1/130
プロローグ
――パリン。
澄んだ音が、静寂を切り裂いた。
最初は一枚。
次に二枚。
そして数え切れないほどのガラスが、一斉にひび割れていく。
「……どうして。」
少女は震える手を胸の前で握り締めた。
目の前に広がる大広間。
豪華なシャンデリア。
磨き上げられた大理石の床。
そして天井いっぱいに広がる、美しいステンドグラス。
そのすべてが、音を立てて崩れていく。
パリン。
パリン。
パリン――。
降り注ぐガラスの欠片は、まるで雪のように美しかった。
けれど、その一枚一枚は鋭い刃となって少女へ襲いかかる。
黒に近いダークプラムの長い髪が、砕け散るガラスの光を受けて妖しく紫に輝く。
逃げなければ。
そう思うのに、身体は動かない。
まるで世界そのものに縛られているようだった。
誰かが叫んでいる。
誰かが自分の名前を呼んでいる。
けれど、その声はもう届かない。
少女はゆっくりと目を閉じた。
「私は……。」
小さく息を吸う。
そして、どこか諦めたように微笑んだ。
「悪役令嬢になりたくなかっただけなのに。」
その瞬間。
世界が、砕け散った。
――パリン。
---
五歳。
私は、運命の日を迎えた。




