにした。
*****
「さて、どうするよ?」
テーブルに付き、落ち着いたところで諒太が口火を切った。
「今できることもありませんしもう一度、月さんと話でもしてみましょうか」
「さっきの雑な切り捨て後にかよ。図太すぎんだろ。俺ならちょっと気が引けるわ」
「多少気まずくても仕方がないですよ。諒太くんだって任務ならこれぐらいするでしょう」
「まあ、そうか。気まずいとか言ってる場合でもねえよな」
「それにここから外部に連絡できるのかも気になりますしね」
このアジトがどこにあるのかわかっていない。外部との通信ができない可能性も考えたが、特に問題なく月とのチャットを開始できた。
「ひとまず落ち着きまして」
『急すぎんだろ! バケモノ送り込んでやろうかと思ったわ!』
「そう言われましてもこちらも火急の事態に巻き込まれることはありますから。今後も同じ様なことはあるかと思いますが、そういった事情があることも考慮してください」
『わかったよ! 今は大丈夫なんだな?』
「はい。比較的安全な場所に移動できまして……そういえば地図上で私たちの位置はどうなってますか?」
『さっきから変わってないぞ? なんか嘘ついてねーか?』
「なるほど。今私たちはスキルで作られたアジトにいるんですが、座標は出入り口の地点のままになるようですね」
『本当かよ?』
「今すぐ証明もできませんので、どこにいるかはとりあえずどうでもいいのでは?」
『……そうか? まあそうか。そこにこだわっても話進まないしな』
「私たちはいいんですが、月さんは安全な状況なんですか?」
雪花月は敵の側にいるらしい。自由に話をできる状況なのかが福良は気になった。
『今のところはね。あいつ、私が何してるかとかそんなに気にしてないっぽい』
「だったらそう急ぐ必要もなさそうですね」
『いやだよ! 早く助けてよ!』
「そう言われましてもまだ事情を十分に把握していないのですが。今すぐどうこうというわけではないんですよね?」
『それはそうなんだけど、可及的速やかにお願いしたい! 今は大丈夫でもいつどう状況が転ぶかなんてわかんないから!』
「具体的にどういう状況なんですか?」
『連れて行かれてる。逃げたら殺されるかもしれんので、素直に付いてってる感じ』
「さきほどこちらに飛んできた攻撃は月さんの近くにいるモンスターによるものなんですよね? それはどういった意図なんでしょう?」
『知らんけど……ああ! 人を見かけたら殺してるって言ってた。食べたりもするけど、それが目的でもないらしい』
「月さんが無事な理由は?」
『それもよくわからんのだけど、どうやら私の美貌が効いてるっぽい』
「モンスターなんですよね?」
福良は少し訝しんだ。美貌により魅力的になったところでモンスターに効果があるのだろうか。それに相手が人間でも月は一度捕まっている。誰をも虜にして要求を通せるほど強力ではなく、それほど有用な能力とも思えなかったのだ。
『えーとモンスターなんだけど、人の上半身が生えてて喋れんのよ。だから美意識は人間より? 私の魅力に抗えなかったんだろうねぇ』
「では懐柔なさればよいのでは」
『いや、それがさ。この魅力で心惑わしてんのを気付かれてて不思議がられてんのよ。そのあたり調べるつもりで連れてかれてるわけで……だから余裕はあんまりないかも』
「なるほど。ところで今いる草原から出られなくなっているのですが心当たりはありますか?」
『出られないって?』
「やってきた森がなくなってどこまでも草原が続いているように見えました」
『そうなん? ……言われてみればおかしいわ。さすがにこんな草原ばっかじゃなかった気がする』
「びっくりですよね」
『どうすんの、これ!? 出られないじゃん!』
そこから反応がなくなり、しばらくしてからチャットが再開された。
『これ、こいつのせいだわ』
「どういうことですか?」
『きょろきょろしてたらランダが教えてくれた』
「ランダ?」
『言ってなかったっけ? 私のそばにいるバケモノの名前。魔王らしいんだけど』
「魔王も気になりますが、この状況の理由がわかったんですか?」
『浸蝕領域の支配者って上位者が長時間いると更新しちゃうことがあるんだって。さっきまでは寝てたから問題なかったけど、起きたからこうなったって』
「それはやめてもらえないんですか?」
『領域の環境設定とかそういう技術的なことは得意じゃないらしい』
「つまり?」
『こいつ倒すか、浸蝕の宝玉を壊すかしかないってこと?』
「……とりあえず、わかる限りのランダの情報をいただけますか?」
月を助けるかはともかく、情報源としては役に立つかもしれなかった。




