117話 キャプテン・ガゴリグ
これはカドマツが異世界転生者となるよりはるか前。
ガゴリグという男の話。
「クソ……ッ、痛ってぇ……痛ぇよ……誰か……」
異世界転生はまだ分かる、でも俺は弱くてホンイツに捕まり拷問されていた。
俺は何もしていないのに冷たい石の檻に閉じ込められて暴力を受け続ける日々。
顔は変形、身体は殴られ蹴られ焼かれ、もうさっさと死にたかった。
城に侵入した大男によって足枷は外された。
「こっちです、急いで」
「……あんたは?」
「ホンイツさんが戻る前に、早く!!」
ニカナの城から初代と呼ばれた男の手引きで脱出した。
城から走って出れば港には海賊船があり初代のツテでのせてもらった。
海賊なんて俺のなかじゃ夢物語、漫画やアニメにしかいない。
「俺は海賊の船長、カシワだ」
「ええと、俺の名前――は」
「どうした?」
「ニカナの城で呼ばれてたもん名乗りたくないっていうか……」
「じゃあガゴリグ!! ガゴリグはどうだ!?」
「……気に入りました」
当時の海賊は海の魔物たちを討伐することで莫大な富を得ていた。
どういう理屈かは分からないが魔物を討伐、コアを砕くと金に変わる時がある。
ロマンだけはあったが現実はそう簡単ではなかった。
「……うげ」
食べ物には虫が沸いて、水が貴重だから風呂なんて入れない。
雨が降れば身体を洗えるが何日も降らなければそれっきり。
怪我人が出れば船から降ろす、酷い怪我ならもう助からないので殺してしまう。
「お前にゃ船を降りる選択肢がある、海賊船ってのは港につくたびに人は入れ替わる」
アニメの海賊みたいに船員を大事にする海賊船ではなかった。
けれど、現実的な海賊船であって役にたつうちは扱いも良いそうだ。
やがてボルトシメ港へとたどり着き、ぞろぞろと降りてゆく。
酷い船旅だったがそれなりの人数は残った。
なにせ魔物がいつ襲ってくるのか分からないうえに魔王などという絶望の災害がこの世界にはいる。
もちろん陸で生活して討伐で金を稼ぐのをとめはしない、だが陸地は敵が海よりもずっと強いから厄介だぞと。
「ガゴリグ、どうするか決心ついたか?」
船長のカシワさんに聞かれ俺は答えた。
「……俺はもうしばらく船に残ります」
「そうか、まぁでも時間はあるからな」
船へと荷物を運ぶ最中、商人がキャプテンに商売をもちかけた。
「スキルカード……?」
『へい、【スキルカード:密封】ですぜ』
「船長、どうする?」
「食料や水を完全に密封できれば確かに……ガゴリグ、船にそのカードと魔法石つんでおいてくれ」
「へいキャプテン」
俺は船に戻ったのだが、魔王が運悪くこのタイミングでボルトシメ港の近くに出現した。
船をとめておくためのイカリが魔物に食いちぎられた。
嵐のなか船は流され、船に偶然いた俺たちは嵐のなかを数日間さまよった。
「うぅ……」
仲間たちだが俺を含めて7人だけが生き残っていた。
だが、俺たちは怪我人でとても助かりそうにもなかった。
どこか知らない国で港につくことはできたのだが海賊船で怪我人だらけ。
「あんたらしっかり!!」
見知らぬ女性に介抱され、気が付けば船は再び出航していた。
「あぁ、目が覚めた?」
「どうなってるんだ……傷が」
「薬草を塗ったからね、頑丈な人で良かった」
「っていうか何で出航してんだ!?」
「あたしと腕相撲してアンタが勝ったら質問は受け付けるわ」
女に負けるかよと条件を飲んであっというまに敗北した。
俺は【スキル:パワー】を使ったのに。
為す術などなく敗北したのだ。
「何で!?」
「あたしは弟を探さなきゃいけない、そのためにあんたらを助けたの」
「は、弟!? 俺らのなかにでもいるってことか?」
「異世界転生者は顔が日本にいた時と変わってて分からない」
「じゃあアンタは」
「異世界転生者のドレミドよ、弟を探すためにあんたら働いてもらうから」
助けてもらったうえに強者。しかも海上では従うほかない。
美人な女海賊が爆誕、でも従うのは悪くない日々だった。
名を馳せていないのは彼女が自分の手柄にしなかったから。
「あんたらがいたからこのパワー海賊団は成り立ってるのよ」
「しっかし弟さんの手がかりねぇな……」
「ただ弟について知っているかもしれない情報はつかめたわね」
「え?」
「アンタが捕まってたって男、どうやら他にも異世界転生者を手に入れてるみたい」
「うげ!?」
「弟を拷問なんかしてたらボコボコにするわ」
「……あいつに復讐したい」
「なら取引成立ね、でも今回は危険度が海上とは段違いよ」
遺書を遺すのと心残りもなくしてから、二人で決めた。
「死地に行く男だしあんたよりも弱いが、弟さんとはうまくやってみせるぜ?」
「斬新なプロポーズね」
海上で素朴な結婚式をして仲間たちに見送られて俺たちはニカナの城へ行き、ドレミドだけが殺されて帰ってきた。
「すまねぇみんな――キャプテンは、死んだ」
仲間たちは俺の言葉をすんなり受け入れた。
元々、海賊だったから覚悟はそれなりだったのだろう。
むしろ俺を励ましてくれるような奴らだった。
嫁が亡くなってから千年ぐらいが経過して、またドレミドの名前を聞くとは――。
「あの男、会ったら真相を問い詰めてやるッ!!」




