表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/103

保護魔法の書き換え

 ドレス選びが終わり、商人たちが驚くべき速さで撤収し帰って行った。

 嵐が過ぎ去ったような静けさが、応接室に戻ってきた。


「お嬢様、少々遅くなりましたが、夕食のご用意をいたします」

「ごめんなさい、夕食は要らないわ。試着の合間に、クッキーをつまんだりサンドイッチを食べたから充分しているの。あ、ラルフ様の分は用意して……」

「エリーゼ、必要ない。君は疲れているようだから、私はもう帰る。……顔色が良くない、大丈夫か?」


「はい……、正直、体力の限界を感じています……」


 ドレス選びの光景を思い出すだけで、ライフを削られていくようだ。


「エリーゼ、しかし、帰る前にやらなければいけないことがある。明日、私は時間が取れないから、今日しておく必要があるんだ」

「何でしょうか?」

「保護魔法の書き換えだ。今は、エリーゼの感情変化はもちろん、接触した相手の感情に反応して発動する保護魔法をかけている。しかし、王族に対する時、心の内を魔法の発動で知られるのはまずいし、発動力も強すぎる」


「はい、私の意志とはいえ、もう少し穏便に遠ざける力にしていただければ嬉しいです」


(王族の方々を、問答無用でぶっ飛ばすのは、絶対に避けたいです!)


「書き換える前に、伝えたいことがもう一つ。レオポルト殿下以外の王族の方々は、君の突然の出現に良い感情を持っていない。彼らのあずかり知らぬ所で、召喚術が行われた事実は、王族の権威に楯突いたのと同義だからだ。王城の人間全員が敵と言ってもいい」


(ええ~、そんなところに行く必要が、本当にあるのかしら!?)


「でも、王族に転生者と認めさせることで、エリーゼに大きなメリットがある。転生者は、この王国の宝として扱われ、国の総力を挙げて悪意から守られる対象となる。そうなれば、エリーゼを呼んだ者は、君に簡単に手を出せなくなるだろう。だから、王族の愚痴や文句を聞くくらい、なんてことないと私は思う。何といわれても、聞く耳を持たなくていい。好きなだけ言わせておけばいい」


(私としては、殺されたり、悪事に利用されたりするのは嫌だ。ラルフ様の言う通り、転生者として認められることが、最優先でやるべきことよね!!)


 エリーゼは、そこで生まれた疑問をラルフにぶつけてみる。


「どうやって、転生者だと認められるのでしょうか? ラルフ様は、確認する方法を知っておられますか?」

「それは……、結論を言えば知らない。そこは王族が秘する部分だから、レオポルト殿下に訊くことも禁忌だ。エリーゼもわきまえてくれ」


(転生者の確認方法はNGワードですね! 訊いておいてよかったです。あわわ……)


「行くまで、何をされるか分からないってことですね」

「分からないが、君は間違いなく転生者なのだから、堂々としていればいいと思う」


「王族が私を悪用する可能性もあるけれど、今の私に他の選択肢はないってことですね」


(冷静に分析してしまう自分は、本当に可愛げない)


「君は、本当に理解が早いな」

「褒めてもらっても、何もでません」


 エリーゼがツンと唇を尖らせていうと、ラルフは微笑みを返した。

 彼の微笑むのは珍しいことだが、腹の探り合いをしてくる感覚で、エリーゼは全くときめかなかった。



「書き換える魔法は、反応方法だけに着目すれば、基本的に変わらない。今まで通り、エリーゼの感情変化とエリーゼに接触した相手の悪意ある感情に反応して発動する。しかし、大きく違うのは、相手を即、跳ね飛ばす部分はすべて削除し、温度で判断できるように書き換える。つまり、悪意ある相手の接触は、冷たく感じるようになるということだ。氷に触れるような感じだ。ちなみに、冷たく感じるのはこちらだけで、相手に変化はない。そして、問題のない相手は、通常と同じ感触なので違いが明確にわかるというわけだ」


「冷たくなる、だけ、ですか?」


「あぁ、だから、冷たさを感じたら、すぐその相手から逃げろ。攻撃できないなら、逃げるしかない」

「冷たさを感じたら、逃げる一択……」

「そうだ、できるな?」

「やるしかないですよね」

「その通りだ、書き換えていいか?」



「――――はい。お願いします」


 ラルフは、エリーゼの保護魔法を書き換えた。




 ドレス選びをした翌日、エリーゼは引き続き母にマナー特訓をしてもらい、あっという間に一日が過ぎていった。


 そして、エリーゼが王城召喚する日がやってきた。

 朝早くから身支度を始め、ケリーは一生懸命にエリーゼを着飾ってくれた。

 用意を終えたエリーゼは、ラルフと手配した馬車が来たと言われ階下へ降りて行った。出口前には、ラルフと、見送りに出てきた母とブラウン医師の姿があった。


 軽く母とブラウン医師に挨拶を交わし、ラルフのエスコートで馬車に乗り込んだ。

 そして、いよいよ王城へ向かう馬車が動き始めた。


 向かいに座るラルフは、仕事中であるからか、とても寡黙だ。

 エリーゼも、誰が聞き耳を立てているか分からないと思い、ラルフに話しかけることはしなかった。

 静かな緊張感が漂う中、馬車がゆっくりと停まった。

 ラルフが先に降り、エリーゼに手を差し伸べる。

 その手にそっと手を重ねると、ラルフの手は温かかった。


(温かいと、やはり安心するわね)


 エリーゼが思い浮かべた言葉を察したのか、ラルフが少し目を細めた。


(ここが、王城……、天井が高い!)


 ラルフに導かれ、王城の中へ進んでいくと、レオポルトが立って待っていた。数人の兵士、文官なども後ろに控えている。ものものしさを感じ、エリーゼは顔を少し強張らせた。


 エリーゼは、ラルフの手をゆっくり離し、スカートを両手で少し持ち上げ、カーテシーをした。そして、背筋を伸ばしたまま顔を伏せた。


「レオポルト殿下、ご尊顔を拝しまして、恐悦至極に存じます。エリーゼ・シュピーゲルでございます。本日はよろしくお願い申し上げます」


(お母様のスパルタ教育のおかげね!上手くできた気がする)


「ようこそ、シュピーゲル嬢、案内するよ。ラフィ、ご苦労だったね」

「はい、私はこれで失礼します」


 レオポルトに礼をすると、エリーゼの方に目も向けず、ラルフは歩いて行ってしまう。


「ありがとうございました、ラルフ様」


 振り返ることない背中に、エリーゼは礼の言葉をかけた。

 ラルフのよそよそしさに違和感を感じたが、ここは王城、彼もわきまえて行動しているのだろうと、エリーゼは結論付けた。


「さて、シュピーゲル嬢。歩きながら、これからの流れをざっくり説明するね」

「はい」


 レオポルトの歩幅に合わせるように、エリーゼは早歩きになっていた。

 そして、レオポルトは急に立ち止まり、エリーゼに振り返った。


「これから君の意識を一時的に奪う。殺しはしないから、安心して眠りなさい」

「えっ……」


 レオポルトに言われてすぐに、エリーゼは急に目の前が暗くなっていった。

 倒れたエリーゼの体を、受け止めたのが誰だったのか、確かめられずにエリーゼは完全に意識を失った。


















エリーゼを王城に送り届ける時、

一度デレたら戻れなくなりそうで、ツンを貫いたラルフ。


ブックマーク登録、評価等いただき誠にありがとうございます。

とっても、励みになります!


次回も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ