59話 二宮諒太10
森の中で爆音が鳴り響く。この爆発は福良のスキル、ブラッディパーティによるものだった。クリティカル発生時に爆発を引き起こすというスキルであり、クリティカルは滅多に発生しないのでここまで連続で発現するのはおかしいのだが、福良の豪運なら可能なのだろう。そういうものだと受け入れ、諒太はスマートフォンで周囲の状況を確認していた。
次から次に発生する爆発で木々がなぎ倒されていくのが地図でもはっきりとわかるがこれは誰でも確認できることだ。諒太はスキル、山賊の鼻でお宝を探していた。爆発に次ぐ爆発で周囲の気配などもう探りようがないからだ。
魔物は基本的には何かしらのアイテムを落とすらしい。つまり資産価値のある物を持っているはずで、このスキルで位置がわかるはずだった。
動いているお宝は確かに周囲に存在しているので、これらは敵と見做していいのだろう。こちらの位置は筒抜けのはずだが、どれも近寄ってこようとはしていなかった。
「これ、本当に大丈夫なのか? 人間もいるわけだろ?」
「これだけ無差別に攻撃しながら歩いてるわけですから、逃げてくれると思いますよ」
福良は両手を腰ポケットに差し入れ、抜きざまに複数の小石を放り投げる。その一連の動作には滞りが一切無く、実に簡単そうに繰り返していた。
小石のばらけ方、速度、飛距離、どれも計算され尽くしているかのようで効果的に周囲を破壊している。もちろん不発もあるはずだが、大半はクリティカルが発生していて、当たった物を爆破しているのだ。
不思議なことに小石がいくらでも出てくるのだが、これは福良のスキル、スカベンジャーポケットによるものだった。ストレージスキルの一種で価値の低い物に限ってかなりの量を収納できる。小石など無価値に等しいのでほぼ無制限に収納可能だった。
「だろうな。俺だって無差別攻撃しながら突き進むやつ見かけたら距離取るよ」
敵を見かけたら戦うしかない、そんな不文律のある世界だ。慎重に進んだところで結局戦いは避けられない。ならばもう周囲を無差別攻撃しながら進めばいいというのが福良の案なのだ。
「そんなことよりお宝に注目しておいてください」
「近づいてこないだろ」
もちろん油断せず警戒はしている。だが、この状況で襲ってくる敵がいるとも思えなかった。
「いえ、目的は逃げ遅れた敵です」
「はいはい……お、動いてたお宝が止まったな」
福良が攻撃を止めたので、スキルが示した位置へと移動した。
頭部が損壊して虫の息になっている魔物が倒れていた。諒太が初めて見るタイプで、蟷螂と猿を混ぜ合わせたような生き物だ。AIアシスタントによればマンティスマンと言うらしい。
「アイテム回収すんのか」
「それはもちろんですが試してみたいことがあります」
そう言って福良は諒太に小石を渡した。
「ん?」
「強奪が成立するか、これで軽く攻撃してみてください」
「……え? そんなローリスクでいいのか?」
強奪は攻撃と同時に盗みを行うというスキルだが、諒太はそれは近接攻撃に限られるとばかり思っていた。だが、攻撃であればいいのなら距離の遠近は問わないのかもしれない。
諒太は手にしていた小石を軽く魔物に投げつけた。
『ミス』
スマートフォンが強奪の成否を伝えてきた。これでも強奪は成立しているらしい。
「まあそんな簡単に成功はしないな」
「はい。ですからどんどんやっていきましょう」
福良がじゃらじゃらと小石を大量に手渡してきた。
「死なない程度の攻撃を延々と繰り返せばいいんですよ」
「……やりゃいいんだろ」
死にかけの生き物をさらに痛めつける。多少は気が咎めるが、この程度のことを割り切るのは簡単だった。
『ミス、ミス、ミス、ミス、ミス、ミス、幸運を取得しました。ミス、ミス、MPを取得しました。ミス、ミス、ミス、ミス、ミス、ミス、ミス、マンティスブレードを取得しました。ミス、ミス、ミス、経験値を取得しました。ターゲットをロストしました』
小石を投げ続けていると魔物が死んだ。小石のダメージはほとんどなかったはずなので、残りわずかだった命が尽きたのだろう。
ちなみにカテゴリごとに盗みスキルが存在していて、諒太はほとんどの盗み関連スキルを取得していた。おかげで戦闘関連スキルはほとんど取得できていない。
「死にかけにするよりは、元気な状態で拘束できたほうが効率はよさそうですよね」
「これでいいんじゃねーか? このやり方でも随分と危うい気がするぞ」
確実に拘束できる手段があればやってもいいが、そこまで便利なスキルは存在しないだろうと諒太は思っていた。
「盗んだ物ってどんな感じなんですか? 経験値とかステータスが盗めたようですが」
AIアシスタントを経由して情報は共有しているので、福良は諒太のログを確認できた。
「これが幸運らしいぞ?」
諒太は手に持っていた林檎のような果実を福良に見せた。最初の強奪成功時に手に現れたので幸運のステータスのはずだった。
「食料にもなるなら便利ですね」
「これ食うとステータスアップすんのか? だとしたらやばくね?」
レベルが上がってもステータスに変化はない。開示されている情報にステータスを上げる方法は見当たらなかったので基本的には上がらないと考えていいだろう。だとすると、ステータス強奪は破格の性能に思えてきた。
「他にも盗めたアイテムがあったようですが、それは?」
「持ちきれないのは勝手にアジトに送られるみたいだな」
大盗賊のアジトはストレージ系のスキルで、スキル連携によって別のスキルの結果を反映させることができる。だが連携以外では気軽にアイテムの出し入れができない。ただアイテムを取り出したいだけであっても、アジトの出入り口を作り、中に入って倉庫から荷物を持ってくる必要があるのだ。
「アジトの収納物はスマホから確認できます……武器強奪も破格の性能な気がしますね。このマンティスブレードというのはそれの手のようですよ?」
福良が指さす先を諒太は見た。
マンティスマンはその名の通り蟷螂のような魔物で両手が鎌状になっているのだが見えているのは左手の鎌だけだった。
諒太はマンティスマンをひっくり返した。後ろ手になっていた右手がなくなっていた。
「……さっきのログだと生きてる時にブレード盗んでたよな?」
「お得ですね」
「そんな感想かよ」
『ドロップ対象の魔物素材は盗むことが可能です』
「心臓とか盗めれば即死ですね」
「狙ってはできねぇだろうけど……」
だが、強奪は勝手に発動するのだから敵が弱体化すればラッキーぐらいに思っていればいいのだ。
「この調子で敵を倒しながらどんどん進んで行きましょう!」
「こんなんでいいのか?」
諒太はほとんど戦っていない。護衛としてはもう少し活躍の場が欲しいと思わずにはいられなかった。




