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イーゼンブルク伯爵の罪

本日更新、一話目です。


 ルーカスの情報によると、ハルトヴィヒ卿は、執務室に入り浸っているらしい。三度の食事もコンラートに運ばせて、ルーカスやクラウディアの前には用事のある時にしか顔を出さないらしい。そして、二人ともハルトヴィヒ卿に呼び出され、執務室で薬を投与されていたと確認が取れている。

 その上、薬は必ずコンラートの手で用意されていたと言っていた。


 ラルフとレオポルトは、執務室の前に立った。

 二人は顔を見合わせ、アイコンタクトをしてから扉を勢いよく開けた。

 ラルフは奥の机にハルトヴィヒが座っているのを見つけ、移動魔法を発動させ瞬時に背後に立ち、彼を拘束した。


「何をするっ!!!」

「抵抗しても無駄です。あなたは、もう終わりだ」


 ラルフがギリッと腕で締めあげると、ハルトヴィヒはううっと呻いた。

 レオポルトは、悠々と後から入ってきて、部屋を見まわした。


「コンラートは……、逃げたか……。ルーカス! 結界を解け!!」

「はいっ」


 ルーカスが集中する様に目を閉じ、呪文を呟いた。

 すると、彼が青い光に包まれたかと思ったら、それは四方八方へと散っていき、やがて消えた。

 エリーゼは、あまりの美しさに言葉を失い、息を飲んだ。

 レオポルトが、しばらく探る様に様子を伺い、ハルトヴィヒに目を向けた。


「結界を、再構築できないようだな、ハルトヴィヒ。やはり、衰えていたか」


 レオポルトが、感情のない声で、吐き捨てるように言う。


「この邸は、すでに第一魔法騎士団が包囲している。結界が破られた今、逃げたとしても、魔力をサーチして捕まえることが出来る。移動魔法を使っても追えるから、馬鹿な真似はしない方が良い。コンラートもじき捕まるだろう」


「離せっ! 離さんかっ!! ラルフっ、お前っ、裏切ったなぁっ!!」

「心外な、最初からあなたを捕らえるつもりでしたよ」

「ううっ」


 ハルトヴィヒは、引きこもっていたせいか、その体は細く、ラルフが力を入れすぎると折れるのではと思うくらい、弱々しかった。


「ハルトヴィヒ、お前はこのまま王国の地下牢へ連行する。その前に、そこにいる子供らに何か言うことはないか? 特別に発言を許してやる」


 レオポルトが、そう言ったので、ラルフはハルトヴィヒを床に座らせ、魔法で両手両足を拘束した。ラルフの締め上げが止んで、ハルトヴィヒは途端に叫び始めた。


「ルーカス、お前が余計なことをしなければ、魔法騎士団に目をつけられることもなかったのに!」

「父上、あなたは王国の法を犯したのです。私とクラウディアは被害者です。それは、死を免れない程の重い罪です。あとわずかな時間しかありませんが、生きている間はその罪と向き合い反省してください」


「何不自由なく、王立魔法学園にも行かせてやったのに、その仕打ちがこれか?」


「育てていただいたことは感謝しておりますが、罪を犯したことは別問題です。何より、これは父上のためです。せめて、最後のイーゼンブルク伯爵家当主として、貴族らしく堂々と裁かれてください」


 目に映るのは、少年のルークだが、みなぎる魔力は彼を大人の男性と錯覚させるような力強さがあった。


 エリーゼは思う。

 こんな時だけど、ルーク、あ、ルーカス様か。彼って本当にかっこいいわっ。

 エリーゼは、襲われる心配のない部屋の壁に背中をつけて皆を見守っていた。

 やっと、話に割り込めましたっ! 傍観者ですけど、ここにいますのでお忘れなく。


 クラウディアは、ルーカスの後ろで黙って立ち尽くしている。

 その顔色は悪く、こわばっていた。


「イーゼンブルク伯爵令嬢、あなたは父に伝えたいことはないか?」


 レオポルトが、怖がらせないように優しい声で訊いた。


「私……は……」


 ハルトヴィヒと目が合うと、クラウディアの体がガタガタ震えた。


「ディア……」


 ルーカスが、すかさずクラウディアの肩を抱き寄せ、腕を撫ぜた。


「わたしは……し、かったのに……」

「えっ?」


 その時、クラウディアの瞳からぽろぽろと涙がこぼれて落ちた。

 床に落ちた涙が、ジュッと音をたて床に黒いシミを作った。


「私……は、父様と兄さまと暮らせて……うれしかった……のにっ……。父様は、私のこと、汚い……子だって、……泣いたら、涙も毒水だから、泣くな……って、汚らわしいって……。わたし、父様のためにがんばって薬のんだのに……、吐き気がして、つらくても、が、がまんして……、何度も、何度も、何度も、のんできたのに、……なのに、いちども、……抱きしめてくれなかった……」


「ディア、もういい、もういいよ。私が、いる。ディアのそばにずっといるから――」


 ルーカスが、クラウディアの頬に唇を寄せ、流れる涙をすすった。

 クラウディアの溢れる涙に優しく触れる姿は、ゾッとするほど美しかった。


「だめよ、私の涙、どくみず――」

「ディア、私も同じだ。あの薬を飲んでいる。だから、大丈夫だ」


 そう言って笑うルーカスは、クラウディアが愛しくて仕方がないと思う心を表していた。

 クラウディアが照れて離れようとしても、ルーカスは彼女をしっかりと抱きしめ離さなかった。


「でもね、クラウディア。涙をこのままにすると、クラウディアの白い肌が荒れちゃうから、ハンカチで拭こうね。あとで、肌を整える薬、一緒に塗ろうね」


 ルーカスの甘やかしすぎる言葉に、エリーゼは悶絶した。

 ケロッとして受け止めているクラウディアを尊敬してしまう。

 不謹慎な自分に気づき、エリーゼはちょっと反省した。



「ハルトヴィヒ、お前は不幸だな」

「……」

「こんなに優しい子どもたちに愛されていたというのに、お前は二人を愛さなかった。これを、不幸と言わずに何という?」


 レオポルトの問いに、ハルトヴィヒが答えることはなかった。









デバガメ、エリーゼ。おっさん伯爵お守りのラルフ。


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