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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第7章 戦場でお会いしましょう
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187 ゴルゴライは戦略要衝になっていました

お待たせしました、第七章はじまります!


 久方ぶりに訪れたゴルゴライへと続く一本道は、驚くほどの人間でごった返していた。

 人ごみの多くは隊商とも言うべき行商人たちの荷馬車の列で、まさに異世界の渋滞状態である。


「こんな活気はブルカでしか見た事が無かったが……」


 まさかアレクサンドロシアちゃんの領内でこんな活気を見る日が来るとは思っていなかったので、ついついそんな感想を漏らしてしまった俺である。

 材木を積んだ大きな四頭引きの馬車の連なりや、その木箱にいったい何が詰まっているのかわからない無造作に積み上げられた荷馬車、それに女たちが乗り込んだ幌馬車。

 そしてそれらを守るために雇われた傭兵や冒険者たちが、まるで戦争でもはじまったのかと言わんばかりの重厚な武装姿で荷馬車の側に付いていた。

 戦争。

 そうなのだ、ブルカ辺境伯とそれらに抵抗をしようとするひとびとが、これから戦争を始めようとしている。


「戦争の時期は近いと言う事だな……」


 気が付くとそんな言葉がふと口を付いて飛び出していた。

 渋滞の列をあみだくじの様にぬって先に進んでいくと、その途中で男装の麗人ベローチュが馬を寄せながら話しかけてきた。


「ご主人さま、商人や傭兵、娼婦というのは利に敏い生き物です。彼らがこうして多くこのゴルゴライ領にやっ来ているという事は、この戦争に期待をかけている証拠でもありますよ」

「ああなるほど、さっき幌馬車に乗り込んでいたエッチな格好のお姉さんの集団は娼婦だったのか」

「ごっご主人さま。娼婦ごときの色香に惑わされてはいけません! 体の火照りがお辛い様でしたら、いつでも自分をご利用ください」


 利用しねぇよ。

 顔を赤らめてそんな事を言うな、本気になっちゃうだろ!

 そんな男装の麗人の言葉を無視して周囲を見回すと、また別の幌馬車に運ばれるお姉さんたちの集団が飛び込んで来た。

 少女から熟女まで揃い踏みしたその幌馬車の荷台のお姉さんたちは、俺の視線に気が付いたところでウッフンと色気を振りまいてサービスしてくれる。

 隣で「ごほん、ゲフン、ウッフン」と露骨なアピールをしてくる男装の麗人に辟易としながらも、俺はゴルゴライの村の入り口に位置する街道が交わる三叉路まで馬を進めるのだった。


「よしみんな、いったん村の中に入って大休止を取るぞ! 食事と休憩、それから情報交換をしたら今日中に何とかサルワタの村まで帰還する!」


 俺の名は吉田修太、三二歳。

 異世界で奥さんと現地妻、婚約者の六人を愛している男である。

 自分から奥さんだと言い張っているひとと、周囲が勝手に奥さん認定しているひとの数はこれに含めない。

 そんな事はともかくとして。

 この幸せを守るために、俺と俺の奥さんはブルカとのこの戦争には絶対に勝たなければならないのだ。


     ◆


 防風林に囲まれたゴルゴライの村もまた、しばらく見ないうちに様変わりしていた。

 古いたたずまいの家々そのものは何も変わってはいなかった。

 けれど、この村で唯一の宿屋だった場所はサルワタ領軍の司令部とも言うべき場所になっていて、野牛の兵士たちがそこで屯営しているのだ。

 それから中央の広場には様々な鎧を身にまとった人たちがごった返していた。

 豪華な金属鎧の野牛兵士に、法衣を纏った騎士修道会の人間も見える。それから一見するとチグハグな鎧を纏った集団は傭兵の皆さんで、鎖帷子の連中は冒険者どもだろう。


「何だよおい、修道騎士がどうしてこんなに集まっているんだよ。説明しろよなハーナディン」

「僕にも状況はよくわかりませんが、ブルカから随分と騎士修道会の本隊が集まっている様ですね……何人も見知った顔の人間がいます」


 馬車の上で器用に胡坐をかいていたニシカさんが、水筒の水だか酒だかを口に運びながらそんな質問を修道騎士ハーナディンに飛ばしていた。

 振り返って彼を見やると困惑した表情をしているので、彼もまたあまり状況を把握しきれていないと見える。

 よくよく観察すると修道騎士や従士の一団は旅装束を未だ解いていない様だ。

 恐らくこのゴルゴライに到着して間がないという事なのだろう。


「ハーナディンくん、村の外にもいくつも騎馬の列や掘っ立て小屋みたいなのがあったろう。あれは野戦築城か何かか」

「掘っ立て小屋は恐らく、簡易の宿舎にするつもりのものでしょうね。しかし村に運び込まれている材木の数を見ると、ここで恒久陣地を築くつもりがあるのかもしれません。恐らくドロシア卿か、総長猊下がご指示なされたのでしょう」


 自分の見解をそう述べて見せたハーナディンはそれだけ言うと押し黙ってしまった。

 恒久陣地か。

 ゴルゴライはサルワタ方面とリンドル往還、それからブルカへと連なる街道の三叉路に位置する辺境の戦略要衝と言えるだろう。

 ここがもし戦争になってブルカ辺境伯に押さえられてしまうと、女村長の軍勢と辺境連合軍の連携は寸断されてしまうんだからな。

 それにしても、


「修道騎士のみなさんが多いのはわかったが、野牛の兵士もすごい数なんですけど……ご主人さま、アレクサンドロシア卿の配下にいるミノタウロスの軍勢は、どれほどの数になるのでしょうか?」

「いや知らない」


 俺が疑問に思っていたのと同じ事を質問してきた男装の麗人に、素直に返事をした。

 本当に知らないのだ。

 せいぜい数百の人口だった半地下洞窟の街の事を思い出しながら、俺の頭には「?」が浮かんでいた。


「まあとにかく領主館に顔を出しておこう。情報共有はそこですればいい」


 サルワタの開拓村へと向かう俺たちの団体には、リンドルからやって来た両替商のウォールズさん一家もいる事だ。

 ベテラン猟師のニシカさんは言うに及ばず、ベローチュとハーナディンは軍事訓練を受けている人間だし女魔法使いのマドューシャも触滅隊と盗賊家業をやっていた人間なので体力はあるだろう。船で加わったモンサンダミーも傭兵なのだから問題ない。

 けれどウォールズさん一家は商人であって、急ぎ旅は苦労するだろうしな。

 慣れない船旅に馬上での移動だから、どこかでしっかり休憩をさせておかなければならない。

 それにしてもウォールズさん一家が船に乗り込む手配をしたのは、誰の機転だったのだろうね。

 その疑問をハーナディンにぶつけてみると、


「ご出立の前にカラメールネーゼ夫人からその様に命令があったんです。反ブルカ連合軍の要になるだろうゴルゴライは、戦略要衝であると同時に軍需物資の集積地にもなるはずだから、御用商人を置いておいた方がいいと」

「ははあ、さすが奴隷商というだけはあって兵站の事を理解されている」

「そうだよ、シューターさま。あんたは奥さんに恵まれているという事さ。さて疲れたから少し体を伸ばしておかないとね。今日のお昼ご飯は何を食べさせてくれるんだい?」


 俺たちの会話は聞かれていたらしく、ゴルゴライ領主館の前まで馬でやって来たところでカレキーおばさんがそんな返事を寄越してくれたのだった。

 カレキーおばさんはそんな事を言っているけれど、齢の割りに実のところそれほど疲れた様には見えないね。

 そんな母親に、苦笑している俺に気を使ってくれたのか、エキゾチックお姉さんのモエキーさんが小声で意見してくれるが、


「お母さん、ご飯はご主人さまが出されたものを食べたらいいかもです」

「かもじゃ駄目なんだよ。いいオマンマを食べさせてもらわないと、働き甲斐がないじゃないか」


 ごもっともです。

 出来るだけ美味しいものを用意してもらえる様にお願いしないとですね。


     ◆


「ご無沙汰しております。ツダの村以来ですから、はやひと月あまりぶりになるかな」


 ゴルゴライ領主の屋敷で俺たちを迎え入れてくれたのは、現在このゴルゴライの村を預かっているというイディオ卿だった。

 確か修道騎士の軍事教練《ホーリーブートキャンプ》で教官をやっていた人物だったと記憶している。

 痩せ狼の様な雰囲気を漂わせている、いかにもデキる人間だと思っていたが、今は疲れからかよりその雰囲気に磨きかかかっていてちょっと近寄りがたい印象だ。


「いろいろと大変だったみたいですね。サルワタより妻の知らせを受けて、取るものもとりあえず参上しました」

「大変と言えば、確かに色々とありすぎました。実は少し前に、わが騎士修道会の人間が横死する出来事がありまして」

「横死ですか」

「ドロシア卿がこのゴルゴライの村を占領して後、領内の集落や近隣の村々にその旨を伝える使者を送り出したのですが」


 イディオ卿に勧められながら、俺は領主の屋敷の応接室へと招き入れられた。

 俺に続いてこの部屋に入ったのはニシカさんと男装の麗人、それにハーナディンと女魔法使い、最後に入って来たのは傭兵モンサンダミーだ。

 傷だらけの傭兵は別にいらないだろとか思ったが、男装の麗人とアイコンタクトをしていたので、彼女が必要だと判断したのだろう。その辺りはベローチュに任せておく。

 ウォールズ一家のみなさんは、食堂の方で今頃くつろいでいる頃だろう。

 勧められるままにソファに腰を落ち着けたところで、イディオ卿は言葉をつづけるのだった。


「その送り出した使者の一団が殺される事件が起きたのです」

「殺ったのはブルカ辺境伯の工作員ですか」

「恐らくは……」


 聞けば使者の組み合わせは修道騎士ひとりに野牛の兵士ふたりという組み合わせで、方々の集落や領地に向けて使者が走ったらしい。

 そのうち、スルーヌという村の領地に向かった使者の一団が、いつまでたっても帰ってこなかったそうだ。

 それどころかスルーヌに向かう途中だったサルワタの占領軍、つまり野牛の軍勢たちが橋を落とされて通行止めを食らったらしく、そこからスルーヌの領主と戦争を起こす事態にまで発展したのだと言う。


「どうもスルーヌ村と言う場所に、ツジンという正体不明の修道僧が姿を表したそうだ。本人の弁を借りるならばブルカ伯の側近をしているという、そういう経歴の壮年の男でして。スルーヌ村で村長のトカイという男を焚き付けた後に、また姿を消してしまったのだが……」


 俺とハーナディンの顔を交互に見やりながら、イディオ卿は言った。

 正体不明の修道僧、というフレーズを妙に強調したところを見ると、同じ宗教関係者だと言っても騎士修道会とは関わりの無い人間だと言いたかったのだろう。

 その点はどうやらハーナディンも理解できたらしく「確かにツジンなんて言う修道士は聞いた事が無い」と独り言を口にしていた。

 まあ、騎士修道会ほどの大きな組織になれば、全員の顔は覚えていないだろう。


「現在ツジンという男の身元については調べ中ですが、少なくとも我が騎士修道会にはその様な人間が名簿上は存在していません。してみる、とこれは他の修道会派の人間か、修道士を名乗っているだけの似非坊主という事になりますな」

「ちなみにどんな風体なのですかイディオさん」

「そうだな。浅黒い顔をしている他は平たい顔をしているというか、例えていうならばシューター卿の顔の雰囲気に似ている」

「お、俺かよ?」


 イディオ卿とハーナディンの会話の途中で、全員の注目が俺に集まった。


「とするとシューターみたいに全裸を貴ぶ部族の出身という事なのか?」


 首をかしげて腕組みをしたニシカさんがそんな質問をした。

 たわわな溢れる恵みの胸が両腕に押し上げられて揺れている。

 しかしその胸に囚われている場合ではないのだ。


「い、いや似ているというのは顔の感じだろ? 別に全裸転生した人間というわけじゃないだろ」

「何だそうなのか」

「とにかくそのツジンという男が、どうやら使者としてわれわれの送り出した使者を殺害したらしく、スルーヌの村には連絡が届かなかったとわれわれは見ているわけですが――」


 難しい顔をして言葉をつづけようとしたイディオ卿に、


「おい坊さん、オレ様は気が短いんだ。村で起きた連続殺人事件と今回の人死にとどうつながるのか、手短に説明しやがれよ。な?」

「ちょ、ニシカさんはちょっと黙ってて……」

「ンだよ、事実だろ」


 本人の言葉通り気の短いニシカさんに促される様にして、イディオ卿は苦笑を浮かべながら続ける。


「ニシカ夫人の仰る通りだ。手短に言うと、仲間の修道騎士殺害を起こした犯人がブルカ伯の工作員だろうという事になったのだが、その後しばらくしてサルワタの村でも工作員が姿を現したらしいのです」


 実際に姿を見た人間はいなかったのだけれど、恐らくはツジンとその仲間たちがサルワタに侵入したのだろう。

 その時、アレクサンドロシアちゃんは側近たちを率いてシャブリン修道院という場所に赴いていてサルワタには不在だったらしい。


「ドロシア卿は、カーネルクリーフさまとともに修道騎士の横死を糾弾するためにブルカ伯との会談を行っていました。その不在の間を突いて、どうも工作員たちが助祭マテルドを逃がした様なのです」

「それで連続殺人が起きたというわけですか。ご主人さま、自分たちがリンドルを出発する時には女性殺しの連続殺人と伺っていましたけれど」


 ベローチュの質問に、修道騎士イディオが頷いて見せる。


「どうやらこの夏にサルワタの村で起きた放火殺人の事件、その際にブルカ伯のスパイたちに協力した人間をこの際一掃してしまおうという作戦だったらしいです。事実、ブルカ伯とわれわれの代表者で行われたシャブリン修道院での会談でも、ブルカ伯の血縁に連なる助祭マテルドについては言及されていたみたいだからな」

「それでその後、どうなったのです殺人事件は。その逃げ出したマテルドは、まだ村の中に潜んでいるという事ではないでしょうね」


 俺が何かを口に挟むよりも早くベローチュが言葉を口にしていた。

 目敏く胸を揺らしながら身を乗り出すものだから、イディオ卿も弱り切った顔で言葉を探す。


「事件が起きたと知らせを受けたのは一昨日の事ですが、今朝一番に届けられた報告では、山狩りの後に解決をしたという事です。たぶんマテルドはふたたび捕らえられたか、殺されたかした思いますな。この際村で犠牲になった人間は三〇人という事で、新しく村長になったギムルどのはかなりお困りだった様です」


 色々と新しい情報が入ってき過ぎるために、俺たち村出身の人間は混乱だ。

 具体的には俺とニシカさんが「ギムルが村長だって?」と顔を合わせて驚いている。

 反対に外からやってきた人間の男装の麗人や女魔法使いは、そのまま情報が受け入れられるらしい。

 しかしよく見てみるとサルワタ傭兵隊のリーダーだったモンサンダミーも、どちらかと言えば俺たちと同じ様に複雑な顔をしていた。

 ちなみにハーナディンは別の事で複雑な顔をしているらしかった。


「……それで犠牲になった修道騎士というのは、誰だったのですか」

「モンテパルロだ。ハーナディンとは確か齢も近かったか」

「はい、軍事教練では同じ組だったですね。そうか、モンテパルロが……」


 肩を落としたハーナディンを慰めるイディオを見たところで、俺たちは応接室を後にする事にした。

 少しふたりだけにしてやるぐらいの気遣いが出来たっていいだろう。

 俺が廊下に出たところでニシカさんも隣に並んで歩き出し、微妙な気分になった。


「戦争になれば死ぬ人間が増えるので、当然こういう事も度々起きるだろうな」

「まあワイバーン一頭が村を襲ってもたくさんの犠牲が出たんだ。あの時はニシカさんもこんなキモチだったんですかね」

「どちらかというと、お前の義理の父ちゃんが死んだ時の方がな。ユルドラと言えばッサキチョのおっさんと並んで村の偉大な猟師だった。オレ様の狩りの流儀はユルドラの方に近い」

「そうなんですか」


 自分たちの仲間からも犠牲者が出る事は覚悟しなければいけない。

 事実、俺はほんの少し前まで、この傷だらけの顔をした傭兵の事を戦死したものだとてっきり思い込んでいたからな。

 犠牲は付き物だ。だが出来ればそれは自分の家族以外の誰かであってほしいと思うのはエゴだろうか。


 そうしてぞろぞろ廊下に出てきたところで、そのまま修道騎士のひとりに案内される様にしてアレクサンドロシアちゃんのプライベートルームに使われているという私室に招き入れられた。


「ただいま食事のご用意をしておりますので、シューター閣下におかれましてはこちらでおくつろぎください」

「ああそうだ、君は聖なる癒しの魔法が使えるかな?」


 右手を胸に手を置いて一礼した修道騎士が退出しようとするのを、俺は呼び止めた。

 若い修道騎士は「はい、出来ますが……」と不思議そうな顔をしていたのだが、魔法が使えると言うのなら好都合だ。


「俺たちの随行員に商人さんが居ただろう。サルワタの御用商人でカレキーウォールズさんというのだが、悪いけれど強行軍の旅で疲れていると思う、少し癒しの魔法でも施してくれないだろうか」

「わかりました。カレキーウォールズさんですね、美しい名前だ……」


 何を勘違いしたのか修道騎士はニタニタ笑いを浮かべた後、部屋を退出していった。

 俺には理解できないが、カレキーという名前のフレーズはこのファンタジー世界的には女性名なのだろう。

 もしかすると名前から麗しの美女を想像したのかもしれない。まあ、確かにウォールズさん一家はカレキーおばさんと四女のモエキーお姉さん。それに長女夫婦と女性率が半分以上だからな。

 さっき屋敷に入る時に見ていて、勝手に期待していたのかもしれない。


「つ、疲れているのはわたしじゃないかもです。カレキーはお母さんの名前かもです!」

「かもじゃない。カレキーはわたしだよ!」

「えっ、ばあさんの方かよ?! ハーナディンさん、あなたにお譲りします」

「ふぁっ? 僕がやるのかッ」


 若い修道騎士とハーナディンの悲鳴が聞こえてきた。

 俺は別に悪くないからね。勘違いした修道騎士くんが悪いんだからね!


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