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異世界に転生したら全裸にされた  作者: 狐谷まどか
第4章 アレクサンドロシアの野望
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105 これが諍いのお約束です!


 村へと繋がる石橋を超えて、俺は先行するエルパコを追った。

 視界にはデブとその取り巻きたちが、カサンドラに対して言い合いをけしかけている様な姿が見える。

 よく見るとカサンドラだけではなくようじょに、野牛の兵士タンスロットさんやッワクワクゴロさんの弟ッジャジャマくんもいたりする。

 みんな揃って何があったんだと俺が緊張感を高めながら、先行するけもみみの動きを見た。


 エルパコは滑る様に馬を走らせていたかと思うとその集団の中に躊躇なく飛び込んでいった。

 当然、驚いたカサンドラを取り巻くその集団が蜘蛛の子を散らす様に四散して、するりと馬を飛び降りたのである。

 俺はそのエルパコの鮮やかな動きに見とれながらも、多少不格好でも強引に手綱を引いて馬を止めると転げ降りた。

 エルパコはデブに向き直る。

 デブはただのデブでは無かった。頭の上に丸いけもみみのカチューシャを付けたような間抜けな顔をしていた。人間顔をしているが、こいつは何耳の猿人間だろうか。


「ぼくの義姉さんに、手は出させないよ!」


 華奢な銀髪のけもみみ少女が、いつになく力強くそう宣言した。

 そうするとデブと一緒にいた長剣を差した男が口を開く。


「何だお前は、そこをどけっ!」

「どかない。ぼくは、どかないよっ」

「この俺の命令が聞けないのというのか、俺はゴルゴライの騎士さまだぞ」

「ぼっ、ぼくはシューターさんの新妻だよっ」


 カサンドラをかばって両手を広げ、通せんぼをするエルパコである。

 しかもこのタイミングで新妻という言葉を口にしたものだから、カサンドラが驚いて「えっ」という表情をしていた。

 だが今はそんな事などどうでもいい。

 俺は状況がどうなっているのかわからないので、すぐにも割って入り、その集団の中で偉そうにしているデブに視線を向けた。


「すいませんねえ、いったい何があったのでしょうか」

「何だお前は。ナメルシュタイナーさまは今、取り込み中だ。邪魔だてするとタダではおかないぞ」

「そいつは失礼しました」

「失礼したと思うなら、さっさと下がらないか、さもなくば――」


 言うが早いか鞘走りさせたゴルゴライの騎士とやらは、躊躇なく俺に白刃を突き付けようとしてきたのである。

 お貴族さまのなのだろうが、このパターンはすでに俺も学習済みである。

 ギムルの時にもジンターネンさんの畜舎で経験したやりとりだし、ブルカの路地裏でもあった事だ。

 こういう時は問答無用で、考えるより先に相手を制圧した方がいいのだと俺は経験的に考えるようになった。


 だから鞘走りさせた瞬間に俺は相手の騎士と距離を詰め、体勢を入れ替えながら剣を持つ腕を捻りあげてやり、そのまま足をかけて引き倒した。


「ほげぇ! まぢいでぇよ」

「し、シューターさん?!」

「どれぇ!」


 だろうな。

 騎士は何事か叫んだが、たぶん意訳すれば「この腕はとても痛いです」といったところだろうか。

 腕は多分勢い任せに捻りあげたので、筋がずれたか骨が外れたか、あらぬ方向にねじ曲がって騎士は地べたでのたうち回っていた。たぶん両方だ。

 騎士を名乗る割に、大したことはなかったな。

 空手ならこの場で追撃の拳を首か顔面に見舞ってやるところだが、今はやる事がある。


「な、何をするんだ貴様は、これがどういう事なのかわかってやってるのか! おっ俺に手をあげたらどういう事になるか……ブべらkつs」

「いやあ、すいませんねえ。いい大人のみなさんが、よってたかって囲んでいる彼女ね。俺の第一夫人なんですよ」


 俺はカサンドラに視線を送り彼女を安心させると、言葉をつづけた。


「俺はサルワタの騎士シューターだ。何があったか説明してもらおうか、そっちが剣を抜いた以上はこちらも引き下がるわけにはいかないんだぜ」

「くっ、先に武器に手をかけたのはそちらだと言うのに、どういう了見だ?!」


 デブが忌々しそうにそう言った。

 彼は部下たちと違い腰に剣を差してはいたが、護身用の短剣でそれに手を掛けようとはしていない。

 まだ冷静に話ができる相手と見えて、俺は周辺の取り巻きを警戒しながらも言葉をつづけた」


「どういう事ですかねえ。順を追って説明してくれないと、俺には暴漢どもに奥さんがいたずらされている様にしか見えないんですよ」

「そっそこの女が、俺の弟に投げナイフで怪我を負わせた犯人を引き渡そうとしないから、この様な事になったのだ」

「そうなのかカサンドラ?」

「あのう、ですね……」


 振り返ってカサンドラに事情の説明を求めようとしたところで、異変に気が付いて追いかけてきた女村長の姿が迫ってくる。


「どうしたシューター、宿屋の前で何があったのだ」

「それがですね。カサンドラがこちらの方、との間で何か揉め事に巻き込まれたみたいでして」

「ぬ、貴様はハメルシュタイナーの息子だな。この様なところで、わらわの家族に何をしておるのだ」


 馬上から俺たちを見下ろしながら睨み付けていた女村長が、集団の中に入るデブに目を認めるとそう言ったのである。

 どうやら女村長とこのデブは、面識があるらしい。


「だっ誰かと思えば、この女たちはサルワタの売女(ばいた)の身内だったか……」

「その売女にたびたび求婚の文を送りつけてきたのは、貴様の父親ハメルシュタイナーだからな。わらわを何と言おうがかまわぬが、貴様は父を愚弄しているだけよ」

「そんな事はどうでもいい、弟がこの女の護衛に怪我を負わされたのだ、俺はただその弟を怪我させた犯人を差し出せと言っていただけだ!」

「待ちなさい」


 そんなお互いの主張を一方的に罵り合っていたところ、下馬した雁木マリとそれに続く修道騎士ハーナディンが、さらに揉める集団の輪の中に飛び込んで来た。


「今度は何だあんたは」

「この法衣を見てわからないかしら? あたしは騎士修道会における枢機卿にして聖少女修道騎士ガンギマリーよ」

「?!」

「お前。ゴルゴライの領主のご子息という事だけれど、違いないわね?」

「そうだ、俺は誇り高き熊面の猿人間の血を引くゴルゴライ準男爵の嫡男ナメルシュタイナーだ。騎士修道会だか聖少女だか知らないが、女神とやらは犯罪者の片棒を担ぐというのか?」

「ふふん、お前は女神様の信徒ではないというのね?」

「俺が崇拝するのは国王陛下だけだ、存在も疑わしい女神などどうして崇めるかッ」


 悪態をつくデブが不信心者な態度を示した。

 そしてこいつ、熊面の猿人間の一族だったのか。言われてみればずんぐりむっくりのデブである。

 しかし熊面という割に、部族の血筋が薄いのか人間の面に丸耳がついている感じでマヌケだ。


「ふうんそう。そちらの一方的な主張を、ハイハイと聞けるわけじゃないでしょう。まずは何があったのかお互いに聞いてから判断するのが公平というものよ。この口論、騎士修道会のガンギマリーが預かるわ」


 すぐ脇に膝をついてかしこまったハーナディンを控えたうえで、刃広の長剣を引き抜いて天にかざした雁木マリがそう宣言した。

 こういう事に慣れているのだろうか、マリの仲裁は正直助かるぜ……


     ◆


 騎士修道会総長のカーネルクリーフとの会談のため、俺たちがツダ村に出かけている間の事である。


 貴人向けの宿屋の一室に宿泊する事になったカサンドラだが、どうやら落ち着かなかったらしい。

 この部屋には村で女村長の妹という事になっているようじょも泊まる事になっていたのだが、普段からブルカの高級住宅街で生活していたようじょとは違い、近頃になって高貴な人間の仲間入りを果たしたカサンドラにしてみれば、やはりどこか居心地が悪い空間に感じたのである。


「カサンドラねえさま、何をしているのですかぁ?」

「ううんとお部屋でじっとしていても何だか落ち着かないので、お掃除でもしようかと……」

「ねえさま。ねえさまはどれぇの第一夫人なのだから、そんな事をしなくてもいいのですょ」

「でも少し、落ち着かないので……」


 そんな会話があったとかなかったとか。

 村に出来た俺たちの新居は、女村長の屋敷を除けばいちばん立派な建物であることは確かだ。

 しかし豪奢なのは建物ばかりで、部屋の内装と言えば旧宅から持ち込まれた食器類と藤編みのタンスがある程度のもので、残りは女村長や野牛の族長から贈り物として頂いたものばかりだった。

 家でもっとも値が張りそうなものが巨大なベッドと食卓だけというささやかな有様を考えると、この宿屋の貴人向けの部屋は調度品がどれも高価に見えたんだろうな。


 どうにも落ち着きを感じなかったカサンドラは、そこで部屋の掃除でもしたり、自分が旅の際に持ち込んだ荷物を飾ったりしようと考えたらしい。

 ひとつはリンクスの毛皮と、もうひとつがゴブリン人形である。


「よしっ。これで少し落ち着きましたね」

「このゴブリン人形、なんだかッヨイに似ている気がするのです」

「あら、本当ですねえ。確かこれはシューターさんが旅の出発前に作っていたものですよ」

「どれぇがですか?」

「ええ」

「ねえさま、みっつぐらい並べておくといいのです。自分のおうちみたいになるかもしれないのです」

「そうですねえ」


 部屋に猛獣の毛皮を飾るというのは、やはり猟師の嫁ならではのセンスと言えるだろうか。

 きっと亡き父ユルドラが戦利品をこうして壁に飾っていたのかもしれない。

 だがちょっと待ってほしい、猟師の家ならそれも様になるのだろうが、ここは宿屋でありしかもカサンドラは高貴なご身分である。

 ちょっと蛮族趣味すぎやしないかと思ったッヨイさまは嗜めようとしたらしいけれど、ご機嫌の奥さんを見てそれをやめたそうだ。


 慣れない旅に戸惑い、慣れない宿屋に落ち着かない年上のお姉さんを気遣うッヨイさまかわいい!

 だがもうひとつの、ゴブリン人形については何だったんだろうね。もしかするとカサンドラは一種のホームシックにかかっていたのかもしれないが、遠慮がちな性格の俺の正妻は、そのあたりの自己主張が下手でこういう形で表現してしまったのかもしれない。


 とにかくゴブリン人形の詰まった箱からいくつかそれを持ち出して、調度品の並んでいる棚に並べたところで、ふたりは満足した。

 満足したところで季節は真夏の盛りである。

 部屋の掃除をやってみたり毛皮を広げたりゴブリン人形を並べたり、と軽く動いただけでふたりはしっとりと汗をかいてしまったので、行水をすることにしたらしい。


 高貴な人間が泊まるための部屋というのは、寝室ひとつ備わっているだけではなくテラスもある。

 そのテラスはちょっとした坪庭があって、夏日和には行水するのに最適だ。

 ふたりはニシカさんを呼んで水風呂の用意を宿屋の主人に頼んでもらい、ニシカさんを交えて水浴びをしたらしい。


 したらしい、したらしい、と繰り返すのは女子たちが妙にその事をぼかして説明するからである。

 カサンドラ曰く「しゅ、シューターさんたちがお勤めをしている時に、なんだか水浴びをして遊んでいたみたいで気恥ずかしくて……」という事なので、あまり詳しくは聞かないでおいた。


 概略だけを言うと、不埒な男どもが近づかない様に監視役でニシカさんがマシェットを持って待機している中、我が正妻とようじょが水浴びをしていたというわけである。


 そこに事件が起きた。


「こうしてお水遊びをしていると、みずうみへお泊りに行った時の事を思い出すのです」

「そうですねえ。あの時は家族みんなで、楽しかったですね」

「はい! また行きたいのです。どれぇは連れて行ってくれるでしょうか?」


 水の魔法を使って噴水を作ったりして、全裸姿で行水をしていたようじょと妻は、ニシカさん曰く上機嫌だったそうだ。

 ここが高貴な者専用の部屋という事で坪庭もテラスも外から遮断されていた事もあり、油断してヒモパンも脱いでいた。

 この世界ではヒモパンを履いているか履いていないかで羞恥心の有無が決まる世界だからな……


 ところがである。

 ふたりがゆっくりとタライに浸かってサッパリしているところで、ニシカさんが何かの視線を察知したのだった。


「おい、ふたりとも」

「どうしたんですかおっぱいエルフ?」

「馬鹿野郎、そこで覗き見している不埒者がいるぞ!」

「えっ?」


 ふたりが慌てて手ぬぐいをお股に運ぼうとしたところで、ガサガサと宿屋の側に立っていた大きな街路樹が揺れた。


「手前ぇ、そこに隠れているのはわかってるんだよ! 出てきやがれッ」

「えっどこですか? あそこ?!」


 街路樹に向かって啖呵を切ったニシカさんは、すぐ側に用意していた投擲用のナイフを投げたらしい。

 見事な軌道を描いたらしいその投擲用のナイフは街路樹の緑の枝葉へ吸い込まれて、その後にズドンと盛大に落ちる音が聞こえた。


「ぐわっしゃあ?!」


 その盛大な音を立てて街路樹から落ちてきたのがカフィアシュタイナー、どうやらデブことナメルシュタイナーの弟くんだったらしい。


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