63話 極楽天福良27
スーツ姿の男が倒れ、福良と諒太は男を挟んで対面していた。地面の光は男が倒れるのと同時に消えたので、やはりこの男の仕業だったのだろう。
「さて、どうしたものでしょうか」
「死んだふりとかはないと思うぞ。俺のレベルがあがったのはそいつが死んだからだろ?」
福良のレベルは上がっていない。どうやら最終的に倒した者に経験値が入るようだった。
「アイテムが自動回収されませんね。所有権が倒した諒太くんにあるからでしょうか?」
「さてな。とにかくあまり悠長なことしてる余裕はなさそうだが」
男の持ち物を探るなどしたほうがよさそうではあるが、諒太が言うようにのんびりもしていられないだろう。ここは魔界で、いつ敵がやってくるかわからないからだ。
「とりあえずこれだけ持って行きましょうか」
福良は地面に落ちているスマートフォンを手に取った。男が先ほど取り出して確認していたのでこの男の物のはずだ。
「一旦仕切り直したほうがよさそうだな」
「そうですね。休憩しましょう」
緊張が途切れてしまっているので、このまま移動を再開するのは危ういだろう。二人はできるだけ静かに移動し、少し離れた場所からアジトに入った。アジトに入ると中からは出入り口の場所を変更できない。出入りするところを見られると致命的な状況にもなるのだが、それほど神経質にはなっていなかった。できる限り周囲を警戒しても見つかってしまったならそれは仕方がないと開き直っているからだ。
中に入り、二人は広間のテーブルについた。
「高倉和夫。先生のようですね」
「え? 倒してよかったのかよ?」
スマートフォンはロックされていなかった。教員証のアプリがあったのでまずはそれを確認したのだが、わかったのは名前、担当クラス、担当教科ぐらいのものだった。
「んー、話し合いとか出来る状況でもなさそうでしたけどね」
周囲を爆撃しながら進んでいるというのにあえて近づいてきたし、地面が光る謎の攻撃も仕掛けてきた。この状況でのんびり話し合いなどと言っていられないだろう。
「無力化した後なら話ぐらいはしてもよかったですよ。でも、諒太くんが勝手に殺しちゃったんじゃないですか」
「不可抗力だろ! いきなり心臓盗むとか思ってもなかったわ!」
「びっくりですよね」
「てか必殺すぎんだろ。むちゃくちゃじゃねーか」
「普通に考えるなら盗める確率はものすごく低そうですが……私と一緒に戦ってるからでしょうね」
「お嬢の運ってそこまで仲間にも影響あんのか?」
「それはありますよ。仲間が不運で失敗すれば私にも影響があるんですから」
「そりゃちょっとはあるだろうとは思ってたけどここまでかよ。他にわかることは?」
「ステータスアプリには死亡と表示されています。体格などの値は全て0になっていますね」
「なるほど? 数値が現状をあらわしてるなら死んだら全部0ってことなのか?」
「つまりこの先生がどんな能力を持っていたかなどはわからないということですね」
ジョブやスキルにはアンデファインドと表示されている。軽く見た感じでは有用な情報はなさそうだった。
「倒しちゃったから今さら知る必要ないかもだけどな」
「これについてはまた余裕のある時に調べてみようかと思います。それで、先ほどの戦いで気づいたことなんですが」
「何かあったか?」
「いくつかあります。まず、クリティカルは攻撃が成立した場合に発生する。ジャストガードだと攻撃が当たったとは見做されないようです」
ジャストガードの応酬時、爆発は一つも起こらなかった。これまでの発生率から考えればおかしな状況だ。
「んーと……ジャストガードで跳ね返されたのを喰らったらどうなるんだ? その時の発生率はお嬢の運の影響を受けるのか?」
「どの段階でクリティカル判定してるかによりますが、先ほどの結果から見ると私の影響はありますね。なんにしろ常に反射への警戒が必要です」
ジャストガードはリスクが高く成功率も低いため常用する相手がいると福良は思っていなかったが、実際にされたのだからその前提で行動するしかないだろう。
「あと、防御されてもスキルの付加効果は成立することがわかりました。ブラッディパーティの爆裂は受けきられてしまったようですし諒太くんの攻撃もダメージを与えられませんでしたが、攻撃に付随する強奪は効果がありました」
「それがわかって何をどうするんだよ」
「そうですね。攻撃はジャストガードされるかもしれませんから気を付けましょう」
「気を付けてどうにかなんのか?」
「遠距離攻撃は跳ね返ってくるかもしれないというだけなのでこれは避ければいいだけです」
「それはどうにかなるか」
「近距離攻撃は体勢を崩されるそうなんですが、これはわかっていれば対応できるのではないでしょうか」
「そうか? ちょっと試していい?」
諒太が立ち上がり、福良も続いた。
「では軽く殴ってきてください」
諒太が拳を突き出し、福良はそれを盾で払った。ジャストガードが発生し拳は大きく弾かれ、諒太はよろめいて後ずさった。
「こんな感じか。どうにかなりそうな気もするな」
不意に大きく体勢が崩れるから動きが止まるし隙ができる。その可能性を最初から織り込んでいれば隙は最小限に抑えられるかもしれなかった。
「強奪に関しては相手が防御してようと気にせずガンガンやっちゃってください。実質防御が意味をなさないわけですからこれはかなりお得な技かと思います」
「いや、でもジャストガードもあるわけだろ?」
「そのあたりは臨機応変にお願いします」
「まぁ……異世界ってことでちょっと身構えてるとこはあったけど、元の世界とそう変わらないか」
「そういうものなんですか?」
無茶を言っている自覚はあったため、福良は少々意外に感じた。
「わけのわからん異能を使ってくるやつとかいるんだよ。そんなの初見で対策なんかできるわけねーしフィーリングでどうにかするしかねぇんだよな」
諒太は強がりではなく本心から言っているようだった。




