許されぬ平安
私は52歳で仕事を退職した、所謂セミリタイアである
実は此処まで急いだのには他にも若干の理由がある。
12年前、前任の課長が48歳の若さでいきなり仕事中に突然倒れそのまま緊急入院した。
大学病院へ搬送されたのを聞いてお見舞いに行ったが家族以外の面会は許されなかった。
病名は膠原病だった。
その2か月後にはあっさり亡くなってしまった。人の一生はあっけないものだ。
人生は考えてる以上に短い。。
生きているうちにやりたい事はやっておいた方が良いと深く考えさせられた。
よくある事と片付けるには人の一生は無情である。
その人も80歳になる母親と二人で暮らしていた。母一人残して旅立たれた、独身だった。
・・・だから
これからは母の身の回りの手助けと自分がこれまで出来なかった絵にも嵌まろうと考えていたんだ。
・・・しかし環境はそれを許さなかった。
家にいる時間が長くなり逃げ場無しとはこの事か?
私が高校を卒業した当時今から30年ちょっと前の事だ、近所に新築ラッシュが起きた。
川向うの直線距離で200m程の所の山が削られて数件の家が建ち並ぶ住宅地となった。
そのうちの一軒に山本家があるのだが、そこには今、20歳そこそこになる兄弟がいる。
学生の頃から時折バイクを乗り回しているのは気にはなっていた。
私が退職した後
兄の方が高校卒業して目の前のガソリンスタンドに勤め始めたのだ。
そして突然、改造バイクで轟音を立て我が物顔で乗り回りだした。
連日約20分ほどだが夕方になると周囲をサーキット気分でグルグルと乗り回している。
いくら趣味とはいえ近隣に迷惑かけるのってどうなのだ?
なんどとなく警察を通して苦情をだし、結果的に
勤める支店を変更になったようだが昼間はことある事にスタンドに低い音を鳴り轟かせ通ってくる。
帰りにはスタッフの女の子をバイクで迎えに来ていた
格好つけたい年頃か?家の横に差し掛かると、ここぞとばかり爆音をあげてタンデムで通る。
家の窓から「馬鹿が!五月蠅すぎだろうが!殺すぞ!」
年甲斐もなくぶち切れて吐き捨てて叫んだこともあったが
あざ笑うかのように爆音にかき消され走り去る姿だけが残った。。。
黄緑色のケバケバしい色合いの高い背もたれの付いた改造バイクで
日曜日や平日休みの日はゲリラ的にこの周囲をサーキットにして乗り回す。
スタンドは頃合いのいいピットインへと戻っていった。
スタンドのスタッフも何も言わない、むしろ仲良さそうにしているのを確認した。
それが1年半程続いた後、兄の方は一般企業に就職したという話を聞いた。
その前後して弟が改造マフラーで吹かして甲高い
リズムを響かせ乗り回し始めた、気色悪い振動が辺り一面に響き渡る。
騒音被害を受けてる側からすれば害獣による非常事態である。
さすがに市内の別の支店勤務らしいが
頻繁にここのスタンドの整備工場にバイクの改造に来ている。
そして夕方は吹かし音もけたたましく連日、周囲を乗り回して家のガレージに帰って行く
時折、深夜のスタンドにアイドリングが響いているかと思うと
一人スタンドにやってきて事務所に入り浸っている。
安心できたものではない。
やがてこの周囲にバイクを乗り回す雰囲気が出来上がり
他所からも暴走族が深夜に集まり乗り回すルートとなった。
その間に、近所の散歩コースで挨拶を交わしていた一人暮らしのおばあさんが自殺した。
時報代わりの防災無線が五月蠅いと、私に愚痴をこぼしていたが意見があってよく世間話をした
亡くなる前はバイクの吹かし音で動悸が酷くなって苦しいと、どうしたら良いか尋ねられた。
「警察に言っても無駄でしたよ~」と
お互い愚痴の言い合いに同調して、昔と比較した話を良くしていた
が、、、今でもあの寂しそうに訴えかける目が忘れられない。
仕事辞めてから3年が過ぎた。
今後の勝負をかけていた時期だったがお蔭で何も手に付かなかった。
気晴らしにゲームやネット情報を貪る習慣に変じていた。
最初は時間の自由が効くからと再び絵筆を取っていたが
2年が過ぎたある日筆を折る事件が起きた、、、爆音と吹かし音が集中力を削り
イラついた精神状態に錯乱した私は目の前のものを部屋中にぶちまけた!
憎しみは憎悪へと変わっていた。
仕事を辞めストレスのない自由、解き放たれた意識・・・そんなものは夢だった。
獰猛な感情が内から這い出てくる、自分ではもうどうしようも出来ない。
管理職までしていた私が無様なものである。
もともと神経質で臆病な性格もあり、事を荒立てるのは避けたい。警察や市役所に
出向いたり県警のホームページから情報を流して対処をお願いしたが一向に改善されない。
改善しようとする意志が感じられないのが悔しかった。
(これ以上の訴えはその辺のクレーマーと一緒だな。。。)
やや諦めの焦燥感が募っていく。
会社では取引先や会社内の一定レベルある人達との関りがメインだった。
その中でも常識や基礎、価値観を共有できる人間関係が原則となる。
社員教育にしても5Sにヒヤリハット、報連相等々基礎から踏まえる。
全体的にレベルをアップさせて教育していくものだ。
工場からでる騒音対策も企業としては重要な仕事だ、
周辺地域への配慮なくして企業は成り立たないのは常識だ。
しかし集団が違えば全く価値観が異なる組織も生まれるもののようだ
資本主義に縛られない所では独自の価値観が生まれる
良くも悪くも他所の価値観は通じない、
そんなある日
警察への通報でこれまでの考えが一変する事がおきる。




