53話 二宮諒太8
機能停止するならストレージとやらに格納されている物資を提供して欲しかった。
そう思った諒太だがそれを言うのも非道に思えたので、口には出さなかった。
「さて。どうしたものでしょうね。これからもあんな感じで襲ってこられてはたまったものではないのですが」
「そもそもあいつなんで襲ってきたんだ?」
福良が攻撃を跳ね返した先を確認しにいくと、ぐちゃぐちゃでどろどろな死体が転がっていた。大剣が突き刺さっていたので襲ってきた術者のはずだが、ここまで凄惨な状況になるというのも意味がよくわからない。
制服らしきものを着ていることはわかったので、九法宮学園の男子生徒ではあるようだった。
「そうですね。積極的に戦う理由はないように思えましたが……ああ、なんとなくわかった気がします」
福良がスマートフォンを確認し、納得したようにうなずいた。
「何かわかったか?」
「レベルがすごく上がってます。もしかして生徒の経験値がすごく多いのではないでしょうか?」
「そんな程度のことで学校の仲間を殺せんのか?」
諒太には理解できなかった。
「よくよく考えるとこんな結論になるのかもしれません。徒党を組むよりも、レベル上げた方が生き残れると考えたんでしょう」
「てか、そんなことどうやってわかるんだ? シャノン、仲間を殺すと経験値が大量に入るなんて仕様があんのか?」
『経験値に関しては各自に個別に設定されています。それを事前に知る手段は基本仕様としては用意されていません』
「基本仕様にはない、となるとスキルなどではありえるのでしょうか?」
『お二人が知り得る範囲のスキルには存在しませんが、存在する可能性はあります』
シャノンはシステムの全てを知っているわけではない。あくまでアシスタントでしかなく、伝えられるのは開示されている情報に過ぎなかった。
「ここでのんびり考えている場合でもないのでしょうね。そもそも安全な場所を目指して移動中でしたし。では篠崎さんを……おや?」
さすがに綾香を道の真ん中に放置しておくわけにもいかないと思ったのだろう。それには諒太も同意だが、福良の視線の先を見てみれば綾香の身体が泡のようになっていた。
「はぁ?」
「証拠隠滅的な感じでしょうか」
「こんなことできんのか? フレームっぽいのもあっただろ?」
「残ってるのは服だけですね。服だけでしたら埋葬するほどのことでもありませんし回収しておきましょうか」
「いや、どんな技術だよ。ほとんどオカルトじゃねーか」
福良が制服や靴などを回収し、背負い袋に入れていた。この背負い袋は見た目よりも多く荷物の入る不思議な袋とのことだった。
「埋葬の手間が省けましたね」
「それ倫理的にどう……いや、埋葬しようとしてたんだから問題はないのか?」
「では移動を再開しましょう。この先の分岐路を目指していたかと思うのですが」
「とりあえずは安全そうなところだったか」
スマートフォンの初期設定は必須とのことで急いで行った。その後のことはもう少し安全そうな場所で相談しようと思っていたところで襲われた対応を余儀なくされたのだ。
スマートフォンで周囲の様子を確認しつつ、二人は道を進んでいった。
すぐに当初の目的地であった分岐路に辿り着いた。多少逃げやすいぐらいで大して安全でもないが、それでも他よりはましだろう。
「まず言いたいことがあるんだが」
話し合いができる雰囲気になったところで諒太は口を開いた。
「なんでしょう?」
「無理だろ、これ!」
「無理?」
「東に目的地があってそこに向かってんだよな」
「そうですね。現状、それぐらいしか手掛かりがありませんし」
「いきなりわけのわからん攻撃がわけのわからんところから飛んでくるんだぞ。この状況で向かえるわけねぇだろ! いや、お嬢に向かうなって言ってやめるとは思ってねぇよ? でもな、行くにしたってもうちょっと準備がいるだろ! 二人じゃ無理だ!」
「そう言われましても元々は一人で行くつもりでしたので」
「休憩とかどうするつもりだったんだよ」
「道の上は比較的安全かなと」
「どこがだよ!」
現に道を歩いていても襲われて綾香は機能停止にいたった。今二人が生きているのはただ運がよかったにすぎないのだ。
「一人だとろくに寝てもいられねぇし、二人で交代しながら番をするのでも無理あるわ! 確かに帰るための方法を探す必要はある。でも、明らかに準備不足だろ」
「なるほど。では安全な野営手段があればいいんですね」
「当てがあるのかよ」
「まず思いつくのは謎の店です」
「店?」
街に戻るわけでもなさそうだし、諒太は意味がわからず困惑した。
「そのあたり説明してなかったかと思いますが、森をうろうろとしているときに謎の店に迷い込んだんです。その時に時計を売って、靴などを手に入れたんですが残額がありますのでその店に行けば何か都合のいい物を売ってもらえるかもしれません。諒太くんにわかりやすく言えば迷い家のようなものでしょうか」
「迷い家……ねぇ」
実際に迷いこんだという知り合いもいるのでイメージは湧いたが、迷い家だとすればそんなに都合良く出くわせるかは怪しかった。
「問題は再度訪れる方法がわからないことですが」
「だったら駄目だろ」
「ポイントカードはもらってまして、これがあればいつでもいけるとのことだったんですが」
「それに何か書いてないのか?」
「名前と残ポイントが出てるぐらいですね」
福良が黒いカードを見せてきた。白い文字で名前とポイントが表記されているだけだった。
「ごくまっとうに考えればカードリーダーみたいなのがあるんじゃないのか?」
もちろんそんな物はあたりに存在していない。周囲は樹木の生い茂った森であり、人工的なのは道ぐらいのものだ。
「最初は森を歩いてたら迷い込んだだけだったんですけどね」
「まずって言ってたよな。他には何か当てが?」
「そうですね。こちらの方が現実的かもしれません。現状、目的地に行くのはあまりに難しすぎます。しかし、この状況が意図的に作られたのであれば何らかの打開策も用意されているのではないでしょうか?」
「うーん、ゲームっぽいシステムであるからこそ攻略法もあるってことか? でもただ困らせたいだけって可能性もあるだろ」
「そこは良心に期待しましょう」
「今の所は悪意しか感じねぇんだが」
「現状、私たちが活用できそうなのはこのスマートフォンぐらいです。先ほどスキルの話が出ましたが、このスキルに何か利用できるものはないでしょうか?」
「そのあたりは確認済みなんじゃないのか?」
「先ほどレベルがあがりましたので、取得可能スキルが増えているはずです」
「なるほど。それに俺は最初に取得できるスキルの確認すらまだできてないしな」
福良に言われるがまま設定し、マスターバンデッドなるジョブになってしまったがこれが何なのかまだよくわかっていなかった。
道の真ん中であまりのんびりもしていられないが、ここで確認して方針を決めておいた方がいいだろう。
「取得できるスキルは色々と増えてはいますが……現状を打開できる感じではありませんね」
「現状を打開となると……敵を先に見つける、遠距離攻撃防御、そもそも敵に見つからない、とかか」
「防御系スキルだときまぐれカウンターというのが増えてますね。ちょっと面白い仕様です。ジャストガードで攻撃を跳ね返す先がランダムになりますが、戦場の人数に応じて威力が変化します。三人で戦ってるとすれば、威力を3倍にして返します」
「それ、ジャストガードに成功しても自分が喰らうかもしれねぇってことか?」
「自分を除外してしまったら得なだけじゃないですか」
「いや、味方に跳ね返るかもなんだが……何にしろ不意打ち対策にはならないだろ」
「諒太くんのスキルはどうですか?」
「んーと、レベルあがってるな。お嬢が敵を倒したら俺もついでに上がるのか?」
「経験値はパーティ分割方式ですね」
「スキルは色々あるな……忍び足。これはまさに役に立つんじゃないか?」
索敵系スキルの対象外になるスキル、パーティ単位で使用可能。透明になるわけではないので目視では発見されてしまうが、それでも遠距離から勝手に探られるという状況は回避できそうだ。
「さすが山賊ですね。それでこっそりと旅人を襲ったりするんでしょうか?」
「人聞きわりいな。まあ襲うのもあるようだけど」
闇からの襲撃。こちらは索敵対象外になるのに加えて姿が見えにくくなり、音も出にくくなる。だが、効果時間は十秒で一度使用すると一分間は使えなくなるため普段から使い続けるものではなさそうだ。
「探る方はどうですか? 山賊なら襲う前に調べたりしそうなものですが」
「山賊の鼻ってのがあるな。一定以上の資産価値のある物の場所がわかる。装備も対象だから人の位置ならわかりそうだ。範囲は感覚ステータス参照だが、熟練度により拡大するので使い続ければ遠くまでわかりそうだな」
諒太の感覚値は12で、多めに振ってある。これで半径120メートルの動体感知が可能で、そこにさらに能力を追加できるようだ。
「過信はできないですが、人間の襲撃は警戒できそうですね。後は野営に役立つスキルがあればいいんですが」
「さすがにそんなに都合のいい能力ばかり……あるな。山賊王のアジト。どこかにあるアジトにつながる入り口を作れるって俄には信じがたいんだが」
どこにあるのかは定かではないが、そこに通じる入り口を作れる。入り口はパーティにしか使用できないし見えないが、一度発動して中に入ると全員が外出するまで入り口の移動はできない。
出入りの瞬間を警戒する必要はありそうだがスキル説明が本当なら野営の問題はほぼ解決したようなものだろう。
「さっそくそれらを取得してください」
諒太は、忍び足、山賊の鼻、山賊王のアジトを取得した。他のスキルはもっと安全な場所でじっくりと検討したほうがいいだろう。
さっそく山賊の鼻を使って周囲を確認する。感知範囲内に資産価値のある物は存在しないようだった。ちなみにパーティメンバーの所持アイテムは対象外のようだ。
「感知とかはスマホの地図を見りゃいいけどさ、スキルはどうやって使えばいいんだよ」
「スマホで選択して使えますけど、念じても使えますよ。念じる方に慣れておいたほうが後々便利かと」
「入り口を作るって……壁とか地面とかが対象か。そこら辺でいいか」
さすがに道の上に作ると後が面倒そうだ。少し危険ではあるが、諒太は道を外れて森に入った。道からは見えないところまで行き、地面に手を当て、半信半疑でスキルの発動を念じた。
「……なんかできたな。落とし戸みたいなのが……」
諒太は呆然と地面に付いている木製の扉を見つめていた。正方形の枠があり、そこにリング状の取っ手がついた片開きの扉がはめ込んである。
何か起こると覚悟はしていたが、それでも地面にいきなり扉が現れるのは驚きの現象だ。
「さっそく入ってみましょう」
「大丈夫なのか、これ?」
諒太が訝しく思っていると、福良が扉を開けた。中は階段になっていて底へと続いている。福良はすぐに階段を下りていった。
「いや、そこは俺が先に行くところだろうが」
あわてて福良に続いて中に入ると、扉は勝手に閉まった。
中は洞窟のようになっていて、階段は岩を掘って作ってあるようだ。岩壁にカンテラが付けられているので中は明るい。
下っていくと広い場所に出た。やはり洞窟のようだが家具などは一通り置いてあってアジトとしての体裁は整えてあるようだ。
「スキルでほいっとこれが出現しました。って言われてもなぁ……」
「これで休憩問題はどうにかなりましたね」
「どうにかはなったんだが……」
あまりにも都合が良すぎてどうにも釈然としない。だが諒太は、極楽天の豪運ならありえるのかもしれないと無理矢理納得することにした。




