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まじわり輪  作者: がおがおの
第五章 北の国編

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第五十八話 今後についての二つの方針

セリナの呼びかけで、僕達はレガードさんの屋敷の広間まで戻った。

何か事件でも起きたのかと焦りながら扉を開けたのだが......


「あっ!や〜っと戻ってきたわね!遅いぞセレスティア!」


セレスティア様は完全に無視した。

答えるのすら面倒くさそうだった。


「何かあったのでしょうか?」

「何かどころじゃないわよ!これからどうするかって話しているのだけど、そこの主が『シエロと一緒に居たい』って言うのよ!私は、セレスティアと共に行動なんて絶対に嫌よ!」


(なるほど……何か事件が起きたわけではなく、ただの我儘の言い合いだったか......それにしても、セリナが僕と一緒に居たいって中々照れるじゃないか)


理由を暴露されたセリナは、少し頬を赤くして下を向いていた。


「フン、こちらこそ願い下げだ。貴様と居ると、無駄なエネルギーを消費してかなわん」


なんだか、ベンジャンさんとネネさんのやり取りを見ているみたいだった。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくれ。シエロの具合が戻ったなら、全員席について話そうではないか」


そう場を取りまとめてくれたのは、アルデリオ様だった。

僕達はそれぞれの席に着いた。


「では、今後についての話をしよう。この地で起きた事や、今の世界の大まかな状況については、スピカやケテラ、そしてレガードからある程度聞けた。後は、シエロ達にもどうしてこの最果ての地にやってきたのか、その理由を聞きたい」


アルデリオからの問いかけに、僕は直ぐに答えた。

セリナがネメティアの主である可能性があり、その宿縁具(アニマ)がここイースラントにあるという事を、情報屋のランデックという男から聞いた事を伝えたのだ。


「ふーん。じゃあ、あいつが言ってたことは割と正しかったって事ね」


僕の説明を聞いて、スピカが何か納得したような様子で頷いた。


「あいつってのは、誰の事でしょうか?」

「あいつってのはアレよ、さっきあんたが言ってた誰だっけ?」

「ランデックだろ。情報屋の」

「あ、それそれ。流石、ケテラ」


(ランデック!?この人達もランデックさんから情報を得ていたのか!?)


僕がそれを聞き、あまりの符合に色々と考えているのが顔に出たのか、ネネさんが僕の顔を見て言った。


「本当に気持ちの悪い話よね。しかも、この二人は星辰の宿縁具(アニマ)があると聞いてここに来たんだから」

「星辰の宿縁具(アニマ)ですか……」


考えれば考えるほど、ランデックさんがただの情報屋の枠に納まりきれない程、全てが彼の手のひらの上で上手く進みすぎている。

いや、その分失ったものは大きすぎる。

果たしてこれが本当に上手くいっていると言えるのかは分からなかった。


「でも、そのランデックってやつは嘘ついてないみたいだし、このまま捕まえて宿縁具(アニマ)の在りかを全部吐かせればいいんじゃない?」

「確かに、ネメティアの言う通りそれはありだと思う。知ってる知らないにしろ、そいつには対価でも支払って聞きたいことは聞くべきだ」


ネメティアの無茶な発言を上手く、アルデリオが現実的な着地点にまとめてくれた。

普段、セレスティア様は誰かと口数を多く交わすわけでは無いから、こうやって他の七柱と何気なく話す姿を見ていると、七柱と言う存在も少し身近に感じる。


「それに、あの古龍であるヴァルグリムが居ないのなら、早急に探し出して解放させるべきだ。六皇神たちの動きが少し早い気がする」


アルデリオの口から古龍という言葉が出た時、七柱である二人とレガードさんの顔色が変わった。


「あ、あいつは確かに最強だけど、私は苦手よ……。そもそも、あいつは前回の六皇神との戦いのとき、手を抜いて負けたようなやつよ」


(ネメティア様が苦手という事は、そうとう癖が凄い人なのだろうか……なんだか、七柱の全員がどんな人物なのかを少し知りたくなってきたな)


「だが、やつが居る居ないでは戦力に大きな差が出る」

「セレスティア様。その、古龍の方はどのくらい強いのでしょうか?」


ここに居る七柱の三人が無条件に強さを認めるほどの七柱が、どんな方なのか気になってつい質問してしまった。


「そうだな。やつなら、氷山で遭遇した冥竜とサマエルを同時に相手にし……本気でやれば勝つだろうな」

「え……あんな化け物を同時に相手にして勝てるんですか!?」


正直、想像以上のイカレっぷりだった。

と言うよりも、絶対的だと思っていた七柱の中でも、明確に強さに差があることに驚いた。


しかし、六皇神でもサマエルより後から現れたあの魔族の方がよっぽど不気味だった事もあり、そう言う事なのだろうと今の僕の飲み込みは早かった。


「では、これからの方針はランデックと言う男を見つけて、聞きたいことを聞く。という事でいいだろうか?」

「いや、もう一つやるべき事がある。我々はそちらを優先する」


突然、セレスティア様が話を遮って答えた。


「もう一つとは何だ?」

「西の国(ヴェルディア)へ向かい、常緑(じょうりょく)の賢者に会いに行く」


(常緑(じょうりょく)の賢者?一体、誰の事なのだろうか)


「はぁ?セレスティア、本気で言ってるの?常緑(じょうりょく)の賢者って、六百年前から名前だけ広まって、まだ誰も会ったことすらない嘘みたいな話よ」

「確か、常緑(じょうりょく)の賢者は何でも治癒が可能で……噂では死者も蘇生できるとか。……嘘みたいな話ではあるがな」


(死者を、蘇生……!?)


僕はその言葉に、もしかすると……という、とてつもなく大きな希望を想像した。


「シエロ」

「はい、何でしょうかセレスティア様」

「もし、本当に常緑(じょうりょく)の賢者が存在していれば……母親の足の治癒や、父親の蘇生も……夢ではないかもしれんぞ」


正直、言葉に詰まった。

もし、もしも本当にそんな奇跡が可能であれば……僕は死ぬ気で、その常緑(じょうりょく)の賢者に会いに行くだろう。


「しかし、セレスティア。その常緑(じょうりょく)の賢者が何処にいるとか、何かアテはあるのか?」

「勿論ある。だが、それを今ここでお前達に説明するには時間がかかる」


セレスティア様は、僕の目を見てそう言った。


それから、今後の二つの方針について、上手くアルデリオがまとめてくれた。


一つは、情報屋ランデックの捜索を行うこと。

七柱と宿縁具(アニマ)の在りか、そして六皇神についての情報を引き出す。それと、一応常緑(じょうりょく)の賢者についても何か知らないか聞くことになった。


二つは、常緑(じょうりょく)の賢者の捜索。

西の国(ヴェルディア)へ向かって治癒の協力を頼む事と、今後の六皇神との戦闘になった際にこちら側に協力して貰える様に頼む事。


「大体、方針は決まったな。では、これを誰が担当するかだが、常緑(じょうりょく)の賢者の方はセレスティアとシエロでいいかな?」

「私もシエロに着いていくわ!」


そう言って、椅子から勢いよく立ちあがったのはセリナだった。

それに反発するようにネメティアも立ち上がる。

ヒートアップする二人を仲裁するように、間にネネさんが入っている。


(ハハッ……凄く仲が良さそうだ)


「なんで、私がセレスティアと行動しないと行けないのよ!」

「じゃあ、私だけシエロと行動するわ!」

「はぁ!?そんなの駄目に決まってるじゃない!私の知らないところで死なれたら、困るのは私なんだけれど!」

「私は死なないわ!」


間に入っているネネさんは、ただでさえ顔色が悪いのに、さらに具合が悪そうに見えた。


(どうしてネネさんは、ネメティアの従者になったのだろうか……)


「ふ、二人とも落ち着いてくれ……俺たちはランデックの捜索に行くけどいいかな?」


アルデリオからの確認の問いかけに、セレスティア様は頷き、ケテラも否定しなかった。

ただ一人、スピカだけはそんな今後の作戦の話よりも、セリナという少女に興味を持っていた。


「強い?ねぇ、ケテラ。あいつと私だったら、どっちが強いと思う?」

「ん〜まぁ、実際の戦闘をちゃんと見てないからわからねぇけど……スピカだろうな」


その言葉を耳に入れたセリナは、口論の動きをピタッと止め、ゆっくりとケテラ達の方へ視線を向けた。


「は、い?」

「あ、ヤベ。聞こえてた?」

「私は強くなったわ。あなた達がどんな実力か知らないけれど……そんなだらしない姿勢のあなたに、私が負けるわけないじゃない!」


現在のスピカの姿勢は、椅子に深く腰を掛け、ほぼ水平に近い状態で眠そうな表情をしている。

そんな者に、私の方が強いと言われたセリナは自身のプライド上、絶対に許せなかった。


「でも、あたし、そこのシエロってヒトよりは確実に強いよ?」


予想外の角度から刺され、それを聞いたセリナは反撃をする言葉が出せなかった。


「おい、間違ってはいないが大口を叩き過ぎだぞスピカ」

「何?何も間違ってないよ」

「スピカは剣士だ。スピカが本気を出せば、いくら無詠唱で魔術が放たれても、間合いに入られて一瞬で終わりだ」


知らない間に、何故か比較対象として僕に矢印が飛んでいた。


「だが、あの氷山で魔族に放ったあの魔術を、スピカが受け流せるか流せないかとなると、後者だろ?」

「今、その話は関係ないよ。私が、この娘とどっちが強いかだ」


スピカは都合が悪くなったのか、そう言って強引に話を逸らした。


「い、いいわ!そこまで言うのだったら、私があなたよりも強いことを証明するためにも……私もそっちの班に合流するわ!」


セリナは、僕に着いて行く事を辞めて、スピカ達と共にランデックさんの捜索に行くことを心に決めたらしい。


そうなれば、話は早かった。

色々思う部分はあるが、ネメティアとの論争が納まっているうちにアルデリオが話をまとめてくれた。

ランデック捜索班として、アルデリオ陣営とネメティア陣営の計六名。

常緑(じょうりょく)の賢者の捜索班として、セレスティア陣営の計二名が確定した。


「理由は何であれ、セレスティアと一緒じゃなくて助かったわ!」


ネメティアはとても上機嫌だった。


「シエロ……その、さっさとランデックを見つけて、私の方が強いことを証明して直ぐに戻ってくるわ!」

「分かりました。お互いに、無事に戻れることを願いましょう」


セリナは、自分から言い出した手前引っ込みがつかなくなったのか、少し寂しそうな表情を浮かべていた。


「セリナ。大丈夫です。セリナは強いですから、自信を持ってください」

「あ、当ったり前じゃないの!?」


僕が背中を押すと、直ぐにいつもの勝気なセリナに戻った。


それからは直ぐにここから出るわけでは無く、この村の復興作業やもうしばらく身体を休めるという事で、三日後に出発することになった。


そんなとある夜。

僕の部屋には、セレスティア様とセリナが居た。


「常緑(じょうりょく)の賢者について、話しておこう」


それは、僕達がこれから探しに行く常緑(じょうりょく)の賢者についてだった。


セレスティア様の説明によると、六百年前から誰かが噂し広まった話らしい。

なんとも信じがたい話だが、どうやらセレスティア様には確かなアテがあるようだった。


「シエロ。日記を綴っている古本を持っているだろ?」

「日記……ですか?」


僕は鞄から、ずっと大切に持ち歩いている古い日記帳を取り出した。

この日記に何かアテが隠されているのだろうか。


「こちらでしょうか?」


セレスティア様は、取り出した日記を懐かしむ様に見つめていた。


「これをどこで手に入れたのだ?」

「昔、家族でサフラニアへ出かけまして、その時に寄った古本屋でたまたま見つけました。まぁ、なんと言いますか……何故こんな誰の物かも分からない日記が売っているのか、ずっと不思議でしたが」

「運命とは、まわり、まじわり、帰るべき場所へ導かれるのだろうな」


セレスティア様は何処か、遠い昔を思い出すようにニヤリと笑みを浮かべていた。


「その日記は、お前の前の主が使っていた物だ」


その言葉を聞いて、僕は直ぐに日記を開いた。

昔の主、レイドさんの話をセレスティア様から聞いた時の内容を思い出しながら。


最初の数ページをめくると、聞いた話と類似した内容が出てきた。


『六月七日、新たな種族と出会う。リネット族……』


僕の手は、日記を捲ることを止められなかった。

セリナも横から顔を覗き込むように、真剣な顔で見ている。


『五月十日、隣国に隕石が落ちた。たまたま仕事で隣国へ行っていた父が巻き込まれた』


日記の文字を追っているうちに、色んな感情が胸の奥から湧き出てきた。

昔の主も、形は違えど父親を理不尽に亡くしている。


「セレスティア様……」

「レイドはシエロであり、シエロはレイドでもある。だから、あの杖やこの日記の様に……前世と似たような悲惨な人生を歩まなければいけない因果なのかもしれんな」


僕は震える手で、また一つ日記を捲った。


『八月二日、これはメモだ。西の国(ヴェルディア)の森の泉で、一人のエルフと出会った。全身が血まみれで、立ち上がることも困難な俺に治癒をしてくれた。不思議なことに、身体の何処にも異常は無かった。少し急いでいたので、礼だけ言ってその場を去ってしまった』


この内容が、セレスティア様の言うアテなのだろうとすぐに分かった。


「その時は、六皇神との戦いの最中であり、本人も顔をあまり覚えていないと言っていた。戦いが終わり、レイドと共にその場所に寄ったが、そのエルフを再び見かけることは無かった」

「でも、そのエルフの話って六百年も前の話でしょ?まだ生きているとは到底思えないんだけれど」


確かに、セリナの言う事には同意だ。

エルフとは不死に近い長寿ではあるが、それは寿命だけの話であって、六百年も同じ場所にいる保証はどこにもない。


「行ってみない事には分からんだろう。それに、普通なら私もわざわざ探そうとはしない」

「じゃあ、どうして今回は探しに行く訳?」

「シエロ、日記をもう少し捲ってみろ」


僕はそう言われ、言われるがままに日記を数ページ捲った。

そこには、僕の目にも留まる、あまりに辛い一行が書かれていた。


『八月十六日、母が重い病気で倒れた。医者に見せても治せないと。だからすぐに、あのエルフを探しにあの森へ向かったが、エルフとは出会えなかった。俺が家に戻ると、母は死んでいた』


(両親ともに……)


少し、部屋の中はしんみりとした重い空気に包まれた。


「そうだ。レイドは両親を失った。そこから、レイドは日記を書くのを完全に辞めたのだ。あの時のレイドの絶望した表情は、今でも思い出す。だから、シエロには同じ人生を歩ませない為にも、早めに手を打つわけだ」


セレスティア様のその不器用な言葉に、僕は強く胸を打たれた。

なんと言葉にするのが正解なのか分からないけれど、こうしてセレスティア様が、レイドさんと僕の因果を重ね合わせ、僕がこれ以上大切なものを失わないように動こうとしてくれている事に……自然と涙が出てきてしまった。


「セレスティア様……」

「どうした?泣くほどの事か?」

「必ず、常緑(じょうりょく)の賢者を見つけ出しましょう」


セレスティア様はニヤリと笑い、大きな手で僕の頭を優しく撫でた。


「小娘も、別行動で大変だとは思うが頑張れよ」


そう言われたセリナは、ハッと目を開き、力強い笑顔になった。


「勿論よ!私も私のやるべきことをして、また必ずシエロの元へ戻るわ!」


そうして、僕達の過酷だった北の国(アルクティカ)での旅は、一つの終演を迎えたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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