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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第6章 対ブルカ同盟の模索
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165 不完全ロリババアは盗賊の隠し財宝の夢を見る

更新遅くなってしまい、すみません!

感想お返事は今しばらくお待ちくださいー。


 ダアヌ夫人の容貌をひと言で表すならば、かつてはロリだったババアというところだろうか。

 サルワタ外交使節団の賓客席を前にして俺を値踏みする様な目線を送るその姿は、そう言い表す以外にうまい言葉が見つからなかった。

 略してロリババア。違うか……


 年齢は確か三七歳と聞いていたが、丸みのある愛らしい顔をしていて年齢の割には苦労の年輪の様なものが見当たらなかった。

 若作りに見えるのは、背格好が低いわりに発育途上の女子高生みたいな肉付きの良さがあるからかもしれない。

 しかし、よくよく見返してみると唇に潤いがない不完全ロリババアである。やはり年齢を完全に隠す事は出来ないのだ!

 それでもお化粧による効果なのか、十分に実際の年齢以上に若く見えるからな。ぱっと見た感じだと子供を三人も産んだというのが信じられない様な幼さを残した表情だね。


 モノの本によれば、高貴な身の上の人間は産んだ子供に乳母を付けて、育てるのはその乳母の担当なんだというのをどこかで見た気がする。

 それは中世ヨーロッパでも近現代日本以前でも同じだったはずだ。


「何をしておる、こなたが付いてまいれと申しておるのじゃ」


 ポカンとロリだったババアもといダアヌ夫人を見上げていた俺に業を煮やしたのか、いっそう不機嫌そうに不完全ロリババアが言葉を吐き捨てた。

 あわてて俺は、隣に座って少し前までニヤニヤしていたニシカさんと顔を見合わせ、すぐにも立ち上がった。


「ここでは衆目もあるじゃろうから、こなたの席で少し話をしようと思うてのう。あの壇上のテーブルならば楽団が側で曲を奏でておるゆえ、その調(しらべ)に紛れて会談も出来るというものじゃ」


 なるほど、考えましたねダアヌさん。俺がそんな事に感心してしていると、


「まったく。そなたらは一向にこなたの元に挨拶も来よりゃせんので、しびれを切らしておったのじゃ」


 するすると歩いている途上で振り返る小柄な不完全ロリババア。

 本来は丸々とした瞳をすぼめて見せるダアヌ夫人は、かさついた唇をすぼめて拗ねた顔をしていた。

 ちょっとかわいいかもしれない。やはり子供を三人も産んだ人間にはちょっと見えない。


「それは大変失礼をいたしました。何ぶん、無作法な田舎騎士でございますので」

「フン。田舎騎士などと言っているがのう、そなたが全裸を貴ぶ部族の出である事は調べがついておるのじゃ。隠し立てする事では無かろうの」


 何もかもお見通しという風に自信あり気な顔をして見せる不完全ロリババアである。

 隣でチッと舌打ちっぽい事をして見せるニシカさんは無視して、すぐに俺は合の手を入れることにした。


「それはそれはお耳が早い。巷ではそんな噂が流れているのですか」

「こなたが配下を使って調べさせたのじゃ。こなたの村に出入りした行商人どもが、サルワタにはワイバーンを退治した全裸のよそ者が居着いておると、面白おかしく教えてくれたそうだからのう。ワイバーンを仕留めて村の裏切者の冒険者を誅したというのが、その方の事じゃろう。ん? 全裸を貴ぶ部族シューターよ」

「…………」


 これには俺も閉口した。

 言われてみれば村でよそ者がワイバーンをニシカさんと共に共同討伐したのだから、サルワタの開拓村で噂になっていたのは違いないだろう。あの村に出入りしていたという行商人については知らないが、きっと聞きもしないのに村人たちが近頃起きた出来事を外から訪ねて来た人間に吹聴したのかな?

 サルワタの外交使節団がリンドルへやって来たと聞いて、村を訪れた事がある行商人たちの噂をダアヌ夫人の部下たちが聞き込みしたんだろうな。

 俺たちが相手の情報を集めるのに仲間を動員した様に、この不完全ロリババアも躍起になっていたのだ。

 何しろよそ者嫌いだと聞いているからな。追い出すために、俺たちのあら捜しをしていたのかもしれないぜ。

 俺とニシカさんは顔を見合わせて苦笑した。


 ダアヌ夫人はそんな俺たちの態度など無視する様に、かさついた唇をぷるんと弾いた後、さっさと自分の席がある上座の方へと歩き出した。

 そしてその場に不完全ロリババアが着席すると、すぐにもオゲインおじさんが俺に軽く手を上げて見せる。


「おお、大使閣下。昨日の今日でお疲れのところであろうが、ようこそわしの妹が主催する晩餐会に顔を出してくださった。ところで、その腕は……」

「お招きいただきありがとうございます、ありがとうございます。この腕ですか? 腕はですね」


 どう説明したらいいものかと一瞬だけ思案していた俺を無視して、ブスっとした顔のニシカさんが気を利かせて説明してくれる。


「激しい戦闘で、筋を痛めたんだよ。聖なる癒しの魔法で強引に治療するよりも、こうして時には腕を休める事も大切なんだとよ。ガンギマリーが言ってたぜ」

「そうでしたかニシカ夫人。聖少女さまが仰るのなら、そうするのがいいのだろう」


 もしかするとニシカさんは、雁木マリとそういう風に示し合わせていたのかもしれない。

 その説明を聞いたオゲインおじさんも特段不審に思わなかったらしく、二重アゴを三重にして見せて納得の表情を浮かべた。

 問題はニシカ夫人などと言われた当の本人が、小声で「夫人じゃねぇ」とか不愉快そうに俺の方を向いて「何とか言えよなオイ」と愚痴をこぼしていた事だ。

 外交の席なので我慢ですよ、とニシカさんの背中に軽く触れる。


「辺境無敗の武辺者と聞いておったのじゃが、こなたの聞き違いであったのじゃろうか」


 するとダアヌ夫人が嫌味のジャブを飛ばしてくる。

 ニシカさんは今のうちは大人しくしているが、チラりと見やるとこめかみの辺りがピクピクとしているのでキレる寸前かも知れない。ヤバい、落ち着いてくれニシカさん……


「ま、まあそんな事よりも。まずは一献と行きましょう。この日のために用意した蒸留酒をどうですかな」


 オゲインおじさんが気を利かせて、すぐにも使用人によって運ばれてきた俺とニシカさんの酒杯に、お高そうな蒸留酒を注いでくれる。


「……では、我がリンドルとサルワタの未来に」

「辺境の平和と繁栄のために」

「フンっ」

「うまい!」


 とりあえずオゲインおじさんの言葉に合わせ、満たされた酒杯を重ねて口に運ぶ。

 不純物だらけのビールを飲むよりかは随分とマシな味で満たされた。もちろんアルコール度数は蒸留酒だからかなり高いのだろうが、隣のニシカさんはお気に入りの様子で、ひと口舐めたら称賛の言葉が飛び出したのである。

 ギロリと眼をすぼめながらこちらを見やるダアヌ夫人に俺は身構えた。


「さて。ではこなたからそなたらに、確認せねばならぬ事があるのじゃ」


 酒杯を置いた不完全ロリババアのダアヌ夫人が、眉間にしわを寄せながら言葉を続けた。


「ブルカ辺境伯の手足として暴れまわっていた触滅隊という盗賊どものう。随分とブルカの連中には好き放題をされてしまったものじゃが、連中の荒稼ぎしておった金銀財宝というのが残っているじゃろう。その在りかをこなたに申すのじゃ。包み隠さず、洗いざらいを」


 陽気な顔のオゲインおじさん。酒の味に気を取られていたニシカさん、そして何を切り出されるかと戦々恐々とした俺。

 そこにいきなり秘中の秘にあたる事を口にされたものだから驚いた。

 しかしそのタイミングでニシカさんが俺めがけて、高価な蒸留酒を毒霧してしまったのである。


「ぶべッゲホゲホ……」

「ちょ、何やってるんですかニシカさん」

「いや、ついな」


     ◆


 打ち合わせ事の基本は、まず交渉のイニシアチブをいかに奪うかであるそうだ。

 むかし俺がバイトで世話になっていたベンチャー企業の青年取締役は、そうして相手が興味を持つ話題を出鼻で振って見せるか、あるいは非常に困難な要求をぶつけるか。とにかく交渉事の状況に応じて、インパクトのある話題をまずはじめに切り出すやり方をよく実践していた。

 してみると、これはまさにインパクト満載の話題だろう。

 何しろ、触滅隊がこれまで散々悪党働きをしてかき集めた簒奪品の在りかは、俺とッヨイさまだけが捕らえた女魔法使いマドューシャから聞き出したはずの新鮮ピチピチ情報だったからである。


 その話をどこで? などと安易な聞き返しをしてはいけない。

 だがしかし、素知らぬ顔が出来るならばそれがベストなのだが、ニシカさんが妙なタイミングで酒を口から噴き出してしまったので、まるでこれでは俺たちが金銀財宝の在りかを知っていてズボシを当てられた様な嫌疑がかけられたんじゃないか?!


「これ、そこな者。すぐにもニシカ夫人に布巾を持って参るのじゃ」

「夫人じゃねぇ。ゲホ……ああすまねぇ」


 気管が焼けて驚いたのだろうか、ニシカさんは苦しそうに何度か咳を繰り返している。

 俺がそれを観察していると、その視線に気が付いた鱗裂きの長耳は、どういうわけか視線を逸らしてそっぽを向いた。

 ん?

 ニシカさん、もしかして俺たちとッヨイさまが女魔法使いから聞き出した時に、実は側耳を立てていたんじゃないだろうな……


「お、オレは何も知らないぜ。ちょっと質のよさそうな弓と山刀を頂戴してきただけだぜ!」

「アジトから持ってきたんですね?」

「む、村のルールにもあるだろう。拾ったモノはその場に持ち主がいねぇ時は、拾った人間のモノに出来るってよう」


 隠し事がいかにも苦手そうなニシカさんが、そんな言い訳をした。

 聞きもしないのに口にしたところを見ると、戦場からガメてきた負い目を感じているのかもしれない。

 どうやら女魔法使いが知っていた財宝の在りかを盗み聞きしていたわけではなさそうだ。


「ちょ、ちょっとお高い鋼の山刀を持ってきただけだぜ。な、そんぐらい許せよ……」

「その様なまやかしでこなたは騙されんのじゃ!」


 ドンとテーブルを勢い付けて不完全ロリババアが怒鳴った。


「お、おいダアヌよ。これは外交の席なのだから、落ち着かないか」

「兄上も何か言っておじゃれ、この者たちはこなたを謀(たばか)っておるのじゃぞ。つまらぬ山刀などをダシにして、本来隠されている盗賊の財宝の在りかを隠そうという寸法なのじゃ!」

「しかし外交の作法に反してこの様な態度はならぬものだ」

「ええい、こなたは最初から嫌じゃった。この様なよそ者を歓迎する晩餐会など、不愉快にも程がある。あまつさえ、この全裸の長耳嫁は何と言ったか。持ち主がおらぬのなら拾ったものは自分のモノだなどと、よくもまあヌケヌケと」

「落ち着くんだ、ダアヌ」


 おい何の話だと、ニシカさんが俺のギブスにかかった酒を拭き取りながら小声で聞いてきた。

 俺は素知らぬ顔で横に首を振って、よくわからないという表情で返す。


「マリアツンデレジアに取り入る様な真似をした次は、盗賊の財宝を独占か? シラを切るのも大概にするのじゃ。こなたの配下が触滅隊の潜入しており、彼奴らの財宝が確かにあった事はこなたも知っておるのじゃ!」


 のじゃ! と身を乗り出した不完全ロリババアに、俺はちょっと圧倒された。

 やはり外見がいくら不完全ロリでも中身はババアなのだ。子供を三人産んだ肝の座り具合に、ニシカさんまでドン引きしている。

 もちろん俺もちょっと後ずさりをしながら、顔をひきつらせた。

 恐らく楽団が曲を奏でていなければ、衆目がこの会場の上座に集まっていたんじゃないだろうか。


 このままシラを切るべきか白状するべきか、俺は悩む。


 どういう手管を使ったのか、触滅隊の中に自分の部下を紛れ込ませていたというのだから、連中の隠し財産がある事は聞き及んでいたのだろう。

 しかしどうも怪しいな。単純に部下を紛れ込ませていたというには、ダアヌ派に属していたリンドルの領兵たちは弱兵に過ぎるきらいがあったしな。

 待て、単純に触滅隊の一部に金を握らせて、情報を掴んでいたというのが実情なんじゃないだろうか。

 俺がその事をしれっと切り返して言う。


「その情報提供者には、いくら金を掴ませて動向を知らせてもらっていたんでしょうねえ。危険情報を察知していたからこそ、あなたは配下の商会にはリンドル往還を使わせず、オッペンハーゲン経由で商売をやっていたんじゃないですか?」

「な、何をいうのじゃ。こなたの部下が優秀である事を疑うのか?!」

「優秀ならば、そのありもしない野盗の財宝の在りかも、きっちりと調べて来るものでしょう。そもそもその財宝があったとして、あなたはどうするおつもりなんですか」


 よそ者嫌いで名の通ったダアヌ夫人である。その上、欲深い性格をしているとなれば、俺の中で不完全ロリババアの評価は最低ランクになっちゃうね。


「そ、その金をアテにして、ベストレの領主から土地を買う事を考えておるのじゃ」

「ほう? それはどうして」

「リンドルは農作物が不足しておるのじゃ。肥沃な土地を買い込んで、自主独立を何としても守ろうと思っておったのじゃ。ブルカなどに頼ることなく、それどころかサルワタなどという辺鄙な土地の領主に大きな顔をされて連合を組むなど、これでしなくて済む事になるのじゃ」


 どうだエッヘンとばかり鼻を鳴らしたダアヌ夫人である。

 調べてきた雁木マリの言葉から連想するイメージではもっと気難しい、どこにでもいるごく一般的な人間の中年女性をイメージしていたものだ。

 だから眼の前のちょっと調子にのったロリっ娘みたいな態度は、ちょっと奇妙に映ったものだ。


     ◆


「わしの妹はああ言っておるが、シューター閣下。実際のところ財宝などという馬鹿げたものは本当に存在しておるのですかな?」

「捕囚の尋問を行った結果、そういう情報が出てきたことは確かですねぇ。ただどこまでそれが本当で、どこに隠されているかまでは存じ上げないとしか申し上げられませんよ」


 お花を摘むために席を外したダアヌ夫人が不在の内に、肉太りのオゲインおじさんと身を寄せてヒソヒソ話をした。

 ここで簡単に情報を教えるほど俺は馬鹿ではない。


 ニシカさんはお間抜けな言い訳をしてくれたおかげで、不完全ロリババアは俺たちが話を煙に巻いたと憤慨している様だが、これについてはッヨイと話し合って決めた方がいいだろう。

 俺の一存よりは賢くもッヨイさまと情報共有してから判断するべきだな。

 何しろ場所が場所、女魔法使いが指し示した盗賊の財宝の在りかは、隣の領地との境界線上に位置する場所にあったんだもんね。

 これがセレスタの領境にあったのなら、強引にでも掠め取る方法もあったかもしれない。

 事は慎重に、だ。


「では、妹が満足するかどうかわからんが、調べの続行をお願いしますぞ。隣の、ベストレの領地を買い取って農業生産を賄うというのは、以前からわしが考えておった計画なのだ」


 内政向きの事は任されていたというだけあって、農産物不足を補うための政策はしっかりとオゲイン卿が計画していたらしい。

 確かに肥沃な土地を手に入れたのなら、慢性的に不足する穀物や野菜の収穫源が手に入るので一見すると良い案ではある。

 鉱物資源や加工品の輸出で得た資金で農作物を他領から買い求めるよりも、よほど自主独立を考えるならば妥当だろう。しかし、


「それには、相応の金が必要でしてな」


 恐らく交易で賄える税や資金でも、他領から土地を買うのには足らないのだろう。


「そもそも、その計画は渉外を担任されるマリアツンデレジア夫人はあずかり知らぬことなんじゃないですかねえ」

「これは御台さまと一時休戦をする前から計画していた事ですな。その事は御台さまもご存じない」

「この期に及んでダアヌ夫人はブルカ伯との対決どころか、俺たちやマリアツンデレジア夫人の追い出し工作をやるつもりはないでしょうね……」

「あれは、先代子爵さまがご健在で夫婦仲の良かったころは気立ての良い妻だったのですが、マリアツンデレジア夫人にエミール夫人と先代が妻を迎えた頃から、へそをまげましてなあ」


 何とかしろよ、あんたの妹だろ!

 ブルカ辺境伯への脅威についてどう思っているのか、あの不完全ロリババアは小一時間問い詰めてやりたいところだ。


「今はお家騒動をやっている場合ではないという事を、ご理解いただきたいですねぇ」

「わしは重々承知しておりますよ。頼みの領兵も無様なものだったですから、そこは理解しておる。しかし、妹は頑なでな」

「おいジジイ、」


 苦しい顔をして言い訳をしていたオゲインおじさんに、これまで黙っていたニシカさんが顔を突き出してぶっきらぼうな口調で言い放つ。


「こ、この山刀がそんなに欲しいならくれてやるぜ。これで土地が買えるんだろう? オレ様もお宝を独占しようなんって気はべべべつに無かったんだからな。シューターが困るのはオレ様の本意じゃねぇ!」


 差し出されたのは、なかなか豪華な鞘に収まった山刀だった。

 宝石なんかもはめ込まれていて、確かに売れば値が張るものかもしれない。

 それを抜いてみると、そこには鋼で出来た黒光りするくの字に曲がった刃が出て来る。山刀の腹にはよくわからない紋様が刻まれていいる。

 ただし読み書き一年生の俺には難しい文字を読む事が出来なかった。


「ま、魔法の威力がパワーアップする山刀だぜ。この紋様はたぶん魔法の文字か何かだな。ようじょの落書きノートと同じ様なもんだ。お、オレ様もこの山刀が、土地まで買えるお宝だとは思わなかったんだ。勘弁してくれよなあ、シューター」


 情けない顔のニシカさんが、ペコペコと頭を下げた。


「閣下、これは確かにいいものだ。しかし、これでは土地は買えませんな。せいぜい金貨一〇〇枚というところでしょう」

「そうですね。造りは程度の良い鋼か何かの刃ですけれど、魔法の付与効果とやらがなければ、これといって普通のお高いマシェットかな?」


 ニシカさんの気持ちはありがたいが、鞘に納めて黙ってお返ししておいた。

 確かに金貨一〇〇枚は相当な値の張る武器ではあるけれど、これ一本じゃね。しかし俺がブルカ伯金貨でせいぜい二〇枚足らずだった事を考えると、内心で凹んだのは内緒である。


「な、何だよ。オレ様のキモチが足りないってのか? キモチが?!」

「キモチは十分頂きましたので、落ち着いてください」


 暴れるニシカさんに酒を勧めてなだめすかせる事にした。

 その瞬間である。


 ビクッ!


 俺の背中に落雷の如き激震が駆け走って、俺はたまらずエビ反りになる。

 何事だ?!

 わけがわからない驚きの中であわてて俺はニシカさんの腕をぐっと握った。


「ど、どうしたんだシューターおい」

「ぐっ、背中のタトゥーが反応しています……」


 たぶんそれだろう。というかそれしかない。

 痺れる様な痛みが激震の後にも残っていて、それが脈打つようにズキンズキンと繰り返し襲ってくる。

 そして再び、ビクンビクンと背筋に激震が駆け走った。


「ひぐっ、雁木マリを、死ぬ……!」


 俺は今とても痺れています、雁木マリを呼んで来て下さい。

 そう伝えたかったのだが、どこまでそれが理解できたのだろうか。ニシカさんは驚いて俺の握る手を強引に腕から放すと、会場のどこかで折衝をしているだろう雁木マリのところにすっ飛んでいった。


「もしや、酒があいませんでしたかなシューター閣下」

「いえ、大丈夫です。しばらくすれば雁木マリが来てくれますので……」


 俺は顔一杯に脂汗を浮かべながら、必死に自制を働かせようと模索していた。

 背中から、神経のありとあらゆる場所に脳とは別の場所から命令伝達が行われている様な具合だった。

 それを自らの意志で必死に押さえつけようとしているのである。


 畜生め、タトゥーが変化して魔法陣が完全体になろうとしているのか。

 俺は浅い息をしながら、必死に我が身の震えをこらえるのだった。


 来て、早く来て雁木マリ!

 このままじゃ、俺もう我慢出来ないビクンビクンッ!!


活動報告にて、第二章の表紙絵を公開しました。

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