閑話 勅令、ッヨイに服従せよ
ッヨイさま視点回になります。
旧167話改題前の「続、我に服従せよ」は大幅な加筆修正を行ったため、3分割とさせていただきました。
「おい、シューター! 気持ちをしっかり持てよ。オレが付いている。畜生ガンギマリーどうにかなんねぇのか?!」
「今やってるわ。とにかく、その女魔法使いにこの魔法陣を見せましょう!」
土色をしたどれぇは、浅い息を繰り返して苦しそうでした。
ガンギマリーのポーションお注射で眠らされたどれぇは、天国と地獄の苦しみを味わう事になってしまったのです。
かわいそうなどれぇ……
「大変です、このままではどれぇがおデブシュタイナーのどれぇになってしまうのです!」
「安心しなさい、あたしがいる限りシューターは絶対にあのデブの思う様にはさせないわ」
「あいぼーを信じるのです」
「デブになんか負けないわ。そんな事になったら、カサンドラ義姉さんにもドロシア義姉さんにも顔向けできないもの」
果たして、あいぼーがどれぇの体に接種させたものは、鎮静効果が得られるポーションだったはずでした。
けれどもカプセルポーションひとつではその効果が薄かったのです。
ガンギマリーは立て続けに複数どれぇの体内に、ポーションの効果が出て来るまでお注射は繰り返されたのでした。
「ヒグっヒギぃ」
「ど、どれぇが何か言っているのです!」
「大丈夫かおい……」
「ただのうわ言よ、夢でも見ているに違いないわ……」
もちろんポーションには副作用はあるのです。
その副作用については、地獄の苦しみを味わう可能性があるという事でした。
普通の病人や怪我人相手なら、ガンギマリーは副作用が出る様なそんな事をしないのです。
けれど、どれぇは自分を失いかけている状態だったから、とにかく物理的に無力化させる必要があったのです。
かわいそうなどれぇ……
きっと、複数のポーションを組み合わせてどれぇは無力化をされたのだと思います。
あいぼーたちブルカ聖堂会の人間がじんもんを行う際には、じんもんを受ける者がもっとも恐怖を覚える幻惑を見せるのだと言います。
ッヨイもそんなじんもんの現場に立ち会った事がありました。
とても苦しい顔をして神様に助けを求めるひとがいたり、お漏らしをするひとがいたのです。
でも、どれぇはお漏らしをしませんでした。ッヨイもお漏らしをしない大人になるのです!
「これで、ひとまずは安心ね」
とにかく暴れる可能性があったどれぇを、何としてでも大人しくさせる必要があったのです。
これはかわいそうだけれど、必要な処置だったのです。
事実どれぇは意識を失った直後にも関わらず軽く暴れて右腕を固定していたギブスを破壊してしまったのです。
どれぇは全裸を貴ぶ戦士の出身だから、とても強いのです。普通の大人なら出来ない事も、やってのけるのです。
もしかしたら、火事場の馬鹿力だったのかもしれません。
この時はニシカさんと、たまたま異変を感じて顔を見せに来てくれたカラメルねえさまが拘束してくれたので、事なきを得ました。
みんなどれぇのために、必死だったのです!
「壇上にもわたくしたちの席にもみなさんのお姿が見えないと思いましたら、こんな事になっていたのですわね……」
「ありがてぇ、お前ぇがいなかったら確実にまたシューターの馬鹿力でえらい目にあっていたぜ」
「おーっほっほっほ、ご安心くださりませ。わたくしの触手をもってすれば、どんな殿方であっても絡めとってみせるのですわッ」
さすが蛸足の猿人間のカラメルねえさまなのです。
その間にサルワタからきたゴブリンのおにいさんが、ッヨイのお願いで宿所としているリンドル聖堂に向けて走る事になりました。
「おにいさんにお願いがあるのです。大至急なのです」
「ど、どうすればいいので?」
「リンドル聖堂の監禁室に女魔法使いのまどーしさんがいるのです。彼女を急いで連れてきてください。まどーしさんならば、魔法陣を描いた護符を魔法の発動媒体に使っていたので、呪いの事について少しでも知っているかもしれません」
ッヨイがそう説明すると、おにいさんはひとつ質問を口にします。
「わ、わかりました。それでカサンドラさまやエルパコさまにはお知らせしなくても……?」
「ねえさまや、エルパコねえさまにはまだ伝えないでください。今夜の晩餐会で問題が起きたとなってしまえば、サルワタの外交に致命傷になりかねないのです!」
触滅隊とのたたかいの中でサルワタの大使が大きな呪いの傷を受けたというのでは、間違いなく今後の同盟関係に暗雲が立ち込めてしまうと周辺領主や商人たちは考えてしまうのです。
これはあってはいけない事なのです。
何しろ、ブルカ辺境伯という存在はそれだけ巨大なのです。
万に及ぶ人口の街を抱えていて、五〇〇〇〇とも七〇〇〇〇ともいう領民がブルカ辺境伯の領地で生活しています。
「今は大同盟の機運が出来つつあるのです。だから、だから絶対にどれぇがつくった大同盟の機運を、無駄にしてはいけないのです」
「は、はいわかりました。では女魔法使いを呼び出しに、ただちに向かいます」
こうやってゴブリンのおにいさんをッヨイたちは送り出しました。
「兵隊さんだけでもすごい数になるのです。サルワタの二〇倍ぐらいやばいのです。機運があるうちに、理に敏い商人さんや、オッペンハーゲンの公商会と、その向こうにいるオッペンハーゲン男爵を説得しなければ、この先うまくいくはずがないのです……」
「そんな連中をオレたちは敵に回しているんだけどな」
「いち度に相手しなければ、どうとでもなるのですが……それには仲間がいればなのです」
「そうだな。仲間、な。確かにそうだ」
ニシカさんの言葉にッヨイもたまらず不安を漏らしてしまいました。
ブルカの街は辺境一円の中心的都市でもあるし、多くの産物はまずブルカ領にいったん集結した後に本土に輸出されたり、あるいは逆に辺境の諸侯のもとに運び出されるのです。
そもそも、反ブルカを訴えて同盟なり連合組織なりを作ろうと旗振りをしているサルワタの人間が、こうもあっさりとよくわからない呪いのようなものにかかってしまったと知ればどう思うのか、ッヨイは仲間になってくれるひとたちの事を考えなくてはいけません。
「けどよう、いつまでもカサンドラに教えないというわけにはいかねぇだろ。仮にもアイツはこの男の正妻で、けもみみは第四夫人だ。知る権利があるというか、教えなければ後で恨まれるぜ」
「もちろんそういう事は織り込み済みなのです。ッヨイは恨まれてもかまいません、どれぇの立場を悪くする方がずっと問題なのです」
「そこまで言うなら、オレ様はかまわねえけどよ」
ねえさまは優しいひとなので、ちゃんと説明すればわかってくれるのです……
でも本当はどれぇを怒っているねぇさまを怖いと思った事はあるのです。
ナイショなのです。
「時間を置いて折を見てから耳打ちする方がいいな、晩餐会の交渉事の最中に血相を変えられたら、困るってんだな」
「そうなのです。交渉やご挨拶に差支えが出るのでは問題なのです」
もしも……
もしもッヨイが商会の会頭という立場なら、きっとブルカは商売の相手として日頃快くは思っていなくても、普通に考えればきっと逆らえるものではないと考えるのです。
どれぇがブルカ伯に敵対した結果呪いにかかったとすれば、サルワタ領主とその夫たる大使は、そういう現状分析の判断を誤ってブルカに敵対してしまった。
そんな風に商人さんやオッペンハーゲンのひとたちには見えるかもしれません。
きっとそのタイミングは間違っていたので、やはり近い将来ブルカ辺境伯の怒りを買って滅ぼされる事になるのではないか。
こんなところでサルワタに連座してブルカとの敵対に巻き込まれてしまえば、将来の、あるべきタイミングでブルカと対峙する際に力を削がれてしまうと恐れられる可能性もあるのです。
「おいようじょ」
「な、何ですかニシカさん。怖い顔なのです」
「フン、オレ様の顔が怖いのは元々だぜ。だが心配するな、カサンドラやけもみみに恨まれるときはオレ様もガンギマリーも一緒だ」
「あ、ありがとうなのです……」
ッヨイが嬉しくなってニシカさんを見上げると、どれぇの側で頼もしい顔をしていたニシカさんのおっぱいが揺れたのです。
すると隣であいぼーが驚いた顔をしました。
「えっ、あたしもなの?」
「当たり前じゃねぇか、俺たち仲間だろ。ん?」
「そ、そんな事よりも」
とても嫌そうな顔をしていたあいぼーは、それでも自分のやる事をせっせと続けるのでした。
今あいぼーがやらなくてはいけないのはどれぇの治療をする事です。
おデブシュタイナーの呪いから、どれぇを救い出さなくてはいけません。
かわいそうなどれぇ……
「シューターをうつ伏せにしてちょうだい。それからッヨイ、こいつの腕と足を土の魔法でギブスを作って拘束してくれるかしら?」
「わ、わかったのです……」
「何度か痙攣を繰り返しているから、恐らくポーションの効果が強すぎて急性中毒になっている可能性があるわね」
「大丈夫なのかよおい」
「死にはしないわ。これ以上は鎮静ポーションを打てないから、間に何度か拷問用の無力化のポーションを挟んでいるもの。苦しむだけで、何という事はないわ……」
「拷問って、おいおい……」
ニシカさんはそんな心配をしていました。
でも、どれぇならきっと大丈夫です。
たくさんのオーガと戦った時も生きていたし、怖い冒険者のおじさんと戦っても勝ったそうだし、口の臭い盗賊にも勝ったのです。
今回もきっと、おデブシュタイナーの呪いに打ち勝つのです!
けれども施術をした当の本人であるガンギマリーはとても怖い事を言いました。
「これは仕方の無かった応急処置なのよ」
やはり拷問に使う自白ポーションをキめられているので、どれぇは地獄の悪夢から逃れる事は出来ないのです。
かわいそうなどれぇ……
ッヨイはポーションが嫌いなのです。
あいぼーに勧められても今後もお薬はご遠慮なのです。
◆
今夜の晩餐会は夜通し続けられるものでした。
途中でカラメルねえさまが夜会の席上に戻ってしまったけれど、長い時間を過ごすものなので誰も不審には思わなかったのでした。
けれど、いつまでもガンギマリーが会場から姿を消しているのは怪しまれてしまうので、途中で少しだけ夜会の席上に戻る事になったのです。
「あたしがいなくても、平気かしら」
「暴れた時はこのポーションを野郎にぶち込めばいいんだろ? オレに任せておきな」
「ギブスがあるから、少しの事なら大丈夫なのです」
今度は簡単には逃げ出せない様に前より厚めにしてあるので安心です。
心配するガンギマリーにそうやって説明すると、チラチラとどれぇを振り返りながら控えの間を出て行ったのでした。
あいぼーは婚約者の事が心配な大人さんです。
それからしばらくすると、ゴブリンのおにいさんがまどーしさんを連れて裏手から控えの間に帰って来たのです。
「おやまあ」
「おやまあ、じゃねえ! お前ぇ、魔法に詳しいんだろう。どうにかしろよな」
「どうにかしろと言われましても、サルワタの大使さまがえらい恰好ですね」
ニシカさんがとても怖い顔をしてまどーしさんを睨み付けました。
隣で見ていたッヨイもたまらずおしっこを漏らしてしまいそうになります。やっぱりおっぱいエルフは蛮族なのです……
「これを見てください、どれぇの背中に魔法陣が描かれているのです」
「本当ですね……」
「八芒星は一般的な魔法陣につかわれるもので、ッヨイの持っている魔導書と同系統のものです。けれど、法陣を囲っている円に書かれた文字列は見た事がないのです。これは古代文字ですよね?」
「ふむ、確かに古代文字ねえ」
「それから、この言葉」
勅令。ナメルシュタイナーの名をもって命ず、我に服従せよ。
「この名前にまどーしさんは聞き覚えがありませんか?」
「ナメルさんなら知っているわ。ゴルゴライからリンドルに逃走してきた養蜂家の男よね……」
「よーほー家が何なのかわかりませんが、ゴルゴライの領主のむすこだったのです。それでこの魔法陣が何なのかわからないでしょうか。まどーしのお姉さんは、魔法陣の描かれた護符を使い捨ての魔法発動体にしているんだよね?」
ッヨイがそう質問をするとまどーしさんは一瞬難しい顔をして、うつ伏せになったどれぇの背中をまじまじと見ました。いにしえの魔法使いたちが遣っていた文字を指で触りながら、何かもぞもぞと呟いています。
ッヨイもいくつかのッヨイが使っている魔法の栞やグリモワールの文字は読めますが、術式の形態が違うものまでは詳しくわからないのです。
「おい女、なんて書いてあるんだよ?」
「ふむふむ。この文字は自分を表していて、これは匂いを表す文字ですね。それからこれは、主を表す文字で、こっちは奴隷の文字です」
ニシカさんの言葉にまどーしさんはどれぇの背中に視線を落としながら言葉を続けます。
「古代文字の文法的にも、妙に丁寧で、無駄が多いわね。たぶん、これはいにしえの魔法使いが作った魔法の呪文ではなくて、応用して書き換えたものだわ。術式は間違っていないけれど、無駄が多い」
「どれぇの文字と、自分を表す文字はわかるのです。無駄が多いのですか?」
「わたしは魔法の発動体に使う道具は、自分で護符を用意しているんです」
そう言って言葉を区切ったまどーしさんは「どういうこった?」と質問をするニシカさんに改めて説明します。
「魔法使いの養女さまには説明するのもおこがましいのだけれど、基本的には魔法陣の書かれた術式の護符を自作して魔法を発動させているんです。養女さまの場合は、そのグリモワールを使って、使いたい魔法にあわせて、栞でページを指定しているでしょう?」
「そうだょ」
「わたしは、同じ魔法でもより強力な魔法を連発して使用出来る様に、使い捨ての発動体として護符を使っているのね。このタトゥーもそれと同じで、サルワタの大使さまにだけ通用させるための、特別な魔法陣だと思ってください」
なるほどなのです。
そうしてみると、この術式の魔法陣はどれぇ専用の魔法陣という事なのでしょうか。
「たぶんナメルさんが、どこかでサルワタの大使さまを支配するための魔法の施術をやっているのよ。ナメルさんはモンスターを使役する魔法を得意としていたはずだけれど、モンスターを支配するためには時間をかけて魔法による拘束を何度もするんだと言っていた事があったわ」
腕組みしてみせたまどーしさんは、ッヨイとニシカさんを見比べてそう言いました。
「おい女、それをどこで聞いた?」
「どこでって、ナメルさんが山の中のアジトに訪れた時に教えてくれたのよ。彼は、以前から触滅隊と繋がりがあったからね。わたしはサラマンダーに彼が支配の魔法を使う姿を見た事があるわ」
「……さ、サラマンダー」
「ほう、火竜というやつか」
サラマンダーというのは、ドラゴンの親戚なのです。ヤバいやつなのです……
それをおデブシュタイナーが支配の魔法で使役していたのでしょうか。ッヨイがその事を質問すると、
「ほら前に言ったでしょう? 触滅隊が強奪した金品を集めていた――」
「シッ、その事は今はいいのです!」
ッヨイはあわてました。その事はどれぇとッヨイとのナイショ話なのです。
今ここで、リンドルのみなさんがいる場所で口にしていい事ではないのです!
その事を察してくれたニシカさんが、腰後ろの山刀を抜いてまどーしさんに刃を突き付けてくれました。
「ひっ……」
「余計な事を言うと、ためにならないのです」
「…………」
まどーしさんは黙りました。
「と、とにかくそのサラマンダーを使役する時に使った魔法に似ているわ。何度も支配の魔法を繰り返さなければ、モンスターに命令する事は出来ないのですよ。それに問題もあります」
「問題。何だよさっさと言え!」
「お、お金をください。金貨五枚を頂ければ、対抗策をお教えします」
「ンだ手前ぇ? この期に及んでまだ自分の立場が分かっていねぇ様だな」
お金大好きなまどーしさんの言葉にニシカさんは怒りんぼになってしまいましたが、ッヨイはそれを制止しました。
「成功報酬なのです。どれぇの支配を解く事が出来れば、金貨五枚を支払います」
「わかったらさっさと説明しやがれ!」
「き、強力な魔法や術式を行う時は、血を使うのです。魔法陣に書かれている意味は分かるので、こちらでも同じことをやれば、上手くいくと思いますよっ」
「確かにそうなのです、血は魔法術式の発動に使う事がありますし、ッヨイもそれは思い至っていたのです。ッヨイが呪い返しをやってみればいいのですか?」
「そ、そうね。わたしがそれをやったら、わたしが大使さまの支配者になってしまいます」
「だったらさっさとその準備をしろ、ぶち殺すぞ!」
ニシカさんがまどーしさんにとても恐ろしい顔をしたところで、どれぇがビクビクと体を震わせたのでした。
あわててみんなでどれぇに視線を送ると、どれぇが何かを口にしたのです。
もごもごと口を動かして、何か言おうとしています。
「ん、何だシューターが口をパクつかせているぞ。はっきりモノを言えないのか?」
「……あっ……あっ」
どれぇは何かを訴えかけています。
きっと、自白ポーションで悪夢を見せられているのです。
「アヒィ!」
言葉にならない悲鳴を、口にしたのでした。
かわいそうなどれぇ……
◆
「こんなものを使って、そなたたちは一体何を始めると言うのじゃ?!」
「し、支配魔法の術式なのです。これでどれぇはッヨイが奪い返すのです!」
控室に垂れ下がっていたカーテンを外して、その上に屋敷からありったけのインクを集めて魔法陣を書きなぐります。
ダアヌ夫人おばさんは怖い顔をしてッヨイを睨み返しましたが、ニシカさんがあべこべにバジリスクみたいな恐ろしい顔で睨み返すと、黙ってくれました。
「な、なんじゃ。こなたに説明も無く怪しげな魔法を使うというのか」
「安心しろババァ、大人しくしていたらオレ様にぶち殺される事はないぜ」
「妹よ、今は静かに大使閣下の回復を待とうじゃないか」
夜会の合間にまた顔を出してくれたガンギマリーとオゲインおじさんが見守っている中で、施術を実施します。
ッヨイはこの魔法陣の術式を詳しく知らないので、魔法陣を書くのはまどーしさんがやってくれました。
かわいそうなどれぇ、すぐにッヨイが正気を取り戻してみせるのです……
「ただわたしは、いち度だけナメルさんがやっている施術を見た事があるだけなので、同じことを再現出来るかまでは保証は出来ませんよ……?」
「金貨五枚が惜しいのなら、必死で頑張るのですまどーしさん。失敗したら金貨も失い、命も失うのです」
「怖い事を言わないでくださいよ、養女さま。わたしも魔法使いの端くれとして頑張ります……」
それでいいのです。
魔法陣の構成さえ正しければ、普通に考えればこの施術が失敗する事はないとッヨイは思いました。
もともと魔法陣とは、そういうものなのです。
複雑な術式を簡略化するために魔法の方程式化させたものが、魔法陣なのです。
まどーしさんが強力な魔法を護符にしてすぐに使える様にしていた様に、ッヨイが魔法を使い分けるためにグリモワールの必要なページに栞を挟む様に。
「おい、仮にあのデブの方が魔術のパワーが強かった場合、どうなんだよ」
「大丈夫ですよ。支配の魔法は、むしろ距離の方が問題のはずです。あまり離れていては施術の効果に時間がかかってしまうのよ」
サラマンダーはかなり暴れるやっかいな相手だったみたいです。
ドラゴンの親戚なのでそれも当然で、おデブシュタイナーは鏃に血を塗ってから、弓で攻撃したそうなのです。
そうして離れた場所から術式を何度も何度も繰り返して、ようやくサラマンダーを支配したのだそうです。
もしかするとゴルゴライにいた巨大な猿人間も、罠を使って檻の中に閉じ込めて、それから魔法をかけたのかもしれないですね。
「魔法陣に誤りはないわねッヨイ」
「無いはずなのです、そうですねまどーしさん?」
「あ、ハイ。問題ないはず……」
ッヨイのわからないいにしえの魔法使いの文字部分については、ちゃんとまどーしさんが理解しているのです。それならば八芒星を縁取りしている円の意味も、間違える事はありません。
それにどれぇのタトゥーの中央に書かれている文字は、王国で使われている言葉と同じだったのです。
そこを施術者の名前に置き換えればいいだけ。
勅令。ッヨイハディ=ジュメエの名をもって命ず、我に服従せよ。
これで問題がないはずなのです。
ッヨイは腕をナイフで切って、血を垂らしました。
それを苦しそうにしているどれぇに付着させます。痛いけど、どれぇのためだと思えば。
どれぇはもっと苦しいんだもん。
「どれぐらいの血が必要なのですか?」
「血の量に何かの意味があったわけではないわ。サラマンダーの時は、ほんの数滴ほどだったはずだけれど」
「念には念をなのです。ガンギマリーがいるので、血が足りなくなっても大丈夫だょ」
だからッヨイはそれを聞いて念には念を、腕の切り傷をバッテンにしました。
任せてちょうだい、とガンギマリーがうなずいてくれたので安心です。
痛くない、痛くないのです……
「そ、それではいきます。フィジカル・マジカル・ドミネーション!」
どれぇの背中に塗り付けた血を使って、どれぇを取り返す魔法の施術がいまはじまるのです。




