131 盗賊包囲網は完成しました (※ イラストあり)
いったん投稿した本日分に加筆修正を加えました。
ようじょの放った特大のファイアボールは、ちょうど俺の逃げてきた暗闇の中で爆散した。
仲間たちの伏せていた場所は、地形的にちょうど小さな谷間を見下ろす様になっていた。
俺が全力でそこを駆け下りながら逃走し、それを追撃する散開した触滅隊の連中も谷底めがけて足を滑らせながら駆け下りた様な格好になっていたのである。
当然、集まって来た彼らにファイアボールが撃ち込まれる格好になったので、散らばった目標に対してようじょビーム放出させるよりも効果的であったというわけだ。
さすが賢くもようじょ、あたまッヨイ!
「ぎゃあああ! 火が、火がっ」
「誰か消してくれ助けてくれ! 焼ける!」
無慈悲にも業火に巻き込まれた触滅隊の連中は全部で十人あまり。かなりの人数をたった一撃で戦闘不能に持っていく事が出来たらしい。
そしてこの一撃で撃ちもらした、ギリギリでどうにか巻き込まれずに済んだ触滅隊の人間たちを狙って、雁木マリとハーナディン、それからニシカさんとけもみみが、それぞれファイアボールや弓を使って仕留めようとしていた。
このわずかの間に敵は最初にいた全体の半分近くまで数を減らしたはずだ。
一方の俺たちは一緒に行動していたニシカさん、伏兵をしていたようじょと雁木マリ、けもみみ、ハーナディン、野牛の兵士タンスロットさんとッジャジャマくんの八人である。
敵が十五、六人まで数を減らしたことを考えても、まだ数的不利な状態だ。
「散開しろ、固まらずに連中を包囲するんだ! 相手はこちらよりも数が少ないッ」
闇の森の中でそんな声が大きく響き渡った。
たぶんこの声は触滅隊を率いている例の強そうなリーダー格の男のものだろう。
するとその声を聞いた触滅隊の連中は、森の木の幹をうまく遮蔽物にして、ファイアボールや矢を避けはじめる。
訓練された兵士であるのか、憎たらしい事に混乱からの回復が早い。
「おいようじょ、土の魔法でつららを突きあげてくれ」
「どこにですかニシカさん?」
「その先のあたり、どこでもいい。十本ぐらい盛大にやってくれ。敵を狙わなくていいぞ!
ニシカさんの指示を聞いたようじょは、頭に「?」を浮かべながらもすぐにこれを実行する。もにょもにょと小さな呪文を唱えたかと思うと、敵が散開しているあたりにズズンと十数本の土くれの棘が出現した。
当然この攻撃はに被害を与えるわけではなかったけれど、ニシカさんは満足したらしい。
「ニシカさん、こんな事をしてどうするのよ! 意味があるの?!」
「おう黙ってみてろ、こうするんだよ!」
ファイアボールを放つ手を止めた雁木マリに、ニシカさんはばるりんと胸を豪快に揺らして弓を押し付けた。そして人差し指を土くれの無数の棘に向けて竜巻の魔法を放出だ。
強烈な暴れる風の渦巻きは、土くれの無数の棘の先をへし折る勢いで飛び込んでいく。というか土くれの先端はバキバキと折れるのだが、これが前方の森の中に撒き散らされていく。
ッヨイさまご自慢の土の魔法にこんな使い方があったなんて驚きだ。
それをニシカさんの風の魔法を使った事で、さながら散弾銃を発射したような効果があったらしい。
「ニコラさま! ちくしょうこいつらは難敵です」
「いったん引き下がれ、下がって体勢を立て直すぞッ」
「アジトまで逃げて、本隊と合流しますか?!」
「馬鹿野郎、例の場所で合流だ。俺が殿をつとめる!!」
闇間の中で連中が問答をしている。
どうやら一瞬でかなりの被害を出したので、撤退する方向に進んでいるらしい。
だがこの短いやり取りの中でもわかった事があるぜ。
ここにいる触滅隊の連中はこれが全員というわけではないらしい。本隊が別にいて、この別動隊を率いているのはニコラという男、あのやばそうなオーラを出していたヤツだな。
その時である。
撤退行動に移ろうとしていた触滅隊たちを目がけて、闇の山中で馬蹄の響きが迫っていたのだ。
「妖精剣士隊、突撃よぉ!」
あの男色男爵だ。この暗闇の山の中にも関わらず、妖精剣士隊の騎兵を引き連れて男色男爵が騎馬突撃を決行したのだ。
逆落としとでもいうのだろうか、少し離れた場所で松明を掲げながら逃走を開始した触滅隊の後続集団に向けて容赦のない突撃を実施している。
「新手か!」
「撤退急げ、逃げ遅れるな!!!」
俺たちは勝機を見出した。
雁木マリとようじょが顔を見合わせる。
「今です。包囲網を完成させましょう!」
「了解反撃、接争!」
この機会を逃さないとばかり、雁木マリは抜剣した白刃をファイアボールの延焼で煌かせながらハーナディンや野牛の兵士らとともに駆け出した。接争という言葉は確か村でもワイバーン戦の時に冒険者たちが使っていた言葉だが、きっと近接戦闘用意という様な意味合いがあるのだろうか。
俺もそれに続く。うかうかしてはいられない!
「エルパコ、ッヨイさまを守りながら支援射撃だ!」
「わかった!」
「ニシカさんは俺の援護をしてくれますか!」
「おう任せろよ相棒!」
俺たちは燃え盛るファイアボールの後を前進して、遮蔽物に隠れる触滅隊の連中を探しながら反撃に転じた。
連中も何とか動揺を打ち消しながら攻撃を仕掛けて来るけれど、雁木マリやハーナディンは軍事訓練を受け、何度も死線を潜り抜けてきただけに一対一の戦闘でその実力は完全に凌駕していた。
数度にわたって剣を重ね合わせても競り負けず押し返す形で最後はとどめを刺す。
こういう時にしっかりとした防具を身に着けていない山賊まるだしスタイルの奴らは、簡単に傷を負ってくれるので楽だ。
逆に胸甲を付けているヤツは攻撃する場所が限られるので非常に厄介だ。
そしてこういうヤツに限って俺の前に飛び出してきやがるんだよね。
それを俺は姿勢を低くしながら敵の一閃を跳ね上げてやり過ごし、そのまま肩でタックルをかまして転がしてやる。
むかし俺は殺陣の斬られ役を経験していたので、受け身を取りながら即座に転がって立ち上がり、剣を構えるまでの一連の動きは嫌と言うほど訓練してきた。
そのまま体に覚えさせた行動でやってのけると、後続していたニシカさんがその男にブスリととどめを刺している姿が視界の端に飛び込んできた。
俺はそれには構わず次の相手を探しながら周囲を見回すと、ひときわ恐ろし気なオーラを放つ存在を森の茂みの中に発見した。
殺気だ。これぞ殺気という感じでめらめらと闘志を躊躇なくまき散らしている相手が、無言のうちに飛び出してくるではないか。
すぐ近くには残敵を掃討していた雁木マリがいた。隣でハーナディンもいるけれど、ふたりともその闘志の男に気が付いていない。
やばい。
そいつはまき散らした闘争心を雁木マリに接近する直前でひと塊にさせて、剣を振りかぶろうとしてきた。
触滅隊を率いているリーダー格の男ニコラだ!
「マリ、駄目だ逃げろ!」
「え? ちょ?!」
男はほとんどひと跳躍で距離を詰めたかと思うと、あわてて剣を引きあげながら受け太刀をした雁木マリに豪快な斬撃を振り下ろしていた。
マリは受けた白刃ごと勢いよく肩に剣を押し付けられて悲鳴を上げた。
すぐさまハーナディンが駆け出して突きを見舞おうとしたが、何かの魔法を使ったのかそれが吹き飛ばされる。
違う、魔法じゃなくて鞘をハーナディンの喉笛に突き込んだのだ。
ほんの一瞬のうちに歴戦の修道騎士ふたりを無力化したその姿を見て、俺はたまらず走り出していた。
もちろん逃げるんじゃない。
全力で潰してやる。
「シューター、そいつはやべぇぞ!」
「言われなくてもわかってる! 援護してください!!」
こいつは殺戮マシンみたいなやつだ。
剣豪みたいなヤツがこの世界にも存在しているとすれば、たぶんこいつに違いない。
俺の気持ちが萎縮しそうになった瞬間にニシカさんの声がかけられて、すかさず後退する瞬間にニシカさんが放った空気を切り裂く矢の一撃が駆け抜けた。
ニシカさんの弓矢なら一撃必倒、そう思うだろ?
けれどもその矢の一撃は、目の前で触滅隊のリーダーに斬り飛ばされてしまった。
「チッ!」
この瞬間を見逃したら攻撃のチャンスがなくなる。
俺は水平に剣を薙いでヤツとの距離を詰めようとするが、これはそいつの服を切り裂いただけで終わった。
すぐにも頭上で山を返し、斜め斬りを見舞う。そして追従の突き。
だがそれらはことごとく剣豪マンにかわされてしまうと、今度は反撃を許してしまった。
差し出した剣をすり抜けて斬りつけ、斬り上げ、そして体当たり。
その三度目で俺たちは白刃を重ねて押し合いへし合いをしながら次の攻撃を互いに探した。
緩やかな傾斜のかかったここは足場が悪すぎるので、足を相手にかけてやろうかと思ったがこれが難しい。
そしてこのリーダー野郎は口が臭かった。
鍔迫り合いをして互いに顔が接近しているので、暗がりの中で男の臭くて荒い吐息が俺の顔にかかった瞬間、顔を背けた隙に押し倒されてしまった。
男に押し倒される趣味はねえ!
たまらず地面を探って土を手でつかんだ俺は、そいつをニコラの顔面あたりに撒きつけてやる。
「ぐおっ。おのれ」
どうやらやたらめったまき散らした土はニコラの顔にかかったらしい。その隙に必死で俺は立ち上がって体勢を立て直した。
向うも完全に目潰しをされたわけではないのだろう。何度か暗闇の中で眼をこする仕草はしたものの、剣を構えたままこちらに探りを入れている。
危機は脱したが、相手に切り込む隙がなかなか見つからなかった。
「マリ、大丈夫か!」
「……肩をやられたわ、聖なる癒しの魔法で止血だけは何とか」
「ハーナディンの様子は?!」
「うっぐ、息をしています……」
背後でうずくまっているふたりにむけて俺が叫んでやると、弱々しい返事が返って来た。
死ぬ様な事はないらしいが、今しばらくは戦力として期待は出来る状態ではないだろうな。
ハーナディンが肩口に傷を負った婚約者を引き下がらせるのを確認しながら、足元をじりじりと固めた。
「おいニコラさんとやら。お仲間はみんなセレスタの領主さまの騎兵隊に蹴散らされてしまった様だぜ」
「フン、その様だな」
「降伏するのが一番最善の策なんじゃないのかね?」
こんなヤツと命のやり取りをしていたら、いつ死んでもおかしくない。
殺し合いなどせずに降伏してくれるのなら、それが一番いいに決まっているのだ。
たぶんしないだろうけどね……
「盗賊は晒し首と決まっているのでな。どうせ殺されるぐらいなら道連れに何人か魂の旅立ちに付き合ってもらうつもりだ」
「惜しいな、あんた軍人だろ?」
「…………」
「剣の振りは大きく見えてその実、雑さがない。それは訓練を受けた人間の太刀筋だ。残念な任務を引き受けた結果、残念な死に様を迎える事になったね」
「ぬかせ。そういう貴様も何者だ、道楽貴族が女を連れて旅をしているなどと、とんだでたらめだ!」
言うが早いか口の臭い男ニコラは剣を引きあげた。
すわ攻撃か?! と思うと、ニシカさんとけもみみがタイミングを合わせて弓を射かけたらしい。
しかしそれも見事な剣捌きで、しかもこの暗闇の中で弾き飛ばしてしまった。
それどころかその瞬間に隙を付いて攻撃してきたようじょビームすらも、受け身を取りながら避けてしまうじゃないか!
どうなってんだこいつ、とか何とかニシカさんが叫んでいる声が聞こえた。
こんな奴を相手にするのは正直まっぴら御免こうむるのだが、ここで逃がして後々奇襲でもされようものなら、勝てる気がしない。
「くそ、逃がすか!」
俺はそのまま闇の中に身を消そうとしたこの男を追って走り出した。
何人か道づれにしてやるなんて殊勝な敗軍の指揮官めいた事を口にしていたけれどとんでもない。こいつは死ぬつもりなんてまっぴらない。
生きる事を諦めたヤツのやる事じゃない!
背後を振り返った逃走中のニコラが、投げナイフの様なものを放った。
くそったれ、俺はお前と違って華麗に剣で弾き上げるなんて事は出来ないんだよ!
何とか身をよじって避けたつもりが、肩をかすめる程度には傷を負ってしまったようだ。するといきなり体を返したニコラが、剣を振るって踊りかかって来た。
受け太刀したら駄目だ。
この勢いの乗った一撃で、雁木マリは受けた自分の剣ごと肩を斬り刻まれたのだから避けるしかない。
しかし完全には避ける事が出来なくて胸元をばっさりとやられた。
いや、痛みが無い。アドレナリンが出ているからではなく、服だけをバッサリ斬られた。
間一髪で助かったらしい。
こちらもけん制の一撃で剣を薙ぎ払って見せたが、これも相手に避けられてしまう。
どうする。
これでは一切、手が打てない。
だが生き残ろうとした人間はどこかに隙があるはずだ。
考えろ、考えるんだシューター!
http://15507.mitemin.net/i175914/
イラスト提供:猪口墓露さん
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