第18話
明紅はずっと修行していた身だった。
毎日誰とも話さず修行を繰り返し、瞑想をして精神を統一させる。
時折やってくる朱亮と軽く話すだけで、それ以外の誰とも交流を持つことはなかった。
そのせいで、少しだけこの少年と喋りたくなった。
席を立つと、杯に水を注ぎ、少年へと渡した。
「突然こちら側に移動してきた。気付かぬうちに体力は消耗する。少し休んでから行こう」
「徒歩で行くのですか?」
「いいや。私の術を使う」
「私が勝手にこちらに来てしまった際に無意識に使っていた術を使うんですね!」
実際に見ることができるのだと言わんばかりに、明然は目を輝かせた。
明紅のような妖からすればそう珍しいものではないのだが、人間として生きてきた明然にとってみれば珍しいことだろう。
「さっき教えたことは覚えているか?」
「はい」
「その術を使うから、どう使ったのか実際に体験してみるといい。そうしたら、いつか使えるようになるかもしれない」
その言葉に、明然は少しだけ悲しげな様子を見せた。
「私はあなたと同じではない。だから、それができるようになることはありません」
そう思っているのは君だけだ、と明紅は言いたくなった。
この少年はただの人間ではないのだから。
「同じでなければ、なぜ無意識化でそれが使えるのかな」
まるで陽だまりのような声色で、明紅は彼にそう伝えた。
優しい声色は少年の心にいとも簡単に入り込む。
「私も昔は制御できなくて、時々知らないところへ飛んでしまって困ったものだった。だから、たくさん修練を重ねた。君も、修練を重ねなければ、本当に困ってしまう」
「……でも、修練なんてどうやるのか分かりません」
「まず簡単なことは自分の心を制御することだ。ああ、そうだ。私の師匠からもらったものを君にあげるよ」
明紅は巻物を彼に与えた。
明然はその巻物を見ながら首をひねる。
「なにも書いてありませんけれど」と、巻物を開いてからこちらを見た。
「その巻物を読むには術が必要だ。でも、とても簡単なことだよ。極限まで集中すればいい。最も簡単なこと。だから君にもできる。それを読めるようになれば、修練ができるようになるよ」
明紅の言葉に明然は目を細めてその巻物をにらみつけた。
そして、逆さまにしてみたり、縦にしてみたりしている。
愛らしいその姿に、明紅は微笑んでいた。




