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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第7章 戦場でお会いしましょう
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225 フクランダー寺院の遺構はダンジョン化していました 7

「みなさん、今ここで武器を抜く事は許しませんよ!」


 大正義カサンドラは毅然とした態度で声音を強めて言い放った。

 そしてすぐにも俺に視線を向けながら、ここは任せてくださいと同意を求める視線を送って来るのだ。

 彼女を立ててここは任せてもいいんじゃないかと俺は思った。

 今のカサンドラにはそれだけの迫力と毅然としたものがあるからな。


「し、しかしカサンドラ奥さま、相手はブルカ辺境伯の恋人であった事がわかったわけですし」

「そうですわ。婿どの御身をお守りするのが、かっ家族の大切な務めですわよ」


 反論を試みた男装の麗人と蛸足麗人であったけれども。


「お黙りなさい! そうやって何も決まっていないうちからすぐにも剣で解決する様な事をしていては、今後間違いによってシューターさんの敵を作ってしまう可能性がありますよ?」

「うっ……」

「何事も順番が大切なのです。まずはお話合いをしてから、次の事をやればよいのです」


 見事にひと睨みしてみせるだけで剣を抜こうとしていたふたりを押さえつけたカサンドラ、マジ大正義。

 そのまま俺の方を向いて「そうですね、シューターさん?」と同意を求めてきたので、俺もウンと大人しく頷いて見せた。


「大丈夫ですよソープさん。わたしたちの旦那さまは決してあなたに剣を向ける様な事はいたしませんので、ご安心ください」

「そうですよう。家族で一番偉い義姉さんに逆らう人間なんていないんですから」


 カサンドラの言葉にタンヌダルクちゃんも同意しながら言葉を添えたので、もう誰も口を挟む様な事はしなかった。

 正妻と第二夫人がこの調子なのだから、我が家のハーレムカーストの中で階層が低い男装の麗人や蛸足麗人では口出しが出来るわけもない。いやカラメルネーゼさんは家族ですらないのだから論外か。


 俺の方もこの状況を見守りながら、ニシカさんとけもみみに目配せを飛ばした。

 状況を楽しむ様にニヤニヤしていたニシカさんを見るに、彼女は最初から何も心配していないという態度だった。恐らく殺気めいたものをひとつの指針にして警戒をするニシカさんからすると、ソープ嬢にはそれに類する態度は無いと言う事だろう。

 ぼけーっとした態度のけもみみは、あれで俺を拉致したことにご不満な態度だったけれども、それでもぴこぴこと耳だけは動かしながら、調査隊のみなさんの態度を監視している様だった。


 ニシカさんは状況を把握できていないデルテ卿に「なあに夫婦の痴話喧嘩だぜ」などと話しかけて「ご家族が多いと大変ですな」などと声をかけられているので、俺は思わず吹き出しそうになった。

 そのまま俺の側に身を寄せてきたけもみみは「義姉さんに任せておけば大丈夫だよね」と、ようやくニッコリと笑みを浮かべて俺を見上げてきた。黙って頷くと頭を撫でてやる。


「ソープさんはこの先も、このダンジョンで生活をなさるおつもりなのですか?」

「わからない。何せわたしは、ここでの生活しか知らない人間だからな……」

「わたしも少し前まではそうでした。わたしたちはサルワタの森という、ここからずっと北にある辺境の最果てからこの度の戦争の事もあって進軍してきたのですが。それ以前のわたしは、その故郷の森から出た事も無い生活をしていました」

「そうなのか」


 何かお互いに感じ入るものがあったのだろうか。ニコニコ顔のタンヌダルクちゃんの隣で、カサンドラとソープ嬢お互いに見つめ合うのである。


「ソープさんの個人的な事情について何も知らず、このダンジョンに入ってしまった事は申し訳ありませんでした」

「いや。元はと言えば、わたしが勘違いをしてあなたたちの夫を拉致してしまったのが原因だ。謝罪はむしろわたしの方がしなければならないと理解している。重ね重ね申し訳ない」


 謝罪の言葉を口にするソープ嬢の姿が、どこか痛々しく感じてしまう。


「その事はもういいんです。シューターさんとソープさんとの間で取り決めた内容については、妻たちが口出しをする様な事ではありませんので、ご安心くださいね」

「必要な生活物資と家財などは、旦那さまが後で必ずお届けする様に手配してくださいますよう」


 そうですね旦那さま? とふたりの奥さんが俺に視線を送る。

 俺もようやく前に歩み出したところで、悲しい顔をしたラミアの女が俺を見つめ返すのだった。


「その点は問題なく手配しますよ、任せてください」

「すまない。ようやく少し気持ちの整理がついてきたところだ」

「俺たちはあなたの愛しいひとであった人物とこれから戦争をする事になってしまう。許してくれ、理解してくれという調子のいい言葉が口に出来ないのが何とももどかしいな……」

「それは人間たちの業というものだろうか、あるいは定めというものかもしれない」


 失恋だもんなあ。

 ずっと迎えに来てくれると思っていた人間がいた。

 もしかすると死んでしまったかもしれないと、どこかであきらめの気持ちもあった。

 そこにそっくりな姿をした人間(にソープ嬢には感じられた俺)が現れたわけだから、舞い上がったのだろう。

 しかしそれは別人で、それどころか三〇年の月日を経て死んだものだとようやく諦めが付きかけていた人間が、実は俺たちの敵として戦っていたという残酷なオチだ。


「なあ教えてくれないか。ミゲルはわたしの事を忘れてしまったのだろうか? 愛しいひとだと思い続けていたのは、わたしだけの事だったのだろうか? あれはわたしの見た幻だったのか?」

「……………」


 これには俺や三人の奥さんたちだけではなく、カラメルネーゼさんやベローチュも絶句してしまったらしい。


「すいませんソープさん、ご主人さま。わたしの配慮が欠けている点がありました……」

「そ、そうですわね。もしもクリスティーソープランジェリーナさんがブルカ伯への仇討ちを考えておられるのであれば、わたくしがご助力をしても構いません事よ」


 そんな殊勝な態度を見せてくれた好戦派だったふたりではあるけれども、蛸足麗人はまたちょっと話が飛躍し過ぎではあるかな……


「今は何も考えられない……」

「そうだな。ソープさんもゆっくりと時間をかけて考えるといい。俺たちはこのダンジョンの上に野戦築城を行って、しばらくはリンドル川西岸の平定作戦に従事しているはずだから。俺たちがまだいる間であるならば相談にも乗る事が出来るし、もしも外の世界に出てみたいというのであれば、俺たちと一緒に外の世界にいってみるのもいいかもしれない」

「はい、わたしはいつでもご相談にのりますよ。ね、ダルクちゃん?」

「そうですねえ。わたしたちは姉妹ですからねえ」


 姉妹かどうかしらないが、すでに俺の奥さんになる事を前提に話しているタンヌダルクちゃんも気が早すぎるというか、勘違いが過ぎますよ!


「しばらく考えさせてくれ。シューターさんの事は頼りにさせてもらう」


 とぐろを巻いた体の上で、ソープ嬢がゆっくりと頭を下げた。

 ひとまずはこれで俺たちもダンジョンを安心して退去する事が出来る。


     ◆


「他人さまの財宝を軍資金としてアテにするなんてのは、卑しい人間の考えですよ。そんな事をしてシューターさんの信頼を損ねたら、どうするつもりなのですか」

「はい……」

「カラメルネーゼさまもですよ。お貴族さまにはお貴族さまの矜持というものがあるはずです。それこそブルカ辺境伯さまのやっている事と同じではありませんか? それからあなたはまだ家族として認められていないのですからね。シューターさんにお認め頂ける様に態度で示していただかなくては」

「わっわたくしは……ハイ」


 いざ撤退しますという段取りになったところで、通路のどこかからカサンドラの説教する声が俺たちに聞こえてきた。

 ちょうどラミアの財宝の在処というのがどこなのか、ソープ嬢とニシカさんとけもみみに、デルテ卿の加えた五人で顔を突き合わせて確認をしていた時の事である。


「シューター卿のご家族は、奥さまがたの中でしっかりとした序列というものがあるのですなあ」

「いやあ実は俺も良くしらないんですがねえ。どうもあるみたいです」

「そらそうよ。カサンドラも近頃は肝がすわってきたからな。オレ様は耳にした事があるぜ、領主さまを相手に意見していた事もあるし、夜中に寝台の上でシューターに指示を出していた事もあったな」

「そうだね。馬乗りになってシューターさんに命令していた事もあるよ」

「?!」


 ちょっとまて!

 君たちはいったい何の話をしているんだ!!!

 ニシカさんとけもみみが、自分たちの夜の態度はそっちのけで、万能耳で傍受したと思われる秘密の内容をベラベラと喋っているではないか。


「ぼくの時は甘えん坊さんなんだ、いつもは毅然としていて男らしいシューターさんだけど。ニシカさんの時は激しいよね?」

「おっオレ様の時はどうでもいい! いやどうでもよくねえ……わりと激しいぜ……けどカサンドラほどじゃねえ」


 お願いだからもう黙ってください!!!


「なるほど。スルーヌ騎士爵家の序列一番は、カサンドラご夫人というわけですな。アッハッハ」

「さもありなん、カサンドラ義姉さんは立派な女性だ。いつか来るべき日のために女の嗜みをご教授願いたいものだ」


 俺が驚いた顔をしている脇で、地図を覗き込んでいたデルテ卿とソープ嬢が、妙に納得した顔でウンウン言っていた。

 そんな事はどうでもいい。

 早く話題を変えないと俺が恥ずかしくて死んでしまいます……


「と、ところでラミア一族の財宝があると言う場所ですが、この奥まった場所にあるのはわかりましたが、手前に妙なマークが描き込まれているのは何ですか?」

「そのマークは、財宝の番をしているガーディアンの居場所を示したものだ。わたしも詳しくは知らないのだが、財宝を持ち出すとなればそれを排除しなければならない」


 俺が見にくい地図に一点を差して質問をしたところ、すぐにもカラメルネーゼさんが質問してくれた。

 ガーディアン。

 それはつまりガードマンの親戚か何かかな?


「ガーディアンですか?」

「守護者の様なものだと聞いている。ラミアの人間が財宝の貯蔵庫を出入りしたところで反応はしないのだが、一族ではない者が出入りした場合は反応するそうだ。まあ、わたしが必要な分だけ取りに行っている間は問題が無かったが、新たな家具を買うとなれば、手伝って頂く必要があるのだが、お願いできるだろうか」


 ソープ嬢の伏目がちな視線を向けられると、つい安請け合いしてしまいそうになる俺だけれど、隣でふたりの奥さんは難色を示しているじゃないか。

 血気盛んなデルテ卿だけは槍の錆にしてやると


「ど、どれぐらい強いかにもよるな。またトカゲの親戚とかだったらやっかいだぜ相棒……」

「何せここは、狭いからね。モノを見てから考えましょう」

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