397 ガーターベルトフォンギースラーさまの貴重な花嫁修業 1
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少し短いですがお許しくださいッ
元正妃さまの花嫁修業と一口に言っても、学ぶべき事は山ほどあるらしい。
まずはサルワタ貴族の淑女の嗜みであるお茶の淹れ方からお勉強をはじめるのだ。
「どうしてわたしがこんな事を……」
むかし猟師小屋で貧乏生活をしていた頃のカサンドラやタンヌダルクちゃんも、領主館に通っては使用人の下女たちから最初に学んだのがこれである。
ハーブティーの知識を身に着けて、これを男性に振舞うのが女貴族に求められる最低限の能力だ。
「旦那さまのお役に立てる優れた妻であるには、まずお茶会が主催できる裁量が求められるわ。ねえダルク義姉さまっ」
「そうですよう。お茶を知らずして蛮族の女貴族にあらず。さあ、四の五の言わずに女は黙ってお茶を淹れるッ」
お貴族さまの社交界で自分たちの身を守るために必要な情報を集めるためにも、お茶会を主催する事は非常に多くある。
このサルワタの開拓史で晩餐会が開かれたのはただの一度だが、お茶会に関しては正妻カサンドラだけでなく、タンヌダルクちゃんやツンデレのマリアは頻繁に主催して、ゴルゴライでもご婦人間の情報収集に当たっていたぐらいだからね。
その事をラメエお嬢さまやタンヌダルクちゃんが触れたわけだけれども、
「まずはどの様な茶葉が存在しているかから、お勉強しましょうねえ。うふふ、最初は自分で淹れてみて、味の違いを勉強ですよう」
「みんなおんなじ刻んだ枯れ葉じゃないのかしら。わたしにはどれも似た様なものしか見えないけれど……あいたっ」
「何をやっているんですか蛮族の姫君は! 何れ旦那さまと義姉さんにも味見してもらうのだから、丁寧に取り扱うのですよ蛮族姫っ。返事は?!」
「は、はい。タンヌダルク義姉さまっ……」
何でわたしが野牛の一族如きに! なんて愚痴を零すガーターの不満をしっかりと聞いてしまった。
恨み節とともに、視線が俺の方にギリリと向けられるから困ったものである。
白をベースにした豪華なドレスは相変わらずだけれど、薄ピンクの前掛けをした姿はとても違和感タップリで、お嬢さまのメイドコスプレみたいでおかしい確信。
「この茶葉は何ですか?」
「オリーブですねガーターベルトフォンギースラーさま」
同じように前掛け姿の似非メイドみたいな恰好をしているアルフレッドが、ガーターに袖を掴まれて質問された。
少年の様な顔だちをしているけれど、そこは正妃陛下の側仕えをしていただけに朗々と応えてみせる。
「ではこの葉っぱは?」
「サフランですね。精神安定に効果がありますので、ヒステリックな気分の時に落ち着けます」
「こ、これは知らないんじゃないかしら?」
「ユーカリですね。毒素の強い精霊が体内に入った場合に煎じて飲みます。これはサラサー、こっちはセイジですね。あ、これはローズヒップですから、ガーターベルトフォンギースラーさまがいつもお飲みになっているものですよ」
「…………」
タンヌダルクちゃんは満面の笑みを浮かべて合格ですねえと俺を見やり、これなら義姉さんにお茶をお出ししても小言は言われませんよ彼女。などと小声で耳打ちしてくれた。
「……アルフレッド」
「はい正妃陛下、いえガーターベルトフォンギースラ奥さまっ」
「どうしてあなたがそんな事を知っているのかしら?」
「し、淑女の嗜みですから、あたいだってそれぐらいは……」
「あっアルフレッドの癖に生意気なんですけど?!」
「そんな、あたいが何をしたんですかっ」
雪の様な頬を悔しさで朱色に染めて、ガーターはプイとそっぽを向いた。
ティーポットにお湯を注ぐ仕草も駄目だしをされたので、この調子でしばらくタンヌダルクちゃんに説教され続けたんだけどね……
「で、実際のところガーターさまの様子はどんな感じだろうね奥さん」
「はい、ガーターさまはとてもわたしの前では頑張って花嫁修業をやっておりますよ」
別館にある居間での事。
ひとまずお茶の淹れ方を勉強していたガーターさまは、その裏で色々と料理や洗濯のやり方までを教え込まれていた。
キルン侯爵家という超良家のお嬢さま出身から王妃になったのだから、そんな事は使用人のやる事で自分でするなんて考えがそもそもなかったのだろう。
けれどもハーレム大家族のルールは、すなわち大正義カサンドラの考える理想の家族計画だ。
「わたしたち妻の務めは、旦那さまに気持ちよく過ごしていただくためにご奉仕する事ですからね。お料理を手ずから作ったり、お召し物を着て頂ける事ができれば、それだけでもう妻は幸せになるべきです」
ニッコリとした表情にキッパリとした口調で大正義奥さんは宣言した。
すると、リビングルームにティーセットの乗ったトレーとそれを押すガーターさまが現れた。横にはアルフレッドも付き添っていて、何か仕出かさないかとヤキモキしながら観察している。
それを少し離れて監督しているのが、タンヌダルクちゃんとラメエお嬢さまである。
OJTと言うのだろうか、ガーターさまはタンヌダルクちゃんが、アルフレッドはラメエお嬢さまが側について現場指導をやっている感じの様だ。
会社の先輩が後輩に直接仕事を与えて、実際にやってもらいながら指導するスタイルそのものだが、そつなくこなしている様なのはアルフレッドの方だ。
ガーターさまはと言うと、
「うわあああっ」
「ガーターさまが何もない絨毯の上でトレーをひっくり返しそうに!」
「何をやっているんですかあ蛮族姫ッ。誰かモップとバケツを持ってきてくださいよう!」
盛大にトレーをひっくり返したガーターさまは、お湯と茶葉を今にまき散らしてタンヌダルクちゃんの逆鱗に触れた様だった。
「落ち着いてやればできますよ、ガーターさま。シューターさんは心お優しい方なので時間は気になさいません。そうですね旦那さま?」
「う、うン……」
「お湯を沸かすところからやり直しましょう。では最初から」
ソファに座って微笑を浮かべた大正義カサンドラである。
純白の普段着ドレスを水浸しにして胸元の肌を薄っすら透けさせていた元正妃は、引きつった氷の微笑で返事をした。
かつて肝を冷やす様な氷の微笑だと感じたものだが、今見れば溶けかけの小さな氷も同然だ。
元正妃は何かの弱みを握られている。元正妃は大正義に逆らう事はできない。
「はいカサンドラお姉さまっ。ただちに準備しますね!」




