花言葉
「ラルフ様、こんにちは。お加減いかがですか?」
「エリ、昨日よりずいぶんいいよ」
お互いの想いを通じ合わせた日から数日後――――。
エリーゼは、ラルフの元にお見舞いと称して通うようになっていた。
『妖精の愛し子』であるエリーゼに、仕事を与えてくれと詰め寄られて困っていた使用人たちは、これ幸いと気持ちよく送り出してくれる。
生け花の持ち込みをしていいと、医師に許可をもらい、エリーゼはラルフに花を生けて持ってきた。雑務管理室のマーヤの元を訪ね、ラルフの気分が上がりそうな花を選んだ。
小さめの黄色い花瓶に、青いデルフィニウムをメインに生けて、黄色のガーベラを三本使い、黄色い花瓶との一体感を出した。
(うん! 文字で言っても良く分からなくて、ポカーンな感じですが、とっても可愛く生けれたと想像ください!)
「わざわざ、用意してくれたのか?」
「えぇ、ラルフ様の暇つぶしの一つになればと……」
「眺めてみる楽しみが出来た、ありがとう。エリ……」
「!」
二人だけの時は、前世の名で呼んでくれるようになったが、まだ慣れない。幸い、今世の名前の愛称にあたるから、もし他人が聞いても違和感を持たれることはないが、聞くたび嬉しくてくすぐったい。
ラルフは、仕事から離れているためか、いつも感じていた緊張感がなくて、彼の周りの空気がとにかく柔らかいのだ。
ベッド横に椅子を持って来て、エリーゼは腰かけた。
「今日も、お願いします」
「こちらこそ」
ラルフはそう言うと、魔法を詠唱し、部屋に結界を張り、消音効果も付与した。
「話していいぞ」
「はぁ~、本当に魔法ってすごいですね! 私の世界で同じことをしようとしたら、大工事に始まり、人が遠隔で見守ってくれる契約したり、機械つけたりと、とにかく、すごい手間がかかるんですよ」
部屋の結界は、セ○ムなどの警備会社に頼んだり、防犯カメラや顔認証システムの鍵つけたりとかしなきゃいけないし、防音は専用壁を取り付けて密閉空間を作る工事が必要だ。考えるだけで、相当な時間と労力を使ってしまう。
「魔法が存在しない世界か――――、想像できないなぁ……」
「魔法がない代わりに、科学技術というもので補っている世界ですね」
「でもさ、『魔法』の存在を知っていたのはなぜ?」
「それは、空想した物語として本になっていて、手軽にみんなが読めるからです。実際、私はその手の本が大好きで、子どものころからたくさん読んでいたから、こっちに来てもかなりその知識は役に立ちました」
「それは……、すごいな。ないものを具現化する文化に優れた世界だったんだな……」
「しみじみ言われると、異世界小説ってすごいんだなって、再認識しました」
「そうだろ?」
「はい」
ラルフは、エリーゼに前世のことを話す時間を作ろうと提案してくれた。
もちろん、国家機密レベルの話もあるかもしれないので、誰にも聞かれないように、ラルフが消音を付与した結界を張った上で、少しの時間でもいいから、できる限り毎日やろうと約束してくれたのだ。
そして、ラルフからこの世界の話を訊く時間でもあるのだ。
「この世界に、『花言葉』はありますか?」
「『花言葉』? いや、聞いたことないが、どういうものだ?」
「花の種類ごとに意味があって、人に贈るときにその意味に気を付けて、花を選ぶのです」
「私が知らないだけかも知れないが、例えば今日持って来てくれた花にも意味があるのか?」
「――――えぇ……、まぁ……」
エリーゼが明らかにしまったという顔をした。
「ん? 訊いては、いけなかったか?」
「ラルフ様は、花言葉をご存知ないからしかたないですけど、私の世界ではもらった人が、密かに調べることでして……、ちょっと聞かれると恥ずかしいです……」
花言葉は、贈る側の自己満足みたいな側面がある。花をもらった方は、人によっては調べもしないことなのだ。
「調べるすべがないから、特別に教えてくれないか?」
ラルフの言い分はもっともだ。自分で話題にして、盛大に自爆する予感しかしなかった。でも、誤魔化して、嘘はついてはいけないとエリーゼは思い直した。
「うぅ……、えっと、ですね……、青いデルフィニウムは『あなたを幸せにします』という意味で……」
羞恥心で、しどろもどろな口調になってしまう。
「! ……それで、この黄色い花は?」
ラルフは純粋に感心したように訊いてきた。
「もっと! 恥ずかしいですけど! 黄色のガーベラは『究極愛』って意味で、三本にしたのも意味があってですね……」
「本数にも! どんな意味が?」
「『あなたを愛しています』という意味ですっ……」
「……」
「引きました?」
「――いいや……、嬉しい。だけど、意味を知ると花の印象が変わるな」
「すみません……、ちょっと、やりすぎましたね……」
二人の視線がぶつかると、お互い照れて赤くなった顔に気づく。
幸福をかみしめながら破顔一笑したエリーゼを、ラルフは満足そうに静かに見ていた。
ヘタレラルフ! チューくらいしろよとツッコんだ作者。
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