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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します
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142 階段の白き嶺城 9

今回投稿分は改めて後半パートを加筆修正させていただきました。


 この夜会の最中、大広間にあって手持無沙汰にしている集団がふたつあった。

 それは俺たちサルワタ領の大使夫妻ともうひとつ、ダアヌ夫人派に属している人々である。


 リンドル子爵シェーン卿の主催という名目で夜会が開催されている以上、第一夫人ダアヌ派であろうが第二夫人マリアツンデレジア派であろうが、領主の面子もあるので家臣は参加しなくてはいけない。

 そうでもなければリンドルの家中がお家騒動中だという事を、他領の人間に宣伝してしまう様なものである。

 けれども実際のところ、この夜会のダアヌ夫人そのひとが参加していない。

 それに俺たちは独自の調査で多少なりこの両派閥が対立中である事は把握しているんだけどね。


 もうひとつ付け加えるなら、そういう雰囲気がある事はこの大広間を見渡してみれば何となく伝わってくるというものだ。

 文官、武官という縛りで固まりを作っているだけでなく、お貴族さまたちはいくつかのグループにわかれて互いにあまり積極的に絡もうとしていないんだからな……


「シューターさん、あそこにいる男性がこちらを見ています」


 上品に笑顔を絶やさず会場を歩いていた俺たちであるけれど、カサンドラがふと身を寄せて俺に視線の先を見る様に促してきた。

 そこに立っているのは年配の中年男性と、似た様な年齢のふたりの女性である。

 いずれも上等な服でおめかしをしているところから、高貴な身の上の集団である事は間違いない。

 ご領主シェーン卿からやや離れたところにいるのだから、あれは確かダアヌ派の人間だったはず。


「名前は何だったかな。ダアヌ夫人の血縁者で代理人とか言っていたな」

「確かオゲインさまだったと思います。ダアヌさまのお兄様にあたるお方です」


 そうだった。ダアヌ夫人の実の兄で、シェーン卿から見れば伯父に当たる人物である。


「何とも見事な肉太(ししぶと)りの外見だな。お、こっちを向いて笑顔を向けている」

「ど、どうしましょう。こっちに来られるみたいなんですけれど……」


 何事か隣のご夫人に話しかけたかと思うと、肉太りの中年男はゆっくりと脂肪を揺さぶりながらこちらにやって来るではないか。

 微笑は絶やさず。その視線の先はどうやら俺ではなくカサンドラに向けられているらしかった。


「ご機嫌麗しゅう、サルワタ大使カサンドラ閣下。今夜は楽しんでおられますかな?」

「あ、ありがとうございます。ありがとうございます。夫とともに都会の雰囲気に魅了されていたところです」


 カサンドラにはしっかりと言葉を、俺には眼だけで会釈をしてくれたオゲインおじさんである。


「まもなく楽団が、舞踏の曲を弾き始める時間ですぞ。閣下ご夫妻は舞踏をされた事はおありかな」

「いえ、わたしたちの領内では庶民が踊るささやかなダンスがあるぐらいの事で、お貴族さまの舞踏をした事はありません」

「そうでしたか。いやなに、庶民も貴族もダンスがひとびとを魅了するという意味では変わりませんぞ」


 ヒゲを蓄えた口をニヤリとしてみせたオゲインおじさん、ちょうど楽団が弾き奏でる曲調が変わる瞬間を待ちながら貴族の礼節をとって腰を折り、右手を胸に置いて見せた。


「よろしければカサンドラ閣下、わしと踊ってはくださらぬだろうか」

「で、でも」

「なあに、心配はいりませんぞ。わしがリードしてさしあげますからな」


 困惑の表情を浮かべていたカサンドラは、助けを求める様に俺の顔を見てきた。

 仮にもリンドル領主のおじさんの誘いを断るというのは、なかなか難しいところがある。

 恥をかかせたと言って後で何かを言われたら大変な事になるのも事実で、そういう事を心配して受けるべきか断るべきか逡巡している様子がうかがえた。


 正直な事を言えば他人と自分の奥さんが踊っているところを見るなんてのはあまり気持ちのいいものではない。

 しかしもしこれがお貴族さまの嗜みで外交の一環だと言われれば、困っちゃうわけである。

 俺がもっと偉い、爵位をもったお貴族さま(例えば公爵とか)ならば鼻で笑って追い出せるんだけれどね。

 けれども、カサンドラ本人が嫌だという意思表示をしたのなら、そこは男として夫として、やんわりお断りするのもありだろう。


 カサンドラはもういち度、俺の顔を見上げたかと思うと「やります」という意思表示を視線に宿してきた。

 うまくこのダンスをきっかけに、舞踏の後で談笑に持ち込むつもりなのだろう。

 ほんの半年足らず前には猟師の娘に過ぎなかったカサンドラが、こんなにも積極的になるだなんて。

 俺は素晴らしい奥さんをもらったんだと改めて思った。

 ありがとうございます、ありがとうございます。


「いっておいで、カサンドラ」

「はい。オゲインさま、はじめての舞踏ですので、リードをよろしくお願いします」

「任せてくだされい。わしはこれでも舞踏は得意なのですぞ」


 オゲイン氏もこういう誘いについては一定の礼節にのっとってやるつもりらしく、その視線で「奥さまをお借りしますぞ閣下」と意思を伝えて一礼してみせた。

 そして楽団が緩やかな曲調を奏で始めると、ふたりは手に手をとって中央に集まったひとびとの輪の中に消えていったのである。


「義姉さんを行かせてもよかったの、シューターさん?」

「かまわない。本人が嫌がったら止めるつもりだったけど、カサンドラも大使としてしっかり仕事をこなそうというつもりなんだろう。だから俺たちも、俺たちに出来る役割をこなすとするか」

「うん、わかった」


 傍らでじっと控えていてくれたけもみみが、俺の言葉にコクリと頷いてくれた。


「それじゃ、ぼくは何をすればいいかな?」

「カサンドラがダンスを終えたら、即座に迎えに行って側についていてくれ。カサンドラはたぶんこの機会に、オゲインおじさんや他のダアヌ派のみなさんとの接触を試みるはずだ。側にいて何かあればサポートしてやってくれ」

「うん、まかせてよ」


 楽曲にあわせて、恐る恐るという感じでステップを踏んでいるカサンドラを見やりながら俺たちは会話を続ける。

 カサンドラをリードする腹の突っ張ったオゲインおじさんは、ただのデブおじさんというわけではないらしい。ちゃんとダンスが出来る高貴なデブだ。


「ひとまずダアヌ派との事はカサンドラとエルパコを信頼して任せる事にするよ」

「シューターさんはどうするの?」

「何とかマリアツンデレジア夫人本人と交渉出来ればいいんだけれどな。本人がいないんじゃどうにもならない」

「うん……」


 ちょうどひとしきり舞踏の軽やか曲がひとつ終わりを告げたらしく、手を引きながらオゲインさんがカサンドラと共に、ダアヌ派の集まる場所に移動をするところが見えた。

 エルパコはすぐさま俺の表情を見やりながら確認をとると、素早くカサンドラの元へと小走りに向かった。


 そして俺はボッチになったわけだが、


「……ご精が出ますのね」


 大広間の会場を壁に背中を預けて全体を俯瞰しようとしたその瞬間に、背後から女の声がした。

 驚いて振り返ると、そこには女中を伴ったマリアツンデレジア夫人の不機嫌な顔が、こちらを睨み付けているのだった。


     ◆


 柳眉を釣り上げたマリアツンデレジアは、会場の控室があるのかカーテンの陰になる様な場所から少しだけ俺に見える様に姿を現した。

 そのまま大広間の夜会に合流するのかと言えばそうでもない。

 夜会を思い切りに楽しんでいる様にみえるみなさんの事など無視して、じっと俺を睨み付けてくるので俺は心の中でドキドキした。

 何しろ、マリアツンデレジア夫人は未亡人であるけれども二六歳そこそこの年頃の女性だ。

 この世界、あるいは俺の奥さんたちの面子を振り返ってみれば十代後半の若い娘たちもいるけれど、年頃の近いアレクサンドロシアちゃんだって第三夫人である。

 もちろん俺のシューティングレンジの中に彼女はいるわけで、しかめ面をして腕組みをし、そしてゴミか屑の様なものを見る目で睨み付けられるのは雁木マリに普段から慣らされている俺としては、ご褒美みたいなもんだ。


「我々も必死なんですよねぇ」

「……わたしたちに近付いて、何が目的なんですの?」

「ブルカ辺境伯の魔手はどこまでも伸びていますから、してみると同じ境遇のひとびとと大同盟を結んでこれに対抗する、必然的にその思考に落ち着くってもんです」

「…………」


 俺の回答にマリアツンデレジアは応えなかった。

 ただ不機嫌なその表情をいっそう厳しいものにして、控室がある方向にあごをしゃくってみせる。

 付いてきなさいと言いたいのかもしれない。

 うちの奥さんであるところの女村長もそうだが、この世界の権力を持った女性は乱暴で短気なところがあるからいけないね。

 俺は大人しく彼女の足取りについていくことにする。

 けれどもそうする前に、俺より少し離れた場所で、同じように広間の壁に背中を預けて不味そうにビールか何かを飲んでいたニシカさんに目配せをした。


 これ以上問題を起こさないつもりで気を使っているのかな。

 自分で大人しくしておこうと自粛している鱗裂きの彼女であるけれど、しっかりとこちらにだけは注意を払っていてくれたらしい。

 この場所を移動する直前にチラリとニシカさんに視線を送ると、こちらも不機嫌そうな顔をしていた彼女が酒杯を口元から話して、コクリと頷きを返してくれた。

 ゆっくりとこちらに向かう姿を見て、俺はカーテンの向こう側に飛び込むことにしたのである。


 この控えの部屋では何が待っているのかな?

 うちのアレクサンドロシア第三夫人には、間違っても他領のお貴族令嬢ご夫人と関係を持ってはいけないと言われたものだけど、もしもマリアツンデレジア夫人がそういう関係を求めてきたらどうしよう?

 ちょっとだけそういう可能性を期待する、ではないが身構えてしまう、ではないけれど……

 いいね! 

 などと単純に喜ぶわけにもいかないし、たぶんそれは所詮妄想の中だけの出来事になるだろう。

 

 果たして俺がカーテンの向こう側に踏み込むと、控室だと思ったそこにマリアツンデレジア夫人の姿はなく、その控えの間からさらに奥に続く部屋の前に、例の女中おばさんが立っていた。


「奥さまがこちらでお待ちです。ささ、他の方に気付かれる前に……」


 当然俺は生唾を飲み込んだ。


活動報告にカラメルネーゼさんのキャラデザ初期案を掲載しました。

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