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無理ゲーみたいな異世界ですけど、壇ノ浦流弓術でどうにかなりますか? ~即死チート外伝~  作者: 藤孝剛志


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68話 雪花月14

 熊のような巨大な獣が両断されて、切断面から人のような上半身が生えてきた。その口から発された言葉は理解可能だったので、知能はあるのだろう。

 つまり意思の疎通が可能かもしれず、若干ではあるが助かる可能性が出てきたと雪花月は考えた。獣が相手ではどうにもならないが、言葉が通じるのなら交渉が可能かもしれないからだ。


 ――けど、どうしたもんか。初手をいきなり間違えた感もあるし。


 男が寝ぼけた事を言ったので月は思わずツッコんでしまったのだ。とはいえ済んだことを気にしても仕方がない。ここからうまく立ち回るしかないだろう。

 状況を整理する。獣の今の様子からすると、先ほどまで暴れていた状態と男が生えてきた状態には連続性がないように思えた。寝ぼけた事をと思ったが、本当に寝ぼけているのかもしれない。ならばそのあたりに付けいる隙があるかもしれなかった。


「えーと、私も状況を理解してないのですが……」

「そっかー。おんなじだねぇ」


 人部分は優男といった見た目で、喋り方も風貌から想像できるイメージそのままだった。少なくとも、今すぐ危害を加えてくるようには見えない。とはいえ、獣の下半身から人間の上半身が生えている化物なのだから何の保証にもならなかった。未だ健在である下半身で蹴られれば大ダメージは免れない。HPがあるため一撃ぐらいなら耐えられるかもしれないが、それ以上は無理だろう。


「私は、雪花月と言います。その、あなたは?」

「えーと……」


 男は考え込んだ。空を仰いだり、眉間を指で押えたり、腕を組んで首を傾げたりしている。


「あのー……」

「ちょっとまって。もうちょっとで思い出せそうだから」

「あ、はい」


 ――もしかしてこの隙に逃げた方がいいのでは?


 そんな考えが頭をよぎる。今はぼんやりとしているため月への殺意はないようだが、意識がはっきりとすればどうなるかわからないからだ。


 ――でもなぁ……。ちょっと逃げたところで無駄なんだよなぁ。


 今の状態でも先ほどまでの暴虐を行えると考えたほうがいいだろう。逃げたところですぐに追いつかれるはずだ。

 月は様子を見ることにした。それぐらいしかできないからだ。

 少し待っているうちに、獣の様子が少しばかり変わってきたことに気付いた。断面と男の境目がわからなくなってきているのだ。先ほどまでは内臓の間から男が飛び出してるような見た目だったが、今は傷も治って滑らかに獣部分と人間部分が接合した状態になっている。


 ――どーゆー生き物なんだよ。わけわかんなすぎるだろうが。


 元々こんな生き物なのか、治癒過程なだけなのかと考えてしまうが答えなどわかるわけがない。

 下手に刺激するのもまずそうなので、月は辛抱強く待った。


「名前は……ランダ」


 何もせずに待つには辛いばかりの時間が経過し、獣はようやく口を開いた。


「……えーと……で?」

「で? とは?」

「いや、名前だけ言われても」

「君が自分の名前を言って、あなたは? と訊いた。だから名前を答えたんだけど?」

「めんどくせーな! その他諸々ついでに言えよ! ……あ、いや、その……」


 思わず言い返してしまったが生殺与奪の権は相手にある状況だ。言い過ぎたかと後悔したが、ランダの様子に変化はなかった。今の所は月の態度に思うところはないらしい。


「うーん。もうちょっと具体的に言ってもらわないと」

「じゃあ……先ほどそこらの人を殺しましたけど、何か理由があるんですか?」


 月はアルビンたちの死体を指さした。


「これ、僕がやったの? まぁ……やったんだろうけど……寝てる間のことはわからないよ」

「寝てたんだ」

「寝てる間は勝手に動いてるから……ふわぁ……なんだか眠く……」

「寝るなよ! 頼むから!」

「んー、努力はしてみるよ」


 人が生えてきた直後は朦朧としていたが、その時よりは意識がはっきりしているようだ。だが、油断はできない。眠そうなら叩き起こしてでも覚醒状態を保たせるべきだろう。こんなわけのわからない生き物に手出しして無事で済むかはわからないが、それでも獣の状態で暴れ回られるよりは希望が持てる。


 ――まあでもあれだ。今の状態であればさっきよりはまだましなはず……。


 少なくとも上半身が少年の形態であれば人を丸かじりするようなことはできないはず。そう思っていたのだが、月は信じがたいものを目の当たりにした。

 ランダの口が、ゴリゴリとぐちゃぐちゃと肉を咀嚼しているのだ。いつのまにかランダは人の腕らしき肉塊を手にしていて、その口は人ではありえないほどに大きく開き力強く噛み砕いている。


 ――そうだよ、化物なんだよ。人っぽいとかなんも関係ねーよ!


 立ったままでは地面にある死体に手が届きそうにないがどうやって回収したのか。腕でも伸びたのかもしれないが化物の能力などわかるはずもなかった。


「あの、それは何を?」


 藪蛇の可能性はあるが月は訊かずにいられなかった。


「お腹が空いたから」


 肉を頬張りながらランダは応えた。


「じゃあ満腹の場合は殺したりしないんですかね?」


 今ここには四つの死体がある。空腹を満たすならそれで十分だろう。そうであってほしいと願いながら月は訊いた。


「ん? 食べるとか関係なく人を見かけたら殺してるよ。そういう生き物だし、僕らって」

「じゃあその、私を殺したりとか……」


 つつくどころか藪を切り払っているが、それでも訊かずにはいられなかった。


「あれ? そう言われると不思議だなぁ。まったくそんな気にならない?」


 本当に不思議に思っているのか、ランダは首を傾げていた。


「あ、そうなんですね!」


 訊いてみてよかったと月は胸をなでおろした。


「じゃあ私は失礼しますね!」


 なんとなく今退場しても許される空気だと判断した月は、少しずつ後ずさった。


「だめだよ」

「え?」

「僕はよく適当でいい加減だって言われるし、自分でもそうだよなぁとは思ってるんだけどさ。さすがにこれはおかしすぎるってことぐらいわかるよ。魔王の精神に影響を与える何かがあるってことでしょ?」

「……ん? 魔王? あなたが?」

「そうだけど?」

「……そこらへんほっつき歩いてんの?」

「どこで何してようと僕の勝手だろう?」

「魔王なら魔王城にひきこもっといてくれよ……」


 月は思わずぼやいた。今すぐ死ぬような事態だけは避けられたようだが、だからといって今後どうすればいいのかまるでわからなくなっていた。

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