侯爵令息の提案
本日更新、二話目です。
一話目がまだの方は、ご注意下さい。
「エリーゼ、調子はどう?」
エリーゼが声の方を振り返ると、ブラウン医師が立っていた。
そして、颯爽と歩いて、ラルフの隣に座った。
「私が呼んだ。彼も同席していいか?」
(ラルフ様がわざわざブラウン先生を呼んだ? どういうことかしら? とりあえず、話を聞かなきゃ判断できないわ)
「大丈夫です。同席も、体調も……」
「うん、見たところよく眠れていないみたいだし、朝からばたばた動き回っているし、食欲もないのに大丈夫だって言う人は、大抵大丈夫と判断されないよ? エリーゼ」
「……」
「ブラウン、診察は後にしてくれ」
「はい、はい」
(ふぉう? ラルフ様がブラウン先生を呼び捨てにしている! 何か、親密度上がってないか!?)
「エリーゼ、まず、確認したい。君が転生者だという事実を知るのは、私と、ブラウン、シュピーゲル夫人、ケリー、この家の料理人だけか? 他に知らせた人間はいるか? 例えば、イーゼンブルク伯爵家の兄妹とか……」
「いいえ、彼らには言っていません。その他で、知られた人はいません」
「そうか、それならいい。エリーゼ、これから、少し真面目な話をしようと思う。理解出来なかったら、その都度答えるから遠慮なく訊いてくれ」
「はい、分かりました……」
「この世界の転生者は大抵、召喚術を用いて呼ばれてくる。だから、君も術師によって呼ばれたと考えられる」
「そうですよね、聖女様とかは教会とかの団体が主導して、召喚するものっていうイメージだけはあります」
(聖女の知識の引用は、小説のネタだけどねっ!! 異世界もの、好きで読み漁っていて助かったわ!)
「そう、このヴァルデック王国では、王族が主導して、聖女召喚術の儀式は行われる。だから君も、王族か、それに近しい召喚術を使える術者によって、呼ばれた可能性があるんだ」
「誰が……そんなことを?」
いきなり王族という言葉が出てきて、スケールが急に大きくなった気がした。ラルフの口ぶりから、転生現象に偶然という文字は、どうやらないらしいとエリーゼは理解した。
「以前のエリーゼと接触のあった人物であると考えられるが、ブラウンも心当たりがまったくないというから、これから調査して特定する必要がある」
ラルフは、すっかり仕事モードに切り替わっていた。
サクサク仕事をこなす彼の姿は、格好良かった。
「多分、エリーゼはその人物に利用されたと思うのですが」
(エリーゼの擁護を忘れないブラウン先生、私も同意見です)
「エリーゼの共犯の可能性については、調査の上判断する。それより、問題は召喚術を行った術者が、今のエリーゼの存在を知っているということだ。君を呼ぶメリットがあるから召喚したと思うから、成功したなら絶対利用しようと姿を現すに違いない」
「利用って、例えば具体的にどんなことが考えられますか?」
「異世界技術で金儲けとか、異世界能力を使って政治関与とか、王族への逆心とか、手なずけて見世物にするとか、まぁ、いろいろあるな」
(ラルフ様、さらっといっぱい例を上げましたけれど、どれも犯罪の匂いがプンプンです!)
「怖いですね……、悪意を持って近づいてくる人がいるっていうことですよね」
(いずれにしろ、良い扱いをしてくれる人が待っているわけではないということは、確定していますね)
「その通りだ。そこで、提案なのだが」
「提案……とは?」
「私の信用できる王族に、エリーゼのことを話そうと思う。王族に話を持っていくことを、エリーゼに許可して欲しい」
「王……族!?」
「エリーゼが会ったことがある人だよ。第一魔法騎士団の団長のレオポルト殿下は、我がヴァルデック王国の第三王子だ。彼に君のことを話して、万全の態勢で保護してもらおうと思う」
「ええええ!!! ハムスター団長って、王子様だったんですか!?」
「エリーゼ、不敬だよ。ハムスター団長呼び禁止」
ラルフが電光石火でツッコんできた。
「ひゃいっ!!! すみません~~」
脊髄反射のように謝って変な声が出たのは許してほしい。
エリーゼが戸惑って返事しかねていると、ブラウン医師が諭すように話しかけた。
「エリーゼ、転生の件は私だけでは手に余る大きな問題なのは理解してほしい。だから、ラルフ様に協力をお願いしたんだ。もう、私の知らない所でエリーゼが傷ついたり、利用されたりしたくないんだ」
「……先生」
「ベルタ様のことは、私とケリーでしっかり見るから、エリーゼは自分の安全を優先してほしい」
「……」
「私は『私の幸せは考えなくていい』は、あの時も今も本心ではないと信じているよ。同じ言葉を二度と聞くのはごめんだ。エリーゼ」
「ズルいです、その言い方」
以前のエリーゼを引き合いに出されたら、彼の言う通り従わないと罪悪感にさいなまれる気分になる。
「ズルくて結構。必要悪だよ、エリーゼ」
「……」
エリーゼは、ブラウン先生の言葉から、子どもは黙って従えと言う圧を感じた。
中身は大人でも、体はれっきとした未成年の15歳。
現実に、エリーゼは大人のラルフやブラウン医師に護られるべき子どもなのだ。
(誰だって幸せになりたいに決まっている。でも、以前のエリーゼは諦めて逃げてしまうことを選んだ。私は、逃げるより乗り越えたい。そのためなら、周りを巻き込むことを躊躇ってはいけないのだわ……)
「分かりました。ラルフ様、ブラウン先生。私は、私の幸せのために全力を注ぎます。よろしくお願いします」
エリーゼの覚悟を決めた宣言を、二人は静かに頷いて受け止めた。
ラルフとブラウン、意外と仲良し。
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