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妖狐と亡国の皇太子は謎を解く  作者: 犬村汐里


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第9話




 執務室に戻ると、朱亮(ジュウリアン)に念言術で様子を確認した。



『まだ迷ってます』


『そっちはその土地神に任せるほうがいい』


『戻れません!』



 明紅(ミンホン)はため息をついて強制的に自分のいる場所へと朱亮を転送した。



「わ、すごい。ありがとうございます」


「あとは天界に行って頼んでくるだけだ。僕も天界に用があるから一緒に行こう」



 天界へと二人で移動すると、朱亮は神がいる場所へ、明紅は歴史保管課と呼ばれる場所へと向かった。



 歴史保管課は、この世界の始まりからすべて記録し、それを保管している場所だ。


 興味があって、最初の記録を見たことがあるが、どうやらこの世界は最初煮えたぎったマグマが一面を覆っていたらしい。今思えば信じられないことだが、まさかこの保管庫がうそを記録するとは思えない。明紅はそれを信じているが、朱亮はそれを信じていない。



 目的の場所にやってくると、受付へと向かう。



「月沈国について調べたいことがあります」


「どちらの方ですか?」


「妖鬼界の明一族の妖狐です。天狐さまの部下」


「ああ、明紅陽さまですか?」


「はい」



 この場所では妖鬼界の神の補佐をしているなんていう言い方は通用しない。


 妖鬼界の神の補佐など、探そうと思えばあちこちにいる。


 どこ、誰、種族を言わなければ他の誰かと勘違いしてしまうのだ。



「場所は分かりますか?」


「分かりません」


「では、案内しますね」



 そう言って案内してくれることになり、後をついていく。迷わないように順序を覚えて歩いていくと、“月沈国歴史保管庫”と書かれている場所を見つけた。



「こちらになります」


「ありがとうございました」



 礼を言って中に入ると、一人先客がいた。


 その先客は机に向かって熱心に書物を読んでいたが、明紅が入ってくるなりこちらを振り返った。そして「ああ、やあ、紅陽殿」と声をかける。



 その人物は鼻の長い天狗だった。



 名は汪天という。


 切れた縁だと思ってもそれぞれの調べものが被り、縁が切れることはない。腐れ縁である。



 明紅は盛大に、それはもう盛大にため息をついた。


 この男がいるときにはろくなことが起きない。いや、そもそも化け物の話を聞かされた時点でろくな話ではないのだけれど。



「そんな嫌な顔をしないでくださいよ、紅陽殿」



 頬がピクピクと痙攣した。



 この男は地獄の番犬だ。即ち、地獄の警察組織の一員である。


 捜査活動の一環としてこの場所を訪れているのだ。要するに、地獄の誰かがなにかやらかしたということ。そしてその“誰か”は月沈国に関係のある人物であるということになる。



「誰です?」



 単刀直入に問いかける。



「なにがです?」


「汪天殿がいるということは、だいたい私の調査対象と関係のある人物です」


「ああ、そういう。いや、今日は非番ですよ。関係ありません」


「非番? なにを調べているのですか?」


「月沈国ですよ」



 この書物庫にいるのだから当たり前だろう。そんなことは知っている。


 白けた目を向けると、汪天は「くくくっ」と笑う。



「まあまあ。そんな顔しないで。綺麗な顔が台無しですよ」


「うるさい!」



 思わず怒鳴ると、今度は汪天は人差し指を立てて「シー」と言った。


 そして、その指を奥の机へと向ける。そこにはなんとも言い難い奇妙な雰囲気をまとっている人物が座っていた。先客がもう一人いたらしい。


 明紅は咳払いをすると「失礼」と口にした。先客はその言葉が聞こえたらしく軽く手を挙げてひらひらと動かした。



「お前が悪いだろうに」


「あらあら、口調どうしたんですか?」



 なんともムカつく男だ。明紅は唇の裏側を噛んだ。

 そして、「なにを調べているのですか」と、もう一度聞いた。



「月沈国の裴王朝初代皇帝について」


「ふーん」



 若干ずれている。明紅にはあまり関係がなかった。

 しかし、ふと明紅は清陽に言われた言葉を思い出すのだ。



『裴一族の皇帝は人として扱わなくていい。殺しても構わない』



 裴一族の17代目皇帝のみを指すのか、それとも──。



「分かったことは?」



 興味のない態度を一変させ、明紅は向かい側の椅子に腰を下ろした。




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