表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第10章 冬籠りの辺境生活
482/575

359 偽りの手紙


 親愛なるわたしの坊や。


 あなたは今、孫と祖父という立場で争う戦の行く末が今後どうなるのか、苦しんでいる事だと思います。

 これ以上一族の血を分けた悲しい戦を続けてはなりません。

 あなたのお爺さまをお助けするためにも、そして坊や自身を助けるためにもリンドル子爵家を(わたくし)し、御台を名乗り国王陛下に反旗を翻したマリアツンデレジアを預かりました。

 今こそ盟主連合軍の結束を切り崩す好機です。

 わたしの坊やが無罪潔白である事は母が重々承知しておりますが、そのために坊やが指定された場所には単身で必ず来て下さる必要があります。

 誰にも知られてはなりません。


 そこから王都に上り、リンドルと一族の絆を取り返しましょう。

 あなたのただひとりの母エミールより。


     ◆


「馬鹿げている。本当に僕の事を心配しているのなら、もっと他にやりようがあるはずだ……」


 少年が手に持った羊皮紙の信書には、リンドル子爵家の紋章が蝋封で施されていた。

 びっしりと書き込まれた文字。癖のない流麗なその文字を眺めたところで、これが実母の記したものか、工作員に偽造されたものなのかまですぐに判別できなかった。

 けれど、この手紙がリンドル前子爵第三夫人エミールの手のものかどうかはともかく、指輪印証を持っているのは五人の親族だけであるのだ。

 彼と第一夫人ダアヌ、そしてその兄オゲイン。それにマリアツンデレジアとエミール夫人だ。


 だが御台マリアツンデレジアが拉致されたのであれば指輪印証を手に入れる事はできる。

 あるいは事実エミール夫人のものが使われたのであれば、事前に信書を用意したり工作員が文章を偽装発行する事もできたかも知れない。


 つまり自分ひとりじゃ何もわからないのと同じだと結論に達したシェーン少年は、大好きな義母上さまを助けるためにどうしていいのか助けを求める事にした。

 だが視界に飛び込んで来たのは、まるで役に立たない官憲のホイヤである。


「ケイシー、ケイシータチバックはいないか?!」

「こちらに控えております」

「ケイシー来てくれ。誰もこの部屋には入れず、ふたりきりで話がしたい。内密にだ!」

「たまわりました」


 聞きましたね、みなさんは子爵さまの部屋から退出なさいませ。

 頼れる巨人のメイドさんが部屋の隅から一歩前進すると、他の使用人たちが宿屋のリビングルームからゾロゾロと退出していく。

 ホイヤだけは言葉が通じない人種のため、空気を読まず居残っていた。

 けれども少年がアゴをしゃくって追い出せとケイシータチバックに命じたところ、片腕でつまみ上げて放り出されるのである。


「な、何をなさりますか。本官は子爵さまの忠実なしもぶべっ……ホイヤアアア!」


 無能な働き者を極めたホイヤを追い出したところで、改めて手紙の中身を読み返し、戻って来たケイシータチバックに少年は手紙を差し出したのである。


「ホイヤが宿屋の主人に預かったと、これを僕に差し出してきた。義母さまを拉致したと文面には書かれているが……」

「拝見させていただきます」


 深々と一礼して手紙を受け取ったケイシータチバックさんは、素早く内容に眼を落して中身を確認した。

 内容は先の通りだが、問題はマリアツンデレジアを拉致したという一文に差しかかったところで、巨人のメイドはいち度視線を外し、少年に向けた。


「お母さんが筆を執った体裁を取っているが、ケイシーきみはどう思う?」

「まずその可能性はありません。以前、子爵さまの元に同じ様な手紙が持ち込まれた事があったと思いますけれど」

「時期が来れば盟主連合軍の背後を突けと指示をしたためた、お母さんの手紙だな」

「はい。けれどもあの時とは違い、マイ・ヌードからお知らせいただいた内容では子爵さまご本人を拉致するのが今回の目的だったはず」


 だからその事を受けてラメエお嬢さまやマリアツンデレジアは少年がしばらく独りにならない様、外出を控える様にとケイシータチバックを片時も離れず側に置こうと考えたのだ。


「そうであるならば、これは工作員の手のものでしょう。エミール奥さまが書かれた体裁を取っているのは、子爵さまのお心の隙を付いて混乱させるためのものです。指輪印証が使われておりますが、これ自体も御台さまのものを使えばすぐに用意できますからね」

「た、確かにきみの推理する通りだ! 僕はどうしたらいい!!」

「この事は、ご家中のどなたかにお話しなさりましたか?」


 いいや、手紙を届けたホイヤも内容は確認していないし、数多くいるお義母さまにも誰ひとり話してはいないと少年は返事をした。


「事が外部に漏れる事があれば、義母さまの身が危険に晒されるかも知れない。僕はこの手紙の指示を待って単身で義母さまのところへ行くべきだろうか」

「わざわざ安全な場所を離れて指定された場所に向かうのは、知恵の足らない者がやる事です。領内の警備責任を担任されておりますのはラメエ奥さまですから、まずはその事情を説明して協力を仰ぐのが得策でしょう」

「ま、待ってくれ!」


 ラメエお嬢さまは現在、留守にしている他の奥さんたちの代わりに留守居役の警備責任者のポジションに就いていた。

 彼女をおませ少女と侮るつもりは少年にも無いが、


「彼女はこの夏に初陣を飾ったばかりの騎士爵だし、任務に忠実な性格だ。この事は必ずアレクサンドロシア卿にも報告されるだろうし、そうなれば義母さまの安全が保障されない可能性があるじゃないか!?」

「でしたらば、まずカサンドラ奥さまにご相談なさりませ。ご家中の差配一切を取り仕切っておられますし、マイ・ヌードの信頼が最も厚い筆頭夫人でございます。また側には盟主連合軍の知恵袋である養女の君もおられます」


 なるほど。何かあればいつでも相談を持ちかけて下さいと少年は大正義カサンドラに言われていたらしいからね。

 それにッヨイさまならばより確実な知恵を授けてくれるだろう。


「事を内密に進めるのでしたら、是非そうなさりませ」

「わ、わかった。ただちにカサンドラお義母さまをお呼びして、お知恵をお借りする事にする。ホイ……いや、他の使用人に命じよう。ただちに指示を出せ!」

「イエス・マイ・ロード!」


 まるでメイド服の似合わない巨人のお姉さんが優雅に貴人の礼をしてみせると、即座に使いを飛ばす事になる。

 迎賓館で盟主連合軍のご婦人方とお茶会をやっていたカサンドラの元に連絡が届くと、ッヨイさまを伴ってすぐにも駆けつけてくれたのだ。


     ◆


「これはまず偽物のお手紙なのです!」

「や、やっぱりお母さんからの手紙ではなかったのか?!」

「そうなのです。羊皮紙に書かれたインクを確認すると、まだ染み込んで新しい状態なのがよくわかるのです。お手紙のインクは時間がたつと滲んで、色も変色するし馴染んで広がるからなのです」


 手紙を確認して開口一番に賢くもようじょはそう分析した。


「インクの匂いも真新しいので、ここ一両日中に書かれたものなのです」

「ではッヨイちゃん。これはマリアツンデレジアさまを拉致したツジンというお坊さまの工作員がしたためたものなのですね?」

「そうなのです。紙を触ってもインクを乾かす砂を使った形跡もないので、たぶんどこかのアジトでいそいで書き書きしたものなのです」


 そんなようじょの推理を聞いたところで、シェーン少年も自分の持つ情報を開示した。


「以前、義母さま(マリアツンデレジアの事)もお母さん(エミール夫人の事)のその後の消息を調べた事があった。お母さんはブルカの街に退去しているはずで、元は騎士と言っても文官になったお母さんがゴルゴライ戦線に出てきているなんてちょっと考えられない」

「でしたら、ますますッヨイちゃんの言う通りこの文は偽りの手紙という事になりますね。親子の情をこの様な政治の工作に悪用する事は許せません!」


 大正義カサンドラはそう怒って、消し炭の様に憔悴しきったシェーン少年を抱きしめた。

 齢はそれほど離れてないが、弱った義息子を見て母性本能が働いたのかも知れない。


「必ずマリアツンデレジアさまをお助けして、幸せになりましょうね」

「うん、大正義お義母さまっ……」


 宿屋の主に手紙が誰から渡されたのかを確認すれば、さらに詳細が知れた。

 娼婦の格好をした女では、まずもって諸侯の宿舎に指定された立派な宿屋に出入りする事はできないので、何やら傭兵の様な格好をした人間が、御台さまの使いだと言ってこれを持ち込んだらしい。


「そのう、傭兵さんなら、どこのご家中でも兵隊不足で雇い入れていますからねえ」

「ドロシアねえさまがその事を知れば、事情聴取と言って全員の傭兵を改めると言い出すかもしれないのです。けれど、そんな事は事実上不可能なのです……」

「ではどうすればいいんだ、義母さまの身の危険がかかっているんだぞ!」

「わかっているのです。御台さまが向かわれたのはゴルゴライの船着き場にあるリンドル公商館だよね? ラメエさんにお願いして、その周辺で非常線を張る様にお願いするのです」


 この事は女領主に報告が上がる前に事態鎮静化をしなければいけない。

 日数が経過すれば隠しておく事そのものが無意味で、情報の混乱を招く事になるからな。

 そう判断したッヨイさまは、ラメエお嬢さまに付けられた手勢だけでまず周辺の検問と非常線を貼る様に指示を飛ばしつつ、自分も陣頭指揮を取る事にした。

 この報告はカサンドラから、時機を見てアレクサンドロシアちゃんに直接してもらう事にする。


「身重のドロシアねえさまが、これをきっかけに産気づいたら大変な事になるょ……」

「そのう、ゴブリンの血を引く一族は一般的に妊娠期間が短いし、早産も珍しくないですからね」


 癇癪を気遣ってか、身重の体を気遣ってか。

 俺がその場にいない事をこれほど焦り後悔した事は無かった。

 バジリスクのあかちゃんを使ってようじょがマリアツンデレジアちゃんの消息を追跡し始めたその頃。

 深夜遅くにけもみみがゴルゴライへと到着し、ブルカ工作員から次の接触が行われたのである。


 ご丁寧にエミール夫人が筆を執った体裁を維持し、シェーン少年が単身で来る場所を指定してきたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ