270 ゴルゴライ街道口の戦い 6
騎士修道会の修道騎士たちは、このファンタジー世界で普遍的に愛用されている刃広の長剣を片手に、もう片方の手では魔法を射撃しながらの戦闘スタイルで騎馬突撃を敢行していた。
騎士隊という兵力単位を基本としていて、その下に分隊があり、この分隊が作戦行動の最小単位となっているんだろう。
「マリの場所までもう少しだ。全員で前方に魔法投射を集中して、敵の歩兵を切り崩してくれ! 連中は歩兵槍で槍衾を形成しているッ」
「了解ですシューターさん。お前たち聞いたな? 全裸守護聖人さまを阻む敵を排除するんだ!」
「「「応ッ」」」
そのうちのひとつの分隊が、俺のために護衛に当たってくれていた。
俺自身は戦闘中に一度は手放した天秤棒をけもみみから受け取って、改めてこれを武器の主軸にして戦うのだ。
「シューターさん。敵の陣形が崩れたよっ」
「よし。エルパコ、ベローチュ、俺から絶対に離れるなよ」
俺の叫び声にけもみいと男装の麗人が頷いてくれた。
「マドゥーシャは敵の抵抗が激しい場合に一撃を加えてくれ。まだ護符には余裕があるか?」
「あと数十枚の余力がありますけど、ここは魔法発動体無しで節約していきます! さすがに連戦すると決定的なタイミングで護符不足になるかもしれないのでっ」
女魔法使いは俺の直下で馬を走らせており、俺たちの物理突破が不可能な際には一撃を加えてもらう予定だ。
さすがに疲労の色が見える声音なのは、魔法を使う際に大きな声でおかしな呪文を叫び続けていたからに違いない。
ちょっとハスキーなボイスになりかかっている女魔法使いの声も、凄みがあって嫌いじゃないぜ。
「わかった。魔力の方はまだ余裕があるんだな?」
「養女さまほどじゃないですけどねー。わたしも天才魔法少女って魔法塾では言われていたんですよっ」
あと数十歩というところだろうか、チラチラと敵味方の混在する前線の入り乱れ様の狭間から、雁木マリの奮戦する姿が見えていた。
あの女は自分に聖なる癒しの魔法をかけながら、ポーションを使って少々の傷などはものともしない姿で剣を振るい続けている。
「おのれ名のある指揮官と見たぞ、斬り殺してやる!」
「うるさいよ、どけっ!」
天秤棒は素晴らしいぜ。
何といっても馬上からの攻撃で勢いを付けると、槍の様に相手を突き崩す事が出来る。
しかも相手がただの棒切れだと侮ってくれているので、予想外の突進力で敵を討ちすえた瞬間に、信じられないという顔をしながら吹き飛ばされてくれるのだ。
そうして俺が先頭で駆け抜けた直後に、けもみみか、あるいは男装の麗人がすれ違いざまに刃広の長剣を振るってトドメを刺してくれる。
あっという間に俺の妨害をしようとしたブルカ騎士を刺し殺したところで、俺たちは全力で突破を図った。
すぐにも雁木マリの姿がみるみる近づいて来た。四方八方から歩兵槍を突き上げてくるブルカ兵に捕まって右往左往しているところらしい。
「頑張れマリ、俺が今すぐにも助けてやる!」
「シューター?!」
歓喜とも悲鳴ともとれるその声で、雁木マリは俺に応えて見せた。
ファイアボールを二度ほど速射してみせたマリは、軍装の上から槍の攻撃を受けながらも、俺の加勢の勢いを利用してそこから強引に抜け出して見せた。
多少の傷は即座に聖なる癒しの魔法が体の出血を防いでくれるのか、マリは平気な顔をして俺をブスリと睨み付けてくるではないか。
「遅いじゃないの! 大変だったんだから」
「わかっている。ここが踏ん張りどころだからな、一気に押し込むぞ!」
ブルカ領軍の精兵たちは戦ってみると確かに強かった。
これまでに何度か戦った諸侯の軍隊というのは、やはりこの戦争のために農民たちから徴募した兵士なので、組織だった行動が出来ないのだ。
そこをいくと騎士修道会と同じ様に常備軍のブルカ兵というのは、号令直下に陣形を変更させたり構えを改めたりと、すぐに臨機応変の対応が出来るのだ。
これが国境で戦っていたという歴戦の部隊なのかどうか知らないが、逆にこれがブルカ辺境伯の軍隊では平均化された当たり前のレベルであったとするなら、とんでもない敵だという事になる。
だが今はこちらの方に波がある事はわかっていた。
雁木マリの戦法は非常にわかりやすかった。
騎士分隊ごとに第一波、第二波、第三波という具合に、先ほども触れた様に突撃から側面への切り抜けるという行動を何度も繰り返して、もっとも堅固な防衛ラインを築いているブルカ兵の盾を切り崩そうとしたのだ。
このファンタジ―世界では魔法が当たり前に使われるからな、当然、歩兵の密集体型というのはあまり使われないので、こういう時に騎馬突撃が恐ろしく効果を発揮するのだ。
「これだけ激しい抵抗があるという事は、この先に何かがあるはずよ!」
「ブルカ領軍の黄色マント連中だからなここは。ブルカ伯の本陣を守る前衛の可能性はあるのかな」
「わからないわ、けれども抵抗が予想以上に激しいから、まともにやっていたら厳しかったところよっ」
俺たちが救援に向かった事で、雁木マリの率いる隊が有利になったのかどうかは、正直なところわからなかった。
軍事的にはたぶんわずかな分隊が味方に付いただけなので、何というところはないはずだ。
それでも、少なくともポーションチートによって疲れの色を今のところは見せていない雁木マリ本人が、やる気をさらに掻き立ててくれたのであれば嬉しい。
「シューターさん、右っ!」
「おう、マドゥーシャ応射してくれ!」
「ご主人さま、敵が退避行動をとり始めましたッ」
敵は確実に苦戦からか浮足立ち始めている。
あと一押し、あと一押しで自分たちの勝利は間違いないのだ。
「ええい、エルパコ俺は馬を降りるぞ」
「シューターさん?!」
「軍馬に乗っているよりも、地面に足をついて戦った方が暴れられる。援護を頼む!」
ここ来て一進一退のギリギリの戦いをするならば、狙われやすい馬よりも天秤棒を両手に暴れ回ったほうがいいと俺は判断した。
足を狙って攻撃されたタイミングをいいキッカケだと思って、天秤棒を叩きつけてやりながら飛び降り、そして男装の麗人とけもみみを従えて前線に飛び込んでいく。
やっぱり天秤棒は最高だぜ。
突きを見舞って来た敵兵の槍を巻き上げてやって、大きく片手にブンと振り回すだけで敵が散り散りになるのだからな。
そしてまさに血路を開く腹積もりで前に前にと押し込んでいく。
上空に向かって色のついた魔法が、突如として何発も打ち上げられているのが見えた。
どうやら味方の部隊ががどこかの陣形を完全に崩して突破口を開いたという事だ。
いや違う、俺たちが切り開いた血路に向かって、雁木マリが最後の突撃を敢行したのだ!
「シューター見なさい、あそこにブルカ辺境伯の旗が見えるわよ!」
ついに、ついに俺のまだ見ぬブルカ辺境伯の本陣がそこに現れたのだ。
「シューターさん、いこう」
「ご主人さま」
もしもこれが大阪夏の陣だったら、真田幸村の軍勢が徳川家康の本陣目前まで迫った様なものだ。
モノの本によれば大阪夏の陣で行われた豊臣対徳川の最後の決戦では、総司令官の家康本陣の馬印が倒れて、いよいよ家康も自害を覚悟したレベルまで追いつめられたといからな。
強者の油断というやつである。
俺たちもその直前に迫っているのだろうか。精強と謳われたブルカ兵を俺たちは追い詰めてるのか?
わからない。わからないけれども、俺たちは真田幸村と同じ末路を迎えるわけにはいかないのだ。
「マドゥーシャ! ありったけの魔法で、あそこで最後の抵抗をしているブルカ騎士どもを丸焼きにしてやれッ」
「了解であります。おちんぎん、期待していますからね!」
ぜひともアレクサンドロシアちゃんの言うオレンジハゲの顔を拝んでみたいものだぜ。
女魔法使いは俺の命令を聞いて直後に馬を飛び降りた。
馬上からでは強力な魔法を使うのに問題があるのかも知れない。
大火力の魔法を使うためには複数の護符が必要なのかと思ったが、そうではなく、一枚のそれを燃やしながら呪文を唱えた。
「フィジカル・マジカル・レボリューション!」
カっと一瞬にして周囲が太陽か何かに包まれた様に眩しくなった。
かと思うと女魔法使いの手元から、電信柱の様な太いビームが発射されたのだ。
その太いおちんぎんビームは、ひときわ大きくはためいていたブルカ辺境伯旗を巻き込む様にして、ブルカ騎士たちともども爆発四散したのである。
「突撃! 突撃! 総員突撃!」
爆発の勢いが収まるよりも早くに、雁木マリの怒声が爆発音の中で響く。
俺もけもみみも男装の麗人も、修道騎士たちのチャージに続いた。
そして、敵の陣地で仁王立ちになって暴れるプルプレートメイルを着用した騎士たちを目撃したのだ。
「何だ、あれは」
異様な雰囲気をまき散らしてるヘルメット騎士が五人ぐらいいる。
雁木マリが以前にブルカ辺境伯と対峙した時には、ブルカ辺境伯本人がそんな格好をしていたと聞いていたが。
じゃあ目の前の五人のフルプレート騎士たちは何なのだという事になる。
まさか五つ子という事はないから、影武者という事なのか。
「シューターさん、ミゲルシャールは魔法で分裂したのかな?」
「馬鹿な事を言わないで! 以前見たミゲルシャールの甲冑じゃないわ。多分あれは親衛隊よ!」
「よし、援軍をここに集めろ、ソープ嬢を呼び寄せるんだ!!」
「わかったよ」
「ご主人さま、かなり手ごわい敵の様ですが、修道騎士のみなさんが苦戦されています」
「親衛隊だったら強いんだろうな! 美中年クラスの敵が五人か、やばいね!」
色違いのプルプレート騎士たち五人が暴れる中に俺たちは下馬抜剣して斬り込んだ。
親衛隊だかフルプレート戦隊だか知らないが、こんなところでまごついて、ブルカ辺境伯を見逃すわけにはいかない。
カムラ五人分の敵だろうと、勢いで押し潰すまでだ。
「お前に構ってる場合じゃないんだよ! どけっ」
いつの間にか折れた天秤棒を討ち捨て、剣でフルプレート騎士に斬りかかったところで、運がよくそれがフルプレート騎士のヘルメットを激しく叩いた様だった。
それで相手が昏倒したのだろうか、一瞬だけ動きがフラついたのを見逃さず、俺はフルプレート騎士のどこに隙があるのかを必死で探った。
剣で斬れるような場所がすぐに見つからないので、相手が緩慢な動きをしているのを見て、タックル気味にぶつかっていくことにした。
激しく体当たりをしてやると、フルプレート野郎は本陣の天幕を倒しながらしたたかに地面に叩きつけられる。
そうしてその勢いでヘルメットが外れたらしく、中からは押し倒されたというのに豪快なオレンジ色のハゲ頭が飛び出した。
「やってくれるじゃねぇか、若いの。俺に一撃入れるとは、なかなかの豪傑だぜ」
昨夕、書籍化に関する続報についてなど、活動報告を更新しました!




