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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第11章 明るい宮廷工作
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376 アレクサンドロシアグラード 2

 ッジャジャマくんを捜索するために、完全武装の使用人たちを引きつれたタンヌダルクちゃんの姿があった。

 使用人のみなさんはお鍋を頭から被ったり鍋蓋を盾に、おたまを武器にとチグハグな格好ではあったけれど、真剣そのものの表情だ。

 自分で口にすると死ぬほど恥ずかしい気分になるけれど、ここは男子禁制のいわば後宮的な位置づけであるから、何人たりとも許可のない男子の侵入は許されないというわけである。


「侵入した不埒者は蛮族の猿人間ですよう!」

「「「はい、タンヌダルク奥さまっ」」」

「発見したものには銀貨一枚のボーナス、抵抗する可能性があります。お尻を触られたり抱き着かれたりした場合は遠慮なく報告する様にっ。いいですね、ただちにわたしの義姉妹か兵士に通報して、お城の平和を取り戻しましょう!!」

「「「了解です、タンヌダルク奥さま!!」」」


 さすが野牛の族長によって軍事訓練を受けていたダンヌダルクちゃんである。

 テキパキと配下の使用人に指示を飛ばしながら、ズレたお鍋の兜を調整してあげたり、ボーナスでやる気をだされたりと差配を振るいながら号令直下、家宅捜索を開始したのである。


 そんな様子を見やって。

 俺の隣で大変満足そうな顔をしていた大正義カサンドラの手前、俺はあまり大きな声で止める事ができなかった。

 家中のみなさんは真剣そのものの表情をしていたけれども、セレスタ騎士として官吏の出身であった男装の麗人までもノリノリなのは解せない。


「いくら何でもやり過ぎなんじゃないですかねえ。奥さん……」


 そんな俺の疑問をぶつけるべく、カサンドラに聞こえない様に男装の麗人を捕まえて耳打ちをすると、


「とんでもございませんご主人さま。この城は落成間もないわれらサルワタ貴族の本拠地ですよ、であるならばこう易々と侵入者を許したとあっては、今後の警備体制に問題を生じます。どうやって猿人間がこの警備体制を突破して別館の内部に侵入したのか、徹底的に改める必要があります」

「……徹底的に改めるって、言っても侵入できる場所は一か所しかないじゃないか」

「だからこそ問題があると自分は考えております」


 この城の本館と別館とは一本の渡し廊下によって繋がれている。

 石造りの堅牢な回廊はこの城へ登城しようと思った場合、必ずその場所を潜り抜けなければ本館にたどり着く事ができない設計になっている。

 これは俺が大工の棟梁に対して口を挟んでお願いした事だから間違いない。


「回廊を通過して別館に入る以外のルートは、まずあり得ないはずだけれど……」

「いいえ、大工の親方に設計図を確認させてもらったところ、渡し廊下の直下には外部には見えない様に秘密の抜け口が用意されている事がわかりました」

「マジで?!」


 俺たちが今いる別館の防衛上の問題点は、唯一この渡し廊下の回廊しか出入口が存在していない事だ。

 今でこそハーレム大家族の生活空間として、家族のひとりひとりに部屋が与えられるプライベート空間として利用されているけれども。

 本来の目的はあくまでもゴルゴライにおける迎賓館的な位置づけで、訪問者の客室空間として利用される事になっていたのだ。


 してみると、平時は来賓が安易に城内外の人間と連絡を取りにくい様な構造になっているわけだ。

 あえてそういう設計になっていたはずなのだが、戦時にここへ立て籠もる様な事になった場合(まあそうなったらもうサルワタはお終いなんだけどね)は、秘密の脱出口として渡し廊下の下に隠されている隠し通路で、脱出経路に繋がっているらしいのだ。


「この様な秘密の脱出経路は、この城のあらゆる場所に用意されていますご主人さま」

「知らなかったそんなの……」

「はい。この事を存じ上げておりますのは不詳この自分を除くと養女さま、ニシカさん、それからエルパコ奥さまの三人だけであります。実は今もこの秘密経路の施工にあたるため、大工の親方以下少数の人間で細々と作業を続けているところです」


 つまり俺も含めると家族でそれを知っているのは五人だけという事になるんだな。

 そうだったのか。

 いや、王侯貴族の住まうお城には隠し通路があるなんて事は歴史的書物や物語の中で見た事があった気がする。

 サルワタの様な辺境の最果てにある領地の城である場合は、いったここから何処へ逃げるんだという話にもなるが、考えてみれば野牛の里という方法もあるのかも知れない。


「この事実は家族の内でも最低限の人間だけが知りえる情報でございますので、当然アレクサンドロシアさまにもお伝えしておりません」

「まさかッジャジャマくんがその秘密の経路を知っていたなんて事はないだろうな……」

「昨夜、渡し廊下の詰所で警備についていたのはケイシータチバックさんです」

「彼女なら不寝番をサボって寝ていましたという事はありえないだろう。じゃあどうやってッジャジャマくんは別館に侵入したって言うんだ?!」


 まさか本当に秘密の脱出経路である回廊直下の通路の事を知っていたのか。

 知っていたとすればどこで情報が漏れたのかも大問題だし、難しい顔をして男装の麗人が柳眉を寄せているのも納得できるというものである。


「ご安心くださいご主人さま、秘密経路がッジャジャマ卿にバレたという可能性は今のところ低いものだと自分は考えています。秘密経路の出口は、ちょうどブリトリーさまの育児室に繋がる様に設計されておりますので、自動的にブリトリーさまの世話をしている使用人たちに発見される事になりますので」


 だからこそ余計に問題があります。と小声でベローチュが言うのだった。

 これ以外の経路から侵入を許したという場合、お城の警備体制に死角が存在した事になるらしい。

 まさか別館の城壁に張り付いて昇って来たのか、回廊の屋根を伝って侵入してきたのか。


「もしかするとッジャジャマくんには、忍者の才能があるのかも知れないね」

「忍者ですか。それはいったい何者でしょうかシューターさん?」


 ふと俺が声に出して漏らした言葉に、振り返ったカサンドラが質問をして来たのである。

 何と説明していいのかわからなかったので、俺は適当に返事をする。


「ええとそうだな。忍者というのは剣術や体術に秀でていて、ある種の魔法めいたものを使う事ができた。そして医療技術にも精通していて、怪我や病気の適切な対処も可能だ。時には全裸で首を刎ねる芸当まで持ち合わせていたりする、らしいよ」


 くのいちとか何だとか説明をはじめると先が長くなってしまうので、こんなものでいいだろう。

 実際の忍者は特殊部隊というか諜報員というか、破壊工作や情報収集を担当するコマンド部隊みたいなイメージをしながら説明をしたつもりだ。

 だからうちの家族で言えば、潜入工作に当たっていたニシカさんや今まさに王都中央へ密行中のカラメルネーゼさんがこれに該当するって事かな。

 などと思っていると、


「つまり旦那さまはその忍者だったのですね?」

「えっ?」

「えっ?」


 不思議そうな顔から納得の表情に変化した大正義カサンドラだ。

 

「ですから、シューターさんは全裸を貴ぶ部族の末裔ですからこれは全裸です」

「うん?」

「剣術や体術についても、旦那さまが辺境に並ぶ者無き無双者である事は、家族の誰もが知っている事ですし」

「いや魔法も癒しも使えないからさ……」

「シューターさんはいつもわたしたち妻の心を癒してくださいますよ。それに、全裸になれば絶対に負けないという魔法がかかっていると、いつもダルクちゃんと話していたところです」


 それは魔法じゃなくて呪いか何かの類じゃないですかねえ……

 妙な勘違いをしたまま得心顔をしているカサンドラの陰で、しわくちゃの顔をして下を向いている男装の麗人の姿が視界の端に写り込んだ。

 こいつ、笑うのを必死で我慢してやがる……

 だんだんと腹が立ってきた俺は、腹いせのつもりでベローチュの尻を引っぱたいてやった。


「ひゃん?!」


 黄色い悲鳴を飛ばして男装の麗人が飛び上がると、ばるんぼよんと豊かな胸が激しく揺れた。

 かっ、かわいい声を出したって駄目なんだからねッ。おっぱい揺らして誤魔化そうったって駄目なんだよ。


「それじゃあカサンドラ、俺たちはこれから仕事にお出かけするのであとはよろしく頼む」

「わかりました。何かッジャジャマさんの事がわかりましたら、ただちにエルパコちゃんに伝言をお願いします」


     ◆


「さてその方ら、現在のサルワタの村における行政区分を整理しておこう」


 本館の会議室に設けられたテーブルの前に、大きな村の地図が広げられていた。

 この地図の作成者は、かつて村の冒険者ギルドで支部長を務めていた美中年カムラである。

 俺たちをブルカとの泥沼の戦争に引きずり込んだ原因のひとりだが、こういうカタチで彼の行っていた村内外の情報収集が俺たちの役に立っているというのは、何とも皮肉なものだ。


「村の中心地はかつて村長屋敷のあった場所や現在の村長屋敷、それから倉庫群や冒険者ギルドの施設などが存在している場所。周辺集落はこことここ、それからこちらの外れにもある。全部で六ケ所の枝郷が存在している事になるが、村の領土という意味ではクワズとの領境から湖畔一帯にかけて、それから森全てが含まれるという事になるがの」


 現実にはその中にわらわたちの居城と、野牛の居留地も含まれているのが実情だ。

 テーブルを囲む様に着席していた俺たちを見回しながら、気難しい顔をしたアレクサンドロシアちゃんが大仰にそう述べた。

 会議室には俺とマリアツンデレジアの他に、知恵袋ようじょのッヨイさまにニシカさん、男装の麗人という顔ぶれだ。

 それから騎士修道会を代表してイサという騎士隊を率いている若い修道騎士も参加していた。イサさんは確か、ハーナディンくんの元部下で同郷の人間だったはずだ。


「現在、わらわたちの居城には難民を受け入れるための市街地が整備されつつある。本格的な防護設備として城壁も存在しておるし、これは新たな領地としてサルワタから行政区分を切り離してはどうかと、ッヨイハディより意見具申があったのだ」


 どう思う。お兄ちゃん?

 そんな風に隣に座った領主奥さんに意見を求められたものだから、俺は身を乗り出して地図の全体を改めて確認した。

 サルワタの村中央からアレクサンドロシアちゃんの居城までは、距離にしておおよそ半刻あまりとそれほど離れているわけではない。

 この城がまだ建設を開始したばかりの晩春頃には、お弁当を持って建設現場まで毎日往復していたのもいい思い出だ。


「サルワタの開拓村は、王国本土から比べれば想像を絶する辺ぴな片田舎だお兄ちゃん。村を統治するための官吏がそもそもおらんので、これまではわらわ独りがどうにかやりくりをしておった」


 ここには官僚団となる様な役人どもも存在せず、このまま広大な村をギムルひとりに預けるとなれば、行政処理をする役人がまるで存在しないという事になるのだ。

 世代交代をしたばかりのギムルを助けるメンバーと言えば、同性代の若い村の幹部と、あとはジンターネンさんだ。

 あのおばさんは倉庫の出納係は勤められても、官吏となって領地経営をサポートする事はちょっとできないだろう。

 その理屈はよくわかる。


「しかも現状の行政区分のままだった場合、この城とサルワタの村の関係がややこしいものになるのは間違いないな。サルワタ領邦全体の統治者としてアレクサンドロシアちゃんがこの城に居を構えていて、そこはサルワタの村の中にある。一方のギムルさんはサルワタ村長でありながら、野牛の居留地だけでなく村の領内に新しい街が存在しているというややこしい関係だ」


 俺が意見を口にしたところ、ようじょと男装の麗人が口々に私見を述べてくれる。


「そもそも税金の扱いはどの様にするのかと言う問題もあるのですどれぇ」

「ご主人さま、野牛の居留地については今回新しい村という位置づけで切り離して確定申告を実施しましたけれど、サルワタは辺境の最果てにある村なので、現在のまま村ひとつを行政区分とした場合はサルワタの森全部が当該区域に含まれててしまうのです」

「いくらなんでも村の領地が広すぎる事になるのですどれぇ。ギムルにいさまの負担を考えれば、この際分割して新しい行政割りを考えるのが、おりこうさんのする事なのです!」


 そうですねッヨイさまの言う通りです。

 俺は断固たる決意でペチンとテーブルを叩いたようじょの頭を、よしよしして差し上げた。

 すると「エヘヘ」と嬉しそうな顔をしたッヨイさまが、尚も弁舌を振るうではないか。


「具体的には既存のサルワタの開拓村のうち、中心地から東にかけての耕作地と森の外縁、クワズの境界にさしかかるまでを新しいサルワタの村とするのです。野牛の領地については居留地より北の一帯をミノタウロスの村とします。このお城から湖一帯と西に広がる森については、新しい街の領地として都市計画を実施する事を考えているのです!」

「おいちびっ子、新しい街には当然新しい名前が必要だ。適当な思い付きはいいけれどよ、名前はどうすんだ。ん?」

「そっそこまでは考えていなかったのです……」


 身長の足りないようじょは椅子の上に乗って、指揮棒片手に地図のあちこちを指し示した。

 けれども今俺たちのいる城の周辺をグルグルとやって説明したところで、大きすぎる豊かな胸を押し上げる様に腕組みしていたニシカさんが、沈黙を破ったのである。

 城とそのふもとに存在する街の名称か。

 それについてはマリアツンデレジアも思うところがあったらしく、領主奥さんの反対側に座っていた彼女が思案気にこんな事を言う。


「お城の名前は大事ですのよ。あまねくアレクサンドロシア卿の治世が王国全土に響き渡った時、高貴な身の上から下々の者にまでお城の勇壮さとともに名前が伝わる事が肝要ですの。優美でかつ壮大に……芸術的な名前でなければなりませんの」

「名前などどうでもよい! いっそ風雲お兄ちゃん城とでも付けておけばよいだろう」

「それならいっそ風雲全裸城にいたしましょう!」


 領主奥さんの絶望的なネーミングセンスにズッコケそうになるが、ツンデレのマリアちゃんが閃きましたとばかり拳を掌で叩いておかしなことを口走るではないか。

 恥ずかしいからやめなさい!

 王国全土に風雲全裸城なんて冗談じゃない、これは早く何か気の利いた提案をしなければ、さすがご主人さまですとか口走っている男装の麗人が音頭を取って決定してしまうではないか。

 この場にハイとイエスしか口にしない大正義カサンドラやダルクちゃん、けもみみが出席していなかった事は幸甚というものだろうか……


「い、いやこの城の支配者は領主奥さんなのだから、アレクサンドロシアちゃんの名前を冠した名称にするのがいいだろう。ブルカというのはふるい言葉の意味で砦や街を意味するものだと聞いた事があった。他にもそれに該当する様なふるい言葉はないのかな。誰か知っている人間はいるかなっ?」


 あわてて俺がそう口走ると、それでしたらと挙手をしたのが修道騎士イサである。


「アレクサンドロシアグラード、というのはどうでしょう。文字通りアレクサンドロシアさまの城というニュアンスでございます。風雲全裸城、すなわち全裸の街というのも捨てがたい名案ではあるのですが、」


 全然名案じゃねぇよ迷案だよ!


「アレクサンドロシアさまの偉業を称えたその名を後世に残す事もまた、歴史の生き証人である我らの務めと愚考する次第です。いかがですか全裸卿?」

「な、なかなか素晴らしい提案だ。いいと思います!」


 いいね! を俺は心の中で連発して、手を叩いて同意を誘う事にする。

 とりあえず男装の麗人はすかさずイエスマンぶりを発揮してパチパチと叩きだし、発言者のイサもそれに加わった。

 ニシカさんはこのやり取りをニヤニヤしながら傍観していたが無視を込め込んだ。


「そんな恥ずかしい名前を後世に残してたまるか! お兄ちゃん、なあお兄ちゃん。風雲お兄ちゃん城にしよう。な?」

「いいえなりませんのよ、風雲全裸城こそ芸術的ですのっ!」


 ッヨイさまッヨイさま、議事録には勝手にアレクサンドロシアグラードに決定しましたと記入しておいてください。

 わかりましたのですどれぇ!

 そんなアイコンタクトだけのやり取りを密かにしておきながら、次の議題に素早く移行する事にした。


 この日の午前中に決定した議題はこれらの通り。

 現状のサルワタの開拓村は、旧開拓村の生活圏内と野牛の居留地、そして湖畔周辺を支配する新たな領地区分に分割するのである。

 またこの春の着工に向けて、湖畔のいくつかに難民を中核とした移民の集落を建設するというものだ。


 城のすぐ側に広がっている湖は琵琶湖ほどの巨大さはないにしても、冬の霧のかかった朝には対岸が見えない程度に大きなものである。

 地元住民である俺たちはただ湖と呼んでいたけれど、これも便宜上何か名前を付けておく必要があるという事になったのだが……


「ではせめてお兄ちゃん湖という名称にしようではないか。これは領主命令である!」


 やめろアレクサンドロシアちゃんッ。

 きみはいつから聞き分けの無い独裁者奥さんに成り果てたんだ?!

 そこ、ッヨイさまも議事録に書き加えない! ニシカさんや男装の麗人も俯いて震えている場合じゃないんだからねっ。


 俺の抗議もむなしく、湖の名前はレイク・シューターと呼ばれるようになった。

 とんだ藪蛇である……

グラードとはスラブ語で都市あるいは街、城を指す言葉である。

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