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転生令嬢、異世界初プレゼン

 エリーゼはポケットから結界を張る魔道具を取り出し、発動させた。

 これで、この部屋でのやり取りは外に漏れることはない。


「それは……」


 アロイスが戸惑いの色濃くして、訊いてくる。


「この部屋に結界を張りました。お兄様、話をする前に約束してください。今からする話は、どう生かすにしろ、お兄様独りに留めて、決して口外しないでください」

「どうして?」

「情報は、簡単に盗めます。情報が漏れて、誰かに先を越されては意味がありませんから、約束していただけますか?」


 エリーゼが真剣な表情で言うと、アロイスは完全にドン引き、顔色を悪くしていた。しかし、二度と同じ間違いをしないために、言っておかなくてはいけないことだと、エリーゼは釘をさす手を緩める気はなかった。


「お兄様、全てのことを成す基本として、情報の適切な管理は大事なことです。それは、同業者に出し抜かれて悔しい思いをしたお兄様なら、身に染みて理解されていると思います」


 戦後、お兄様は、世の中の流れに乗り遅れて、取引先を失った。

 逆に、生き残った相手は、情報をいち早く察知し、お兄様を含む他者を出し抜き、生き残れたのだ。


「エリーゼ、どこでこんなことを学んだ?」

「私は、王太子宮に出仕しています。王城の情報管理は、それはもう厳しいものでしたので、すっかり鍛えられました」


 本当は、前世の記憶があるからなのだが、それとなく、納得できる説明をして誤魔化す。


「そうか、王城……か。本当に凄い所で、働いているんだな。分かった、口外しないことを約束するよ」

「分かっていただけて、嬉しいです」


 アロイスは、まだ19歳。未熟なのは当たり前だ。

 しかし、領民の声を聞く姿勢があるし、贅沢もしない、良い領主になる資質は確かに持っている。


 エリーゼは、アロイスのために持てる力をフルに使ってみようと決めた。


「長きに渡る戦いが終結して、平和になりましたが、人々の暮らしや意識は全く変わらずに来ています。まずは、その意識の変革を提案します」


「今のままでは、何がいけないのか、具体的に示してもらっても?」


「最大の問題は、戦時下の規制を守る体制が、そのまま続いてしまっているということです。一番は、情報発信できるようになっているのに、してはいけないと思い込んでいる人が多いという点です。だから、時代の流れに気づけず、乗り遅れて、今までやってきた金属加工産業は、存続し難い状況になっている。でも、新しいやり方に切り替えれば、形は多少変わりますが、続けていけると思います」


「販売ルートがないのに?」

「今までのルートではなく、新しいルートを開拓すればいい事です」


「剣は、この先、売れないと思うが……」

「私は、今までと同じものを売るとは言っていませんよ。その思い込みを無くすことが、意識の変革です」


「剣ではないものを売るということか」

「そうです。今、需要のあるものを作って売るのです。それが、産業の改革です。そのために、今何が作れるのか、正確な情報を調べ、いち早く動く必要があります。いくつか考えてきましたが、お兄様や現場の職人の方の意見がないと決めかねますので、相談させてください」


 優れた剣を製造する技術を生かせば、他の金属製品も品質の良いものが作れるはずと、エリーゼは確信している。


 前世で事務職とはいえ、機械金属メーカーの会社で働いていたから、多少は職人のことは分かる。優れた職人ほど、柔軟に加工方法を組み立てることができる。


「しかし、剣の製造産業は、領地の経営方針で、廃止すると公言している。それで、多くの鍛冶職人は別領地へ大半が流れてしまっている。残っているのは、クルトを含め、数名しかいない。しかも、クルト以外は、皆高齢者ばかりだ。今、再興するとクルトばかりに負担がかかることになる」


「製造する職人が少ないなら、受注生産にして、客に事前に周知し、待ってもらえばいいのです。現存メーカーと差別化出来て、いい方法だと思います。その代わり、待ってでも手に入れたいと思わせる高品質な製品を作らなくてはいけませんが……。要は、領主のお兄様と職人のクルトがそれができるかという問題だと思います」



「エリーゼは、実現できると思うか?」

「品質の良いものが出来て、他のメーカーにない付加価値を付けて売れば、いけると思います。大量生産が産業の形ではありません。初めは小さく始めていいと思います」


「付加価値か……、私が今進めている、新品種の果物と共通する発想と言えるな」

「そうですね、他者が真似できないメリットを示して売るのです」

「そうだな、どういうものができるか、話し合ってみる価値はあるかもしれない」


「お兄様、ざっと概要をお話しましたが、どう思われますか?」

「うん、自分が固定観念に囚われていたことは、自覚した。が、即答は出来ない。少し考えさせてくれ。――――しかし、お前、その知識は何処で得た? 女学校すら、行っていないのに」


「それは……、まぁ……、本を読んだりして……」


(前世の記憶があるからですって、言えないから、苦しい……)


「本か……、独学でこれほどとは、頑張っていたんだな。エリーゼ」

「……」


 本当のことを隠さなければならないエリーゼは、嫌な汗が噴き出した。


(この話題は、危険だわ! 回避、回避~~~~!!)


「私、せっかくこの世界に生まれてきたのだから、一度くらいは何かを成してみたいと思ってきました。守られて、流されるだけの生き方をするしかなかった私に、ようやく巡ってきたチャンスなんです」


 前向きな言葉で、アロイスのやる気を煽る。

 疑うだけでは何も始まらないなと、アロイス呟き、笑顔を見せた。


「チャンスか。お前のおかげで、視点を変えて物事を見る大切さを知った。ちょっと前向きに考えてみようと、思えてきたよ」


「お兄様、私、頑張りますから、一緒にやってみましょう」

「そうだな……」


 話に一区切りついたところで、エリーゼはアロイスの家族に出会えていないことに気づいた。


「そう言えば、お兄様のお嫁さんは何処に?」

「多分、今の時間だったら、厨房で食事の用意をしていると思うが……」

「?」


(男爵家の女主人自ら、食事を用意するの!?)


 貧乏男爵家の厳しい現実に、エリーゼは驚いた。

 王都のシュピーゲル家にさえ、侍女がいたというのに、兄の質素倹約は筋金入りだと思った。

 そして、辿り着いたもう一つの気づきを、エリーゼは思わず口にしていた。


「もしかして、お兄様。あの失礼なホフマン以外に、使用人はいないとおっしゃいますか?」


「失礼な……って、ホフマンの人当たりは良い方だと思うが。この家に住んでいる使用人は、彼だけだ。妻のリタは、家事は一通りできるから、全て任せている。ここは、私たち夫婦だけの住まいだし、ホフマン入れても三人だ。問題なく回せている」


「お兄様、確か、お嫁さん、リタさんって懐妊されていたんじゃ……」

「あぁ、そうだが?」


(まさかの、ワンオペ家事!!! 過酷すぎる……)


「体調は? 妊婦にそんな無理をさせて大丈夫なんですか?」


 他に頼む者がいない家事を一人でこなす妊婦の胸中を想像して、エリーゼは震えた。


「え? 妊娠は病気じゃないから、大丈夫だろ?」


 アロイスのその一言で、エリーゼの堪忍袋の緒がぶち切れた。


「お兄様、男がそれを言うと、違う意味になるというのは、ご存知?」


 地を這うような低い声に、アロイスはエリーゼの顔を二度見した。


「エリーゼ?」


 間の抜けたアロイスの声に、エリーゼは怒りを増幅させた。


「妊娠は病気じゃないって言って良いのは、妊婦本人だけです! それ以外の人、特に夫が言うと、妊婦にプレッシャーを与えて追い詰める言葉になります! 二度と、妊娠は病気じゃないって言わないで! 特に、リタ様にはっ!!」


 エリーゼは、前世の友人が、ワンオペ育児をしていて、同じ言葉をかけられて、夫に頼れずノイローゼになっていたのを思い出した。出産祝いを持って行った時、少しの間、彼女の子どもを見ていたことで、ひどく感謝されたのだった。孤独な子育ては、本当に心を病みやすい。まだ、リタの子どもは生まれていないが、育児鬱の予備軍にあたるとエリーゼは思った。


「えっと……、エリーゼ。急に怒り出して、どうした?」

「私が、怒る理由が解らないと?」

「あぁ」

「もっとリタ様をいたわってくださいね、お兄様」

「うん? あぁ……」


 アロイスの気の入らない返事に、エリーゼは半眼になり無言の抗議をした。

 いくら伝えても平行線になりそうで、エリーゼはアロイスに文句を言うことを断念し、気持ちを切り替えた。


「お兄様、私、リタ様と会いたいです。早く紹介していただけますか?」

「あぁ……」


 エリーゼの気迫に押され、アロイスは直ぐ妻の元へ彼女を案内した。

 アロイスの言う通り、義姉のリタは厨房で、夕食の用意をしていた。


「リタ、ちょっと来てくれ」

「はい」


 アロイスが呼ぶと、リタは包丁で切る手を止め、手を洗いやってきた。


 ふわふわな茶色の長い髪を、後ろで一つにまとめている。服装は、シンプルなえんじ色のワンピースにエプロンをしている。服は汚れていないが、貴族に見えない質素な格好をしていた。

 だが、決して地味な感じはしなかった。リタは化粧をしていないが、透き通るような白い肌と大きな青色の目が美しかった。よく見ると、エプロン越しに下腹の膨らみが分かった。


 アロイスの妻、リタは、めちゃくちゃ可愛い見た目の女性だった。


(何!? この異世界って、整った顔率高すぎでしょう? はずれなしガチャ引いてるみたい……。リタ様って、本当に見飽きない美少女! 私より年上なのに、この透明感は半端ないっ。眼福ね……)


 アロイスのパワハラ言動にムカついて、ささくれ立っていた心が、リタを眺めているだけで癒されていくようだった。


「前に話していた、妹のエリーゼだ。しばらく滞在するから、よろしく頼むな」

「はい」


「リタ様、初めまして。アロイス兄さまの妹、エリーゼと申します。お会いできて嬉しいです! よろしく、お願いします」


「エリーゼ様、よろしくお願いします」


 ほわんと咲きこぼれるオールドローズのような笑顔を添えて返され、エリーゼは脳内の萌えスイッチを連打した。


(あーーいぃーーわーー!! 幼顔の新妻、最高ね!!)


 ヤバイ思考に悶絶する妹を、アロイスは冷ややかに半眼で見ていた。

 




 

 








 


初めてリタを見たエリーゼの態度が、かつての自分に重なり複雑な心境のアロイス。


ブックマーク登録、評価等いただけると幸いです。

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

次回も、よろしくお願いいたします。

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