伯爵家、潜入間近 (ラルフside)
本日更新、一話目です。
よろしくお願いいたします。
「本日、ハルトヴィヒ卿とクラウディア嬢は在宅らしいです。訪問を許可するとのことです」
朝一で出した訪問の了承は、その日の午後に第一騎士団で働くラルフの元に届いた。レオポルト立ち合いのもと、イーゼンブルク伯爵家の封蝋を確認し、開封した。
「すぐ許可を出すところから考えると、薬の調合場所は伯爵家の邸宅とは別の場所にあるのかもしれないな……」
レオポルトが、神妙な顔で呟いた。
ちなみに、まだハムスター姿ではない。
「伯爵が、外出する姿は、この頃確認されていませんので、恐らく、見つからない自信のある隠し部屋で調合している可能性も、否定できませんね」
ラルフが見張らせている侯爵家の「影」によると、当主のハルトヴィヒ卿は、引きこもって一度も外出していない。使用人の外出も許さず、生活用品は、魔法手紙で発注し、業者に届けさせている。
レオポルトも、ラルフよりずっと前から、イーゼンブルク伯爵家を密偵にさぐらせているが、一年前から急にそんな暮らしぶりになったらしい。なぜ、イーゼンブルク伯爵家に関わるもの全員が引きこもり生活を続けているのか、理由は分かっていない。
一年前といえば、クラウディア嬢が伯爵家に引きとられた時期と重なる。そして、伯爵家嫡男のルーカスもその頃から社交界から姿を消すように、今も引きこもり続けている。
クラウディア嬢の行動は、ラルフに会いに来た時と、エリーゼを連れ去るために自然公園に行った時だけ外出したらしく、引き取られてから、クラウディア嬢も徹底して引きこもっていたらしい。
ただ、自然公園へは転移魔法を使ったらしく、魔法の残滓が綺麗に消されており、その時の外出は目視で確認されていない。
エリーゼも、邸から連れ出された形跡はない。
イーゼンブルク伯爵家で起こる全ての出来事が、あの邸を調べれば分かるとラルフは確信していた。
「薬の物的証拠を手に入れるのはもちろん、薬を投与された被験者の身柄を押さえる事にも注力しよう。小さな薬より人間の方が物理的に隠しにくい。伯爵家の邸内で不自然に見えないように、被験者を使用人に紛れさせているかもしれん。被験者の証言が取れれば、ハルトヴィヒ卿を間違いなく断罪できるであろう」
レオポルトも一気にイーゼンブルク伯爵家を追い詰める気満々だ。
「はい、必ず証拠を掴んでみせます」
ラルフは、レオポルトの勢いに自分のテンションも上げた。
しかし、レオポルトはスンと一気に現実に戻ったように、厳しい顔になり言った。
「まぁ、お前の意気込みは、わかった……が」
「……はい……」
ラルフは、悪い予感がして身構えた。
「伯爵令嬢が苦手なのは仕方がないが、彼女は伯爵家内部を知る数少ない人間だ。そして、仮初とはいえ、お前が婚約を申し込む相手だ。決して、威嚇したり、怒鳴ったりするなよ? 一に優しく、二に紳士的に、三に空気を読み、四に褒めちぎれ! そして、五の肝は、常に冷静を保てだ!! 男爵令嬢を助けるためだ。今までの自分を捨て、その身を捧げるつもりで全力で演じろ!!! いいな!?」
「――――はい……」
夜通し、クラウディア嬢に拒否反応を示し下手な演技しか出来なかったラルフを、レオポルトとマルコが演技をして見せた。ちなみに、レオポルトがラルフ役で、マルコがクラウディア嬢役だ。
ラルフは、大根役者と二人に罵られ、とにかく真似をしろと怒られまくった。それはそれは、血の滲むような特訓であった。
「よし、まだ時間はある。茶でも飲もう、用意してくれ」
「かしこまりました」
ラルフは、魔法で湯を沸かし、素早く紅茶を淹れた。
「ラフィの茶は、美味い」
「レオに褒められるとは光栄です」
気安い掛け合いの言葉が、張り詰めていたラルフの心をほぐす。王族であるにも関わらず、気遣いの上手い上司が、自分の味方なのは本当に心強いと思った。
大根役者、ラルフ。
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