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告白

本日更新、二話目です。

一話目まだの方、ご注意下さい。

「ラルフ様は、どのような本をお読みになるんですか?」

「今読んでいるのは、魔法術式のコマンド集だな……」

「へぇ……」

「……」


 ラルフの本で、エリーゼは話を膨らますことが出来ず、撃沈した気分で黙り込んだ。その沈黙を破ったのは、ラルフだった。


「エリーゼ、気を悪くしないで聞いて欲しいのだが、君は前世の話をするのが嫌なのか?」

「そんなことは……ないです。むしろ、気兼ねなく話せることは、嬉しいです」

「嬉しいとは思っていない顔をしているが……」



「ラルフ様、私が異世界の記憶持ちで、気持ち悪くありませんか?」

「別に、そんなこと思わないが」


「じゃあ、『妖精の愛し子』に巻き込まれたことを怒っていませんか?」

「巻き込まれた? そんな風には思ってないぞ!?」


「私が、魂が入れ替わる前のエリーゼだった方が良かったと思っていませんか?」

「何だ? その質問は!? そんなこと考えてみたこともない」


「私は、前世では平凡で地味顔で、さして男の人に興味を持ってもらえるような人間ではありませんでした。騙されて、相手の良いように利用されて、弄ばれて捨てられたこともある、馬鹿な人間でした。それが転生して、こんな美しい姿になったからといっても、中身は同じ惨めなままの自分で、ラルフ様に釣り合わない人間なんです」


「君が、前世では私より年上の女性で、自立して生きていた人だと知っているよ。でも、どんなに酷い目に遭って傷ついたのか解らないけど、今の君は素晴らしい才能を持つ女性だと思っているよ? 君は、いつでも前向きで、好きなことに夢中になっている姿は美しいと思う。私と釣り合わないなんて、そんな悲しいことを、勝手に決めて言わないでくれ」


「私、もう、嫌われて捨てられるのが怖いです。私といることで、ラルフ様を苦しめてしまうことになったら、耐えられそうにありません」

「エリーゼ……」

「あなたが、好きなんです。だから、あなたを傷つけて、人生を変えてしまったことが苦しくて、悲しくて、辛いのです」


 エリーゼの目頭がじわっと熱くなり、視界が涙で滲んだ。

 その時、ラルフに手を引かれ、エリーゼは彼の腕で抱きしめられた。


「愛している、君を、愛しているんだ。エリーゼ」

「で、でも……、私、エリーゼじゃ、ない……」

「君の本当の名は? 前世の名を教えてくれないか?」

「え?」

「知りたいんだ、君が望むなら、本当の名を呼びたい」

「ラルフ様」

「教えて」

「――――山口、恵梨……」

「ヤマグチ、エリ」

「名が恵梨、姓が山口」

「エリ」

「はい」

「エリ、君を愛しているよ」


 やっと、自分の奥底に触れてもらえた気がした。

 本当はずっと本当の名を伝えたかった。でも、自信がなかった。

 美しい娘の体を手に入れても、恵梨は恵梨のままだった。


「ラルフ様、……心から、あなたを……愛しています……。私を、見つけてくれて……、ありがとうございます……」


 涙でぐちゃぐちゃな顔で笑った。

 ラルフの顔が近づいてきて、唇を合わせた。

 ラルフとの初めてのキスは、涙の味がして少ししょっぱかった。




 エリーゼがラルフの元から帰って来ていないと侍女から報告を受け、青ざめたカミラが、再びラルフの部屋に戻ってきてドアをノックした。


「どうぞ」と平坦なラルフの声が聞こえた。


「エリーゼはっ……」


 カミラは、声のボリュームを急激に下げた。


「ずっと眠れてなかったみたいで、やっと眠れたみたい……だから、今は静かに寝かせてあげて」


 エリーゼは、上体を起こしたラルフの隣で、深い眠りについていた。

 規則正しい呼吸が、安らかな証拠だった。


「ごめん、姉上。まだ痛くて抱えて移動できなくて……」


 ラルフがバツが悪そうに言い訳した。


「手、出してないわよね?」

「安心して、一応こっちも重傷人だし、それは無理だよ」

「そうよね、良かった……」

「心配しすぎだよ、姉上」


「まぁ、お前はそっちの方は、昔っから潔癖なくらいヘタレだったから当然か」

「……」


 コメントしずらいカミラの発言に、ラルフは苦笑いした。


「それで、ちゃんと話できたの?」

「うん」


 返事したラルフの頬が緩んだ。


「そう! よくやったわ! 愚弟!」

「……」


 明け透けな話を平気でする姉弟の会話は、深く眠るエリーゼの耳に届くとこはなかった。



あらゆる面で、姉に勝てないラルフ。


ブックマーク登録、評価等いただき誠にありがとうございます。

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次回も、よろしくお願いいたします。

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