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意思決定

更新が遅れて申し訳ありませんでした。

 時間は少々さかのぼる。


 これからアレスの元へ向かうという前に、フレイヤーは借りていた会議室で自分の仲間を全員集めていた。


 話す内容については、全員がすでにわかっている。


 独裁聖剣グラディウスを折るか折らないか、であった。

 その最終決定をこの場で済ませるつもりなのだろう。


「これからアレス大公へ返事をするために、ボクたちは意思を決定する。だから挙手をしてもらうわけなんだけども……先に、ボクの話を聞いてほしい。僕の意見に従う必要はないが、僕の話を聞いて意見を変えることは正しいと思う」


 フレイヤーは神妙な顔をしており、彼女の仲間たちも同様に神妙な顔をしていた。

 それほどの重大事であるため、場は緊張していくばかりであった。


「ボクは、折るべきだと思う」


 凛とした言葉だった。

 しかしそこから彼女は徐々に弱さを見せていく。


「ボクたちはこの短い期間で、多くの経験を積んだ。それはボクにとって、成功と失敗の連続だった。一度は上手く行ったことが、二度目は上手く行かなくなることがあった。大きな損失によって反省し、二度と繰り返すまい、二度と失うまいと誓っても……被害はなくならなかった。ボクはその程度の分際だ」


 戦いの中で彼女も仲間も強くなっていったが敵の強さも同様であり、相対的な実力差は変わっていないのかもしれない。

 しかし戦術面や精神的な成長は著しく、それによって被害は軽微となり、安定した戦果を出せるようになっていった。


 それでも、守りたかったものが守りきれたわけではない。

 一人守れなかったとか、一人死なせてしまったとか。

 その一人の価値を、全員が知っている。


「ゆえにボクは、折るべきだと進言する。ボクは、絶対に成功できるなんて、偉そうなことは言えない」


 彼女はより一層、弱った。


「そうだ。ボクは今まで君たちをだまし続けてきた。詐欺ではないが欺瞞だった。”一人”を失い悲しむ君たちに、僕は必要だからという理由で、心にもない言葉で鼓舞してきた。そうしなければならない立場だったし、それによって多くを救えた。だが……それは突き詰めれば被害を瑕疵だと言ってごまかしているようなものだ。あの剣を守り切れなかった場合、どうあがいてもごまかしは効かない。君たち全員の人生が悲惨なものになってしまう……」


 彼女の立場から言えば『最大多数』のための判断をしなければならない。

 しかし偽らざることに、今の彼女には苦楽を共にした少数(なかま)のことを考えずに判断ができなかった。


「大公閣下のおっしゃる大変に失礼な(・・・・・・)最悪の事態というのがどういうことだかわからない。おそらく聞いても答えてくださらないだろう。だが、ボクや君たちが不幸になることはわかる……!」


 彼女は弱い顔のままで、強く訴えた。

 自分の弱さをさらけ出してでも、仲間に強く伝えたかったのだ。


「独裁聖剣グラディウスを奪還されたとしてもなんとかする計画が大公閣下にはあるはずだ。そうでなかったらボクたちに判断をゆだねるわけがない、ただしその計画を実行することによって、ボクや君たちが不幸になってしまうということなんだろう。それこそ……計画の内容を聞いたら、人類が滅びてもいいから止めようとするほどに!」


 フレイヤーの言葉を否定する者も、そうだったのかと驚く者もいない。

 今日までの日々の中で仲間内、親しい者と話すうちに、誰もがその結論を共有していたのだ。


 それを知ったうえでどう判断するのか。

 相互理解は済み、決が採られようとしている。


「その不幸になった後、どんな事態になるのかボクは……想像ができてしまえる!」


 ーーー貧乏な父親がパンを買って家に帰っていく道で、そのパンを奪われてしまったとしよう。

 彼はそのあと、悪事に手を染めるだろうか。

 手を染めるかどうか真剣に検討せざるを得ない状況の時点で、彼は不幸と言える。

 悪事を働き、その末に残酷な結末に至った……とかではなく、もうその前段階で不幸なのだ。


「だから、ボクは折るべきだ、と考えている。最大多数の損失が多くなるとしても、仲間を犠牲にはできない」


 おかしなことは言っていなかった。

 誰だって不幸になりたいわけではない。


「君たちがボクに、何時ものように鼓舞を求めているのはわかる。だけど、ボクは……それに応えられない。偽物とは言わないけど、英雄を名乗るには力不足だった。許してくれ」


 彼女が今まで多くの責任を背負い続けてきた苦労が発言から溢れていた。


 痛ましい言葉だった。

 いばらの道を、重き荷を背負って歩いてきた言葉だった。


 彼女が全員の前で漏らした弱音に、多くの人が声を失っている。


 ここでヒマラヤが率先して挙手をした。


「姫様の心境はともかく……守るべきものが二つある状況というのは良くないことです。よって私は剣を折り、グレータードラゴンを討つことに注力すべきかと存じております。皆様はいかがですか」


「俺は……俺は、剣を折りたくない。姫様があの剣を使って、英雄になってほしいです!」


 ヒマラヤが開いた道に踏み込んだのは在野の武人の一人であった。

 若き戦士は、挙手をして叫ぶ。


 あまりにも青い言葉に、フレイヤーは怒ってさえいた。


「そんな甘い考えでどうするんだ!」


「姫様こそ、俺たちが死なないと思ってるんですか!? 俺たちがグレータードラゴンと戦って、死なずに済むと思ってるんですか!? 勝ちだとか負けだとか以前に、俺たちは死ぬ可能性が高いんですよ!」


 フレイヤーは、自分の視野が狭くなっていたことに気付いた。


 勝った後、生き残った後のことを考えすぎていた。


 そう思ったところで首を左右に振る。


「それはそうかもしれない。だけど、だからなんだ!? 必死に戦って生き残っても、剣を奪われたら最悪の事態になるんだぞ!」


「それは仕方ないでしょうが! 大げさに言ってますけどね、一生懸命戦っても護衛対象が死んだら最悪の事態になるなんてあたりまえでしょうが! 俺たちは何時だってそのつもりで頑張ってきましたよ!」


 ーーー順調にキャリアを積んでいた武人が、貴族から仕事を頼まれる。

 これを失敗すれば、出世街道からは外れる。


 出世したい武人はたくさんいる。その中から『貴族からの仕事を失敗した武人』を選ぶ必要性がないからだ。

 

 それだけでも絶望的だが、大貴族から大仕事を頼まれた場合はそれどころではない。


 恐怖の魔法使いを討てる独裁聖剣グラディウス、という大物でなくとも……。

 たとえば大貴族の娘を守れと言われたらどうだろうか。

 失敗すれば殺されても文句は言えない。かといって、断ることも許されない。


「俺たちに向かって危ないことをするなって言うのは、一生平民に甘んじてろってのと一緒なんですよ! 人生を懸けて戦うことも許さないってことですよ! 勝算があっても、生き残る可能性があっても、それでも諦めるのが人生だって言うんですか!」


「……そのほうが、いいんじゃないかと、思うこともあった。『これでよかったのか』に対して『これでよかったんだ』という反論もあった。だが今は……何が正しいのかわからない」


「俺だって、俺だってわからない! 農夫になって死ぬまで畑を耕して、孫に囲まれて死ぬってのも、今はそんなに悪くないって思います。モンスターと戦って、終末教団と戦って、こんなに辛いなんてってしょっちゅう思ってます! でも……でも! 姫様、アンタならわかるはずだ! そもそも世の中、選べることじゃないって! 安定した道は絶対安全じゃないって! 安定した道を選んで苦労したって『こんなはずじゃなかったのに』って死ぬこともあるって!」


「それなら、キミはどうして、折らない道を選ぶ。ボクに剣を使えっていうのか」


「姫様のことを気高い英雄だって信じているからですよ!」


 気高いと言われて、フレイヤーは弱る。

 自分はそんなものではないと拒絶しようとする。


「姫様。俺はバカですけど、賢人たちから教わりました。本当に気高い人は、自分を気高いと言わないって。自分のやり方が正しいかわからなくても、道から外れないように進む人のことだって!」


「迷わない方が、いいにきまっている。そうじゃないか?」


「それじゃあ姫様は、他の奴を信用できるんですか!? 剣を折るってことは、姫様が世界を救う力を得ないってことですよ!? 他の奴が英雄になるかもしれないんですよ!? 英雄になるってことは、皇帝になるってことでしょ!?」


「!!」


「!?」


 ここで、ほとんどの人間はフレイヤーの反応に驚愕していた。

 彼女は強く目を見開き、そして穏やかに戻っていく。

 強い言葉だったからこそ、彼女は冷静になれていた。


「ボクや君たちはそれでいいとして。カサンドラ殿下はどうなんだ。あの人は折ることを望んでいたぞ。彼女に対してそれを強く言えるのか? 世界の命運云々はともかく、彼女に対して申し訳ないと思わないのか」


「それならいい手がありますよ。それは……    」


「本気か?」


「逆に考えてくださいよ。それぐらいしないと守れるか怪しいでしょ。それに、それで駄目なら俺たちも諦めが尽きます」


 フレイヤーは周囲を見た。

 誰もが、すでに選択を済ませていた。


 口ではフレイヤーに賛同していたヒマラヤですら、すでに心では決めていたらしい。


「みんなの意見を聞くと言ったのはボクだ。それなら、その決定には従うよ。でも、これだけは言わせてくれ……みんな、バカだよ」


 多くの仲間たちから信頼されていることに、彼女は喜びつつも呆れてしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
なんだかんだ言うて、本格的な挫折っつうか、取り返しの付かない敗北を知らずに此処まで来たんやなあ・・・と。
良い手とはなんなのか、気になりますね!
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