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マルチタスク

 恐怖の魔法使いは正しく戦略の能力。制圧する面積が増えれば増えるほどより多くのモンスターをだせるようになる。

 これは独裁聖剣グラディウスも同じこと。モンスターが増えれば増えるほど強くなる。


 独裁聖剣グラディウスがある限り、恐怖の魔法使いを倒すには、増え続けるモンスターのほとんどを倒して無力化しなければならないのだ。


 到底不可能に思えた手順が、実際に成功しつつある。

 恐怖の魔法使いはそれを当然把握していた。


 だが、対処法はある。

 恐怖の魔法使いもバカではない。

 イレギュラの能力を封殺しにかかった。


『奴のアビリティが私とまったく同じならば、とっくにこの地は眷属で埋め尽くされている。そうしていないということは、一度に出せる数に限界があるという事だ。ということは、広範囲を守らせてやればいい』


 恐怖の魔法使いは、グレーター・ドラゴンのうち一体を群れから離れさせた。

 どこへ向かわせるでもない、完全に戦線離脱させたのである。


 巨大なドラゴンのうち一体が離れたことで、精兵たちの一人が生唾を呑んだ。


「他の地を襲うことで、我等の戦力を分散させようというのか……」

「いや、そうではない。もちろんこちらの防衛網に穴があれば襲うだろうが、そうでなければ遊泳させるだけだろう。奴はこの一手で、ドラゴン一体で、イレギュラ陛下のコストのほとんどをこの戦場に投入できなくさせたのだ」

「相手は襲う場所を、攻撃の届かない高度から、高い機動力で探すだろう。であれば、予知があっても意味がない、全ての土地をカバーする必要がある」


 恐怖の魔法使いは自分の城を守りつつイレギュラの塔を攻め落とせばいい。

 一方でイレギュラは、広大な帝国を守りつつ恐怖の魔法使いの城を攻め落とさなければならない。


 恐怖の魔法使いは、その点を突いたのである。

 これで、イレギュラのコストは、ほぼ防衛戦に使えなくなっていた。


「いやあ~~、なんかここまで予知通りだと申し訳なく思えてくるな」


 精兵たちが息を呑む中、イレギュラは意地悪く笑う。


「俺だけでアレと戦うってなったら、今の一手で絶望的だった。だが大公閣下の予知で、ここにはドラゴンをも恐れぬ勇者がたくさんいる。作戦に影響はない、このまま普通に……削り殺す」


 精兵たちの立つホーリーソード・エンパイア・ゴーレムから、大量の羽音が聴こえてきた。


 回転翼にて浮上するのは、イレギュラの『千里眼』。文字通り千里を飛ぶ眼の群れ。

 最弱のユニット、偵察ドローンであった。低コストであるがゆえに大量生産できるそれが、精兵が見えなくなるほど生産される。

 それら一つ一つに影がまとわりつき、換装していく。


「聖剣じゃない……偽装だ」


 偽装。

 コスト1+1。

 誘導偵察ドローン。


 デコイとしての機能を持たされた大量のドローン。

 それらに向かって、中枢ドローンが光を浴びせて瞬間移動させる。


 その移動先である末端ドローンは、すでにグレータードラゴンの群れの真上に配置されていた。


 発光、異音。

 たとえるのなら、大量のハエの群れ。

 とにかくうるさく、目立ち、うっとうしかった。


 この戦場にふさわしくない、素のゴブリンよりも弱い有象無象。

 ただのにぎやかしに対してグレータードラゴンたちは苛立ち、火でも吐いてやろうとする。


『無駄なことをするな、無視しろ。これは単なる陽動だ。あの塔を壊せ!』


 恐怖の魔法使いはそれを制する。

 イレギュラの思惑を理解し、塔への攻撃を促す。


 これにグレータードラゴンたちも従った。

 とてもうっとうしいが、恐怖の魔法使いからの勅令よりも優先されることは無い。

 ハエの群れを無視して敵拠点を叩け、という命令をおかしく思うことは無い。


「まあ、そう来るよな。俺も自分のこの偽装に関しては、まったく、これっぽっちも信じていない。これがそんなにすごいんなら、俺はコレ一本で世界を救ってるさ。それこそこの誘導ドローンを海のかなたへ飛ばすだけで勝てる。だがそれはムリだ。無視しようと思えば無視できる。だけどなあ……大量のハエを頑張って無視して、敵の拠点へ攻撃しようってときに、意識していない方向から奇襲を受けて対処できるかなぁ!?」


 末端ドローンは一体だけではなく、グレータードラゴンの群れの下側にも配置されていた。

 中枢ドローンによって、精兵の多くがグレータードラゴンの群れの真下へ瞬間移動されていく。


「くくく! イレギュラ殿と一緒に戦うと楽でいいな!」


 ベルマ・マードン。

 すでに第三アビリティを限界まで極めている彼女は、両手両足の変異が肘や膝まで及んでいた。

 彼女はそこから通常の変身を行い、魔人へと転じる。


「お前たちもそう思うだろう、ヒンシハ、ベルンシア!」


「おっしゃる通りですね」

「ここから一気に攻めましょう」


 移動系アビリティを扱うベルマのメイド二人は応じつつ、二人で息を揃えてベルマへ第二アビリティ『念動』を使う。

 自分たちを浮遊させるだけではなく、ベルマを動かし、飛行させたのだ。


「これで負けたら大恥もいいところだ!」


 頭上に気を取られながらも前を向こうと必死のグレータードラゴン。

 二重の意味で無防備になっている腹を、ベルマは傀儡聖剣で切り裂いた。


 現在の彼女の筋力は人間離れしており、グレータードラゴンの鱗もモンスターの中では最強に堅いのだが、それでも傀儡聖剣は強度で負けていない。

 ディスソーヴァティは彼女の呪いも纏いつつ、軋むこともなく大きな傷を負わせて出血させていた。


「フレイヤー殿のオーラ、トイ・ジェネラルの強化、傀儡聖剣ディスソーヴァティ、ヒンシハとベルンシアの念動による加速、姫様の仲間からの支援魔法。そして私の呪いが乗った斬撃だ! 如何にグレータードラゴンが最強のドラゴンでも、急所(クリティカル)綺麗(クリーン)直撃(ヒット)すれば、即死は免れまい!」


 彼女の宣言通り、最強のモンスターは一撃であっけなく即死する。

 如何に小さい剣とはいえ、巨大な体を一文字に切り開かれて、呪いが注ぎ込まれればこうなって当然だ。


 転送されたのはこの三人だけではなかった。


 ピット・テリァやバーニエ・コッカース、ルテリア・クラッセルたち、変身できる猛者たちが、念動を操る精鋭の援護を受けながらグレータードラゴンの下っ腹に食いついていく。


 奥義を使える者も交じっているが、それを使用するまでもなく一方的に駆除していった。


「身体強化が多く、移動が少ないのは知っていましたが……だからといって、私たちはこのまま普通に戦えというのは、ムカつきますよ……!」


 対して、超身体強化に至った者たちは、人数比の関係で転送されると同時に地面へ落下する。


 だが地面に降り立つと同時に跳躍。

 ただ純粋に極まった身体能力、脚力による跳躍だけで雲の高さのグレータードラゴンへ肉薄した。


 ほとばしるオーラで傀儡聖剣を振るえば、切り裂くどころか一刀両断である。

 そのまま死体のドラゴンを踏み台にして、別のドラゴンへと襲い掛かっていく。


 精強なるグレータードラゴンが落ちていく様は、さながら戦闘機の援護を受けられない爆撃機か。


『うぬぅ! やってくれるではないか!』


 先陣を切っていた恐怖の魔法使いがそれに気づくまでのわずかな間に、グレータードラゴンのほとんどが落ちていた。

 世界を滅ぼす無敵の軍勢に思えていたはずなのに、強襲一つで壊滅している。


 恐怖の魔法使いは全身に生えている顔や頭の顎を動かし、怒りをあらわにする。

 そのまま自分の持っていた独裁聖剣グラディウスを振るった。


 光の奔流があふれ出し、強襲部隊を飲み込む。

 ダムの決壊にアリが呑まれるように、逃れる術はなかった。


 だが光が収まった時、そこには何のダメージも受けていない人間たちが浮いていた。


「矮小で薄弱な攻撃ね。ご自慢の独裁聖剣グラディウスも、グレータードラゴンのほとんどが落ちた状態なら、威力は小さじ一杯。元々強大なうえで厚く硬く強化されているアタシたちどころか、脆いはずの移動系すらノーダメじゃないの」


 巨人となっているワワ・スワールは、地面に立ったまま傀儡聖剣をふるい、グレータードラゴンを叩き落しつつ煽っている。


 本来なら今の一撃で大嵐すらかき消せただろうが、味方が減った今は悲哀を感じさせるほどの見掛け倒しだった。


『言ってくれる! 我が力は、まだまだ底を見せんぞ!』


 大公領を襲った時と同じようだった。


 恐怖の魔法使いの拠点、空に浮かぶモザイクの城で、大量の黒の泉が瞬間的に建築され、一瞬でグレータードラゴンの群れが生成される。


 喪失したはずの戦力は一瞬で補充され、独裁聖剣グラディウスも輝きを取り戻した。


『今の乾坤一擲の策、無為に終わったな! ここからは力でねじ伏せてくれよう!』


 今まで無視していた誘導偵察ドローンの編隊を、まずは薙ぎ払う。

 元々弱く、強化も薄かったドローン部隊はあっさりと塵に消える。


『短命種の姑息な策で、神に勝てると思ったか!?』


 転送されてきた強襲部隊へ、再び独裁聖剣グラディウスを向ける。


 先ほどの一撃とは比較にならぬ大威力の一撃。

 今度こそ全滅させられるはずだった。


「おいおい、生み出したドラゴンへ命令しなくていいのか?」


 玉座に座ったイレギュラは、聞こえないと知ったうえで煽った。


 そのそばにいる彼の部下たち、マルデルや攻撃魔法の使い手たちが攻撃を開始する。


「私の友達に、何してくれてんのよ~~~!」


 遠距離を基本として、広範囲、大威力、高連射の魔法が強化された状態で連射される。

 グレータードラゴンたちがきちんと対処していれば防げたはずだが、生み出された瞬間であり、特に命令もなかったため集団の反応ができなかった。


 グレータードラゴンたちは大ダメージを受け、無残にも落下していく。

 再びのリスキル。出現と同時の殲滅。独裁聖剣グラディウスは再び力を失っていった。


『まだ、まだだ! この策ももう通じぬ!』


 恐怖の魔法使いは絶叫する。

 再度、グレータードラゴンが補充された。


『戦え! 塔を壊せ! 人間を殺せ!』


 即座に命令が下され、グレータードラゴンたちは二手に別れた。

 片方は強襲部隊に、もう片方はホーリーソード・エンパイア・ゴーレムとその頭上の塔と部隊に。


 殺された同胞の逆襲と言わんばかりに炎を吹きかける。


「ぐああああああ!」

「きゃあああ!」


 最高ランクの防御魔法を含めた多重の防御によって、人類の希望である精鋭部隊は炎の嵐を受け止めていた。

 全滅することは無いが、先ほどまでと違ってダメージを受けている。


 さすがは最強のモンスター、まともに戦い始めれば精鋭と言えども容易な相手ではない。


『むっ……性懲りもなく、無駄なことを!』


 異音と発光。

 誘導偵察ドローンの群れが展開されたことで、恐怖の魔法使いは自分で対処する。


 何度も何度も出現するが、その都度叩き潰していった。


『私をただモンスターを出すだけの愚物、数量で押すだけの初心(うぶ)だと思ったか! 私はお前たちの想像を超える戦いを幾度となく乗り越えてきた! どのような策を講じようと、即座に対応し、ねじ伏せてくれよう!』


 恐怖の魔法使いにも限界はある。

 どのような理屈であれ『同時に出せる数』は現在が最大値であり、それ以上の数は出せず、しかも城の周辺からしか出せない。

 また、モンスターの生産に必要であろうリソースも、際限はある。


 だが、恐怖の魔法使いはまだ底を見せない。

 相手は第四アビリティを極め、レベルは250。

 その創造力が卑小であるわけもない。


 事前準備で戦力を揃えても、奇策で数をそいでも、まだまだ彼は余裕を持っていた。


 だが、それ以上に余裕を持っていたのがイレギュラであり大公であった。


「万事、貴方の作戦通りですね。大公閣下」

「陛下の御力があってこそですよ」


 終わりが見えない戦いで心が折れそうになっていた者もいたが、イレギュラと大公が余裕を持っていることが支えになっていた。


「恐怖の魔法使いは百戦錬磨。相手の動きを知れば即座に対応してきます。先手によって被害を受けてなお、後出しで対応できる数と質を彼は単独で保有している。ですが処理能力はとっくに限界を迎えているのですよ」

「同感ですね。創造力があっても、想像力が不足している」


 二人はすでにチェックメイトをかけている。


 その証、恐怖の魔法使いの城で爆音が鳴った。

 煙が上がり、振動を始めていた。


『しまった……私の城に、瞬間移動で戦力を送ったのか!』


 恐怖の魔法使いは即座に状況を理解していた。

 すでに見せられた、末端ドローンによる戦力の瞬間移動。

 それを用いた戦術の最たるものは、敵の拠点へ直接戦力を届けることに他ならない。


『城の内部には、維持力の余りで雑兵の群れが少しいる程度……な、ならば……!』


 すでに自分の拠点に敵戦力が侵入し、破壊工作を行っている。

 尻に火がついていることに気付いた彼は、慌てて一体のグレータードラゴンへ意識を向けた。


 直後、グレータードラゴンは影となって消える。

 だが彼の持つ剣の輝きは衰えていない。

 グレータードラゴン一体分相当の戦力がどこかに残っている証拠だった。


『グレータードラゴン一体分の戦力を、トロールやゴブリンに変換し、城の内部で生産した! これで……』


 恐怖の魔法使いに『千里眼』は無い。

 城の中で何が起きているのかは、遠くから見てわかる範囲でしかない。


 そして城の中では、今も破壊音と戦闘音が響いていた。


『まだ、まだ足りぬか! それならばさらに追加で……いや、だが、まだ……!』


 バラバラの角度(・・)で攻めてくる大量の敵。

 それも一角はすでに自分の喉に噛みついている。


『城の再建造には時間がかかる。修復機能などない。であれば、内部の敵を駆除しても、また戦力を送り込まれれば……いや、そもそも、ここにいる戦力が城に向かって奥義を撃てば……城は崩壊する』


 恐怖の魔法使いは周囲を見た。

 まだ敵の戦力は健在。

 即座に全滅させて、城へ戻って倒すという事はできない。


 ただ一人の指揮官、独裁者は思考的にも時間的にも追い込まれていた。


 これが机上の遊びならもはや降参するしかない。

 だが彼はそんなことができない。


 できないからこそ、彼は恐怖の魔法使いなのだ。


『塔を攻撃しろ! 他のことは全部投げろ、無視しろ! 私もすべてを無視して攻撃する!』


 彼はここで『攻撃』を選択した。

 塔を倒しさえすれば、相手の防衛網は崩壊し、敵兵への強化も喪失する。

 そうなれば城の内部の兵も死ぬであろうし、目の前の敵も倒せる。

 敵からの攻撃を無視するのだから膨大なリソースが失われるが、そんなことを言っている場合ではない。


『私に続け~~~!』


「そうはさせない!」


 瞬間移動と見間違う速度で飛翔し、恐怖の魔法使い斬りかかる者がいた。


 フレイヤー・ウルフドッグ。

 幾度となく恐怖の魔法使いを倒した血族の末裔である。


 マスクで顔を隠し、人形兵士と同じ装束の彼女は、勇光(ゆうこう)聖剣(せいけん)ユナイテッドで独裁聖剣グラディウスと撃ちあった。


『ブルータスの子孫か! 侮るなよ、この独裁聖剣グラディウスがある限り、お前に負けることは無い!』

「貴方をこのまま押しとどめれば、必ず仲間が城を落としてくれる! それまで持ち堪えれば、ボクたちの勝ちだ!」


 まだ、独裁聖剣グラディウスの方が勇光(ゆうこう)聖剣(せいけん)ユナイテッドよりも強い。

 グラディウスは自己強化できるが、ユナイテッドにそれはないからだ。

 単体の数値としてみれば、恐怖の魔法使いの方が圧倒的だった。


 だがそれは、数値の話である。


「それに、貴方にとって自分が戦うのは最後の手段だ。今までろくに鍛錬を積まず、実際に戦ったのは初めてだろう。単純な斬り合いの技量なら、ボクの方が圧倒的に上だ。抑え込むだけなら難しくもない!」


『それは……それは! 私が怪物だという事か! 私が、醜く、ゆがんだ……弱い怪物だという事か!』


 相手はただスペックを盛っているだけの白帯剣士だ。

 単体として見れば兄であるフレイに劣る。


 彼女は死ぬ気などなく、勝算をもって臨んでいた。


『私は弱くなどない。お前を殺して、同類も殺してやろう!』

「陛下は死なせない、何があっても!」

『お前の先祖も同じことを言ったが、結局私を刺したぞ!』

「同じことにはならないさ、絶対にね!」

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― 新着の感想 ―
やばいって、やばいって このルート本当に不味いって
能力の相性と組み合わせでとちってたら、どんなヌルゲーでもクリアは出来んモンな。
ドローンが大活躍ですね 瞬間移動はやはり強い…
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