冷徹侯爵令息は癒される
ラルフは驚異のスピードで回復し、魔法騎士団の仕事に復帰した。
長い間、副騎士団長が不在だったため、連日、溜め込まれていた書類処理に追われているらしい。大変そうだが、生き生きしているところを見ると、仕事好きな彼らしい面だと、エリーゼは思っている。
彼のスケジュール管理能力は、素晴らしくすぐれており、夜の遅くない時間に、必ず王太子宮にいるエリーゼを訪ねて来てくれる。
「ラルフ様、無理はしていませんか?」
「全然、むしろ楽しんでいる」
分刻みのスケジュールが想像できて心配になるが、ラルフは何ともないと笑う。
ラルフが、魔法で今日の花を取り出して、エリーゼの髪に挿した。
紫に黄色の筋が入ったアイリスが、エリーゼの金髪に良く映えて美しく見えた。
「毎日、お花をありがとうございます」
「良く似合っているよ、エリ……」
甘々の笑顔を向けられると、エリーゼは照れて顔が赤く染まった。
「急なんだが、明日、休みが取れたんだ。エリ、また自然公園に行かないか?」
「え、そうですね。カミラ様に、訊いてみます」
「王太子殿下と姉上には、もう打診済みで、エリさえ良ければいいという返事をもらっている」
「……」
(やっぱり、ラルフ様のスケ管すごっ……)
「それなら、私の方は問題ありません。連れて行ってくださいますか?」
「決まりだな」
ラルフは仕事を抜けてきただけらしく、転移魔法で鮮やかに帰っていった。
ラルフは、本当にマメな人だ。
前世から考えても、こんなに尽くしてくれる男性は初めて出会った。
おまけに、見目麗しいし、ツンデレ具合も絶妙……、この頃デレ比率が高くなってはいるが。とにかく、ラルフはエリーゼにとって人生最高の恋人だった。
次の日、カミラの専属侍女ズに自然公園仕様の着付けをしてもらい、エリーゼはラルフを迎えた。
「良く、似合っている」
「え? もしかして、この服ラルフ様が?」
紺色の生地に、銀糸でバラが刺してあるワンピースに、編み上げブーツは、前に贈ってもらったものとは、色も形も全然違うのだけれど、以前貰ったものと同じような感覚がして、不思議に思っていたのだ。同じ人間が選んで用意したのだと分ると、合点がいった。
「姉上に受け取りを頼んでいたんだ。その、君を驚かせたかったから……」
「!」
咳払いする声が聞こえて見ると、カミラが見送りに出てきてくれていた。
「さっさと行きなさい、こんな所で話し込まないで、向こうへ行って話しなさい」
「カミラ様!」
「姉上、エリを連れていきます」
「あまり遅くならないように帰してね、ラルフ」
「心得ています」
転移魔法でやってきた自然公園は、初めて来たときから季節が変わり、より深い緑が印象的な景色になっていた。
二人は、展望台の順路を、豊かな葉を茂らせた木々を眺めながら歩いて行った。
「ラルフ様、ここの木々は本当に美しいですね……」
「そうだな……」
二人が来たことを喜ぶかのように、艶めく葉や、みずみずしい花弁は輝くように見えた。まるで、植物に宿る妖精たちが気を引こうとしているふうに感じた。
澄み渡る空気を与えてくれる木々たちに感謝しながら、エリーゼは歩いて行った。
展望台に着いて、以前座ったベンチに並んで腰を下ろした。
眼下に広がる王都の景色に、エリーゼは頬を緩ませた。
「きれいですね……」
「うん」
「エリ、左手、見せて」
「はい?」
反射的に左手を出すと、ラルフはその薬指に指輪をはめた。
大きな青いサファイアは、陽の光を受けて輝いていた。
「ふぅぇえええ!?」
「ふふ、良い返事だな」
そして、魔法で突然出したのは、それはそれは大きな束の、赤いバラの花束だった。目の前に差し出されて、再び反射的に受け取る。ずっしりと花束とは思えない重量に息を飲んだ。
「これは……」
「赤いバラ、108本の花言葉、教えてくれただろう?」
「……」
(教えた……、教えたというか、話の流れでサラッと言ったけど!?)
「エリ、私と結婚してほしい。一生、傍にいてくれ」
「!」
日本語で108は『永遠』を連想させる数字なのだ。
『10』で『と』、『8』で『わ』と置き換えて『108』となる。
そして、赤いバラの花言葉は、情熱や愛という意味であり、永遠の愛を誓う時に相応しい花なのだ。
だから、赤バラで108本の花言葉は、『結婚してください』という意味があると力説した記憶がぼんやりと残っているが、まさか、本当に踏襲して贈ってくれるとは、露ほども思っていなくてエリーゼは困惑した。
でも、困惑はしたけど、迷わなかった。
ラルフは、エリーゼの中の恵梨も愛してくれる唯一の人だ。
「はい、ラルフ様。私をあなたの傍にずっといさせてください!」
「――ありがとう、エリ」
ラルフがエリーゼを抱きしめようとして、大きな花束に阻まれた。
エリーゼは、そっとベンチの隅に花束を置き、ラルフに抱き着いた。
ラルフは両手でエリーゼの頬を包み、ゆっくりとキスした。時間が止まったかのように、二人はずっと寄り添っていた。
しばらく時間が過ぎて、ベンチの上に置いた花束から小さな声が聞こえてきた。エリーゼは大きなバラの花束を持ち上げ、耳を傾けた。
『良かったね~~、うまくいったね~~』
「! 聞こえました? ラルフ様」
「……何となく……、良かったねって言っている?」
「そうですよね、聞こえました!」
プロポーズの成功を喜ぶバラたちに、二人はありがとうと礼を言った。
『でもね~~、きゅーくつだから~~、はやくいけかえて~~、くるしいよぉ~~~~』
花束から、そんな文句が聞こえてきて、思わず笑ってしまった。
それから、二人は転移して王太子宮へ帰り、エリーゼはバラたちを満足させるために、沢山の花瓶を使って生け直して飾った。
そのバラを見て、王太子宮中にラルフとエリーゼの結婚が知れ渡ってしまったのは言うまでもない。
自然公園でのラルフのプロポーズを、数人の者が目撃しており、その後、自然公園で告白する人が後を絶たず、恋人に花束を贈ることが流行したのは、また別の話。
妖精の愛し子に覚醒したラルフ。
このお話で、一旦おしまいになります。
続編や番外編を書くかもしれませんが、一時、完結とさせていただきます。
最後までお読みいただき、大変うれしく思います。
ブックマーク登録、評価等いただき誠にありがとうございます。
毎回、励みにして、最後まで書き上げる原動力にさせていただきました。
スピンオフで、本作の脇キャラである、ヘムルート・ブラウン医師の話を構想中です。
彼は、本作では救いがなさ過ぎて、可哀想な立場でしたが、何とか幸せになってほしくて、色々と妄想を膨らませている次第です。
しばらくお待たせすると思いますが、そちらも読んでくださると嬉しいです。




