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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第10章 冬籠りの辺境生活
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閑話 ペルソナ・ノン・グラータ 序

今回の章末閑話は、カラメルネーゼさん視点でお送りします!

序は短いですがお付き合いくださればorz


 ゴルゴライの市街地に夕刻を知らせる鐘が鳴る頃。

 政庁を退勤する主人は、四日に一度は決まってわたくしの商館へ足を運ぶのですわ。

 もちろんふたりきりの夫婦の愛を確かめるべく来られる事もあるし、お役目の疲れからから癒しを求めてこられる事もあります。

 妻たる者にとってこれほど必要とされているのを実感できる事はありませんわね。


 おや、そうこうしている内にまもなく鐘の鳴る時間ではありませんか。

 今日もかいがいしくお酒の用意をして主人の帰りを待つわたくし。まこと良妻の鑑ですわね?

 おーっほっほっほ!


「高笑いしているとこ申し訳ないんですけどね、命令書のサインを早いところ済ませちゃくれませんかカラメル姐さん」


 香草の豊かな香りを楽しみながらティーカップをつまんで口元に運んだところ、無粋な猿人間がとても無礼な態度を示したではありませんか。

 わたくしはたまらず眉間にしわを寄せながら、ッボロリさんに視線を送ったのです。


「サルワタに帰還する要員の足を確保する件でしたわね。足りていないのは家族が移動するための馬車、という事でしたけれども」

「そうですよカラメル姐さん。野牛の里から徴発していたあの馬車は、秋に徴税官で出かけた際に返却してしまったじゃないですか。おかげでこのままじゃ寒空の中を裸の馬で移送するハメになるとかで」

「あかちゃんがお風邪を引いてしまいますわね」


 両手を暖炉にかざしながら開いたり閉じたり、温めていたッボロリさんの背中に声をかけると「そうなんですよ」とこちらも向かずに返事を飛ばしてきます。

 主筋の夫人に対してこの無礼! 何という態度ですか!


「俺が弟に聞いたところ、露天の荷馬車や幌付きならばゴルゴライでも徴発できるそうですよ」

「けれども北に向かうにつれて寒さも雪も厳しくなると聞いておりますわ。ただちに手配に動くようにいたします」


 手元に置かれた命令書は、主人が手ずから記載したと思われる文章が書かれておりました。

 必要となるのは箱馬車の数が三両、幌馬車が六両、荷馬車については数があればあるほどいいとありました。


「盟主連合軍の移動式司令部として使われていた六頭引きの豪華な馬車ならば、わたくしたち妻の全員とはいかないまでも大多数を移送する事は可能ですわ。残りの家族と郎党を運ぶのに必要な箱馬車の手配は、わたくしが近郊の街へ足を運んで手配いたします」

「近郊の街って、セレスタやリンドルですか」

「そうですわね。商いのついでに出かける用事がありますので、セレスタからオコネイルさんが徴用している馬車を融通してもらう事にいたしますわ」


 手文庫を引き寄せてインクと羽根ペンを用意しながら、わたくしはようやくこちらに振り返ったッボロリさんに向けて了承の旨を伝えました。

 サインをすべきばしょには、すでに主人のもの以外にカサンドラさんタンヌダルクさん、それからモエキーさんのものがありました。

 カサンドラさんはドロシアさんの代理人、タンヌダルクさんは本日の警備当番者、モエキーさんは家中の主計官奴隷ですので、補給担当責任者として、というところですわね?


 わたくしが最後の署名をしたところで、この命令書は効力を発揮いたします。


「この書類を持って政庁から用人を集めてきなさいな。幌馬車と荷馬車についてはあなたに一任いたしますわ。必要とされる経費はすべて御用商人のカレキーウォールズ商会に請求を回す様、今日中に手配なさいまし」

「へい。ああそれとカラメル姐さん……」

「な、何ですかしら?」


 やっと貴人に対する礼らしきものをしてみせた猿人間に、わたしは訝しんだ。

 おずおずとわたくしの顔を覗き込んでくるッボロリさんは、とても言いにくそうにしてこちらを見ているのです。


「シューターさんがもうすぐお見えになるから、気合入っているのはわかるんですがね」

「そそそ、そんな事はありませんわ!」

「俺としては、ちょっとお化粧がケバすぎるんじゃないかなって思うわけです。それじゃあ酒場の高級酌婦にしか見えませんや」


 やかましいですわ!


 わたくしはカチンときたものだから、仕事机に散乱していた書き損じの紙を触手で掴んで猿人間に投げつけてやりましたわっ。

 主人はこういう妖艶な大人の女性姿をわたくしに求めておりますのよ。

 わたくしだって齢も齢だから、こういう事はあまり上品とは言えないから好きではありませんのに……


 尻尾を巻いて逃げる肥えたエリマキトカゲの様に、ッボロリさんは退散していきました。

 ちょうどその頃、旧市街の教会堂が夕刻を知らせる鐘を鳴らす音が、窓の外から聞こえてくるではありませんか。

 主人は今頃いそいそと、政庁たる領主館で帰り支度をしている頃合いでしょうか。

 わたくしは姿見の前まで移動すると、居住まいを改めてくるりとまわって最終確認をするのでした。


 蛸足の艶も上々ですわね。

 これで主人を絡めとって、ああしてこうしてはあン、駄目ですわ婿殿ッ……

 おっと、わたくしとした事がはしたない真似を。ごめんあそばせ。

 おーっほっほっほ!




ペルソナ・ノン・グラータは「好ましからざる人物」という意味らしいですね。

外交用語のひとつだとか。

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