表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第5章 俺たちは辺境諸侯を歴訪します
148/575

閑話 謎解きはディナーの前に 前編 (※ イラストあり)

雁木マリからの視点補完になります。

挿絵(By みてみん)

http://15507.mitemin.net/i174700/






 セレスタ領主から晩餐会の招待が届いたのは、この街に到着してしばらくくつろいでいた頃だった。

 そのため、あたしたちは領主の謁見を受けるのだからと、あわただしくお風呂を用意していた。


 宿泊所の自室にたらいを運び込むと、さっそく順番に体を清める。

 裸になったッヨイをカサンドラさんがごしごしと洗ってやるところを見ながら、あたしも服を脱いだ。

 端で見ているカサンドラさんの肢体は、女のあたしが見ていても惚れ惚れする様な均整の取れた体の造りだった。

 きめの細かい柔肌は、猟師の娘だったと聞かされていたけれど、とてもそうは思えないほど絹の様に美しく、貴族のそれだった。

 その胸はきれいなお椀の形をしていて、ニシカさんやタンヌダルク義姉さんの様に決して大きすぎず、 成長期のッヨイはともかくとして、エルパコの何ひとつ隆起のない胸とお尻とも違う。

 ゴムまりの様な小ぶりのお尻は、いつもシューターがまじまじ見ているのだから、きっと男心をくすぐる様なサイズなのだと思う。

 

 あたしもやがては妻のひとりになる事は決まっているけれど、女性の魅力ではこのひとには勝てそうもないなあ。そんな事をぼんやりと思っていると、


「どうしました? ガンギマリーさん」


 ッヨイの背中をへちまであらいながら、おやという顔をしてあたしを見上げるカサンドラさん。


「ううん。義姉さんの体はきれいだなって、見惚れていただけだから」

「そんなわたしなんて。ガンギマリーさんだってとってもお美しいですよ」


 あたしの体は傷だらけだ。騎士修道会の軍事訓練で受けたものもあれば、遠征の中で負った傷もある。

 冒険者として辺境の奥地やダンジョンで付いてしまった負傷の跡は、女神様の奇跡である聖なる癒しの魔法でも完全に無かった事にする事は出来ないのよね。

 だからあたしは自嘲気味に口にする。


「けど、あたしは傷だらけの体だから」

「それは聖少女たるガンギマリーさんの勲章なのだから、誇りに思っておられればいいのですよ」

「そうなのです、ガンギマリーの数々の功績のあかしなのです」

「そういう事とか気にしているわけじゃないし。けっ結婚するのは政治というものだし……」


 ッヨイまでも一緒になってそう言ってくれたことはちょっぴり嬉しかったけれど、やはり内心を見透かされた事はあまりいい気分ではない。


 ……それに。

 どちらかと言うと脂肪よりも筋肉ばかりの体であの男はあたしに振り返ってくれるのだろうかと思う。

 血反吐を吐く様な訓練と実践を積み重ねてきたから得られた体なのだから、これまではそれでいい、むしろ勲章だと思っていたのに、どうしたんだろうあたし。

 するとカサンドラさんは何がおかしいのか、くすくすと笑いだした。


「もしかして、シューターさんの事を気にしているんですか?」

「えっあわ、あたしは別に……」

「旦那さまは、そういう事をあまりお気になさらない性格だから」


 背中を洗い終わったッヨイがへちまを受け取って、今度はカサンドラさんの背中をごしごしする。


 そうは言うけれど。

 それでもあの男の周りにいる魅力的な女性の事を考えれば、ちょっとは背伸びしたいと思うのが人情じゃない。

 胸はまあ? これからの成長に期待したいところだけれど、せめて内面的だけでも女らしくありたい。

 カサンドラさんにはそれがあるのよね。包容力というのかしら、彼女みたいにそういうものを身に着けたいと近頃あたしは考えていたのだ。

 妻の中でも、タンヌダルクさんは見ての通り男心をくすぐる様な容姿をしているし、エルパコはああ見えてシューターのお気に入りだっていうのは、わかりやすいもの。

 そしてドロシア卿は、もう見ていてもわかるぐらいシューターに惚れているの事が歴然ね。あれだけ熱心に迫られたら男はたまらないんじゃないかしら。熟女枠ね。


 問題は、鱗裂きのニシカさんだ。

 実は妻のひとりでもないのに、仲間たちの誰よりもシューターが信頼している相手なのがニシカさんという事をあたしは知っている。

 バジリスク討伐の時もそうだったし、村にいても旅の中でも何か事あればいつも一緒にいるもの。

 同僚としていつもシューターと一緒にいる立場だし、彼の事もよく理解していると思う。


 もしかすると、あたしはずいぶん思いつめた顔をしていたのかもしれない。

 妻でもないニシカさんに負けるわけにはいかないと、おかしな決意をしていたところ、カサンドラさんがあたしを見やって優しげな表情を浮かべた。


「わたしなんか結婚した頃は筋張った田舎の小娘まるだしだったんですよ? 生活も苦しかったので、顔色もあまりよくなかったんだなって」

「ちょっと信じられないわ……」

「シューターさんにブルカの街で買って頂いた手鏡のお土産があったんですけれども、鏡を覗き込んでみたら、とっても青白い顔をした痩せっぽちの女がいるんです。それがわたしなんだなあって」


 そんな事を言うカサンドラさんに、あたしは信じられないという顔をしてしまった。

 今では、ずっと以前から貴族のご夫人だったという様に凛としたものがあって、あたしたち女の中でも正妻然としているものね。

 羨ましい気持ちになりながら自分でもへちまのたわしをひとつとって、体をゆっくりと拭いていく。


「痩せっぽちの、さえない猟師の娘でしたけれども、それでもわたしはシューターさんの妻でいられます」


 ありがたい事です、と微笑んだカサンドラさん。

 そうしてあたしはようやく理解した。この女性(ひと)は外見で美しいのではなくて、それだけ芯のあるひとなんだって。

 彼女の身内によって不幸な強姦を受けてもなお、夫の事を信じて心配している。

 ほんの少し前も、夫に代わって大使として当地の領主にどうすればいいかを口にしていたもの。


「だから。そんなお顔をしていたら、せっかくのきれいな顔が台無しになりますよ。シューターさんはありのままのガンギマリーさんがお好きなのですから」

「ええ、そうね……」


 シューターがあたしを好きなのだと言われて、妙な気分になってしまった。


「どれぇはガンギマリーが好きなのですか?」

「そうですよ。聖少女さまはもうすぐシューターさんと結婚なさるのですからね」

「じゃあ、ガンギマリーもどれぇが好きなのですか?」


 たらいの湯に浸かってじゃぶじゃぶとやっていたッヨイが、無邪気にそんなことを口にした。

 あたしはまたドキリとした気分になる。


「どうかしら、わからないわね」


 本当のところを言えば、好きという感情がよくわからない。

 だって、この世界のひとたちは単純な理屈で恋愛をとらえている様な気がするもの。

 娯楽の無いここでは、側にいる相手がそのままイコールで恋愛対象だ。あるいはカサンドラさんの様に村の生活では、領主や大人たちが決めている。

 そしてあたしはそんな単純な理屈で結婚や恋愛をとらえている人々を見て、はじめはつまらないひとたちだと思っていたのも事実だ。

 けれども今は自分も同じ感情で動いている気がするのね。

 どうしてかって、あたしは元いた世界でまともに恋愛なんてした事がなかったし、あたしにとって頼れる側にいる男は、今じゃシューターだもの。


「わからないのに、どれぇと結婚の約束をしたのですか?」

「ごめんなさい困らせちゃったわね。ちゃんとシューターの事は好きだから安心して」


 不思議そうな顔をしたッヨイに苦笑を浮かべたところ、カサンドラさんも眼をすぼめて笑ってくださった。

 あたしが恥ずかしがってそういう風に誤魔化したと思ったのだろう。

 そしてきっとそれは半分正解なのだ。


「うおほんッ」


 ふと、宿泊所の自室の外から咳払いが聞こえた。

 確かあの声は、ッジャジャマというゴブリンの男だったはず。


「奥様がたにお知らせします。まもなく時計が四半日の時刻を示す頃ですので、お急ぎください!」


 教会堂に置かれている魔法の砂時計の時刻がそろそろ午後六時頃になるのだろう。

 この世界はとっても不便な場所だけど、魔法陣の刻まれた台座に設置された砂時計は六時間ごとにずっと時間を刻み続けてくれる。まあ、本当にこの世界が二十四時間だったという仮定の話だけれども、たぶん大きく違いはないはず。


「わかりました。カラメルネーゼさんにお知らせして、わたしたちがお風呂から出たら、身支度を整えるのでこちらに来て下さる様、お伝えしてもらえますか?」

「了解であります。騎士爵さまに、しかとお伝えしますっ」


 緊張したくぐもった声音が、扉の向こうから聞こえてくる。

 きっとあたしたちがお風呂に入っている事を想像したに違いないわね。

 この外交使節団のよろしくないところは、随行員の中に女性がいなかった事だ。ドロシア卿は軍隊あがりのところがあって、そのあたりまるで気にしない性格なのだ。

 卿ご自身はカサンドラさんもいる事だし、その辺り身の回りの事は大丈夫だけれども。

 道中どこかでお女中を雇う事をカサンドラさんに提案するべきかもしれない。彼女は貴族の一員なのだから、今の様に何でもご自分で、というのは彼女の沽券にもかかわるわ。

 そういうところ、あの男は配慮が回らないもの。妻の一員としてあたしが正してやらなくっちゃ。


「ガンギマリーのお顔がニコニコしているんです」

「べっ別にいつも通りよ。ちょっとこれからの事を考えていただけなんだから」

「どれぇとの結婚生活についてですかあ?」


 ちょっとからかう様な視線をッヨイが向けてくる。


「この子は、お子様のくせにマセた事を言うんじゃないわよ!」

「ひいい、ガンギマリーはやめるのですっ」

「そういうあんたはどうなのよ、ッハイエースに告白されていたじゃないの」


 仕返しとばかりあたしも言ってやる。

 聞けばゴブリンハーフの武装飛脚に一目惚れされたのだとか、お子様だと思っていたけれど、あなどれない。

 慌てふためていたこの子は、髪をもしゃもしゃと洗いながら抗弁した。まさか自分に火の粉が飛んでくるとは思わなかったみたいね。


「あっあれは違くてなのです。ッヨイはもうお嫁さんに行く先を決めているので、そういう事はないのです!」

「あんたの齢で誰に嫁ぐというのよ。一年待ちなさい、一年」

「それはナイショなのです」


 何となく嫌な予感がしたあたしがカサンドラさんを見ると、同じように困った顔をした彼女が苦笑を漏らした。

 ここでまたシューターなどと言い出したらあたしは幻滅だ。

 もちろんッヨイにではなくあの男にだ。


 あたしたちはひとしきり身綺麗にし終えると、体を拭いてネーゼ卿が顔を出すまでの間に行李(こうり)をひっくり返して礼装を改めた。

 セレスタ領主に招かれた晩餐会なのだから、外交使節団としてもシューターの伴侶としても恥ずかしくないかっこをしなくちゃね。

 

 そう言えばあたし、まともな礼装なんて持っていなかったんだけれども……


     ◆


「ご当地のお貴族さまに謁見するのに、こんな格好で大丈夫だったのでしょうか?」

「だ、大丈夫じゃないかしら。カサンドラ義姉さんは美人だから何を着てもお似合いだし」

「あら、ガンギマリーさんもお似合いですよ」


 セレスタ領主の用意したオープンタイプの二頭引き馬車を目の前にして、カサンドラさんはちょっと腰が引けていた。

 紅色の、何の塗料で塗られたかはわからないけれど、とても無数の装飾が施されたオシャレな馬車だったからだ。

 セレスタ領主は確か男爵家だったと記憶しているけれど、これは男爵夫人の趣味なのかしら。


「あたしもこの世界のフォーマルな姿って、よくわかっていないのよね」

「騎士修道会のお勤めでは、そういう場所にお出になる事はないのですか?」

「うーん。そういう場合は、修道騎士としての正装だから」


 清潔な無地のワンピースに鉄皮合板の鎧コート・オブ・プレート、その上から法衣(サーコート)を纏っただけのシンプルな格好。

 本当は普段からだってオシャレはしたいと思うけれど、この世界の流行とあたしの個人的趣味では、大きく乖離がある事も確かだ。

 騎士修道会の枢機卿にして聖少女修道騎士という立場上、あまりこの世界では奇抜になる格好は出来ない。


「けど、義姉さんはちゃんと用意されておられたんですね」

「わたしは村長さまから、お貴族さまの行事に参加することを念頭に置いてと言われていたので、行儀見習いに出ている時にルクシちゃんに手伝ってもらって用意したんですよ」


 ルクシというのは確かドロシア卿に仕える侍女だったかしら。

 そこをいくとあたしなんて、


「ドロシア卿から借りているドレスだと、どうしても胸元が緩くなっちゃうし。かといって今のあたしはサルワタの人間だから、修道騎士の正装というのもおかしいし」

「ッヨイはピンクのフリルワンピースなのです!」


 あんたはサルワタに移住したらシューターに見せるんだって、ブルカで購入していたものね。

 まったく、こういう事になるならあたしも買っておけばよかったわ。

 そんなあたしたちのやり取りを見ていたのは、カラメルネーゼ騎士爵だった。

 彼女はひとりだけ護衛の騎士という役回りから、簡易なドレス姿の上に金属の胸当てと手甲を着用していた。これはドロシア卿とも共通する様なスタイルで、もしかしたら女流騎士の一般的ファッションなのかもしれない。

 女ばかりの外交要員の中で、ひとりだけ正装出来ないのも申し訳ない気分だ。


「お三方とも、十分にお似合いですわよ。わたくしなどはこの触手のせいで大変なんですの」


 あたしもこういうスタイルにするべきかな、と一瞬だけ思っていると、彼女的にはあたしたちが羨ましかったらしい。

 上半身は普通の人間と何も変わりがないのだけれど、人間の足の他にも八本の触手がドレススカートの中からのぞいている。

 この世界の高貴な身の上の人間はみんなオーダーメイドだから、調達するのもやっぱり大変そうね。


「サルワタ大使閣下の、ご出立準備は整いましたでしょうか」

「ええ、よろしくってよ。出発してちょうだい」

「わかりました。それではこれより、セレスタ男爵の領主館に向かいます」


 あたしたちが馬車の席に納まり、カラメルネーゼ卿が馬に跨ったところを見届けて、御者の男は馬車を発進させた。

 ダークエルフとでもいうのだろうか。御者の男は褐色長耳の人間だった。


 ピンク色の屋敷、褐色エルフの使用人。

 いったいこの館の主、セレスタ男爵はどういった人物なのかしら……

 あたしたちの中で、その人となりの謎が深まった。



http://15507.mitemin.net/i174968/

挿絵(By みてみん)


冒頭、雁木マリのイラストは猪口墓露さんにご提供いただきました。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ