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反乱分子処分用奴隷、ヒト01  作者: 珠日乃 らいす゛


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2/2

22番、タイラス

「はぁ、やっぱり失敗だったな…。」

85番を処分してから一ヶ月近く経過しているが、少年は彼女の仲間の情報を思ったより集められていなかった。

もちろん怪しまれるので時間をかけて処分していくつもりではあったが、これほど情報を集めるのが難しいとは思ってもみなかった。

まず、何よりも人族の少年と会話しようという奴隷が少なすぎたのが最大の原因だ。

しかし、何一つ手がかりが無いわけではない。

「おい、人間。」

「なっ……なんですか…?」

そのうちの一つが、このずっと嫌がらせをしてくる虎の獣人だ。

名前はタイラス。番号は22番。

こいつは初めて会った時から人族へのヘイトが強かったため軽く尾行すると、すぐにドワーフ族の男と密談しているのが分かった。

内容はうっすらとしか聞こえなかったが、逃走のタイミングについて話していた。

間違いなく、処分するべき奴隷だ。

「本っ当に不本意だが、明日の夜、俺とお前で行動することになった。」

「えっ…?……僕たちが………?」

タイラスが特に人間を嫌っているということは、奴隷商たちも知っているはずだ。

その為これまで少年とタイラスが近づかないよう多少は配慮されていたと思う。

それが突然二人での行動なんて、一体どういう風の吹き回しなのだろうか。

「内容はいつもの鉱山じゃない。奴隷商集会の護衛だ。」

「ご…護衛…ですか……?」

少年はこれまで、鉱山の力仕事は適度に上手くやってきたが、戦闘力は隠し通してきたはずだ。

それがいきなり奴隷商本人の護衛とは、一体どういうつもりだ?

「これは決定事項だ。明日の終業の鐘が鳴る頃に、檻の入口に来い。」

タイラスはそう言い残してさっさと離れていってしまい、詳しいことは聞けなかった。

可能性は三つある。

一つ目は、少年の戦闘力がどこからか奴隷商の耳に入った可能性。

しかし少年の本当の戦闘力を知っているのは、この国にほんの数人しか居ないはずだ。情報を漏らした人がその中にいたのだとすれば、大問題になる。確証はないが、これは違うと信じたい。

二つ目は、タイラス一人の戦闘力で護衛が務まると考え、新人育成に踏み切った可能性。

タイラスは強い、というのは他の奴隷の口から聞いている。とは言え、奴隷商本人の護衛などという重要任務をそんなことに使うとは思えない。

そして三つ目は、奴隷商が少年が本来の実力を隠していると自分で気づいた可能性だ。

これを有り得ないと切り捨てることは出来ないが、少年の感覚的にはあの奴隷商がそんなことに気づくタイプだとは思えない。むしろ、奴隷商よりもタイラスの方が……。

………。

「………まさか…。」






翌日、約束通り終業の鐘が鳴り響くと同時に檻の入口にやってきた。

そこには先に待っていたタイラスと、いつもそこに座っている片翼のない魔族の男が居た。

魔族の男は紙とペンを持っていて、静かに座っている。

「来たな。」

かなり時間通りに来たが、奴隷商の姿はまだ見えない。

「あいつならまだ来ないぞ。俺が早めにお前を呼んだだけだからな。」

「そ…そうですか…。」

…やはり、少年が爪を隠していることに気づいたのはタイラスだろう。

少年が檻の外を一瞬確認したことに気づけるほど、この虎の獣人は目が良い。

「お前、実力を隠してるな?」

「…なんのことでしょうか……。」

「嘘をつくな。俺には分かってるぞ。」

こうなったら、全てを隠すことは出来ない。相手の話に合わせながら、最低限の情報だけを開示する。

「百歩譲って、戦闘力を隠すこと自体は別にいい。力があれば、それだけ危険な任務が渡されるからな。だが、お前が隠している実力は並じゃない。お前が本当に危険になるほどの仕事は、普通ない。だから、俺はお前が許せねぇ。」

「ど…どういうことですか…?」

「お前が実力を隠してなければ、レージュが危険な任務に駆り出されて死ぬこともなかった!!」

「…!」

確か、レージュというのは数日前に死んだ魔族の奴隷だったはずだ。

しかし、これは意外だ。

少年はこれまで、タイラスは過去に何かあって人族を恨んでいるのだと思っていた。

だがこの感じだと、シンプルに人族のせいで仲間が傷つくのが嫌なのかもしれない。

まだ情報不足だが、タイラスの強気な性格と意外な頭の良さを見るに、逃げ出そうとしているグループの中心的な人物の一人である可能性もある。

ならば、少し賭けだがここで隠していた実力という手札を切って、タイラスと距離を詰めておくのも悪くない選択かもしれない。

「…お前は実力を隠している…そうだろう?」

「………そ…そうです……。」

「…やっぱり、そうか。」

「でも、あの……分かりました。も、もう隠すのはやめます……。」

「……いいのか?目立ちたくなかったんだろう?」

「でも……僕も、そのせいで仲間が傷つくのは、嫌です…。」

本当は反乱分子になり得るかもしれない奴隷が勝手に死んでくれるので、傷ついてくれた方が手間が省けるが、今は彼らの内情を探りたい。

おそらく本当に重要な相手はそんなヘマをして死ぬことなどないだろう。

「……仲間、か。」

「…はい、少なくとも僕は、そう思っています。」

「………初めて会った時は、悪かったな。」

「えっ…?」

「あの時は、やっとこの拳が届くところに人族が現れて、制御出来なかった。」

「……いえ、皆さんが人族を恨むのは当然のことです。僕も、あの人たちのことは……。」

「…そうか。………もし、本当にお前がそう思うなら、今日の仕事の後、話がある。」

「…わ、分かりました……。」

てっきり横に座っている魔族の男も仲間なのかと思ったが、彼は紙に何かを書いているだけで、こちらの会話には一切反応を示さなかった。

タイラスがこの場でこれ以上話そうとしないのも、この魔族の男に聞かれないようにということなのかもしれない。

しばらくして、奴隷商の部下が現れ、少年とタイラスを連れて行った。






タイラスと共に少年が連れていかれた先では、既に他の奴隷商と思われるギラギラと嫌らしい輝きを放つ装飾品をつけた男たちが数人座っていた。

こうして見比べると、こちらの奴隷商はあまり派手好きではないらしい。

「遅かったな、レイジャー。」

「…ん?おい、後ろにいるのは……人族の奴隷じゃねぇか?」

「面白い物見つけたなぁレイジャー殿。」

「お前らに入手ルートは教えねぇからな。」

「いらねぇよ、人族の奴隷なんてなんにも出来ねぇだろ。女ならまだしもな。」

「それだってエルフ族の方が需要は多い。この国でわざわざ人族を奴隷にするなど、余計な面倒を増やすだけに思えるが。」

「時間だ、静かにしろ。」

一番奥、一際派手な装飾品を身に付けている男が低い声でそう言うと、それまで自由に喋っていた奴隷商たちは真面目な表情になり、会話をやめた。

間違いなく、この男がボスだ。

「これより奴隷商集会を始める。まず近況報告だが、レイジャー、例の件について話せ。」

「あぁ、真面目な話が一つある。一月ほど前、うちの奴隷が一人行方不明になった。」

レイジャーがそう言うと、奴隷商たちは怪訝な顔をした。

「行方不明だと?首輪で追跡出来るはずだろ。」

一人がそう言うと、レイジャーは懐から外れた首輪を出した。

「これはゴミ捨て場で見つかった。当時、近くで火事が起きてて、同行していた奴隷が暴行を受けていたことからどさくさに紛れて誘拐された可能性が高い。」

「そんなことありえるのか?」

「さあな。首輪の外し方なんて俺たちも知らない。とにかく、隷属の首輪を外せる何者かが俺の奴隷を連れ去った。これだけは事実だ。」

奴隷商たちは真剣な表情で考え込んでいる。

とりあえず事は計画通りに進んでいるようだ。

この場で当時同行していたのが少年だということまで話されなかったのもラッキーだ。もちろん怪しまれないよう色々手はつくしたが、面倒は少なければ少ないほど良い。

「ひとまず情報共有感謝する。だがやはり、わざわざ俺たち奴隷商を敵に回すようなことをする命知らずが居るとは信じがたい。せめて同行していた奴隷も一緒に連れ去るか、命を取っておいた方がよかっただろう。」

「俺もそう思うが、相手について何も知らない以上、議論を続けても意味はない。とにかくこれまで以上に奴隷を注意深く監視することを勧める。」

監視が強まれば、脱走や反逆を企てる奴隷たちも動きにくくなる。

当然計画通りではあるが、それは同時に少年自身も動きにくくなるということを意味していた。






奴隷商集会は結局何事もなく終わった。

実力を見せる必要がなかったのは良いことだが、まぁこれについては時間の問題だろう。

「人間。」

「あっ…はい…。」

檻の奥、人気のないエリアまで来てやっと、タイラスは振り返り少年を見た。

「単刀直入に言う。力を貸してくれ。」

「力を……ですか…?」

「ここを抜け出し、この国に革命を起こす計画がある。だが、何者かがリファリアの首輪を外したせいで首輪を外す方法があることが奴隷商どもにバレてしまった。」

革命を起こす計画だと…?有り得ないと思っていたわけではないが、本当にそんな計画があるとは。

「抜け出すだけなら後はあいつが上手くやってくれれば問題ない。だが、その後のことを考えると実力のある者を一人でも多く仲間にしておきたい。」

なるほど、思ったより計画は進んでいるようだ。

そのキーとなっているのが誰なのか聞き出したいが、今ここで直接それを聞くのは怪しすぎる。

ここはゆっくり時間をかけるべきだろう。

だが、タイラスがかなり勘が良いことはもう分かっている。

あまりこの男と接触し続けるのは危険かもしれない。

「どうだ、興味はあるか?」

タイラスは少年に手を差し出す。

初日のあの態度を考えると、少し想像しがたい状況だ。

「え…っと……、ここを抜け出したいとは、思ってます…。…でも、これはその後の革命への勧誘ですよね…?」

「そうだ。まぁ脱獄の時はここにいる全員を連れ出すつもりだったから、断っても問題は無い。ただ俺個人としてはお前の実力を隠し続けるのはやはり勿体ないと思う。もしお前が俺と同じ志を持っているなら、力を貸して欲しい。」

「………。」

ここですぐにタイラスの手を取れば、多くの情報を掴めるだろう。

しかし、それは同時に一人で行動するのが難しくなる、という側面もある。

最終的に得になるのはどちらか。

「タイラス。」

「!」

「何の用だアイダン。今この人間を引き込めないか話してたところなんだが。」

「その発言、俺が仲間だとバラしてるようなものなんだが?」

「おっと、悪い。」

この小柄な男は、少し前にタイラスと話していたドワーフ族だ。

エルフ族には魔法、獣人族には筋力、そしてドワーフ族には高い技術力がある。

少年は首輪を外す方法に気づいたのも、ドワーフ族だと睨んでいる。

「まぁいい、人間だとしても俺たちと同じ奴隷だ。どうせ一人じゃ何も出来やしない。それより、ワイダールがお前を探してる。なんの用かは知らないが。」

「ん?分かった。人間、答えが決まったら俺に教えろ。まぁもう知ったわけだしアイダンにでもいいが。」

「勘弁してくれ、余計な手間だ。」

今すぐ決める必要がなくなったのはありがたい。

この選択は重要だ。ゆっくり慎重に決めよう。






ワイダールとは、いつも檻の入口付近に座っている魔族の男の名前だった。

彼に呼ばれたのだから、タイラスは当然檻の入口までやってきた。

しかし、そこには何故か、あのレイジャーとかいう奴隷商が居た。

「……ワイダール?これは、一体どういう状況だ?」

「………。」

ワイダールは涼しい顔で一言も喋らない。

「22番、残念だ。」

奴隷商は冷たい目でタイラスを見ながら口を開いた。

「残念……?…な、なんだ……?どういうことなんだ…?」

タイラスの頬を冷や汗が伝う。

「お前が逃走を企てているという情報が入ってきた。」

「と、逃走…?…そ、そんなわけないだろ!第一、首輪がある限り逃げ切れるはずがない!!」

「お前は今日の会議の内容を知っているはずだ。」

「!!」

「お前は、首輪の外し方を知ってるのか?」

「………知らない、そんなこと…知ってたらとっくに逃げてるはずだろう?」

「どうだかな。」

「だいたい、誰にそんなこと言われたんだ…!」

「お前が知る必要はない。」

奴隷商は情報をどこから仕入れたのか口にしないが、かなり信用しているというのは伝わってくる。

「おいワイダール、お前なのか…!?」

「俺は言われた通りお前を呼んだだけだ。」

「お前に怪しい動きがあることはもう確認できてる。残念ながら、お前のここでの生活は終わりだ。」

「まさか、俺は売られるのか…?」

「いや、違う。お前は個人檻行きだ。」

「………嘘……だろ………。」

タイラスはその場に座り込み、うなだれた。

「おい、連れていけ。」

奴隷商が合図すると、後ろに控えていた二人の部下がタイラスを連れて行った。

タイラスと奴隷商が去ってから、ワイダールは何か少しメモを取っただけで、すぐに檻の外に目を向けて黄昏れ始めた。

物陰からその一部始終を見ていた少年も、思考を巡らせる。

タイラスが奴隷商に連れていかれたのは、少年が何かをしたわけではない。

誰が、何のために情報を奴隷商に漏らしたのか、あるいは何かの事故で漏れただけなのか。

しかしいくら考えても、少年はまだ逃走を謀るタイラス達の仲間をほとんど知らないため核心には至らない。

いや、今考えるべきは自分への影響だ。

タイラスは少年の戦闘力を見抜いたが、口は軽く情報はたくさん吐いた。

少年が仲間に加わるのを躊躇っていたのには、そうせずともタイラスから情報を引き出せそうだと思ってたというのもある。

いや、良い方向に考えよう。

タイラスはこちらが何もせずとも勝手に近づいてきて情報を渡し、戦闘を介さずに当初の予定通り処分出来た。

成果としては十分だろう。

ただ一つ警戒するべきなのは、もしも口が軽いタイラスが少年に情報を渡しすぎるのを警戒して奴隷商に情報を漏らしたのだと仮定すれば、少年を警戒している何者かが居るということになる。

「………。」

やはり、この先は彼らの仲間に加わるべきだろうか…。

「人間。」

「!」

いつの間にか少年の近くに来ていたのは、ドワーフ族の男、アイダンだった。

ドワーフ族は小柄で特別身体能力に優れているわけではないが、少年に気付かれずにこの距離まで近づけるのは、少なくとも素人ではない。

そして、続く言葉が少年を凍り付かせた。

「お前、スパイなんだろ?」

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