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第52話 篠崎綾香1

 極楽天には関わるな。

 謎の攻撃をその身深くに受けた綾香は父親の言葉を思い返していた。

 関わるのなら親友と呼べるぐらいに深く関わらなければならない。身内や友達といった極楽天にとって親愛の対象となっている存在なら庇護を受けることができるからであり、知り合い程度の関係が一番危険だ。

 近くにいて、それほど関心を持たれていない存在。そんなものは極楽天にとっては弾よけ程度に過ぎないのだ。

 斬撃は、右肩から入り肋骨と肺を切り裂いて強化金属製の背骨にまで達していた。

 福良が転け、諒太が引き起こし、綾香は少し先に進んでからそれに気づき振り返ろうと立ち止まった。この一連の流れが運命を変えたのだろう。空を飛んできた大剣が誰に当たるかなどわかったものではない。当たる可能性は誰にでもあった。揺蕩う運命の流れを極楽天の豪運が今の形に収束させたのだ。

 都合のいいことに綾香の身体は人間とは異なる。そのままでは全員を両断していた勢いを受け止められるほどには頑丈だった。たまたま福良の側にそんな存在がいたことも運がよかったということだろうが、こんなことに巻き込まれる綾香からすればとんだとばっちりだ。

 状況EX。

 仮想人体をディスコネクトし、綾香は本来の性能を発揮した。

 とはいえ、今の綾香はフラグシップモデルとは異なり、機能はかなり簡略化されている。人格ユニットは最初から己が人造人間であることを自覚しているし、複数の自律的ユニットを搭載してもいない。全てを人格ユニットのみで判断する必要があった。

 診断ツールを実行するも、結果は芳しくなかった。エネルギー循環の核、心臓に当たる部位が破壊されているのだ。即座に機能停止するわけではないが、もうまともに行動することは出来そうに無かった。

 とりあえずは出来うる限りの延命を図るしかない。センサー類の感度と頻度を下げて演算負荷を下げ、その場に倒れ体勢維持のためのエネルギーを節約する。

 それに何の意味があるのか。多少延命したところで修復不可能であることは変わらない。即座に停止しても問題はないはずだ。

 だが、福良たちには渡したい物があった。この状況を解決して戻ってくることを期待したのだ。

 しばらくして、遠くで爆音が鳴り響いた。なんらかの決着がついたのだろう。


「盾で弾けばいいんだろ? 俺がやってもよかったんじゃないか?」

「さすがにいきなりは無理ではないでしょうか」


 森の中から福良と諒太の声が聞こえてきた。問題は解決できたようだった。


「ジャストガードの発動で盾にフィールドが形成されるんですが、全身の防御力を盾に集中しますので盾以外の防御力が著しく下がります。つまり盾以外で攻撃を受ければ即死ですね。フィールドの有効時間は0.05秒なんですが、その時間を過ぎたからといって防御力はすぐには戻りませんのでタイミングを間違えても即死です」

「それだと知らんほうがまだましだったなぁ……」

「そうですね、選択肢にあると思わないほうがいいかもしれません。下手にジャストガードを狙うより、防御に徹したほうが良い場面も多いでしょう。では、ジャスト回避についてはお知らせしないほうがよさそうですね」


 森から道へ出てきた二人は暢気な様子だった。さほど苦労することなく対応できたのだろう。


「篠崎、まだ生きてるか?」

「かろうじて……ね。極楽天さん、少しいいかしら?」

「はい、なんでしょうか」


 福良が近づいてくる。綾香は残されたエネルギーを振り絞って腕を動かした。


「大丈夫には見えませんが、できることはありますか?」

「もう助からないことはわかってるから余計なことはしなくていいわ。その上でお願いがあるんだけど」

「はい」

「これを……うちに届けてもらえないかしら?」


 綾香は手に握っていたコインを福良に手渡した。


「これは?」

「私のメモリ。今の時点までの記憶が収めてあるから、復活できるようなものよ」

「スワンプマン的な問題があるような気もしますが、私がとやかく言うことでもありませんね。承知いたしました。私が生きて帰ることが出来たならお届けいたします」


 最悪な状況にも思えるが、篠崎重工としては悪い話ではないはずだった。福良もこの状況には多少の負い目があるはずだ。つまり、極楽天家に貸しを作ったことになる。

 綾香は安心して機能を停止した。

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