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無事に帰って来るまでが、おつかいです

 王太子所有の馬車に乗り込み、エリーゼは走り始めた様子にほっと息を吐いた。レオポルト殿下とラルフも人間に戻ったせいで、客車内の人口密度が高まった。


 ラルフが消音魔法と客車内に結界を張ってから「話して大丈夫だ」と言った。


「もうっ、もう、もうっっっ! これは想定内の出来事なんですか!!! 私が『妖精の愛し子』とは、何で教えてくれなかったんですか!?」


 エリーゼは、堰を切ったように不満をぶちまけた。


「シュピーゲル嬢、『妖精の愛し子』に関しては想定外だ。叔父上は、妻のデボラ様と君があまりにも似ていて気付いたのだと思う。『妖精の愛し子』の素質は、生まれながら持つ神からのギフトであり、多分、エリーゼはそのギフト持ちだったということになる」


 レオポルトが、明かしても良い範囲で説明をしてくれるのを、エリーゼは神妙な面持ちでじっと聞いていた。


「そんな……、前のエリーゼは『妖精の愛し子』だったのに、私が彼女の魂を押しのけて、乗っ取ってしまったってこと……」


 事実を言葉にすると、その恐ろしさに寒気がした。


「国の威信を揺るがす深刻な問題になったかもしれないな……」


 ラルフが、険しい顔をして呟いた。


「え? どういうこと?」

「エリーゼ、転生召喚は、王族が主導して行う儀式だと、前に教えたよな。転生召喚の現象は、決して自然に起こらないものだとも言った」

「……そうね、聞いたわ」


「今のエリーゼの魂を召喚したものは、『妖精の愛し子』の体を使って召喚したということになる。エリーゼ本人が召喚時に覚醒していなかったとしても、国王陛下の許可なく禁術を使い、国の宝となる『妖精の愛し子』の魂を、勝手に何処かへやってしまったという事実は、重大な違法行為な上に、国王陛下に対する反逆であるとみなされる」


 ラルフの的確な分析に、エリーゼはただ戦慄した。

 犯人を絶対許せない怒りも同時に湧き上がってくる。


「その犯人って、今回の潜入で突き止められたのですか?」


 潜入してすぐに姿をくらませていたレオポルトの方を見て、エリーゼは訊いた。


「うん、大体は。目星はついているが、残念ながら決定的な証拠はまだ掴めていない。召喚に、聖女が関わっているかもしれない可能性も消えていない」


 エリーゼの顔が分かりやすく曇ったのを見て、レオポルトはさらに付け加えて、情報を教えてくれた。


「今回、犯人がアンドレアス叔父上ではないということは、私の調べで分かった。やはり、叔父上は聖女との繋がりを完全に絶っていた。エリーゼの情報を叔父上に流したのは、研究所の職員だった。今は敢えて名は伏せる。そのことから、犯人は、叔父上の研究室から聖女召喚儀式の記録を盗み見て、模倣したと私は考えている。疑われずに侵入することができるのは、王立魔法研究所の職員であると考え至った。魔法研究所の職員は、皆、高いレベルの魔法使いである場合が多く、聖女とも、瘴気浄化を最適化する魔法術の研究の意見交換で、出会う機会もある。それを踏まえて、条件を満たす疑わしき者を、一人ずつ調べていく根気のいる作業をしなければならない。相手に、逃げられないように犯人に悟られないように、秘密裏に進めなければならない。君は、私たちに利用されていると不満だろうが、引き続き協力してほしい」


 レオポルトに切実な気持ちを示され、エリーゼは文句と言い続けることが出来なくなった。


「今の私ができることは、この身を守る努力をすることくらいですね」

「その通りだ、君は魔法召喚を経験した、生き証人だ。君は生きて、犯人に法廷の場で示し、罪を白日の下に晒す義務がある。何処かへ行ってしまったもう一つの魂のためにも、犯人はきちんと裁かれなくてはいけないと私は考える」


「私が、転生してこなければ、エリーゼは――――」

「エリーゼ、君は被害者だ。それを間違えるな、自分を責めるな」

「……」


 ラルフが、エリーゼの言葉にかぶせる様に割り込んで窘めた。

 エリーゼは、黙って唇を噛んだ。


「うん、エリーゼ。君のせいじゃない、私もそう思っている」


 レオポルトも、エリーゼに優しい声で言った。

 レオポルトラルフは、エリーゼに責任はないと言ってくれる。


 しかし、エリーゼは釈然としなかった。はい、そうですねと素直に言ってしまえば何と楽だろうと思うのに、二人の言葉を肯定できなかった。


 これ以上の議論は、堂々巡りだ。平行線で、決して交わることのない答えを言い合うだけの不毛な時間を費やすことはしたくない。


 それきり、エリーゼは押し黙り、しばらくして馬車は王太子宮に着いた。

 馬車から降りると、カミラが出迎えてくれていた。


「おかえり、エリーゼ。ちゃんと戻ってきて偉かったわね……」


 カミラが子供を褒めるように言ったので、エリーゼは無理やり笑みを浮かべた。


「カミラ様、出迎えてくださり、ありがとうございます………」

「え? 何よ、その顔……。何があったの?」

「え?」


 カミラは、ぎっとレオポルトとラルフを見て、問い詰めるような声で訊いた。


「ちょっと! 大の大人が二人もついていながら、こんな今にも泣きそうな顔させてんじゃないわよ!」


 カミラの噛みつくような言葉を浴びせられたラルフとレオポルトは、誤解だと焦りを見せた。


「あ、姉上……。私たちはエリーゼの立場を話しただけで、一切責めるようなことは言ってないです」

「その通りだ、余計なことを考えず、身の安全を確保しろと言っただけだ!」


 ラルフとレオポルトが、潔白だという主張をしたのに、カミラはさらに怒りを増幅させた。


「ほぉ……、少女が受け止めることが厳しい事実を、遠回しに言う配慮もせずにそのまま伝えて、自分の身は自分で守れと突き放すようにいったのね……、へぇ……そう……」

「違っ……」

「黙りなさい!!!」


 カミラは、怒りを露わにして、ラルフとレオポルトを睨みつけた。


「あんたたちは、昔っから周りの人間への配慮ってものがなさすぎるって思っていたけど、今も全く成長してないわね! エリーゼは、あんたたちよりとても繊細な娘なの。頭が良くて聞き分けが良いから、大丈夫だと決めつけて、何でもかんでも押し付けてんじゃないわよ! だから、あんたたちは恋人の一人もできないのよ! 分かってんの? 自覚して直していかなきゃ、一生誰にも振り向いてもらえないんだから!!!」


「「……」」


 ラルフもレオポルトも、カミラに見事に言い負かされ、苦々しい顔をしていた。


「あんたたちが、エリーゼを無事に帰してくれたことだけは(・・・)褒めてあげる。エリーゼは、責任を持って私が預かります。今日の出来事の詳細は、夫に伝えておいてね。彼なら、完璧な心遣いして言ってくれるから、私も安心できるわ。あんたたちとは大違いね! 彼を見習って、反省しなさい!!!」


(ズガガガガーーーンと、盛大にカミナリを落としたカミラ様は、もんのすごい迫力があります……。はわわ……)


 エリーゼも二人に連ねるように、震えあがった。

 でも、エリーゼの内心は、彼女の言葉をしっくりと受け止めていた。


(カミラ様の言葉は、私の違和感を解消してくれた気がする。確かに、二人がもっとオブラートに包むようにして話をしてくれれば、こんなに落ち込むことはなかっただろうと思う。散々、辛い現実を突きつけられて、君のせいじゃないから気にするなっていう方が無理があるのよね。カミラ様が代弁してくださって、すごく救われた気がします!!!)


「ラルフ、あなた猫のままの方が、エリーゼと上手くやれるんじゃないかしら。人間のあなたは、本当にポンコツなんだから!」

「~~~~姉上……」


 カミラの的を射た言葉に弱った声で呻いたラルフが妙に可愛くて、エリーゼは思わず吹き出してしまった。

 エリーゼが笑うのを見て、カミラが明らかにほっとした顔をした。


「エリーゼ、この二人は私と夫で、後でちゃんとシメておくから、早く休みなさい。顔色が、良くないわ……」

「カミラ様、ありがとうございます。私、カミラ様の所に帰って来れて良かったです」


 カミラは、瞠目した後、エリーゼをぎゅうっと抱きしめた。


「あぁっ……、妹ってこんなに可愛いものなのね!!! 弟とはえらい違いだわっ! 今、すっごく実感したわっ!!!」


 カミラの腕の中で、エリーゼは安心して身体の力を抜いていった。








昔、カミラ姉様のパシリだった、ラルフとレオポルト。


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